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ヤンキー化する日本経済〔1〕

『Voice』2014年6月号より》

「仲間とまったり」「イオンで買い物」
マイルド化する若者の消費を読む

 

荒れない成人式

 斎藤 原田さんの『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)を読んで、15年ぐらい前のことを思い出しました。当時、博報堂の『広告』という雑誌の仕事で原宿や渋谷の若者をサンプリングして、何回かインタビューをしていました。ある回で池袋に行って、多少ビクビクしながら若者のインタビューに臨んだわけです。

 

 原田 ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』に出てくるような不良を思い浮かべて。

 斎藤 そうです。ところが拍子抜けしたのは、チーマーたちの言葉がとにかく「地元愛」一色。池袋って、われわれから見たらもう都会ですよ。てっきり都会っ子かと思いきや、「渋谷には行きたくない」というわけです、行くのが疲れるから(笑)。要は地元の友だちとのつながりだけで、つるんで遊んでいたい。ほとんど半径数キロのきわめて限られた範囲で生息していて、そのエリアから出ようとしないんですね。

 原田 われわれがイメージする昔ながらのヤンキーに比べて、最近はだいぶヤンキーもマイルドになっています。今年、成人式の日にTBSの『ニュース23』に出たのですが、当初は「荒れる成人式」を報じる企画趣旨だったのが、いざ取材すると、ずっと荒れていた沖縄県でさえ、とうとう若者がゴミ拾いをし始めた。全然荒れていない(笑)。

 斎藤 いわゆる「マイルドヤンキー」の定義ですが、基本的に上京志向がなく、地元内で強固な人間関係・生活基盤を構築し、そこから出たがらない若者たち、ということですね。

 原田 はい。あと、いまのマイルドヤンキーと昔のヤンキーで最も異なる点は、地元志向は同じとしても、「地元」を構成する要素がちょっと違うところ。たとえばマイルドヤンキーの子に、「地元のどこが好きなの?」と聞くと、だいたい三つぐらいに集約されるんですよ。

 1つ目は、パラサイト(寄生)できる家、親がいること。その背景として、われわれの世代と比べて親とずいぶん仲がいい若者が多くなっている。2つ目が、中学時代の友人です。彼らは中学からケータイを持ち始めて、いまでいえばLINEでつながっていて、学校から家に帰っても、仲間と連絡を取り合っているわけです。情報とコミュニケーションの量は昔に比べて格段に多く、それが地元出身の「絆」を深めている。3つ目が、イオンなどの大型ショッピングモールです。

 極端な話、寝ているあいだに、右の3つごとそっくり岐阜県のヤンキーと一緒に福井県に持っていったら、最初の何カ月かは戸惑うかもしれないけど、そのうちにたぶん順応してしまう(笑)。彼らにとって、これら3つの要素で日本のどこでも置き換え可能なのが「地元」というわけです。

 斎藤 なかなか興味深い。普通、ヤンキーというと、派手な外見とか、家庭や仲間を重んじるライフスタイル、バッドセンス(ダサさ、格好悪さを競う価値転倒)などさまざまな要素があって、容易に定義するのは難しいと思ってあきらめていましたが、こういう括りで見ると、わかりやすい。さらにポイントとして、日本人は皆多かれ少なかれヤンキー思考をもっているということですよね。

 原田 まさにそうです。私も十数年、博報堂で若者研究をしていますが、マイルドヤンキー層のボリュームは年々増えているように感じます。

 斎藤 引きこもりやニートの増加という、「反社会」ではなく「非社会」に向かうトレンドが、ヤンキーにもついに及んでしまった、といってよいかと思います。社会に対してツッパるのはつらい、面倒くさいという流れですね。

 原田 いまは反抗するにも、父親がわきまえていて物腰が柔らかいので、敵視する対象にならない。経済的にも、矢沢永吉さんの成り上がりのように、「夢を描いて東京に」という野心を抱くことが難しい時代にもなっている。それならば居心地のいい環境に染まって、中学時代の友人とまったりと楽しく暮らしたい、と考えるようになったのかもしれません。

 斎藤 問題はヤンキーにも適応形態と不適応形態があって、適応形態の場合は、ひたすら家族と仲間を大事にする。他方、不適応形態のヤンキーはネグレクトや虐待のような形態を取って発現することが多い。両極端ですけれども、不思議なことに家庭が破綻していても、なぜかそんなに荒れない子どももいます。

 原田 一例を挙げると、以前に練馬区に住んでいる男の子をインタビューしたことがあります。EXILEみたいなファッションをしている子で、家に行ったら部屋が散らかり放題だった。いったい何があったのか話を聞いてみたら、ある時期からお父さんとお母さんが家から消えてしまい、半年に一回ぐらいブラッと帰ってきてお金を10万円ぐらい置いていく。当然、生活するには足りませんから、お姉ちゃんが働いていて何とか生きているという。彼自身はニートで、パチンコへ行くだけのお金はないから、毎日ゲームセンターで格闘ゲームをやっている。格闘ゲームは対戦に勝つと何時間も続けられるからです。そこで地元の仲間たちとつるんでいて、彼にとっては一番の居場所ということでしたね。

 斎藤 ゲーセンはニートのコミュニティですよね。

 原田 私の本で「マイルドヤンキーはパチンコ・パチスロが好き」という特徴を挙げましたが、これはやっぱりある程度の食いぶちがある人の話であって、経済的にほんとうに苦しいヤンキーには当てはまらないところがありますね。

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著者紹介

斎藤 環(さいとう・たまき)

筑波大学教授・精神科医

1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会代々木病院などを経て、現在、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。近著に、『ヤンキー化する日本』(角川oneテーマ21)がある。

原田曜平(はらだ・ようへい)

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー

1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所などを経て現職。日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行なっている。近著に、『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)がある。

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