新しいジャズの楽しみ方を提案する「Something Jazzy 女子のための新しいジャズガイド」の著者、島田奈央子さんによるジャズガイド。最近の話題やおすすめのアルバムを紹介します。
夏から秋にかけて、ジャズフェスティバルが全国各地で開催されます。「東京JAZZ」のように有名アーティストが顔をそろえるものから、アマチュアが出演するものまで、私が知る限りでも全国で20カ所以上。「阿佐谷ジャズストリート」や「金沢ジャズストリート」など、街を挙げて行われるものもあります。
■街を歩いてライブ満喫
ジャズフェスの魅力は、なんといっても1日でいろいろなライブが観られること。国内外のアーティストが次々と登場し、ジャズフェスだけのスペシャルなコラボレーションも楽しめます。野外のストリートや広場などオープンスペースでライブを行っていたり、1日パスを購入すればエリア内を自由に見て回れたり。街を歩きながら青空の下でジャズを聴くなど気軽に楽しめます。
「東京JAZZ」は9月5~7日、東京駅周辺の東京国際フォーラムとコットンクラブを会場に開催。アーマッド・ジャマルやハービー・ハンコックら一流アーティストが顔をそろえます。世界で活躍する上原ひろみさんは最新アルバム「ALIVE」でもトリオを組むアンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスとの共演に加え、ミシェル・カミロとのピアノバトルも披露予定。早々と売り切れたチケットもありますが、デンマークやスイス、南アフリカなど世界各国のアーティストが登場する国際フォーラム「地上広場」でのライブは無料で、どなたでも聴けます。日本からは、実験的な試みで知られる菊地成孔氏率いるペペ・トルメント・アスカラールや、超絶技巧で注目される女子高生ドラマー、川口千里さんらが出演。世代も国境もジャンルも超えた「東京JAZZ」ならではのプログラムを楽しんでください。
■東京のジャズスポット、女性1人でも気軽に
東京には会社帰りや休日にライブを楽しめるお薦めのジャズスポットもいろいろあります。誰もが一度は訪れてみたいと思うのが、青山にある名門ジャズクラブ「ブルーノート東京」でしょう。ニューヨークの老舗ジャズクラブの姉妹店で、世界の一流アーティストが来日し、豪華なライブを披露しています。高級感のある会場ですが、アーティストが客席の後ろから登場したり、ステージも客席に近かったりと、ライブ中はアットホームな雰囲気も漂います。運が良ければ、退場時に握手ができることも。料理もカジュアルなものから、ゴージャスなフレンチまで予算に合わせて選べます。服装は基本的に自由ですが、平日は仕事帰りのスーツ姿の人も多く、ラフ過ぎると浮いてしまうかも。せっかくのライブですから、ちょっとおしゃれをしてテンションを上げるのもいいですね。
1975年に商店街の一角に誕生した「吉祥寺サムタイム」(東京都武蔵野市)は、昭和にタイムスリップしたようなレトロな雰囲気。レンガ造りの味わいのある地下の空間で、客席は中央にあるステージを囲むようなスタイル。満席時には目の前でミュージシャンが演奏することもしばしば。至近距離で360度どの場所でも見られて、自分もステージにいるような感覚に。勢いのある若手から大御所や海外のミュージシャンまで、様々なセッションが楽しめます。
「JZ Brat」は渋谷駅に近いセルリアンタワー東急ホテルの2階と立地もよく、会社帰りに立ち寄る人の姿も多く見られます。日本のミュージシャンを中心に、ジャズやフュージョン、ラテンなど幅広いジャンルの演奏が聴け、おしゃれな雰囲気。出演するミュージシャンにちなんだオリジナルカクテルもあるので、お酒を楽しみながら音楽に酔いしれるのもいいですね。このほか大塚にある「All in Fun」(豊島区)やフランスのインディレーベルSARAVAHの日本拠点「サラヴァ東京」(渋谷区)も、食事も楽しめるライブスポット。どちらも白い壁に囲まれたヨーロッパ調の内装で女性1人でも気軽に入れ、落ち着ける感じ。音楽以外のプログラムもあるので、スケジュールを確認してから予約を入れてください。
ライブでは曲中に客席で起こる「イエー」といった掛け声や「拍手」はどこですればいいのか、という質問をよく受けます。グッドタイミングなのは、ミュージシャンのソロ演奏が終わった時。良い演奏に対しては声援を送ると、演奏者のモチベーションも上がります。「ちょっと恥ずかしい」という方は、周りと一緒に大きな拍手をするところから始めてみては。
◇ ◇ ◇
ライブで聴きたいアーティストのアルバム ジャズの醍醐味はやはりライブ。アドリブ(即興演奏)と演奏者のバトルを間近で楽しんでください。とはいえ、引退したアーティストのライブには行けませんし、実際になかなかライブには行けないという方も多いでしょう。そんな方には生演奏の熱気を感じられるライブ盤がお薦めです。今回は私が実際に観て印象的だったアーティストのアルバムを紹介します。
■上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト「ALIVE」
たとえそれが日本人にとって未開の地であっても自分を信じて切り拓いていく。そんな強さを感じるのが、「東京JAZZ」にも出演する上原ひろみさん。バークリー音楽院を首席で卒業し、2011年には参加アルバムが米グラミー賞を受賞。米国だけでなくフランスやイタリア、スイスなどをツアーで回る、まさに世界をまたにかけての活躍ぶりです。以前インタビューをした際、休憩中もずっとピアノを弾いていた姿が印象的でした。ピアノがそばにあると、弾きたくてたまらなくなるそうです。そんな情熱と躍動感あふれる演奏は聴き手を熱くしてくれます。
03年に世界デビューしてから、チック・コリアや矢野顕子さんら有名アーティストと共演し、数々の名盤を残していますが、今年リリースしたアルバムは「生きる」をテーマにした「ALIVE」。「生きることは進むこと」という彼女の根底にある前向きな姿勢を素直に表した作品です。腰を上げて前に乗り出しながら弾くスタイルが目に浮かぶ、バーンと強く鍵盤を鳴らした勢いのあるオープニング。世界トップクラスのアーティスト達と奏でる、流ちょうかつ激しいピアノトリオの演奏に刺激され、気持ちがどんどん熱くなっていきます。激しいだけではなく、女性らしい優しいグルーヴで包み込む曲もあり、元気のない時にこのアルバムを聴くと、背中を押されるような強い気持ちに。頑張っている女性たちにエールを贈る作品にも思えます。
■イリアーヌ・イリアス「アイ・ソート・アバウト・ユー」
ピアノの前に座るといきなりハイヒールを脱いで、裸足で演奏を始める女性ピアニスト。初めてライブで見た時は裸足に驚き、その色気のある演奏スタイルには同性でもドキドキ。エレガントな容姿にもかかわらず、気取らずに自由自在に弾く姿に心を奪われました。テクニックが常に評価されますが、柔らかい音色と流れるような息の長いフレーズで、歌い上げるようなピアノも彼女の特徴。シンガーでもあり、ハスキーボイスで、けだるくささやくような歌もまたセクシー。
アルバムは20枚を超え、方向性もさまざま。ジャズピアニストとしての彼女を満喫するなら、ピアノトリオでジャズスタンダードを演奏している2013年リリースの「アイ・ソート・アバウト・ユー」がお薦め。伝説のジャズトランペッターでボーカリストのチェット・ベイカーゆかりの曲をカバー。そもそもベイカーはボサノバ誕生に影響を与えたといわれ、ブラジル出身のイリアーヌには宝のような存在。また、アルバム「エヴリシング・アイ・ラヴ」は2つのピアノトリオからなる作品で、ミュージシャンが替わる事で変化するイリアーヌの演奏アプローチが聴きどころ。どちらもメンバーとアイコンタクトをしながら、裸足で演奏するカッコいいイリアーヌの姿が浮かび、臨場感が味わえます。
■トゥーツ・シールマンス「ヨーロピアン・カルテット・ライブ」
ある時は雨の滴のように、ある時は雲間から射す光のように、表情豊かに味のある演奏を聴かせてくれるベルギー出身のハーモニカ奏者、トゥーツ・シールマンス。口笛を吹き、ギターも演奏する。1940年代から音楽活動を開始し、50年代にはスイングジャズの旗手、ベニー・グッドマンのツアーにも参加。その後もロックやソウル、ポップス系アーティストとの共演や、口笛とギターのユニゾンを1人でこなし1曲を仕上げるなど、新しいことに挑戦。日本のCMにも出演し「ハーモニカおじさん」の愛称で親しまれたことも。しかし92歳を前にした今年3月、高齢を理由に急きょ全ツアーをキャンセルし、引退されました。
もうライブが観られないのは残念ですが、ライブを収録したアルバムなら楽しめます。紹介するアルバムは、ヨーロッパの人気ピアニスト、カレル・ボエリー率いるヨーロピアン・ジャズ・トリオをバックに演奏したライブです。80代の数々のライブの中からベストテイクを収録したもので、ヨーロッパの深い森をイメージさせるバラード曲は、少しかすれたトゥーツの渋い音色が感動を呼びます。何度も彼のライブを観てきましたが、89歳で来日した際もMCでは笑いが絶えず、演奏中も年齢を感じさせないアグレッシブさに驚きました。そんなトゥーツのエネルギーがこのアルバムから伝わってきます。
▼ここで聴けます
●金沢ジャズストリート2014(9月13~15日 http://www.kanazawa-jazzstreet.jp/)
●阿佐谷ジャズストリート2014(10月24日・25日 http://www.asagayajazzst.com/)
●第13回東京JAZZ(9月5~7日 http://www.tokyo-jazz.com/)
▼島田奈央子おすすめ、東京のジャズスポット
●ブルーノート東京(港区) http://www.bluenote.co.jp/jp/
●吉祥寺サムタイム(武蔵野市) http://www.sometime.co.jp/sometime/
●JZ Brat Sound of Tokyo(渋谷区) http://www.jzbrat.com/
●All in Fun(豊島区) http://allinfun.jp/
●サラヴァ東京(渋谷区) http://l-amusee.com/saravah/
島田奈央子(しまだ・なおこ) 音楽ライターとしてジャズを中心に執筆。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの楽しみ方を提案。著書に「Something Jazzy 女子JAZZスタイルブック」など。数多くのジャズのコンピCDやハワイアンのコンピCDなどの監修に携わり、音楽制作のプロデューサーとしても活動。
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