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August 31, 2014

色があったりなかったり

 現代日本マンガは、おもにモノクロで描かれモノクロで印刷されています。 

 日本でもかつては、主流ではないにしろマンガが四色三色二色で印刷されていた時代もありました。しかしマンガ週刊誌時代となり、安価で粗雑な紙で分厚い雑誌+モノクロ印刷、という選択をした結果、日本マンガは多くのページを獲得し、特殊な発展を遂げます。

 コマ構成の複雑化、大ゴマの多用、スクリーントーンなどのモノクロ表現の先鋭化、ひとつのシーンに多くのコマを使用する演出、などです。これにより日本マンガは長大なページ数で大長編ストーリーを展開することが可能になったのです。

 そして新書判ブームが到来します。かつて雑誌で読み捨てられていた多くのマンガは、新書判単行本としてよみがえりました。しかし、そのとき、雑誌連載中の「色」は捨てられることになりました。

 雑誌連載マンガにも少しは四色ページや二色ページがありましたが、それは新書判単行本で再現されることはなく、モノクロで印刷されました。雑誌同様、単行本でも安価な商品を多く売ることをめざした日本マンガは、原作品の色を捨て、以後いつのまにか、読者も出版社もそれを当然として受け入れていったのです。

 しかし最近は、ネット上の作品では色があってあたりまえです。海外のカラーマンガの邦訳を目にすることも多くなり、日本でもカラー作品が増えてきたように思います。日本マンガが長らく忘れていた「色」は復権しつつあるのじゃないか。

 ところが出版社の意識はあいかわらず低い。この春まで朝日新聞に連載されていた安野モヨコ『オチビサン』は、カラーであることが売りでしたが、2010年11月14日掲載ぶんは岡山・四国版にかぎって、カラー掲載じゃなくてモノクロ掲載されました。

 岡山・四国版を印刷していた印刷機の能力が低くて、この日は広告をカラーにした結果、『オチビサン』をモノクロ印刷にせざるを得なかったそうです。他の地域と同じ新聞代金を払っている読者としては、どうも納得できない話ではあります。マンガなんかモノクロでいいじゃないか、という考えかたが透けて見える。ちなみにこの回は「紅葉」がテーマの作品でした。

 また朝日新聞に連載された怪獣小説、宮部みゆき『荒神』の挿絵はこうの史代が担当していました。この挿絵、原画はすべてカラーで描かれていましたが、連載中はほとんどモノクロ掲載され、たまーにカラー印刷される程度。

 まあしょうがないかなあ、と考えておったのですが、なんと挿絵を全収録した『荒神絵巻』が発売されちゃったじゃないですか。

●こうの史代/宮部みゆき『荒神絵巻』(2014年朝日新聞出版、1200円+税、amazon

荒神絵巻

 つまりそれを買えば、全挿絵がカラーで見られる。これって新聞連載小説の読者は「色のない」不完全版を見せられてたってことです。完全版が見たければ単行本を買え。これも何か納得できない。

●村上もとか『フイチン再見』3巻(2014年小学館、552円+税、amazon

フイチン再見! 3 (ビッグコミックス)

 村上もとか『フイチン再見』は3巻ハルピン編になって、おもしろさのギヤが一段上がった感じです。

 この巻には友人のツルが上田としこをモデルにして描いた肖像画が出てきます。

 ところが雑誌連載ではカラーであっただろう美しいこの絵(写真?)、物語の中でも重要なエピソードであるこの部分が、日本マンガ単行本の慣習に従って、みごとにモノクロ印刷なのですね。こちらは逆に「色のある」完全版が見たければ、雑誌を買えってことなのか。ふんっ。

●唐沢なをき『オフィスケン太』3巻(2014年中央公論新社、800円+税、amazon

オフィス ケン太3

 四コママンガ『オフィスケン太』は読売新聞夕刊にカラー連載中。それをまとめた1・2巻は中央公論新社から、約140ページ、オールカラーで発売されました。

 ところがっ、第3巻はっ、同じ造本、同じデザイン、同じページ数、お値段据え置きでっ、カラーは16ページだけ。ほとんどがモノクロ印刷となってしまいました。

 うわぁ、びっくりした。おかげで、カラーを利用した渾身のネタ、お正月にちぎり絵でマンガを描こうとしてさあ大変、とか、節分の鬼に仮装しようとしてまるで高木ブー、などがワケわからなくなってる。

 出版不況で大変なのはわかりますが、こういう出版は、読者、作者、出版社、三者ともに不幸になるからやめましょうよ。日本の貧しいマンガ状況はまだまだ続いているのね。

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