ローマ法王訪韓の思わぬ置土産に苦悩する朴槿恵
フランシスコ・ローマ法王の韓国訪問(8月14~18日)は韓国国民を熱狂させ、韓国がまるでカトリック国のような印象を内外に与えた。
韓国のカトリック信者は約540万人で人口の1割ちょっとだが、プロテスタント(約1200万人)が頭打ちなのに比べ近年、増加が著しい。1980年代以来、3度目になるアジアの片田舎(?)への訪問はその“ご褒美”でもあった。
韓国政府は異例の歓待をした。100万人規模の野外ミサのためにソウル中心部の光化門広場を提供し、これをKBS(韓国のNHKにあたる)はテレビ生中継で国民に伝えた。
それ以上に目立ったのが朴槿恵大統領の対応である。異例の空港出迎えに始まり、大統領官邸での接見、ミサへの出席と法王滞在中、計3回も“接待”したのだ。
後に「特定宗教への過剰サービス」と批判の声も出たが、ローマ法王に対する国際的関心の高さを考えた韓国PRという計算は当然あった。
同時に国内的には「疎通(対話)不足」という批判に悩まされていたため、「貧者の教会」を主張し庶民の味方として評判のフランシスコ法王のパフォーマンスに乗っかり、「貧者、弱者に配慮する心温かい大統領」を国民に印象付けようとした。
ところがこれが結果的には裏目に出た。法王のスケジュールで最も脚光を浴びたのは「セウォル号沈没事件」の遺族たちとの接触だった。
「セウォル号事件」は今や朴政権の責任を追及する野党勢力の“人質”になっている。野党主導で朴政権を非難、追及しようという特別法制定をめぐって政局はマヒ状態だ。
野党勢力は「法王は犠牲者の立場に立ち“和解”を呼びかけたじゃないか」と朴政権に譲歩を要求している。「大統領も法王のように遺族にひざまずけ」というのだ。朴槿恵大統領も思惑はずれに頭が痛い。
韓国政治の伝統は、一方が弱みを見せると「それいけ!」とばかり要求をエスカレートさせる。「このあたりで手打ち」とはなかなかならない。日本がそんな韓国外交にへきえきさせられているのは周知の通りだが、朴大統領も今、国内で同じ思いだろう。