研究のあれこれ書くと言ってていきなり研究とはあまり関係ないのですが、この前「自分で作った動画に好きなアーティストの曲を入れたい! どうしたらいいのかJASRACに聞いてみた」という記事が出ていました。この辺の動画サイトでの主にJASRAC管理楽曲の使用についての話ってあんまりわかりやすいページって未だにないかと思うので、以前から(たぶん2年ぐらい前から)書こうと思ってたのですが、機会がなくて放置してました。いい機会なので書きます。わかりやすいかはともかく。

 今回取り上げる動画サイトは、Youtubeとニコニコ動画とUSTREAMの3つです。また、取り上げる著作権管理団体はJASRACとJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)とe-License(イー・ライセンス)の3団体です。上記以外の動画サイトにもJASRACなどは契約結んでたりしますが、とりあえず今回はこれだけ。それと念のため書いておきますが、この記事の内容はあくまで現時点での僕の知識と理解の範囲内で書かれているので、実際の契約内容や法的解釈の正当性、この記事を読まれている時点での契約状況までは保証しませんので悪しからず。あと、あくまでメジャーの音源利用の話なので、ボカロ界隈とか東方・Key関連のような特殊な例は横に置いておきます。

■まず前提として――著作権と著作隣接権の違い

 「著作権」というワードは結構多くの人に浸透していると思うのですが、その厳密な意味や内容についてはあまり知られていないと思います。実は著作権法で定められている「著作権」は、著作権だけではありません。

 一般的に用いられる「著作権」は実際には、著作者の権利著作隣接権(と実演家人格権)に分けれます。そのうち、著作者の権利の中でも著作権著作者人格権に分けれます。

 なんのことだかよくわからないと思いますが、著作者の権利については普通に思う「著作権」と同じ感覚でいいと思います。一方、著作隣接権は名前の示す通り著作権っぽい権利であって、著作者や著作物自体とはあんまり関係ありません。この辺ややこしいですが、音楽で言うと、著作隣接権(原盤権とも呼ばれる)は基本レコード(勿論CDとかも含む)製作者、多くの場合レコード会社が持っているものです。また、著作者の権利についてですが、このうち著作権は他人に譲渡できるのですが、人格権については一身専属の権利なので他人に譲渡できません。

 というあたりから見えてくることは、JASRACなどの著作権管理団体が扱っている「著作権」というのは、著作者の権利、しかもそのうち権利を預かることが出来る著作権の部分のみということになります(JASRAC以外だとその中でもさらに狭い場合もあります)。意外と狭いですね。

 ということは、音楽を利用しようとしてもJASRACなどの著作権管理団体に対してだけ権利処理するだけでは足りないことも結構あるということです。「著作権」に関してJASRACが全てではないのです。とりあえずこのことだけでも覚えておきましょう。

■包括契約について

 Youtubeは、2008年3月にJRCと、同年5月にe-Licenseと、同10月にJASRACと包括利用許諾を締結しています。

 ニコニコ動画は、2008年4月にJASRAC、同年9月にe-License、2009年6月にJRCと包括利用許諾を締結しました。

 USTREAMは、2010年7月にJASRAC、JRC、e-Licenseと包括利用許諾を締結しました。

 包括契約というのは、簡単に言うと定額使い放題です。いや、定額ではなくパーセントで決まってますが。動画サイトの楽曲の利用数は非常に厖大かつ、事前に使う曲が読めないのでいちいち報告してその都度契約してると大変です。なので一定の料金払って、使用した楽曲を後から報告するというシステムをとっています。テレビ局なんかもそんな感じですね。

■↑で、何が出来るの?

 「ふむふむ、YoutubeやニコニコがJASRACと包括契約を結んだのか。で?」

 まあそんな感じだと思います。では実際具体的に何ができるのかなのですが、一言で言ってしまえば「演奏利用だけできます」ということになります。 要は、JASRAC・JRC・e-Licenseが管理してる楽曲をそれらの団体に対して個別に許諾をとらないで歌ったり、ギターで弾いたり、ピアノで弾いたりした動画をYoutubeやニコニコにアップロード できるということです。

 ここで気になるのは「じゃあCD音源も使っていいの?」(多くの場合、「カラオケ音源」をバックに歌った動画をアップしてもいいの?かもしれませんが)というところですが、今回の話の前提を読んでいれば自然とわかると思います。それは出来ません。出来ませんというか、個別に著作隣接権者(主にレコード会社)に許諾をとればできます。許諾をとれれば、ですけどね……。まあたぶん個人がレコード会社にそんな許諾を貰えることはまずないでしょう……やってみたことないのでわかりませんが。まあ少なくとも「訊かれたら」OKとは言えないでしょうね。

 従ってCD音源(当然レコードや配信の音源も含む)は実質的に利用できません。だから、演奏利用だけなのです。なので、CDなどにはよくカラオケ音源やインスト音源が入ってますが、あれをバックに歌ってアップするのもアウトです。自分でカラオケ音源を打ち込めば大丈夫ですけどね(そういや原曲が打ち込み音源のインストとかの場合どう判断してるんでしょうね)。 その他細かい利用条件は冒頭のリンク先で書かれているとおり。

 この辺の話というかそもそも包括契約が結ばれたこと自体ほとんど広報されていない気がするので大多数の人は契約自体知らないんじゃないかと思います。JASRACの公式サイト見てもYoutubeのサイト行ってもパッとわからないですし。何故告知しないのですかとJASRACの方にお会いしたときに尋ねたこともあるのですが、なんでそんなこと告知する必要あるの?みたいなことを言われました。まあ確かにそもそもその辺気にしてるユーザがどれだけいて、サイトをどれだけ訪れるのかは怪しいですが……。

 ただ、いつからあったのかわかりませんが、動画サイトでの利用に関してわかりやすくまとめてあるページがJASRAC公式に出来てました。これはわかりやすいですね! このページ自体がまだ見つけにくい気もしますが。→http://www.jasrac.or.jp/network/side/upload.html

■でも例外もあるよ――USTREAMの場合

  とは言うものの、原盤が使えるものもあります。USTREAMでは、スピッツやムック、東京エスムジカなどJRCが管理している一部の楽曲について、原盤(CD音源)の利用が可能です。使える楽曲の一覧はこちら→http://www.japanrights.com/ust/terms.html 

 ちなみに、Youtubeは利用楽曲の報告とかは別にしなくていいのですが(ニコニコは動画投稿時に利用楽曲を報告する項目があります)、USTREAMは(楽曲のみの使用も含めて) 事後での報告が必要です。必要のはずなんですが……USTREAMの公式サイト見ててもどこからどのように報告していいのかよくわかりません。なので、僕が2010年の秋にライブを配信したときにはサポートセンターにどうしたらいいですかとメールしました。そうしたら、これに利用楽曲を記入して下さいとエクセルのファイルが送られてきました。むう……これだと普通の人は報告義務あることすら気づかないから絶対報告することないよなと思うのですが、流石にもう報告しなくてもいいようにシステムがもう組まれているのでしょうか。

 報告する際は1曲1曲利用した楽曲を報告する必要があるのですが、アーティストや楽曲によって管理団体が違う場合があるので気を付けましょう。

 例えば、Mr.Childrenの楽曲のほとんどは、演奏・出版・貸与・放送・通信カラオケに関してはJASRACが管理していますが、CM利用については自己管理としており、ネットでの利用に関わる「インタラクティブ配信」の権利や録音権などの著作権についてはJRCが管理しています。なので、演奏利用の場合はJASRACに申請する必要がありますが、録音やネットでの利用の際にはJRCに利用を申請する必要があります。また、同じMr.Childrenの楽曲でも「名もなき詩」や「Tomorrow never knows」などの一部楽曲については著作権全てをJASRACが管理しています(おそらく初期のドラマタイアップの影響だと思われる)。まあ大抵の動画サイトは、JASRACもJRCも両方契約してると思うので報告の際に注意すればいいだけですが、個人のサイトで利用する際に同じアーティストだからと調べるのを怠ると痛い目を見るかもしれません。

 というわけでなかなか面倒ですが、包括契約を結んでる動画サイトについては(利用者は)タダで利用させてもらってるわけですし、正確に利用報告することがそのアーティストに対して支援になると思って1曲1曲調べましょう。

■例外もあるよ その2――ニコニコ動画の場合

 昨年くらいからニコニコ動画(ニコニコ生放送含む)でも、株式会社EMIミュージック・ジャパン、エイベックス・マーケティング株式会社、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社、株式会社ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント、balloom、株式会社 Pinc、MOER、ユーマ株式会社、株式会社ランティス、株式会社ワーナーミュージック・ジャパンの一部原盤の使用が可能になりました。細かい利用条件と利用可能な楽曲についてはトップページの一番下にひっそりとあるここから見れます。

 一応使用できる楽曲は毎週追加で更新されてるんですが、新規に追加されてるのはほぼランティスの音源のみです。逆に言えば、ランティスのCDについては新たに発売されたものはほぼ全てすぐにニコニコで使用できるようになってるということです。ランティスさん、頑張ってますね。ニコニコはアニメ系の楽曲の利用も多いのでこれは大きいですね。まあこの制度自体ほとんど知られていないと思いますが……。

 こちらは動画アップロードに関しては特別利用楽曲の報告は必要ないみたいですが(※動画投稿時に楽曲情報を入力する欄があります)、生放送に関しては報告する欄がありますので報告しておきましょう。

■例外もあるよ その3――Youtubeの場合

 上記に対してYoutubeに関しては未だ個人のユーザーに対してメジャーのレコード会社が原盤の包括的な利用許諾を与えたという話は聞いたことはありません。なので、Youtubeでは原盤の利用はできません。

 ……が、実を言うとMAD限定で裏ワザもあります。それは、角川の公認バッジを利用する方法です。

 角川グループは、2008年ぐらいから自社のコンテンツを使用した、Youtubeに投稿されている「愛のある」MADについてはユーザーに代わって権利者と交渉し、許諾を得られた場合には広告を付けた上で公認バッジを付けるということを行ってきました。細かいFAQはこちらにありますが、動画のBGMとして使用している音源についても角川が代わりに交渉を行ってくれます。

 実はニコニコ動画を始め、Youtube以外のサイトでは未だに角川バッジは配布されていないので、実質的にYoutubeでしかMADは合法的には公開できません(それも角川限定)。なんでニコニコでもやらないのかは謎ですが、FAQの更新が2009年に止まってるあたり、角川さんが飽きたのかもしれません。

 そのためMADを公開しようと思うと、いくらニコニコでCD原盤の許諾があろうが、そもそも映像的な問題でYoutubeで公開する方が安全性は高いです。ただし、角川のコンテンツを使っていて、「愛のある」MADだと判定されて、使われている著作物全ての許諾を権利者からとれた場合、というなかなか狭~い条件であり、事前には全く判断できず、公認されたらもうユーザーはその動画を自由には扱えませんが、それでも間接的に使えるCD音源の数は割と多いことになる……のでしょうか。(しかし今Youtubeは動画を自動検知して権利者が削除するかどうか選べるシステムになってるはずなので、角川に見つかる前に音源の方の権利者に消されたらどうしようもない気がするのですがその辺どうなってるのでしょう)

 ところで、現在テレビ放送の録画にはコピーの制限がかかっていて(たぶん)、Blu-rayだけでなくDVDからのリッピングも昨年10月の著作権法改正で不可能になったわけで、MADの素材の動画ってどうやって仕入れるんだろうと思うのですが、MADって別にそんなこと関係なく作れるものなんですかね?(アナログ的手法使えばいくらでもいけそうではありますが) その辺実際にどうやっているか、というか実際にどう行われていることを想定しているのか角川デジックスさんにメールしてみたことあるのですが、返信ありませんでした。

 ちなみに、公認バッジがどんなものかというと、おそらく角川公認MADで最多の再生回数を誇るであろうこの「涼宮ハルヒの憂鬱」のMADのページに飛ぶと動画の説明のあたりのところに公認バッジが、


 
公認バッジが……あ、あれ? いつの間にか公認バッジがなくなってる!?

 おそらく昨年10月の法改正が影響してるのではないかと思われますが、公式チャンネルでは未だにこのFAQ載せたままなのでよくわからないです。ただ、ちょっと前までと比べてかなり権利的に怪しい状態であるのではないかと思われます。なので、Youtubeで角川関連MAD公開するのも一応控えた方がいいかもしれません。

 ■長い! 三行で!

・Youtubeは演奏利用のみおk
・ニコニコはCD音源も一部使えるよ
・ USTREAMも極一部CD音源使えるよ

 ■オマケ

 今回は動画サイトでの音楽の利用に関して説明しましたが、昨年12月からJASRAC管理楽曲の一部ブログサービスでの歌詞の利用も一定の条件のもと可能になりました。(http://www.jasrac.or.jp/news/12/1212.html)今更という感じはしますが、こういう風に包括契約を進めてくれるのはユーザーにとってはありがたいので、JASRACさんのこういうところはもっと評価されてもいいと思います。動画サイトはかなり早かったですしね。ただ、この公式リリース、どのブログサービスで利用できるのかが全然わからないのがダメダメですよね。一応ライブドアブログは契約先になってるみたいですが。

 また、多くの人が気になってるであろうTwitter上での歌詞の利用ですが、あれについてもJASRAC側ではユーザーから使用料とることは考えてなくて、Twitter社との包括契約締結に向けて動いてるらしいです。なので、僕がTwitter上で歌詞利用していいか訊いた際も特に申請する必要はなくて当然使用料払わなくて構わなかったです。それが2010年秋のことなので、今も同じかはわからないですが、包括契約結んだという話は聞かないのでまだ交渉してるのでしょうか。頑張ってほしいですね。

 あと、今回意図的に無視したのですが、「演奏利用のみ可能」の「演奏」における「アレンジ(編曲)」(特に普通のポップスをピアノ演奏するとかギター弾き語りするとか)の問題って結構ややこしいと思うのですが、その辺はまた機会があれば。まあ基本的には普通に「アレンジ」する場合には著作権法的には「編曲」には該当しないようなので一般ユーザーはそんなに気にすることないと思いますが、実際はその辺結構怪しいところですよね。いや、単に僕がよくわかってないだけなのですが。