温泉卵が作れない

知らないことと知れないことの狭間に妄想をめぐらして

日々の学習 〜 出世編 〜

 

 

 一週間うちに来ていたアメリカ人女性の休暇も終わり、かぼちゃ色のなめ

 

し革のソファに大きく描かれた樺太半島のようなウォッカのシミもわからな

 

くなる程度まで拭き去ることができ、日常の静けさが戻って来た。たまって

 

いた7日間の朝刊をめくってみる。

 

 私の住む街の市長がホモであることをカミングアウトしてから久しい。来

 

るべく賛否の矢を、蓮の葉に落ちる露のごとく振り払う話術はあっぱれだ、

 

「僕はホモだけど、それもいいんじゃないか」とラフに述べた。題して正当

 

化しない言い切り逃げ切り法。彼は今年中に辞任したいのだとか。特に心は

 

動かないものの愛らしい顔だなとあらためて思った。目鼻口が実にバランス

 

良く左右対称に配置されている。

 

 

 

                  * 

 

 

 

 私がドレッドヘアーにしていた青春まっ盛りのころ、友達のリカちゃんと

 

『紛れ込んでしまったジャマイカ人』を装ってよその学校祭に乱入したこと

 

がある (ただそれだけの薄いコンセプト、若っ)。ハンズで買った変装用シリコ

 

ンなど一式を洗面台に並べいざ始めようと顔を上げ、鏡の中のリカちゃんを

 

見て絶句。まだデコも鼻もリカちゃんのままであったが、私の知る彼女とは

 

明らかに別人なのだ。するとリカちゃんも笑いだす始末。

 

 顔が裏返るとこうまで印象が違うとは。これはけどえらいことを発見して

 

しまった。私はこの顔を鏡でいつも見ている方の、つまり裏バージョンでし

 

か知らない。人は私の顔を知っていて自分だけ知らないのだ。画像・映像を

 

通してでなく生で本当の顔を知ることは一生無いのか。魂が抜けて自分の遺

 

体を見下ろした時に見られるって? いらんわ!(笑)

 

 

 

                  * 

 

 

 

 我々の脳は左右対称を好むのだと読んだことがある。目の前の人の顔が左

 

右対称だと脳は安心し、逆に不対称だとめんどくさっという信号をキャッチ

 

するんだとか (脳、単純やな)。まったく左右対称の人間はおらずとも、限り

 

なく左右対称に近い人間はいる。まわりにも何人かいる。でまた、そこそこ

 

出世してたりする。

 

 

 

 

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    若き日の現ベルリン市長ヴォーヴェライト氏 (右から二番目)

    出世街道まっしぐら。見よ、この笑みを! 

 

 

 

 国でなくて首都のトップとか学長でなくとも学部長であったりする彼らは、

 

そんな整った顔を持つことで、見られた「私」と自分で思うところの「私」

 

のズレが0に近い。すなわち微笑みかければそこに皮肉は含まれず、熱心な

 

まなざしを向ければキモイとかいう印象に転換される心配もいらん。

 

 私の脳は自慢じゃないが、左右対称の顔と向き合うと構えてしまう。だか

 

らでもないが私は先の市長の支持者ではなかった。彼の政治に託したくなる

 

ような思想を見い出せなかった。というかそんな政治家、いたら石投げられ

 

そうだ。酔っぱらうと私は、

 

「今に見ておれ、私が首相になった暁には子供の美術館参観料を半額ではな

 

く倍に、脂肪税を導入、本当に美味いコーヒーと酒は無税、ムニャ

 

 とくだを巻くわけのわからない大人になってしまったが、リカちゃんは今

 

頃どうしているだろうか。彼女が王様というあだ名の彼と結婚したのを風の

 

便りにいつか聞いたきりである。

 

 

 リカちゃんで (旧姓さえわからない) 検索かけてみたら嫌な予感が当たり、

 

あっちのリカちゃんばかりが出て来た。あっちのリカちゃんはうちにも一体

 

あり遊んだ覚えこそないものの、ドレットヘアー期からさらに時遡り、聖子

 

ちゃんカットというのに憧れて彼女を練習台にしてジョキジョキやったのは

 

覚えている。規則的に並ぶ毛穴がガッツリ見えて、おぞましいことになった

 

のも覚えている。ちなみにウィキペディアでは貴重な初代リカちゃんのお姿

 

を拝むことができるが、ここであえてリンクは貼らない。まだまだ怪談話の

 

楽しい残暑の夜、ぜひ電気を消した後にお友達とご覧あれ!

 

 

 

 また一週間後ぐらいの更新を目標に

 

                      2014年 9月 1日

 

                     温泉卵が作れない でした

 

 

 

 王様というあだ名の彼の出てくるお話:

 カミ様になりたかった王様 - 温泉卵が作れない