「人のイマジネーションは物質化するか」(1)

「人のイマジネーションは物質化するか」(1)

落合陽一
落合陽一 (ID237) 公認maker 2014/08/27
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イマジネーションが実体化する世紀へ

こんにちは、初めてのかたは初めまして落合陽一です。

連載の第一回ということで、最初はご挨拶から始めたいと思います。

落合陽一の名前の由来は陽(プラス)と一(マイナス)だそうで、電気が好きです。感電注意です。小さいときから、Makeな人生を送って参りました。

普段は研究とメディアアートをしながら,魔法感のあるものごとを作り出していくことを目指しています。巷では現代の魔法使い ( http://horiemon.com/talk/3626/ ) とよばれています。

専門分野はコンピュータグラフィクス、ディスプレイ、HCI/UI/UX、メディアアートなどです。
最近特に力をいれているのは「コンピュータグラフィクスの物象化(実体を持ったコンピュータグラフィクス)」です.というのも、コンピュータグラフィクスで作れるような「動的な物理表現」をこの世界に実現する、というが目標です。今回はその大枠について解説していきたいと思います。

研究や作品の発表の場としては、毎年SIGGRAPH(コンピュータグラフィクスに関する世界最大の学会/国際会議)で研究を発表しています。3DプリンターなどのCGを用いたデジタルファブリケーションについても,毎年セッションが設けられ、すばらしい論文が発表されています。
僕のプロフィールについてはこちら( http://96ochiai.ws )をどうぞ。

最近の仕事としては、物体を自由に空中浮遊させたりそれで空中に絵を作ったりする研究が有名になりました。下に動画がありますので、ぜひご覧ください。(上:英語の解説動画 下:日本語の講演動画)
21世紀にはデジタルファブリケーションした物体が自由に空中を飛び回る未来が似合うと思います。

モノが自由にこの世界で動き回り、形を変える。
「こうだったらよいのに」という、人間のイマジネーションをこの物理世界に実現する。その枠組みを拡大させていく。それが僕のモチベーションです。

http://www.youtube.com/watch?v=NLgD3EtxwdY
http://www.youtube.com/watch?v=Do6u2ZSAX8Y

連載:世の最先端研究の背景と動向は? 次の焦点はどこだろう

この連載は、落合が気に入ったコンピュータ系の最新の論文を紹介するため、そのバックグラウンドから現在の研究に至る流れを説明していく連載です。
ここでは最近の数本の論文をひとまとめにして、それぞれのバックグラウンドを含めて大きな流れを解説した読み物を提供しようと思います。

研究や論文というと非常に難しそうなイメージがありますが、そんなことはありません。それをこの連載では噛み砕いて説明していくのが目的です。

なぜそんなことをするのか?

日進月歩するテクノロジーの中で、いけてるアイデアを捕まえたり、実装の指針を立てたり、世相を読んで生かすには正しい文脈の理解が必要だと僕は考えています。

Makerムーブメントと呼ばれて久しいですが、プロトを作ったり、面白い研究を紹介したりするメディアは日に日に増えているように感じます。とてもいいことですが、文脈に乗ったストーリーのない作品や実装は一瞬で忘れ去られてしまうし、インパクトがありません。

なので、この連載は単発を追うのではなく「ある技術に含まれる研究ストーリー」を語ることで、読者のみなさまに文脈を提供し、よりよい作品作りに役立ててもらえることを目標にします。

具体的にはキーとなる最新の論文1、2本とそこに至る関連研究の流れを広くサーベイし、文脈を付けて提供するということをします。
以前BLOG HOMME ( http://bulk.co.jp/bloghomme/ochyai )で書いていたもののMake寄りで複数連載にシフトしたバージョンだと思って頂ければわかりやすいと思います。

初回(この次の回)はグラフィクスパイプラインで3Dプリンティングを考えるがテーマです。なんのこっちゃという感じですが、物理世界に指針を立ててモノを作っていくことは非常に大切、と行ったような流れになるかと思います。
次回解説する論文は2013年のSIGGRAPHから、下記のものを選びました。

[1]Desai Chen, David I.W. Levin, Piotr Didyk, Pitchaya Sitthi-Amorn, Wojciech Matusik Spec2Fab: A reducer-tuner model for translating specifications to 3D prints ACM Transactions on Graphics 32(4) (Proceedings SIGGRAPH 2013, Anaheim, CA), 2013

[2]Kiril Vidimče, Szu-Po Wang, Jonathan Ragan-Kelley, Wojciech Matusik, OpenFab: A Programmable Pipeline for Multi-Material Fabrication, ACM Transactions on Graphics 32(4) (Proceedings of SIGGRAPH 2013), Anaheim, July 2013.

http://www.youtube.com/watch?v=W-yWeQxnnDA

描くことの発展史:洞穴から出でて表象が実体化する世紀へ

さて、本格的な連載については次回から研究論文の紹介になるのですが、先に申し上げた通り次回は3Dプリンターをグラフィクスパイプラインで考える。という実にわかりにくいテーマなので、前振りとしてなんで、3Dプリンターとコンピュータグラフィクスの研究って関係あるの? ということについて語っておきたいと思います。

「3Dグラフィクスだから、3Dプリンターだろ!」

そうといえば、そうなんですけど…。
もうちょっと広めに概念をひもといていきたいと思います。

絵を描く行為、グラフィクスからプリンターへの大きな流れです。

たとえば、上のラスコーの絵画は1万5千年前に書かれたと言われていますが、有史以来我々の文化的生活と描くという行為は非常に密接な関係を持ってきました。
その主眼は世界の様子をどうやって捉えるのか、どうやって記録するのか、ということに重きを置かれてきました。

人類の歴史上に登場するさまざまな描画メディア、例えば絵巻物のように時系列を持って記録する手法や、小説のように挿絵と文章で何かを書き表す方法、エジプトの壁画のように平面的な技法を用いるものなど、さまざまな技法/手法。メディアとそこに描きだされるコンテンツの間には常に相関があります。

このメディアの枠組み自体を創造する芸術活動のことをメディアアートと呼んだりするのですが、それはまた別の回で説明するとして、メディアが変わればコンテンツも変化する。
カップヌードルの容器にはカップヌードルを、丼にはラーメンを、ということです。

さて、このような技法自体の進化と表現手法自体の進化が顕著に両輪として機能した分野の一つに写真芸術があります。

写真は19世紀の偉大な発明のうちの一つです。
それによって、人類は写実的に景観を切り取ることが可能になりました。またこの写真メディア装置の発展は人の表現活動を後押しし、また表現活動によってメディア装置の発展が進展するという非常に理想的なメディアとコンテンツの在り方を今日まで伝えています。
たとえば今でも、いつでもどこでも写真撮りたいという要望に応えてデジカメが小型化し、それによって写真は日常を捉えたりセルフィーしたものが増えてネットに溢れる、そしたら今度はネットにアップロードしやすいカメラや360°全ての日常の景観が撮れるカメラが増えて、とコンテンツとメディアの進歩が伴っているすばらしいケースです。

写真技術の発明は、絵画にも大きな変化を及ぼしました。ルネサンス以降の絵画技法は、写実的に世界を切り取るものでしたが、絵画技法の完成と写真技術の発明により、だれでも簡単に写実的な表現を得られるようになり、写実表現は埋没的になっていきます。
その中で絵画文化はそこにあるそこにある世界を写実的に切り取るの表現から、その対象に対する心の動きを描くものへと拡大していきます。

写真技術と相まって、重要な発明があります。19世紀にはゾートロープが発明され、先にあった幻灯機との組み合わせにより、映画の萌芽が作られていきました。

描く、という観点で文化史を見た場合、20世紀は映像の世紀だと思います。

人類は有史以来、空間の二次元投影像である絵画を描き、空間の一部を切り出した石像や木造などの塑像、彫刻表現によって世界のありようを記録して来ました。

映像の発明は、そこに時間軸を加え、時間と空間を同時に切り取れるようにしたのです。それによって、我々人類は主観それ自体を追体験するようなメディアの創造に成功しました。

http://www.youtube.com/watch?v=ZdvRNdGlgzY

映画の中の時間軸は現実の時間軸とは別に存在出来るため、たくさんの表現が行われるようになりました。シーンをつなぎあわせることによって物語を表現する映画技法、静止画を高速で切り替えて動きを描き出すアニメーション技法等、時空間に対する人間のイマジネーションが爆発したのも20世紀だと言えます。

そして、20世紀のもう一つの大きな発明はコンピュータ技術です。

http://www.youtube.com/watch?v=USyoT_Ha_bA

上の映像は1963年のIvan Sutherland博士による世界初のコンピュータグラフィクスのデモですが、20世紀後半は、コンピュータグラフィクスによって人間のイマジネーションをデータ化し、描き出すことが出来るようになりました。これは、時空間表現を可能にした映画の発明と同等のすごいことです。

コンピュータグラフィクスはその写実的な表現により、まず、現実には有り得ないような映像を合成し、映画の中で表現することに使われ始めました。今では、そのフィールドは、写実的かどうかに限らず、コンピュータグラフィクスにしか出来ない表現の探求にも向かっています。

それによって人間はツールを使って自分の表現をデータ化し外在化し、自分の想像力をコンピュータで補うなど(想像を超えたものも描けるようになった)して、その表現の幅を大きく拡大させてきました。

例えば、下の動画はSIGGRAPH Computer Animation Festival 2013のトレーラーですが、すばらしい作品がたくさんあります。このように人間は想像出来れば、もしくは想像を超えたものでも、映像の中に描き出すことができるようになってきました。

http://www.youtube.com/watch?v=qAGbcxiHZ9E

さて、次はどこに向かうのでしょうか? 人間の表現のカンバスはどこに広がっていくのでしょうか?

その答えの一つはコンピュータグラフィクスの実体化にあると思います。
この世界にコンピュータグラフィクスのように振る舞うものが増えていく。

「世界をコンピュータで書き換える」「動的に変形するマテリアル」「プログラマブルマター」「オンラインtoオフライン」「IoT」「ユビキタス」など呼び方は様々、いい方も様々、いろいろなコンセプトが提案されてきました。もちろん、みなコンピュータがこの世界を被覆していき、やがて物理世界を変えていくことを示したコンセプトです、この方向に皆向いていると思います。

ただ、描くという観点ではコンピュータグラフィクスに則って考えるのがいいのではないか? と僕は考えています。

この50年間、コンピュータグラフィクス分野はコンピュータの中に我々の物理世界を再現したり、はたまたそれを飛び越えた表現をどうやって構築するかを、体系立った学問として考えてきました。その法則性、分野、メタファーになぞらえて、この世界をどうやって書き換えるのかを考えていく。

ただ闇雲に「この世界を書き換える」、「コンピュータの中みたいに」という自由度の高い指針は、積み上げられるはずの知見を発散させてしまうかもしれませんし、どこがまだ被覆されていないのか、何をすべきなのか、を眼前から隠してしまうかもしれません。

だから、コンピュータグラフィクスのようにという制約であり指針を設けることで、体系立たせ、この世界自体を描画する文脈を構築しようと思っています。

というわけで、

コンピュータグラフィクスのように、この世界を描く。
魔法のようにモノが変化する、この世界に出現する。

それはアニメーションやレンダリング、モデリング、グラフィクスパイプライン等のメタファーになぞらえて考えることが出来る。そう考えることで次の一歩もわかりやすくなる。

たとえば自由にものを動かすとしたら、CGアニメーションの手法やオブジェクトマニピュレーションの手法を用いることが出来る。CGの中で物体の操作性についてはたくさん論じられて来たから。

というわけで、この21世紀をコンピュータグラフィクスの実体化の世紀にすべく、Makeの文脈で連載を初めて行こうと思います。

以上落合陽一がお送りしました。みなさまよろしくお願いいたします。

http://www.youtube.com/watch?v=odJxJRAxdFU

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