残業で遅いのか、もしくは男に手玉に取られているのか、異国の人間に車で連れ去られたか。

重たい恋の感情だけに囚われて、もう何も出来やしない

きっとメールは返ってくるんだろうけれど、新着メールを５分に一度連打してしまう。
『フラれる　可能性』『メール遅い』『純粋そうな女　男遊び』『恋　成功率』『恋　疲れる』
こう言ったワードをグーグル検索窓に入力して、永遠にネット世界を彷徨う子羊と化す。
ヤフーリアルタイムで、『ナンパ』などと打ち込んでつぶやきを調べる。
『ナンパ男うざすぎ』と言ったつぶやきがあった場合は、傷が深まってしまう。
「もしかしたら連れ出されているんじゃないだろうか？　声掛け慣れしているナンパ師の手練手管に魅了されてお茶しているのかもしれない」と、マイナス思考が止まらなくなる。
だから僕はブログ記事なんて書いていられない。どうでも良くなってしまうんだ。
タイピングするよりも、シミュレーションをしなくちゃいけない。
包丁で刺されて、痛くて転げ回る映像。
顔をヤスリで削られて、二度と外に出られない顔になる映像。
爪を剥がされて、レモンの絞り汁を塗りたくられる映像。
痛めつけられている自分をあたかも現実にいるかの様に鮮明に想像して、最悪の事態が訪れた場合のダメージを少なくしようとする。
返信がない。それは重大な脅威だ。心に毒が注入されて、気づいた時には感情も表情もない人生が始まっている。

１０代２０代前半にフラれ続けた事が走馬燈のように思い出される

命を削り、寒気を感じるほどに抱いた想いを受け取らない彼女達。
「さよなら」
四文字で人を遠ざける。ゴキブリを退治するよりも気楽に僕を視界から消しさってしまう。
「私に気がありそうだから先に言っておくね。無理だよ？」
粉のように降る雪を浴びながら、冷気を倍増させるセリフを何度聞いた事か。
わずかながらの可能性に掛けて、札幌で購入したティファニーのネックレス。
手渡した８０分後に着信拒否される物語。
僕は、そうしたバットエンドと共存して生きて来た。
主演：ピピピピピ
拒否する女子：あやね、えみ、かなえ、きょうこ、さえこ、まき、みかほ、もなか、りお、その他……

僕をメンヘルにするエンドロールが流れた後、真っ暗になる世界

暗闇だ。今日も明日も明後日も。返信がない世界なんて、ブレーカーの落ちた街に等しい。

僕の闇には、ライターも携帯もない。あるのは皮肉だけだ。
好きになる程に遠くなり、愛する程に消滅する。
しみったれた日常に光が差したと勘違いしているだけで、現実は真っ暗闇である。
凄まじい勢いで細胞が爆破している気がする。感情も表情も失われて能面のようになりそうだ。

とうとう。線香の匂いとお坊さんのお経が聞こえて来た

どうして、世の中は人の気分を害する予想外の事態に溢れているのだろうか。
恋愛と言うよりも人生は辛い。鬱陶しい。汚らわしい。
現在時刻２２時４９分。１９時１２分に送信したメールに返信なし。
日曜日にデートの約束はしてあるけれど、どうやって断ろうかと思案の最中かもしれない。
「くたばれ」って事を暗に伝えて来ているのだろうか。
観測史上最大の精神不良だ。庭で鳴いているコオロギを思い浮かべながらティッシュを丸めて遊ぶ。それで精一杯。
負けまいとする根性は持ち合わせていないから、神頼みの様な他力本願をするしかない。
大規模なメンヘルが遅い掛かって来て、何も思い浮かばないし、言葉は牢屋に閉じ込められていて、書き込めない。
手も固まった粘土の様に思えて来たから、まともにキーボードを叩けなくて、誤字脱字だらけになってしまう。
悲惨な風が吹き始める。隙間から悪意が覗く。光の粒に混じって悲劇が降りて来る。

大好きな子が出来るなんて、人生においてそうそうないし、フラれる事もそうそうないものだ。

１万回も大好きにならないし、１万回もフラれる事なんてない

確率論的に言えば、人を大好きになる可能性と、人にフラれる可能性ってのは、異常に高い値にはならないはずだ。
それなのにどうして。
どうしてメールは返ってこないのか。
何故イジワルするのか。何故涙を流さなくちゃいけなくなるのか。何故大好きなのに更に大好きになれる幸運は未だに訪れないのか。
何故何故尽くしの、鬱屈した底辺で舌なめずりをして、高い空にある光る星を見て、届かない不幸に嘆くしかない。
もう全てが霞んで見える。
流れ星に願い事なんて託さなくて良い。落っこちる星の背中に乗っかって地面に激突して昇天したいんだ。

線香の匂いとお坊さんのお経が聞こえて来るよ。