今回の講師は、博報堂ブランドデザイン若者生活研究所リーダー、多摩大学非常勤講師であり、マーケティングアナリストの原田曜平さん。「さとり世代」という言葉を浸透させたことで知られているとおり、若者の動向に造詣が深いことでも有名です。
近著『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)で明らかにされている「マイルドヤンキー」とは、どんな傾向を持っている層なのでしょうか? その実体について語っていただきました。
昔なら、ヤンキーといえば「リーゼントにボンタン」というイメージだったと思います。しかしこの10年の間に、ヤンキーは姿を変えました。それでも他の階層の子たちにくらべると、まだヤンキー性が少しは残ってもいますが。たとえば、ちょっと悪い格好をしたがったり、仲間との絆をすごく大切にしたり、少しばかり「オラオラ」する感じです。
つまり、昔ヤンキーが持っていた気持ちを心のなかやファッションに反映させているとはいえ、悪いことをしたり、社会に反抗したりするようなことはなくなっているのです。見た目も普通になってきている、ということで「マイルドヤンキー」という言葉をつけたのです。
彼らが口をそろえて言うのが「地元サイコー、地元大好き」ということです。しかも地方ならわかりますが、東京の子ですらそう言います。彼らの言う地元とは、だいたい最寄り駅近辺の、半径5キロメートルくらい。もちろん、それは地方に行っても同じです。地方はもうちょっと距離の感覚が広いかと思いきや、やはり自宅や最寄り駅から近辺5キロぐらいが「地元」なのです。
では、「地元サイコー」とはなんなのでしょうか? 彼らの言う「地元」を突き詰めていくと、中学時代の地元友だち、親も含めた実家、郊外から地方の若者であれば大型ショッピングモール、この3つが「地元」の構成要素だということがわかります。
地元が大好きになってきた原因のひとつは、「失われた20年」「デフレの15年」にあります。つまり日本が成熟ステージに入り、かつてのような経済成長が考えられなくなったということです。以前であれば、東京はひとつのステップアップの場所でした。矢沢永吉さんの『成りあがり』に象徴的ですが、「東京へ行ってビッグになる」というような考え方があったのです。ところがいまは東京も疲弊していますから、東京に来てビッグになっているモデルがあまりない。そして、どの国もそうなのですが、経済が成熟してくると都市部に憧れるというよりは、地元に残ってマイルドに友人との調和を保っていきたいと考える若者たちが増えてくる。つまり、そのひとつの例なのではないでしょうか。
もうひとつ。いまはソーシャルメディアや口コミ情報がすごく出回っている時代ですから、わざわざ行かなくても「わかったような気になってしまう」。私はそれを「既視感」と呼んでいますが、見てもいないのに見たような気になってしまう、体験していないのに体験したような気になってしまうということです。たとえば友だちが「代官山のおしゃれなカフェに行った」とフェイスブックに載せていれば、「ああ、こんな感じか。わざわざ行かなくてもいいや」という感覚になってしまうのです。インターネット化、ソーシャルメディア化によって若い人たちの行動力がそがれたという意味で、これは若干ネガティブな話かもしれません。
親と仲が悪ければ、家から出なければならないでしょうが、日本の場合、地元に残っている人は基本的には実家にパラサイトするのが普通です。しかも親と仲が悪い人が多かった昔のヤンキーとは異なり、マイルドヤンキーは非常に親と仲よくなってきていますので、そういう意味でもパラサイト率が高いのです。
非正規雇用が多かったり、給料がすごく少なかったり、最近の若い人たちは経済的に厳しいため、結婚して子どもがいるのに親と同居というケースも非常に増えています。親のサポートを昔以上に受けざるを得ないのです。ですから子どものほうには、あまり反抗しないで従っておいたほうが得策という考えもあるでしょう。
また親と仲がよいというのは、マイルドヤンキーに限らずいまの若者全般的にいえる傾向です。同様に、親世代もすごくマイルドになってきています。昔の団塊世代における親のあり方は、プロ野球の監督を思い浮かべればわかりやすいかもしれません。野村監督はすごく威厳がありますし、ぼやきもされて、子どもたちにとってはそれなりに「怖いおじさん」でした。あるいは落合監督ぐらいまでは、なんとなく威厳があります。
ところが原監督や栗山監督の世代になると、友だちではないけれども非常に近い兄貴みたいな感じになります。そのように親世代も変化していますので、子どもたちにとっても昔の威厳ある親より接しやすいはずです。ちょっと頼りなく感じる面はあるかもしれませんが。
親世代の変化といえるのでしょうが、丸くなった親たちは押しつけることをしません。団塊世代くらいまでは「おい、勉強していい大学へ行っていい会社へ入らないと、駄目になってしまうぞ」と断定的で、そこに説得力がありました。ところが、いま20代ぐらいになる若者たちの親の世代は、自分がリストラに遭ったり、管理職のポストを減らされて出世できなかったり、経済的にも弱っていますからなかなか強く言えない。「勉強していい大学へ行かなければ、いい人生は送れないぞ」と言っても、「父ちゃんは東大出てもリストラされているじゃない」と言い返されたら終わりです。つまり、親のほうが子どもに押しつけられない状況になってきているのです。
あるいは先生も、たとえばモンスターペアレンツが怖かったり、「先生がこんなことをやらせた」というようなニュースがすぐメディアに出てしまったりするので、ものすごく怯えている。昔のように子どもに厳しく接することができないわけです。
つまりヤンキーがマイルドヤンキーになった理由のひとつとして、「反抗するものがない」という事実があるのです。親も先生もマイルドになってしまったから、誰に怒ればよいのかわからないということです。その一環として、親とも仲よくなっているのではないかと思います。
2014年08月22日
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【原田曜平(はらだ・ようへい)】
博報堂 ブランドデザイン若者研究所 リーダー。
1977年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂へ入社。
ストラテジックプランニング局、生活総合研究所、研究開発局を経て現職に。
原田さんがリーダーをつとめる「若者研究所」とは、高校生から若手の社会人まで全国のおよそ100人が所属する組織で、若者の消費行動やライフスタイルの研究と、若者向けマーケティングやPRも行っています。
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