へっぽこぺけぴの冒険の書

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時刻は既に27時30分を回っている　草木も眠る丑三つ時も眠る寅三つ時だ
プランさん、イコプさん、もみじさん、そして私の4人は再度迷宮へ足を踏み入れていた
この先は残念ながら写真がほとんど存在しません　イマジネーションフルスロットルでお楽しみください

「眠い」

イコプさんの心の一番絞りが口を衝く
認めたくはないが僧侶であるイコプさんはPTの要であり、迷宮クリアには欠かせない存在
彼が意識を失ってはクリアは難しく、先の失敗を繰り返すことになってしまう　それだけは忌避したい

「目の覚めるような面白いことをもみじさんがやってくれます」

中田英寿もかくやの狂気のキラーパス　どう捌く！？もみじさんの手腕が問われる
次の戦闘中に

「爆炎に抱かれよ！メラミ！」

と叫びながら、両手に持った斧で敵に殴りかかるもみじさん
恐らくもみじさんの持ちうる最大最高のネタだとお察しする

「ほう」

「ふむ」

「なるほど」

「なかなか良かったのでは？」

「うーむ、はかりかねる」

「では次の戦闘でもう一度」

もみじさんの顔から血の気が引いていくのがハッキリと見て取れた
そしてこれが迷宮をクリアするまでの間ずっと続くことになろうとは　流石の私も同情を禁じ得ない
何を言っても何をやっても

「ほう」

「ふむ」

「なるほど」

の無限ループ
もみじさんだけではなく、自分たちをも巻き込んでの一大エンターテイメント　
もしかしてこの流れが未来永劫続くのでは？脳細胞が悲鳴を上げ始めていた

なんとかボス直前の部屋に到着したときにイコプさんが再び口を開く

「何か大きいことしたいな」

大きいこととなると、それこそ今までだれもやったことのないような事をしなければならない
パイオニア精神　これが今、イコプさんに試されている

「ふむ」

「裸でボス行きましょう！」

「それって大きいことかな？」

「むしろいつもどおり」

裸って、それが何…？何か特別なことなの？
私達には良く分からなかった
ちょっともみじさんには真剣味が足らなかったみたいです　真面目に考えて下さいよ？

「ボスを石つぶてだけで倒した人っているのかな？」

「その発想がまず想像の外」

「間違いなく誰もいないでしょう」

「それってつまり？」

「俺達ならやれる！！」

決まりました　石つぶてだけでボスを倒す！前代未聞のミッションです
提案しておいてなんですが、正気とか、知性とか、あらゆるものが欠如した阿呆過ぎる縛りプレイだ
もみじさんは残念ながら石つぶてを持っていなかったので、たいあたり（武器装備無し）縛り
形而上のロープで体を雁字搦めにされた4人　超ひも理論、ってやつか…

そして死闘が始まる


いつもは『ムチおじさん』とか言って馬鹿にしているボスですが、真剣に向き合ってみると実に強敵だ
どれだけ力を込めて石を投げても5～20ダメージ程度しか受けない鋼の体
もみじさんのたいあたりですら30ダメージが関の山というのはもはや神に愛された肉体と言っていい
縄跳びの跳躍で地を揺らす大腿筋の爆発力も然ることながら
何より凄いのは何十何百の石を浴びせられてもピンピンしている圧倒的なタフネス
勝てるのか、こんなバケモノに…？

ぺけぴーにまほうの小ビン　プランにまほうの小ビン　もみじにまほうのせいすい

飛び交う小ビンと聖水　石つぶてがここまでMPを消耗させる技だったとは
ここにきて漸くお互いのリソースにも気を配り始めるメンバー達
イコプさんのベホイミ、ベホマラーに何度命を救われたか分からない　雨降って、地、固まる───！

「さくせんはいつも！」

「もみじだいじに！」

「さくせんはいつも！」

「きょにゅうだいじに！」

「ときにはげしく！」

「ときにやさしく！」

「つらいひもあった！」

「かなしいひもあった！」

「さくせんはいつも！」

「「「「もみじだいじに！」」」」

出会って数時間…漸くひとつになった私たちの心　何度思い返しても美し過ぎる一シーンだ　そして───

「見ろ！奴の名前が黄色くなったぞ！」

「うおおおおおぉぉっっーーー！！！」

見えた希望の光　終わりの見えないマラソンにもゴールはあったんだ───
一瞬の緊張の弛緩───その隙を見逃す敵ではなかった


「イコプーーーー！！！」

「いこぷさーーーーん！！！！」

「うわああああああああ！！！」

僧侶イコプ、急逝───バ…バカな…　か…簡単すぎる…　あっけなさすぎる…
魂も凍てつくモーメント　4人のHPを一意に管理していたPTの心臓部ともいえる男がここで…
残ったのは、魔法戦士プラン、戦士もみじ、そしてスーパースターぺけぴー
2人に回復は不可能　とあらば、亡きイコプの役目は、私が継がねばならぬ…っ！

「ベホイミ！」

涙を流し、血を流し、それでも僕らは意志を、意思を、石を、ただ只管に投げ続ける

そして───

「赤くなったぞー！」

そして───

「これは私の胸の谷間から取り出した聖水よ！」

そして───

「うおおーおー！うおおーおー！」


終わった…

戦闘時間実に16分強　あまりにも長く苦しい戦いに漸く終止符が打たれた
『石つぶてだけでボスを倒す』───ドラクエ10界にまた一つ、新たな歴史が刻まれた瞬間だ
時刻は28時過ぎ　私達は、それぞれ帰途につく
ログインしてから丸4時間、長かったようで短い、あまりに濃厚な時間はこうして幕を閉じた

私は決まり切っている事を嫌う
決まり切った道を決まり切ったルートに沿って進む、予定調和───如何に無味乾燥なことか
そんな私にとってこの4時間は、ブリリアントカットのダイヤの如き輝きを放つ最高の時間だった
この場に立ち会えたことに、艱難辛苦を共に乗り越えた戦友と出会えたことに、私は心から感謝したい

ありがとう、ドラゴンクエスト！

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これで私の体験した2月9日のレポートは終わりとなります
記事4つ分と非常に長丁場となりましたが、いかがだったでしょうか？

深夜にも関わらず、腹を抱えて涙を流しながら笑ったあの時間の空気感みたいなものを
少しでもお届けすることが出来ていれば幸甚です
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、お疲れ様でした　有難うございました

おわり。