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短歌の授業〜万葉集から「山上憶良」

 6年生を対象に,次の短歌を授業した。


銀も 金も玉も何せむに 勝れる宝 子にしかめやも
                              山上憶良

 

 浜上薫氏(「授業のネタ 教材開発」9NO43明治図書P18)の追試。

 教室に入ってすぐ,上の短歌を板書する。「子」の文字は□(空欄)にしておく。


指示1 一字一句ていねいに,そして正確に視写しなさい。
 

「銀」(しろがね),「金」(くがね),「勝れる」(まされる)とルビをふっておいた。

 ほとんどの子供が書き終えたのを見計らって,2回範読した。

 □は「なになに」と読んだ。


指示2 全員起立。三回以上読んで,すらすら読めるようになった人から座りなさい。
座ったら,目を閉じて,覚えるまで読んでいます。
 

 全員着席後,


発問1 こういう文を何というのでしょう。
 

 一人を指名。「短歌です。」と答える。

 短歌については学習済みである。

5・7・5・7・7の音でできていることを確認し,音節に分け,鉛筆で線を引かせる。

そのあと,もう一度全員で一回読ませた。


発問2 分からない言葉ありますか。
 

 「銀」(しろがね)→銀,「金」(くがね)→金,「玉」(たま)→美しい宝石,真珠など,「何せむ」→何になるのだろうか,「しかめやも」→およぶだろうか

以上を全員でさっと確かめた。


説明1 この短歌の意味は,「高級な銀も金も美しい玉も,何になるというのだろう。
どんなすばらしい宝も□におよぶだろうか,いやおよばない。」という意味です。
 

 


発問3 これらにまされる宝,これよりすばらしいものは何だと思いますか。
□には,どんな言葉が入るでしょう。
ノートに書いてごらんなさい。
 

 3分の時間を与えた。その後,列指名で発表させた。

 □に書いた言葉を入れさせ,読ませた。

 次のようなものが出された。


・火・心・血・木・死・愛・命・人・美・子・身・涙・親・我
 

 子供たちから,以下の3つの言葉に質問があり,意見者はその理由を下のように述べた。


・「死」・・・死ぬと言うことは,一生を終えるという人生最大の出来事だから。
・「血」・・・人というより,人を血にたとえて書いた方がかっこいいから。
・「涙」・・・玉は高価なものということだから,涙も感動的なときに流す高価なものと考えたから。
 

 


発問4 みなさん,とてもいい感性しています。
しかし,これは短歌です。
ですから,「□にしかめやも」で7音になるはずです。
ならば,□の中には何文字入ることになりますか。
 

 子供たち,「一文字。」


発問5 そうですね。そうすると,この中で入れられないものは何ですか。
 

 「心」「愛」「命」「人」「涙」「親」「我」である。


発問6 残り7つの中に,実は,山上憶良さんが書いた言葉があります。
どれでしょう。ノートにこの中から一つ選んで書きなさい。
 

 1分後,悩んでいる子供が半数いたので,ヒントを出した。


説明2 ヒントをあげましょう。
山上憶良さんは,とてもやさしいお父さんです。
 

「わかった!」という声。鉛筆が動き始める。

 その1分後,挙手させる。


「身」・・・2人,「血」・・・4人,「子」・・・22人,「死」・・・1人
 

 以上のように分かれた。


説明3 では,赤鉛筆で□の中に,きちんと書き込みなさい。
□の中には,「子」が入ります。
 

 


発問7 では,この中に出てくる宝,「銀」「金」「玉」「子」どれが一番宝なのか,こ
の四つを価値のある順番に,不等号を使ってノートに書いてごらんなさい。
できたら,もってらっしゃい。
 

 ノートをチェックして,いくつか板書させた。

 以下の4つである。


A 子>金>銀>玉・・・7人
B 子>銀>金>玉・・・8人
C 子>玉>金>銀・・・11人
D 子>玉>銀>金・・・3人
 

 「子」が一番ということは,全員一致していた。

 そこで,次のように問うてみた。


指示4 これはおかしいと思うものはないですか。
 

 原実践では,「金」「銀」「玉」の順番が問題となり,討論されている。

 しかし,本実践では,子供から,


「金」「銀」「玉」はすべて宝であるから,同類ではないか。
 

という意見が出た。

 つまり,「金」「銀」「玉」は,「>」でなく「=」だというわけだ。

 それに対し,やはり「価値が違うものだから,3つ書かれているのだ。」という反対意見も出された。

 5分ほど,意見交換されたが,討論まで至らず,結論を見いだすことはできなかった。

そこで,挙手にて「金」「銀」「玉」は同じもの(=)だという考えの子供と,

価値が違うので順番があるはずだという考えの子供を挙手させ,人数分布を見た。

 以下の通りである。


●同類である・・・9人
●違うものだ・・・20人
 

 40分授業であったので,最後に以下のように述べて,授業を終えた。


説明3 たとえ話をします。
ここに,百円,千円,一万円と,それ以上にお金を出しても買えない高価なお宝があったとします。
この短歌は,このような言葉の並びになっているのです。
「百円出しても,千円出しても,一万円出しても買えないお宝」
つまり,宝の中でも,価値の低いものから順番に並べていって,最後に最高の宝でさえも「子」という宝にはかなわないと言っているのですね。
 

 子供たちから「なるほど。」「じゃあ,Cだ!」「やったぁー。」という声が上がった。

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