PR

福岡発のプログラム言語「mruby(エム・ルビー)」産官学挙げて世界へ!

九州の雄・福岡県が産学官挙げて世界市場への進出を狙っている。国産プログラム言語「Ruby(ルビー)」を使ったソフトウェア産業を軸に、“ルビービジネス”の集積地を目指す。Ruby・コンテンツビジネス振興会議(会長・杉山知之ハリウッド大学学長)を結成する一方、Rubyを軽量化した組み込みシステム用の「mruby(エム・ルビー)」も開発した。東京を飛び越えて一気に海外市場を開拓する未来像も描く。

生みの親まつもとゆきひろ氏と二人三脚で

世界市場への進出戦略を練る前線基地になっている福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター
 福岡市のJR博多駅筑紫口から東に歩いて5分ほどの福岡県福岡東総合庁舎。この地上5階・地下1階建て建物の4~5階に、進出戦略を練る前線基地がある。福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センターだ。
 
 同県新産業振興課の上野孝徳・企画監(課長職)ら職員5人が常駐する。2014年1月に安定版が公開されたmrubyの維持・メンテナンスや普及、エンジニアのスキルアップを目的にしたNPO軽量Rubyフォーラムも同センターに事務局を置く。
 
 同フォーラムの理事長は、Rubyとmrubyの生みの親、まつもとゆきひろ(松本行弘)氏。センター内にはまつもと氏の専用研究室も用意され、福岡県との"二人三脚"を象徴する場でもある。
 
 Rubyは、まつもと氏が1993年頃、開発に着手。少ない言語の記述量で豊富な機能を持たせられる。技術の習得が容易なうえ開発効率も高い。12年4月、日本発のプログラム言語では初めてISO/IEC(国際標準化機構)/(国際電気標準会議)が承認、国際標準になった。
 
 福岡発のmrubyは、経済産業省が11~12年度の「地域イノベーション創出研究開発事業」に採択。九州工業大学、まつもと氏がフェローを務めるネットワーク応用通信研究所(島根県松江市)、住友商事グループSCSKの子会社・福岡CSK、福岡県、東芝情報システム、SCSK、九州組込みソフトウェアコンソーシアムの7社団体が開発に参加。国費も投入され、12年4月、オープンソースのソフトウェアとして公開された。
 
 mrubyは、Ruby並みの言語記述量でコンピューターメモリの使用が少なく、日進月歩に技術革新する情報家電などを迅速に開発できる。

大都市圏でmrubyが浸透していない“壁の厚さ”

約700社が会員となっている福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議
 県では、東京や大阪など大都市圏で開かれる組み込みシステム技術関連の展示会にmrubyの紹介パネルを持ち込むなど普及に努めている。
 
 ところが、大都市圏でmrubyが浸透しているとは言い難い。同フォーラム事務局長の岡部浩太郎・福岡CSK営業部長は「大都市圏の“壁の厚さ”を感じる」と話す。
 
 一つには、バグ(プログラムに含まれる誤りや不具合)の発見や修正を支援する「デバッガ」と呼ばれるソフトが完成していない弱みがあった。
 
 それが11月19日から3日間、横浜市で開かれる「Embeded Technology(略称ET=組み込み総合技術展)2014」で公開される。
 
 「勝負はデバッガの完成後。世界中で公開されるため、どの地域から引き合いが来るか分からない」と岡部事務局長。ET会場で早速、全国の組込み企業に普及を働き掛ける。その後、長崎を皮切りに九州・沖縄の各県を回ってmrubyのセミナーを開き、“膝元”を固めていくという。

地元企業がインテル主催のコンテストでグランプリ

米インテル・コーポレーション主催のコンテストでグランプリを獲得した、しくみデザイン社の「KAGURA for PerC」
 一方、Rubyを使うコンテンツ産業は、「質」「量」とも確実に成長している。福岡県商工政策課の調べでは、Rubyを使ってソフトを開発する企業数は08年度の16社から、13年度は17倍以上の279社に増えた。
 
 福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議は、約700社団体の会員の新たなビジネス創出やスキルアップを狙って、様々な賞を設けて刺激を与えている。会員、非会員を問わず、国内外から応募できる。
 
 その賞の一つが「福岡ビジネス・デジタル・コンテンツ賞」。13年度の大賞を受賞したのは地元ベンチャーの「しくみデザイン社」(福岡市、中村俊介社長)だ。その大賞受賞作とは別の作品で今年1月、米インテル・コーポレーション主催の「Intel Perceptual  Computing Challenge(インテル・パーセプチュアル・コンピューティング・チャレンジ)」でグランプリを獲得した。世界16カ国、2800件の応募作の中からの世界一だった。
 
 同社は05年2月の創業。日本で「デジタルサイネージ」という言葉がなかったころから、「インタラクティブ広告」と呼んで、ディスプレイを視る人が参加する広告のビジネスモデルをつくった。国内ではデジタルサイネージビジネスの草分け的な存在だ。

世界に通じる地元企業をどう育てるか

 インテル主催のコンテストへの応募作は「KAGURA for PerC」。カメラの前で動くだけで、誰もが音楽を奏でることができる。それは、インテルが考える直感的な動作で操作できる次世代ユーザーインターフェイス(UI)とピタリと一致した。
 
 同社はRubyもmrubyも使っていないが、世界を相手にして頂点に立った。「しくみデザイン社のような世界に通じる地元企業をどう育てるか、が私たちの役目」と上野企画監。「ただ残念ながら、mrubyを使ったソフトの実用化に成功している地元企業はまだ現れていない」と話す。
 
 その中で気象情報や赤潮発生の確率などを生かし漁獲増などにつながるシステムを、北九州市の地元企業が開発した。mrubyを使ったことで既存品より小型かつ安価な製品になったという。
 
 「mrubyを駆使して、東京を飛び越し世界市場に飛躍する福岡の企業が現れるのは夢ではない。事実、アメリカ・シリコンバレーの企業から『一緒にやらないか』という打診もある。デバッガの公開後は世界相手のビジネスが始まり、東京もその市場の一つになる」。岡部事務局長の視野には世界が入っている。
 
【写真上】軽量RubyフォーラムのWebサイト
ライター

福岡県生まれ、地方総合雑誌記者