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「Webデザイン・コミュニケーションの教科書」の表紙カバーの画像

『Webデザイン・コミュニケーションの教科書 インタビュー』

筆者が本書を執筆する際に参考にさせていただいた、8人のワークスタイルをインタビュー記事にしました。

今回のお相手は、Android界隈では知らない人はいないという、あんざい ゆきさん。
3冊のAndroid UIに特化した著書の売れ行きも好調ということで、デザインとプログラムに関する話をお聞きしました。

今回のお相手:あんざい ゆきさん

「どんなにいいデザインを描いても、実現できないとそれは絵に描いた餅でしかなくて、実際につくってさわってみないと思ってたのと違うなっていうことがあると思う。」

あんざい ゆきさんの写真

あんざい ゆき

@yanzm

株式会社ウフィカ 代表取締役
ブログ「Y.A.Mの雑記帳」で多数のAndroid技術情報を公開。UIに特化した「Android Layout CookBook」や「Android UI Cookbook for 4.0」、「Android Pattern Cookbook マーケットで埋もれないための差別化戦略」を執筆。Android女子部やGTUG Girlsなどのコミュニティ活動にも参加。

Y.A.M の 雑記帳 http://y-anz-m.blogspot.jp/

最近は、グラフィカルなソフトウェアをつくるのがすごくラクになってきた

秋葉:
あんざいさんは、Androidアプリ開発者だけど、それに関するUIデザインも、いっしょにやっているよね。前にいっしょにアプリを作ったときも、おおまかに「こんな感じのデザインでどう?」とお願いしたデザインが、きれいにコードで実装されていて感動したよ!
普通の開発者に渡すと、だいたい余白や文字の大きさがデザインどおりになっていなくて修正をお願いするのだけど、あんざいさんは完璧でびっくりした。
「デザインエンジニア(脚注.1)」というのを意識している、と前に聞いたけど。

あんざい:
たとえば、どんなにいいデザインを描いても、実現できないとそれは絵に描いた餅でしかなくて、実際につくってさわってみないと思ってたのと違うなっていうことがあると思う。
だから、完全に静的に考える人と、そのとおりに作る人とで完全に分担してしまっていたら、限界があると思う。

秋葉:
確かに、わたしたちデザイナーは、デザインを考えるときに静的に考えがちだね。
自分でコードを書いて実装するときもあるけど、分担するときもある。そのときは、仕様を伝えるのにコミュニケーションコストも発生するし、うまく伝わらなかったりしてもやもやもするよ。

あんざい:
今までは、特にハードウェアのプロダクトだと、両方をひとりの人がやるのはいっぱいいっぱいでできなかったけど、最近はそれに比べたら、グラフィカルなソフトウェアをつくるのがすごくラクになっているなと思う。
AndroidだけじゃなくてUnity(脚注.2)とかみても、今まではそういうのをやろうと思ったらすごい勉強しないといけなかったり、準備にもものすごく手間かかっていたのが、さくっとできるようになったよ。
プログラムもやりつつ、グラフィックの部分もコードで実装できる余力がでてきたっていうところで、そうすると両方できたほうが話が早いみたいなところもあるよね。

興味がないと、デザインの技術だけ習得するのはむずかしい!?

秋葉:
実際にデザインに関してなにか勉強している?

あんざい:
本読んだり動画みたりとかはよくしてる。
論理だててデザインを解説してあるものは、すごくロジカルなだけにわかりやすいと思うよ。
でも、まだまだデザインの引き出しは少ないかなー。
開発をするのにも、いろんなデザインパターンとかがあったりして、こういうふうな動作にしたいんだけど、どういうふうにかいたらわかりやすくてきれいになるのか、みたいなのをパターンとして引き出しにもっていないと、なかなかむずかしい。
コードに関しては、好きっていうのもあるし、ガンガンかいたりとか、いろんな人のコードとか見て引き出しを増やすんだけど、デザインの基本を理解したとしても、引き出しを増やす機会がないのよね。

秋葉:
アプリとか、日々接している電車の中吊り広告でもいいけど、あらゆるものをそういう目でみてたら、引き出しって増えると思うんだけど。

あんざい:
あんまり、開発者はそういう目で見ないんじゃないかなー(笑)。
動きにどういう意味があるかとかは、そもそもあんまり興味がないのかも?デザインの技術だけ習得しようとしても、興味がないと、なかなかむずかしいかもしれないね。

秋葉:
興味がないのかー(笑)。でもそれって逆もいえるよね。
デザイナーも、そもそもプログラムに興味がないのかもしれない(笑)。

あんざい:
もともとの興味がないと、そもそもアプリなんてつくれないしつくろうとも思わないだろうけどね(笑)。

頭の中でアプリが動いているところを描けているかどうかが重要

秋葉:
逆に、デザイナーにもエンジニアリングを理解してほしい?
システムの構成的なこととか…たとえば、データベースがあって、そこに情報をつっこむからそれをひっぱってきて、みたいな仕組みのところ。
わたしは、この仕組みを知ってから、逆にデザインの幅がすごく広がったよ!

あんざい:
ベーシックな知識はあったらいいと思う。話はすごくしやすくはなるよね。
でも、無理に理解する必要はないと思う。
ただ、今までは名刺とか雑誌とか、スタティックなデザインだけだったのが、今はどうしてもダイナミック(脚注.3)なデザインが必要になってくる。そうなると、WebだとJavaScriptをさわらないといけなくなるよね。

秋葉:
そうだね。いわゆるプログラムを書いていかないといけないね。
でも、本当にJavaScriptをさわれないといけないわけじゃなくて、仕組みをわかっていることのほうが重要だと思うんだ。
知り合いが頼んでいるデザイナーさんは、アプリのデザインを静止画でしか出してこないけど、それがものすごく的を得ているらしくて、バッチリ思っていたものにあてはまるらしい。
動いているものを頭のなかで描けているんだと思う。

あんざい:
そうそう、技術を習得する必要はなくて、ちゃんと動いているところが頭のなかで描けていたら、問題ないんだよね。
たとえば、デザインに動きが必要なのは2種類あって、時系列で動くものと、データによって変わるもの。
後者の場合をデザイナーさんに頼むと、たいていはなんかうまい具合に情報が入っているデザインしか出てこないんだよね(笑)。
開発側からいうと、本当は「データが空のとき」「データが画面の下まで到達しないとき」「データが画面からオーバーするとき」の3つが必要なんだよね。
それがデザインされていると、たとえばデータが画面からオーバーしてしまったときに、枠がちぢむのか、枠は決まっていて中身だけがスクロールするのかが、デザインを見ただけでわかるしね。

秋葉:
そうだね、そういう意味では、デザインを見ればその人の技術力がわかる、とさえ言えるね。

アートはかっこよくてもいいけど、デザインはかっこいいだけじゃダメ

秋葉:
デザインとして、アニメーション効果についてどう思う?たとえば、写真一覧が表示されるようなものがあったとしたら、それが1枚ずつふわっと出てきたりするような。

あんざい:
意味のないアニメーションは好きじゃない。
コードをかいているほうだからかもしれないけど、アニメーションってその分待たないといけないから、最初はいいかもしれないけど、毎回だとちょっとうざいって思うんだよね。
自分が使うときは、実はあんまり入れたくない。
ユーザーがそれを待たないといけないようにするのはちょっといやなんだよね。

秋葉:
毎日使うようなアプリだと、待つほどのアニメーション効果は使っててイライラしそう。

あんざい:
アートはかっこよくてもいいけど、デザインはかっこいいだけじゃダメだよね。使いづらいとどうしようもないし。

全部を自分ひとりでつくるのもいいが、人との協業も大切

あんざい:
自分ひとりでデザインも開発もできたらそれはそれでいいと思うけど、いろんな人に頼んで、協業するのもいいと思う。
協業すると、他の人がどんなことを考えているかを知ることができるからね。

秋葉:
そうだね。ひとりだとできることの限界もあるよね。

あんざい:
そうそう。人ってやっぱり大事だよ。
人の考え方も定期的にインプットして、自分の頭の中の風通しをよくして、そこからさらに自分の考えをブラッシュアップしていくのがいいよ。
デザインも、自分ができそうだからやってみている感じかな。絵を描くのも昔から好きだし、プログラムも書いたとおりに動くっていうのは、やっぱり楽しいよ。