いくらいい制度があっても、うまく生かそうという意思をもって動かさなければ役に立たない。パブリックコメント(意見公募)制度がその好例だろう。

 99年の閣議決定で導入され、05年の行政手続法改正で法制化された。政令や省令などを定める際には、「案」の段階で一般に公表し、広く意見を募る。行政運営の透明性を高めて公正さを確保し、国民の権利や利益の保護に役立てることが目的で、寄せられた意見は「十分に考慮しなければならない」と定められている。

 ところが安倍政権下において、パブコメは単なる「通過儀礼」と化している。

 昨秋、特定秘密保護法案の国会提出前に実施されたパブコメには約9万件が寄せられた。賛成13%、反対77%だったが、十分に考慮された形跡はない。

 エネルギー基本計画の原案には1万9千件。賛否の内訳は公表されないまま、原発は「重要なベースロード電源」と位置づけられ、今年4月に閣議決定された。その後、朝日新聞が情報公開請求に基づき賛否を集計したところ、脱原発を求める意見が9割を超えていた可能性があることがわかっている。

 民主党政権は12年に「30年代に原発稼働ゼロ」の方針を決める際、パブコメに加え、討論型世論調査も実施した。重要政策に関しては、民意の堅い下支えがあるに越したことはない。

 安倍政権は選挙で勝った自分たちこそが民意だと言わんばかりの手荒さで、民意の吸い上げと反映を怠っているが、長い目で見れば、それは政権の基盤を弱くするだろう。

 さて先日、秘密法の運用基準と政令の素案に対するパブコメが締め切られた。単なる賛否ではなく、問題点などを具体的に指摘しなければならない。素案や資料は大量かつ難解で、読み込むには骨が折れるが、各地で勉強会が開かれ、ネット上には書き方を指南するサイトもさまざま登場した。政府に勝手に決めさせないために、「面倒」を引き受ける。そんな主権者としての自覚がうかがえる。

 パブコメはこのあと、素案を了承した「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆)に打ち返される。諮問会議は、その議論を公開してはどうか。

 自由な意見を言いにくくなるなどの懸念もあるだろう。だが、みんなが少しずつ「面倒」を引き受けなければ、民主主義はうまく機能しない。国民の根強い不安と批判に、有識者は正面から答えてほしい。