朝日新聞は読者の「投書」をなぜ載せないのか
8月5日朝刊。写真拡大
また、朝日は「虚偽だと判断し、記事を取り消します」としているが、謝罪していない。訂正するだけでなく、きちんと謝罪すべきだといわれている。さらに、朝日の植村隆という記者が書いた女子挺身隊の記事について、きちんと否定しておらず、あいまいだと批判されている。
僕はそういう指摘は、それぞれ当たっていると思う。しかし、僕が朝日の記事で一番問題と思うのは、慰安婦報道に関する読者の「投書」が掲載されていないことだ。これは、どういうことなのか。
今回の検証特集を受けて、読者からいろいろな投書が来ているはずだ。批判もあれば、よくあったという声もあるかもしれない。それらは貴重な反応だと思う。これを載せない朝日の姿勢がよくわからない。もしかすると、ある程度の時間を置いて、整理して載せようということなのかもしれないが・・・。これが僕の、朝日新聞に対する一番の疑問だ。
もう一つ、朝日が慰安婦報道の誤りを認めたことで、週刊新潮や週刊文春、週刊現代、週刊ポストといった週刊誌が「朝日叩き」をしている。その叩き方が、「韓国叩き」「中国叩き」と極めて似通っているのが気になる。
いま日本では、韓国の悪口や中国の悪口を言えば、週刊誌や月刊誌が売れる。だから、週刊誌や月刊誌は、とにかく韓国や中国を批判する。その手の単行本もやたらと出ている。この「韓国叩き」「中国叩き」と「朝日叩き」が非常に似ているのが、気持ち悪いなと感じている。
なぜ、そうなっているのか。僕は、日本人の「弱者意識」が変わったのだろうと考えている。
これまでは「弱者」といえば、在日朝鮮人や被差別部落、非正規社員、障害者といったものだった。つまり、五体満足な日本人は「強者」だった。しかし、ここへきて、「弱者」の位置づけが大きく変わってきている。
いま一番、「我々こそが弱者だ」と考えているのは誰か。それは、ネット右翼だと思う。彼らは「自分たち日本人は弱者である。だから、中国や韓国に勝手なことを言われるのだ」と考えている。ネット右翼は韓国や中国のことをボロクソに叩くが、それは自らを「弱者」と捉えているから。そんな彼らにとって、「弱者」の一番象徴的な存在が、安倍晋三なのだと思う。そして、この弱者意識がナショナリズムにつながっている。
戦前は「ナショナリズム」に抵抗できなかった
僕は戦争を体験している世代で、小学5年の夏休みに天皇の玉音放送で敗戦を知った。そのとき、ナショナリズムは極めて危険な考え方だと悟った。戦前の日本はナショナリズム一色で、「欧米列強に侵略されたアジアの国々に代わって、日本はアメリカやイギリスやオランダやソ連と戦うのだ」と信じていた。当時は、このナショナリズムに一切、反発することも、抵抗することもできなかった。「いまの日本は戦前の状況と似ている」と簡単に言いたくはないが、ナショナリズムの勃興は、とても嫌だ。
そもそも日本人は、世界の「弱者」ではない。韓国や中国が日本と対立して、日韓首脳会談や日中首脳会談ができないのは、日本を馬鹿にしているからではなくて、彼ら自身に弱みがあるからだ。
韓国で言えば、李明博(イミョンバク)大統領のときに、韓国の憲法裁判所が「従軍慰安婦の問題で日本にきちんと要求しない韓国政府は憲法違反だ」という決定を出した。ここから、韓国の中で、従軍慰安婦問題がぐっと前に出てくるようになった。つまり、朴槿恵(パククネ)大統領は、従軍慰安婦の問題を言わないと支持率が落ちてしまうという構造で、「内なる問題」を抱えている。
中国にしても、日中首脳会談ができない大きな理由は、中国にあると考えたほうがいい。それは、中国共産党における権力闘争がまだ終わっておらず、周近平体制が確立していないということだ。ところが先日、党内序列ナンバー9で、中央政治局の常務委員だった大物・周永康が汚職容疑で立件されることになった。
これまで、周永康のバックには江沢民がいるので処分できないと言われてきた。それが処分できたということで、中国では「虎退治」と言われている。中国内部の権力闘争で、周近平が江沢民一派を処分できたという意味は大きい。
だから、おそらくAPECが北京で開かれる11月に、日中首脳会談がおこなわれるのではないかと思う。いままで、中国内部に大きな問題を抱えている周近平としては、日本に妥協すると国民に弱みを見せることになるので、日中首脳会談に踏み切れなかったが、国内の環境が整ってきたので、日本に歩み寄ることができるようになった。
そういう中国や韓国の国内事情も全く考えないナショナリズムの勃興というのは、嫌だなと感じる。「朝日叩き」をするのはいいが、それが安易なナショナリズムにつながっていくのは、戦争を知っている世代として、危険なことだと思う。
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