<原発自殺訴訟>「少しは浮かばれる」夫、判決に涙
毎日新聞 8月26日(火)22時22分配信
2011年7月、妻は一時的に立ち寄った福島県川俣町の自宅庭先でガソリンをかぶって自らに火を付けた。福島第1原発事故による避難中に起きた悲劇。福島地裁は26日、事故との因果関係を明確に認めた。「悩み、苦しんできた家族もこれで少しは浮かばれる」。法廷で判決を聞いた夫の渡辺幹夫さん(64)は、流れる涙をハンカチでぬぐった。【喜浦遊、深津誠】
【初の司法判断】東電の賠償責任を認める「自殺と原発事故との間には因果関係がある」
「女房は山木屋と、何よりこのうちが好きだった。死ぬ場所はここしかないと思ったんじゃないかな」
同町山木屋地区の居住制限区域に建つ木造2階建ての自宅居間で、渡辺さんは言った。自分たちで間取りから考えた築14年の家は、妻はま子さんの自慢だった。
はま子さんは11年7月1日朝、この家の庭に自生する柳の下で自殺した。同地区は計画的避難区域に指定され、自殺の半月前、福島市のアパートに避難。夫婦で勤めていた同町の農場が閉鎖したため、職も失っていた。
知人も仕事もない生活。はま子さんは「自分が田舎者で服が変だからみんながじろじろ見る」と外出を避けるようになった。食欲が落ち、体重は約2週間で5キロ減った。「山木屋に帰りたい」と言っては泣いた。6月30日、認められていなかった1泊の帰宅を提案したのは、妻を励ますためだった。
帰宅途中、服装を気にしていた妻のため、衣料品店に寄った。「一緒に選んで」と頼まれたが、女物のコーナーに入るのが恥ずかしくて「自分で選べ」と車に戻った。妻の死後、車内の袋の中から同じ型で色違いのワンピース6枚を見つけた。「選べなかったんだな……」。一緒にいてやればと悔やんだ。
「ただの自殺者で終わりたくない。東電の責任を明らかにしたい」と選んだ裁判は2年以上に及んだ。自殺を忘れたいと思うこともあった。法廷に出向くたび、取材のたび、発生当時に引き戻されるのもつらかった。
気持ちを鼓舞してくれたのは、おばあちゃん子だった孫娘(15)が昨秋、はま子さんの死について学校の弁論大会で語った言葉だ。「ただの悲しみではなく、大震災の恐ろしさを身をもって教えてくれたと思うことにした。よりよい未来はつらさや悲しみを踏み台にして生まれるもの」。しっかりしろ、と言われた気がした。
判決後に記者会見した渡辺さんは「はま子に、裁判やってよかった、ゆっくり休んでくれよと伝えたい」と語った。東電に対しては「判決を真摯(しんし)に受け止め、謝罪をしてほしい」と述べた。
自宅付近は除染が進むが帰還時期は不明。地域コミュニティーが再生しないと、生活するのは困難と感じる。「山木屋がどうなっていくか見届けないと」。避難指示が解除されれば、妻と過ごした家から再スタートするつもりだ。
最終更新:8月27日(水)0時16分
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