現時点で放射線の影響はみられない―。
東京電力福島第1原発の事故による健康への影響を調べている福島県が、甲状腺検査の途中経過を公表し、従来通りの見解を示した。
国連放射線影響科学委員会や国際がん研究機関といった専門機関も、事故の影響には否定的だ。半面、長期にわたる継続的な調査の必要性も訴えている。
何より、被ばくした住民の多くが今も健康不安を抱えている。国は福島県を積極的に支援し、甲状腺に限らず、住民が希望する診療を受けられるよう、体制の拡充に努めなければならない。
甲状腺検査は、震災発生時18歳以下だった37万人を対象に2011年10月から続けている。1次検査の結果が出た約30万人のうち、甲状腺がんの「確定」は57人、「疑い」は46人となっている。
10代の甲状腺がんは「100万人に1〜9人」とされた震災前の頻度より割合は高いが、検査の精度が高まったためという。
当初から問題が多かった。甲状腺がんの原因となる放射性ヨウ素の半減期は8日間と短い。検査が始まった時点でほぼ消失していて、被ばく量は推計に頼らざるを得ない状況だった。
検査の順番がなかなか回ってこない、検査結果が書面で通知されるだけで医師から説明を受けられない―。住民の不満は強く、自費で検査や再検査を受けた人たちも少なくない。
国の責任は重い。健康調査は福島県に任せきり。被ばくした人は他県にもいるのに、十分に対応していない。血液や尿など検査項目を増やすよう求める医療関係者の声にも応えてこなかった。
東京五輪招致に当たり、安倍晋三首相は、原発事故による健康被害について「今までも、現在も、将来も問題ないと約束する」と国際社会に言い放った。福島の医療現場からは「被災者と国、自治体との信頼関係の回復が急務」との嘆きさえ聞かれる。
検査はこれからが大切になる。チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんが急増したのは4〜5年後だった。消化器や呼吸器、泌尿器のがん、免疫機能低下や心筋異常などの疾患もみられるという。
低線量被ばくには未解明な点が多い。予断を持たず検査を続け、住民の受診率を高め、病気の予防、早期発見を徹底する必要がある。国が前面に立って体制を強化すべきだ。東電任せにした汚染水問題のように、中途半端に推移を見守るのでは無責任すぎる。