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2014-08-31

「それでも町は廻っている」の嵐山歩鳥さんは図書館員に向いているのだろうか

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あらかじめ言っておくと、ひさびさにこの記事は「やっちゃった」案件で、月刊誌なのに次号が出てからの記事となってしまいますた。該当回は今は買えないので、漫画喫茶とか単行本で読んでみてください。m( )m


それ町図書館リスペクト回とは?

で、先月(2014年7月末発売)のヤングキングアワーズの看板作品「それでも町は廻っている」は、全編がすべて図書館リスペクトの回だったのであります。

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いやあ、自分図書館に入り浸って一日時間を潰すこともあったりしたし「受験勉強図書館図書館が一番勉強の邪魔になるものに囲まれてるやろ?」と思ったりするぐらいでした。

だから歩鳥さんの熱弁する「図書館はいかに魅力的な場所か」という演説は、非常によく分かる。よく分かるというか、最初は「何当たり前のこと描いてんの?」と感じたりしたのだが、この作中で「図書館に行くのが初めて」という紺先輩のガイド、メンターになるように、わからない、知らない人には確かにそれを紹介するだけで未知の世界かもしれない。

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で、読書なんて興味ない、と言っていた紺先輩も、好きなオカルトロック音楽に関する本もあったりしたことで、それなりに楽しんだようであります。


そして重要なのは嵐山歩鳥さんを「無駄な知識があるな」と認定した先輩が、「それならお前、進路として図書館員に進んだらいーんじゃないの?」と示唆する。その反応が、この漫画の、歩鳥さんにしては「ん?」と思うほどシリアスなものだったので、それでこの記事をかいております。

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数学ができなくても図書館員になれるのか

なぜ「将来は図書館員になれば??」という話題に強く反応したか。だいぶ長期連載であるこの作品の、とくに前半を彩るのは「歩鳥さんは数学ができない。まるでできない。しかもできないことを悩まず、堂々と開き直ってる」というネタであり、マジメ一方、かつ冷徹残酷数学教師との数々の名勝負でありました。

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それでも町は廻っている 2 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 2 (ヤングキングコミックス)

まさに一進一退の攻防。いや少々先生有利か。

だが、この名勝負数え歌には、衝撃のKOシーンも刻まれています(笑)

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「勘で書いてるからな〜。運が悪かったとしか…」

「勘!!」

「勘で書いたとハッキリ言ったな…。数学の根底を覆しかねない斬新な発想だ」

キリキリ痛む胃を抑える先生(笑)

うるわしき教育の光景のようでもあり、知や教養をめぐる絶望的な断層のようでもあり、それよりなによりヒトゴトではないような記憶があるようでもあり(爆笑)。


さらに言うと、この数学教師との名勝負の中で「数学以外はそれなりの成績」なことが分かっていて、先生は「他意があるとしか思えない」とまで言っている。

これ、面白いっちゃ面白い話であって…コメディ主人公を張っている人間はまぁ大体「劣等性」に設定したほうが、おさまりがいいんで、「数学は酷いがほかはそれなり」というふうに設定されてるのは珍しい。それは一義的には、この漫画が時々は「日常ミステリー」としても描かれるため、探偵役の彼女はあんまり無知で頭が悪いとそれが不自然になるからだろう。…と同時に、良くも悪くも漫画の読者が、ストーリーの複雑化もあって「インテリ化」していることもあるのかもしれない。これは後日、あらためて他の作品も合わせて考察していきたい。


おっと脱線した、本題に戻ろう。

よく「となりの801ちゃん」などで描かれる「漫画アニメゲームキャラクターに恋する」的な話ってえのは正直実感がわかない。

なのだが、この「それ町嵐山歩鳥さんが「ほかの科目の成績はともかく、数学絶望的にヤバい」というのは、前述したように作品初期の重要なテーマだったことや、描き方、描写が微にいり細にわたっていることもあって漫画キャラクターの将来が心配になる」という感じにはちょっとなっていた(笑)。なんつーか、親戚の進路が気になる、みたいな扱いだな(笑)



そこに降ってわいた「嵐山歩鳥は、図書館員には向いてるんじゃねーの?」という問題設定。

実をゆーと…私事にわたるが、自分中学高校時代に「将来は図書館に勤務できないか、図書館員司書)になれないか」と思ったこともあったのでありますわ。「ケーキが好きだからケーキ屋さんになりたい」的な安易夢想で、結局縁が無く、それを生業にすることはなかった。ちなみに当時も一番の夢は「金利生活者」「駐車場経営」だったのだが、この夢も実現していない(笑)

ただし、「図書館情報大学」というのがあるのだな、とその時調べて知ったぐらいには、マジメに進路として考えたのだった。

……と思ったら、平成16年に閉校してたよ!!時代は変わるなぁ。

http://www.ulis.ac.jp/jindex.html


そんな中途半端なイメージでいうと……、うむ、確かに歩鳥さんは、へんな雑学があるし、興味があちこちに飛ぶし、レトリック豊かだし、親身になってひとの世話を焼いたりするタイプ。図書館員には向いているのかもしれない、と思うのでありました。


だが、リアル図書館員に言わせれば、「大阪さんは教師に向いている!」と認定したちよちゃんに、にゃも先生が思ったような感想を抱くのかもしれない(笑)

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あずまんが大王 3年生 (少年サンデーコミックススペシャル)

あずまんが大王 3年生 (少年サンデーコミックススペシャル)


そういうわけで、けっこうはてな界隈にはいる、図書館業界に詳しい皆様が、まじめに進路の可能性として調べ始めた嵐山さんがホントウに図書館司書という仕事には向いているのか。今後その進路に進むには何が必要か。特に数学はあのままでいいのか(笑)に関して、アドバイスを与えてくれるとありがたい(誰にとってだ)。

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「ピークを過ぎた作品」と作者がする中で、ひとつの布石か、復活か

ちょっと元が分からないので孫引きとなるが、昨年?だっけか、第17回文化庁メディア芸術祭、漫画部門を受賞した際の作者コメントが印象深い。

http://dkkaosu.blog.fc2.com/blog-entry-449.html

それ町」は連載が始まってもう8年だか9年だかになりまして、アニメ化からも3年経ち、作品として「目立つ時期」ってのは、とうに過ぎています。

あとは根気のある一部の読者さんから肩を支えられながら描き続け、時期が来れば最終回を迎え終わっていく…

漫画としてはそういう時期を迎えつつありました。

だからこそ、そんな時期の作品だからこそ、余計に嬉しい。

今回、「嵐山の進路」が軽く示唆されたのが、その終わりを思わせる部分もうっすらとして、ちょっと寂しさを感じました。


まあ、これはただの誤解かもしれない。

氏の設定した作品世界構造は極めて堅牢で明晰なものなので、実は逆に「続けようと思えばいくらでも続けられる」作品でもあるような気がする。落語を思わせるような世界だしね。

「でも学園漫画だから、卒業しちゃうんじゃないか?」という心配無用、わざとこの作品は、「嵐山学生時代日常」の時系列をバラバラに描いているのです。

ウィキペディアの「それ町地」

 

本作品では連載のある時期以降、各話の掲載順序と時系列順が一致しない、いわゆる時系列シャッフルが行われている。例えば第33話と第36話、第42話におけるタケルの学年をみると小4→小3→小4となっており、必ずしも連載話順に時間が進行していないことが分かる。更に単行本4巻以降では、連載2回あるいは3回で一話となる作品を収録するため、単行本のページ数を調整する都合上、雑誌掲載時と順番が一部入れ替わっている。また、時系列シャッフルとは逆に、単行本収録時に時系列を揃えるよう、連載時と順番を変更しているものもある。

この作品のポテンシャルを考えるに、いつ「第○次ブーム」がおきてもおかしくないと思いますしね。


以前、本格的に「それ町レビューをかいてました。

この機会に、興味のあるかたはどうぞ。

書評】「それでも町は廻っている」−−21世紀下町人情ものが可能という奇跡 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110210/p4

あと、9月末に最新刊ですな



図書館員」や「図書館」(古本屋なども含め)のパブリックイメージフィクション的なことも今後集めてまとめたい

これも以前、(仮)でまとめたものの、全然尻切れトンボなものです。

図書館」「図書館員」「図書委員」「愛書家、蔵書家イメージについて【創作系譜論】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140622/p3


図書館の主 1 (芳文社コミックス)

図書館の主 1 (芳文社コミックス)

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

両方とも、支持を得てそれなりの長期シリーズになってますよね。

そもそも「歩鳥は図書館員に向いてるんじゃねーか?」っていう展開は、こういう図書館(員)のパブリックイメージの結果でもあり、これからはひとつの原因のほうにもなる。


図書館全体の「知の宝庫、記録の基地」という英雄譚、ロマン…あるいは妄執、独占欲についても、アレクサンドリア図書館から初めていろいろ考察したり調べたいと思っている。

今後の課題ということで。

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