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真鍋大度氏が中高生向けプログラミング教室を開いたら、技術は「人と人をつなぐ魔法」になった

2014/08/27公開

 

小学生と思われる女の子と、その父親の会話が、隣の席から聞こえてきた。

「お父さん、あれ何やってるの?」
「ああやっておまじないを書くと、スクリーンの中のものが動き出すんだよ」

これは8月24日、Apple Store銀座内のワークショップスペースで行われた《中高生のためのブログラミング「音楽とアート」:真鍋大度》での出来事だ。

真鍋大度氏(写真はオフィシャルHPより。photo by Kazuaki Seki)

真鍋氏は、デザイン/アート/エンジニアリングの三位一体で各種クリエイティブを企画・提供しているライゾマティクスの一員で、プログラミングをベースに広告プロモーションやインタラクティブアートなど幅広い分野で作品作りを行っている人物だ。

Perfumeのステージ演出を手掛けるクリエイターとして、その名を知っている人も多いだろう。

カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで受賞経験もある世界的なメディアアーティストである同氏が、中高生向けに“おまじない=プログラミング”を教えるという豪華なワークショップに詰めかけたのは、約100名の学生や親子連れ。

1時間という限られた時間でどんな授業を展開するのか、参加者皆が注目する中、真鍋氏は自身の作品を紹介しながら淡々とその「仕組み」を紹介していった。

技術とアイデアをつなぐのが、プログラムの魅力

「入力→処理→出力。プログラムの基本はすべてこれ。僕が今まで作ってきたいろんな作品も、全部この仕組みでできています」

最初にこう切り出した真鍋氏は、自身でもよく使っているというグラフィカルな統合開発環境であるMax/MSP(※バージョン5以降は『Max』と呼ばれる)の画面を壇上でいじりながら、いくつかの作品を例に「プログラムができること」を説明していった。

印象的だったのは、プログラミングのやり方を教えるというより、アウトプットした作品の裏側を説明していくというアプローチだ。

例えば、アメリカのビートメイカーFaltyDLのミュージックビデオとして制作した『Straight & Arrow』(以下動画)では、音楽信号を「入力」にすることで人の筋肉に微弱な電気刺激を与え、動かすというプログラムを作った話を披露。

動画を見せながら、「こういった技術的なアイデアはいつでも頭の中にあって、依頼が来た仕事に合うものを実装している」、「プログラミングがいいのは、知識さえあればその場でいろんな形のコラボレーションを実現できること」と補足していた。

他に紹介していたのは、あらゆる角度で自由自在に曲がるランニングシューズ『NIKE FREE RUN+』の広告プロモーションの一環で作成した『NIKE MUSIC SHOE』(以下動画)などだ。

これは、XYZ軸3方向の加速度を1デバイスで測定する3軸加速度センサを独自に調整し、シューズが曲がると音が鳴るようにプログラムしたものを、ブレイクビーツユニットHIFANAが“楽器”として演奏するという作品。既存の技術でランニングシューズの押し曲げを「入力」に変え、プログラムによる「処理」を行うことで、音楽という表現方法で「出力」する仕組みになっている。

「このように、技術とアイデアをつなぐのも、プログラミングの魅力なんです」

Perfumeのライブ演出に見る「プログラミングの価値」

さまざまな作品の裏側=プログラムを紹介しながら、ワークショップは進んでいった

なぜ、真鍋氏はこの日、「プログラミング教室」と銘打たれたワークショップにもかかわらずプログラムのやり方そのものを詳しく教えなかったのか。本人に後日メールで質問したところ、次のような返事が返ってきた。

今回の教室を受け持つにあたり、
いくつか中高生向けのプログラミングワークショップを
拝見する機会があったのですが、
僕が見学したものの多くが技術や手法にフォーカスしていて、アイデアや考え方、
プログラミングが持つ可能性を扱うものが少ないと感じていました。

参加している学生にインタビューをしても、
プログラミングを使って作りたいモノが出て来ない方がほとんどでした。

実際の現場ではアイデアドリブンで進むプロジェクトも多く、
必要になってプログラミング言語を必死に学ぶ、ということも多いものです。

技術を知っているからこそ、いろんな提案ができる面もあるため、
技術の習得も重要なのですが、一方でアイデアを生み出すための方法を学んだり
トレンドや歴史を学ぶことも重要かと考えています。

ならば僕のプログラミング教室では、
「プログラミングができるとこんなことができるよ」
「新しい表現を生み出せる可能性があるよ」
「新しい形のコラボレーション、作品制作の形があるよ」
ということを提示するのも意味があるかなと思い、
今回のような構成にしてみました。

この狙い通り、ワークショップの後半では、参加者をプログラミングの持つ可能性に惹き込むことが2つ展開された。

1つは、昨年のクリスマス12月25日に東京ドームで行われた《Perfume 4th Tour in DOME 「LEVEL3」》で採用した演出の裏話だ。

この日、入場口付近に設けた「3Dスキャンブース」で来場者約1万人分の3Dスキャンを撮影していたのだが、真鍋氏ら演出チームはそのデータをさっそくライブのオープニングムービーに取り込んで会場を沸かせたのだ。

※オフィシャルに紹介できるYouTube動画はないが、『Perfume Official global website』の右下にあるコンテンツページ『Dome Tour Emulator』にアクセスすると、この時の3D演出を追体験できるようになっている(2014年8月現在)。興味がある人は見てみてほしい。

Perfume 4th Tour in DOME 「LEVEL3」での3D演出の様子

スキャンデータが集まってからオープニングムービーに採用するまでの時間は、たった1~2時間だったとのこと。「しんどい作業でしたが、プログラムが書けさえすれば、アイデア次第でこんな風にアーティストとファンをつなげるインタラクションも実現できるんです」と真鍋氏は語った。

そしてもう1つ、参加者を驚かせたのが、このワークショップのためだけに真鍋氏とライゾマティクスの開発チームが作ったという会場参加型のゲームだ。

これは、iPhoneから秘密のURLにアクセスすると、参加者のタップやスワイプによって線や円をインタラクティブに表示し、皆で音を出したりする仕組み。真鍋氏がPCを操作すると、参加者が手に持つiPhoneの画面の色を変えることも可能で、「1台のPCがあれば何人もの人とデバイスを通じて双方向につながることもできるのがプログラムの面白さ」と説明していた。

まさに「新しい形のコラボレーション」を学生に体感してもらうことで、プログラミングの魅力を伝えた瞬間だった。

ワークショップ当日に参加者がプレイしたゲームの画面

最後に行われた学生や親からの質疑応答では、

「プログラミングは応用の世界なので、数学は勉強しておいた方がいい」

「何から始めるのが良いというのはない。僕は小学生のころからゲームが死ぬほど好きで自作のプログラムを書いていたけど、親に習わされたピアノは死ぬほど嫌いだったので中学で辞めさせてもらった。とにかく好きなことを見つけるのが大事」

などと話していた真鍋氏。終了後にもらったメールには

自分自身、まだ中高生に対して教える機会はほとんどなく
今回のような試みがベストな形だったか分かりません。

今後こういったレクチャーやワークショップを通じて
プログラミングを用いた表現の素晴らしさを伝える機会が
増えるといいなと思っています。

と締めの文章が綴ってあった。この日のプログラミング教室の模様は、後日動画でApple Store銀座のホームページにアップされるとのことなので、ぜひ見てみては?

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)


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