8時間耐久シンポジウムに参加したのでレポート(たぶん『ちくちく日記』に詳しいのが上がると思うが)。
知ったのはTwitterで、
http://kokucheese.com/event/index/200886/
ひと月前だ。これを予約してしまったために、名古屋のDTP勉強会や『文字の食卓』さんのレクチャーなど興味深い催しを諦めることになった。
さて、このシンポジウム、いったいどういうものなのか。漢字データベースについてのシンポジウムといったら、
ここの関係者がいてもよさげ、と思ったが見当たらない。で、主催者は「角川文化振興財団」というところだ。コーディネーターは阿辻哲次センセー。ミスターUnicode戦記の小林龍生サンも絡んでる。
開会挨拶を聞いても、まだよくわからないまま第一部が開始。
最初の発表が刘志基教授、华东师范大学で金文や楚簡のデータベースを作っている人。
面白そうな話なのだが、通訳がしどろもどろでイライラする。
続いては日本から4人の出演者。一人15分縛り。
まず国語研の高田智和氏。ただ、話は国語研ではなくHNGの紹介。
次が、永崎研宣氏。もちろんSATの紹介。
そして田代秀一氏。IPAです。
午前の最後が凸版の田原恭二氏。
ここの開発中のデータベース。AdobeJapan1-6の文字検索ができるもの。
質疑応答の時間、午後の出演者である朱先生から高田さんに質問が。これも通訳に難ありで微妙なところがわからないが、HNGの基本テーゼ「初唐標準」に文句があるらしい。「その字形は草書であって楷書ではない。標準の楷書とは言えない」というようなことを仰っている様子。激論に発展したら面白いがうやむやに終わる。
昼ご飯のあとは第二部。
阿辻センセから、「福岡は志賀島で漢字についての国際会議があり、そのために来日した方々に来てもらって今回のシンポジウムを開催した」とのこと。
フランスからは、Bottero Françoiseさん。
お話は「漢學文典(Thesaurus Linguae Sericae)」について。 いまURLを入れようとするとつながってくれない。
次に台湾東海大学の朱岐祥教授。
この人の話はデータベースではなく、贋の青銅器を銘文から見破る話。金文の字形がおかしい(下手なだけじゃないのか?)とか、あり得ない名称が鋳込まれているとか。
紹介された贋青銅器の銘文に「王在西宮」とあって(にしのみや在住のワンさんか!)、じつに興味深い。昔読んだ小説を思い出してニヤニヤ。
陳舜臣『殷周銅器の贋作者たち』 http://www.sakuhinsha.com/essay/9419.html
パネルディスカッションのはずなのに、あまり「議論」は盛り上がらず。
第三部は司会が小林龍生さんに代わって、パネリストは3人。
まず永崎氏が午前中にできなかったSATのデモ。
高野明彦氏が、連想検索の話。
想−IMAGINE Book Search | 多様な情報源の想いを連ねて発想しよう!
なんだか「漢字データベース」からはどんどん離れていった気がしないでもないが、人文科学へのコンピュータ利用という線で何とかつながっている。
最後に角川歴彦氏の挨拶で、謎が解けた。
『新字源』という漢和辞典がある。
僕も中学校に入学したときに買った。コンパクトでよい字典である。
JISの漢字規格が最初に作られたとき、準備作業の段階で『新字源』が使われたのをご存知だろうか。
「佞」という字、UnicodeではU+4F5Eで、「佝佞佟」と並んでいて部首は「人」だが、JISでは53区04点で「妝佞侫妣」と並んでいて部首は「女」である。これは『新字源』の配列だ。
1万字弱の親字数で漢字番号が付いているという点で、非常に便利だったために採用されたのだろうが、名前に違わず字源を考究したうえで部首分類も独自の立場をとるなど特徴のある字書なのだ。同じ角川でも『漢和中辞典』では「佞」は「人」部に配列されている。
ところが、この『新字源』、もう30年くらい改訂されていない。
活版印刷で、紙型を保存して増刷を続けてきた(最近では紙型でなくフィルムを起こしてオフセット印刷しているかもしれない)もので、大きな組み替えは不可能なのである。
常用漢字表が改訂されても人名用漢字が追加されても対応できない。
だからこそ最新のデータベース技術で改訂版を……って話かと思ったら、
「新字源の改訂版は今の角川書店の体力ではできません」
と言われてしまった。
「一人の学究と出版社が手を携え何年もかけて字書を編むというスタイルは現在の出版状況ではもはや不可能」
「そこで比較的体力に余裕のある角川文化振興財団で漢字データベースを作り……」
そのために阿辻先生を招聘したようだ。
そうして作ったデータベースが、『新字源』改訂版のために使われるのか、それともWebに公開される(有料か無料か)のか、そういうことはまだこれからの話であるらしい。
8時間近い耐久シンポジウムはこれにておしまい。おなかいっぱいです。