アナログアニメーションの透過光を撮ってみる。

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コミックマーケット86、Futon.新作のGravitationに加えて、PRINTGEEKのPLOTTER vol.4に連載コラムを寄稿してます。 ボクは「撮される光、映される光」というタイトルで多重露光や投影のハナシを書きました。

「アナログセルアニメの透過光やオプチカル合成、80年代のCGIって光を放っているよね。アレ、凄く好きだ」という話題。記事ではその演出の技術面についても軽く触れたのだけれど、どうにも文章じゃ書ききれない。

そこで、執筆中にちょっとした実験を行いました。ということで「アナログアニメーションの透過光を実際にカメラで撮って、画像を作ってみる」メモ。

用意するもの

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  • 光を乗せたいキャラとか、ベースになる絵。
  • 光らせたい部分を黒く塗りつぶしたマスク型
  • ベース・マスク型と同じサイズの黒いラシャ紙。ハンズなんかの画材コーナーで手に入るハズ。
  • カッター。紙を重ねて切り抜くのでカッターマットやズレないためのクリップもあるといい。
  • 多重露光機能のあるデジカメ。ない場合には後述のPhotoshopを使う方法で合成する。

ベースとマスク型の2つは予めPhotoshopで作って、プリンタで出力した。

1. マスクを切り抜く

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印刷したマスク型の下に黒のラシャ紙を敷いて、黒い部分をラシャ紙ごと切り抜いていく。こちらのラシャ紙が実際の撮影に使うマスクになる。

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2. 光源を用意する

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マスクの穴から透過させる光を準備する。iPadで白い画面を明るさ最大にすれば、お手軽に面光源が用意できるので便利だ。ありがとう21世紀。

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透過光の色を変えたい時には、セルアニメーションではマスクの下から電灯を照らして、色をつける場合にはセロファンを被せてたようだ。iPadならフォトアルバムに透過光用の画像を入れて、色やグラデーションにもすぐに変えられる。ありがとう21世紀。

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ここに先ほど切り抜いたラシャ紙のマスクを載っければ、透過光の出来上がり。文字通り、マスク(遮蔽)して透り抜けた光を使うのだ。

3. 多重露光で撮影する - ベースを撮影する

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ベースはそのまま撮影する。

4. 多重露光で撮影する - 透過光マスクを撮影する

ちょっといいデジカメなら多重露光モードがあるはずだ。前に撮った露出のゴーストが出てくれるのがありがたかったりする。「半透明に2つの像がダブってファンシー」というのが入門用カメラにも採用されてる理由かもしれないのだけれど、申し訳ないコトに今回の用途はバキバキだ。

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多重露出で撮ると、先に写したベースの画像の上に、マスクの穴を透過した光が加算される形で写る。切り抜いていない部分は黒、つまり光がゼロの状態なので、ベースに足し合わせてもそのまま変わらない。

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透過光をカラーグラデーションにして被せることもできる。

5. 光を放ち始めるようにする。

透過光マスク側の露出時間を伸ばすと、散乱した周辺の光も露光されて光がぼやける。すると、撮影した画像は光を放ち始める。

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露出時間 1/80秒

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露出時間 1/6秒

光った。これだけでもアナログアニメーションの楽しさとか大変さとか、とても実感できる。

Photoshopで多重露光する

カメラに多重露出機能がない場合はPhotoshopで同じようなことができる。Photoshopは名前の通り写真屋さん、元々(イラスト描くというよりは)カメラの撮影、現像でやりたかったことをコンピュータで補完するソフトなのだ。

だから、多重露光だって当然できるワケで、これはおおよそレイヤーの「覆い焼き(リニア)-加算」に相当する(覆い焼き自体は、元来は撮影よりも暗室の技術だ)。

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透過光源とベースを別々に撮影して、光源レイヤーのブレンドモードを変えてやればOK。随分「っぽい」表現になるハズ。

レイヤー効果で光らせるのではなくて、「撮った光をレイヤー効果で載せる」感じがとても気持ち良い。

実験はたのしい。

おしまいに今回の実験のきっかけとか。PLOTTERの原稿を8割ぐらい書いたところで @tatsdesign とご飯を食べて、「(ピタゴラスイッチの)ユーフラテスさんの模型とかとにかく作ってみる姿勢ってすごいよなー」という話になったのです。

そうなんだよなぁ。小学生の理科くらいの内容でも、試して、体験するだけでずいぶん理解度や関心が変わるのだ。話しているうちに「実際に撮ってみたら面白いんじゃないかな」と思い立って、帰宅後実験してみました。

たのしい。

今回の撮影方法は実際にセル撮影台なんかの取材はしておらず、(アナログ時代に触れていない)現役のアニメ制作の人たちに話を訊いた程度なので、現実にアニメーションの現場で行われていたのと細部が随分違うかも。けれども、アニメの画面を観て、手法を想像して、実験して確かめてみるというのは随分ためになって、何より楽しいのです。

透過光、多重露光、あるいは「Photoshopのブレンドモードになんで”burn”みたいな名前がついてるのか」「なんでマスクって呼ぶのか」みたいなのがすんなり理解できる。技術の再確認と発見、再発見。

PLOTTER本誌ではクロニカのスペース都合&紙ラボがまさに多重露光の実践記事を書いてたので割愛したのだけど、あまりに楽しかったので今回記事にしました。

近いうちに撮影台を見に行きたいなぁ。

そうそう。今回の素材はコミックマーケット85で頒布したAnticipationです。80-90sを再構成してみよう、というアルバムなので、ジャケットを作った時から透過光にしたいなぁというイメージがあったのだけど、上手く載ってよかった。C86の新作でもそのうち試してみる予定。