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Opinion
太田匡彦の暮らしの中の動愛法2

首都東京は動物愛護先進都市になれるか

(イラストレーション/石川ともこ)


 2020年の夏季五輪開催都市が東京に決まった。招致レースの過程で猪瀬直樹・都知事らがアピールしてきたのが、「成熟都市」としての強みだった。確かに経済、文化、また人口の年齢構成などの面から見て、東京が成熟した先進国の首都であることは間違いない。だが、こと動物愛護についても、東京はそう誇れるだろうか。

 東京には、欧米先進国では極めてまれな、小売業として犬や猫の生体を販売する動物取扱業者が全国で最もたくさんある。全国規模で展開する大手ペットショップのうち5社もが本社を置く。それら業者が生体を仕入れるための子犬や子猫の競り市が、隣接県に少なくとも七つ存在している。そして自治体としての東京都(八王子市、町田市を除く)は11年度、犬猫あわせて2184頭を殺処分した。

 小さなショーケースに子犬や子猫がずらりと陳列され、消費者が群がって歓声をあげる。そこで衝動買いされた犬や猫は飽きられれば捨てられ、自治体が税金を使って殺処分する。売れ残ったり、繁殖が終わったりした犬や猫の命は、人知れず消えていく。東京は、そんな光景に慣れきった異常な都市なのだ。

 東京で五輪が開催されれば、その期間中だけで少なくとも80万人の外国人観光客が来日するという(みずほ総合研究所調べ)。日本の良さを知ってもらう最高の機会だ。だが一方で、動物愛護後進国・日本またはその象徴としての東京が、世界の目にさらされることになる。手をこまねいていいはずがない。まだ6年あまりも時間があるのだ。

 東京都の人口を考えれば、積極的な譲渡活動によって、殺処分数を限りなくゼロに近づけることは十分に可能だ。五輪後に使い道に困るようなハコモノを新設するくらいなら、老朽化した東京都動物愛護相談センターを建て替えることもできるはず。誰もが足を運びやすく、もちろん殺処分など行わない、ドイツの「ティアハイム」のような動物保護・譲渡施設に生まれ変わらせればいい。

 また今年9月に施行された改正動物愛護法では、欧米先進国では当たり前の8週(56日)齢規制(生後8週未満の子犬を生まれた環境から引き離してはならないという規制)が、「骨抜き」になってしまった。ならば国の法律に先んじて、東京都の条例で先進国並みの8週齢規制を実現してみせるという手もある。ただ現時点で東京都は、「動物取扱業者に対して56日齢規制がかかることを周知していく」「8週齢規制の条例化については、都動物愛護管理審議会の答申で『条例化の必要がある』と盛り込まれるなどすれば検討する可能性もある」(都福祉保健局健康安全部)と答えるに留まる。

 五輪開催決定を機に東京は、「動物愛護先進都市」を目指すべきだ。東京都の腰が重いようなら、市民から声をあげる必要があるかもしれない。

太田匡彦(おおた・まさひこ)
1976年東京都生まれ。2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。07年からAERA編集部記者。著作に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)がある。

2013年12月11日掲載

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