2004年、環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞をしたケニア人女性
ワンガリ・マータイさん。彼女は2005年に日本に訪れ、「もったいない」という日本語に出会い、無駄を減らしモノを大切にしようというその精神に感銘を受け、後に「MOTTAINAI」を世界共通語として広める運動を始めました。
そんな古くから日本人が独自に持つ「モッタイナイ」の精神に寄り添ってくれる数字があります。前話から引き続き、われわれの暮らしと深い関わりのある無理数のはなし─2つ目となる
「白銀比」です。
その比率、数値は
1:√2です。小数で表すなら
√2=1.1421356...。
黄金比=(1+√5)/2よりはシンプルになりましたが、やはりこの永遠に続く数字の羅列を眺めていてもなんのこっちゃわかりません。また、学校の授業のように、単に「√2は無理数である」ことを覚えたり、「3√2×2√5=」というような平方根計算を延々と繰り返したとしても、この数字の魅力にはいつまでたっても辿り着くことはできません。√2に対して、ただ「二乗したら2になる数字」という認識だけではモッタイナイ!
黄金比に比べて知名度が低い白銀比ですが、実は日本人にとってはむしろより関わりの深い比率なんです。
(記事後半につづく...)
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白銀比が日本人にとって関わりの深い比率になっている。
さて、それはなぜか。
それは...どうも日本建築と深く関わっているようです。
外国では建築材料に土を使ったり、石だったり、あるいはレンガだったりしますが、伝統的な日本建築の材料は主には木材ですよね。その木材を調達するには、まず森で木を伐採してきて、丸太をつくり、次にそれを削って角材を作ります。ここで使う「さしがね」(曲尺ともいう)という道具に注目していただきたい。
このさしがねにどんな特徴があり、どのように寸法を測って、丸太から角材を切り出すのか?
詳しくは
<ページ下部>のマンガで説明してますんで、まずそちらをご覧いただきたいですが、要するに、さしがねには通常の目盛りとは別に√2倍の目盛りがあり、これを使うと楽に丸太から「正方形」を切り出すことができ、
その「正方形」が一番無駄を少なくする形状なんです。 建物を造るときの基本的な道具に√2倍の目盛りが刻まれているのだから、建物にこの比率の影響がでてくるのはカンタンに想像できますよね。
たとえば、最も古い木造建築物・法隆寺。ここに建つ五重塔にも白銀比√2がひそんでます(図1/法隆寺発行の冊子『法隆寺』掲載の「五重塔側面図・断面図」より検証)。
建築の他にも、畳、茶室、風呂敷、折り紙、枡などなど、「正方形」のかたちをしたものが日本文化にはたくさんあります。
白銀比が使われているもの、現代で一番身近なものをまだ紹介していません。それは、A4用紙です。
A4は横が210mm、縦が297mmですが、なんでこんな中途半端な寸法やねん(とくに縦!)と思ったことはありませんか。実は、これが1:√2になっていて、これもまた「モッタイナイ」の精神にもとづいて、設計されたよくできた用紙なのです。
A4を半分に切断すると、二枚の長方形になりますが、これも1:√2になります。つまり、A4と相似で面積が半分の長方形で、これがA5です。逆にA4を二枚合わせれば、A3。裁断しても無駄な紙が出ないように考案された絶妙な規格なのです。相似を生み出す力、これも√2の魅力です。
相似を生み出す力。ここから、単に「無駄をはぶく」ということだけではない日本人の価値観が見えてきます。
あえて限られた空間で、限られた素材を使って、そこに小さな自然、宇宙を見出すといった趣を追求する文化が日本にはたくさんあります。坪庭、枯山水の庭、盆栽や生け花。たった17文字で一瞬の宇宙を切り取る俳句は、その究極かもしれません。「大宇宙」の相似となる「小宇宙」を生み出す。「無駄をはぶく」その先には宇宙を見ている。日本人にはそんな感性があるんですね。
面積的にこんなに小国の日本が、「料理」や「アニメ」やその他諸々...しばしば海外の人々を魅了してやまない独自の文化を持つ。そのすべての源流は日本建築、さらには√2の目盛りが刻まれた「さしがね」にある、というのは飛躍しすぎでしょうか。
日本で愛されるキャラクターには白銀比の比率になってるものが多いですよ。全国的にゆるキャラブームで、各地にとりあえず作ったもののウンともスンとも人気の出ない悲しきキャラクターが増殖してますが、白銀比を取り入れてデザインすればうまくいくかもしれません。
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