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強くてニューサーガ 作者:阿部正行

第四章

第15話 空中移動

「凄い……空を飛ぶってこんな感じなんだ……」
 リーゼが頬に当たる風を感じながら感動の声をあげる。

「眺めもこんなに綺麗とは……まるで樹の海だな……」
 長い金髪をたなびかせながらウルザも感極まったかのような、うっとりとした声を出す。

 カイル達六人はイルメラの背に乗り天空を飛んでいた。
 遥か下にはどこまでも続くエッドスの密林が続いており、羽を持たない人族では味わうことのできない、壮観としか言えない圧倒的な光景で、特にリーゼとウルザは目を輝かせていた。

 ただ全員にそれほど余裕がある訳でもなかった。

「おい、もうちょっとそっち詰めろよ」
 セランが隣のカイルを押す。

「こっちだって余裕は……馬鹿! 押すな、落ちたらどうするんだ!」
 カイルが押し返す。

「おい、カイル。やはり狭いし眺めが悪いから、お前の上に乗せろ」
「こら登るな! 大体お前は分身を消せば……!」
 シルドニアはカイルによじ登り、肩車の様な格好になる。

『お前達! 背中で暴れるなぁ!』
 やりたい放題、騒ぎたい放題の連中をイルメラが怒鳴りつける。
 いくらイルメラが巨大とは言え、背中に六人も乗っていればギリギリの広さだ。
 それにイルメラ自身も人を乗せるなど初めてなので、かなり神経をつかいつつ飛び続けているのだ。
 なのに背中でこうも騒がれてはたまらない。

「うむよき眺めじゃな……ほれエリナもどうじゃ?」
「あ……ありがとうございます」
 シルドニアはいつも通りリーゼ特製の菓子を食べており、カイルの頭の上からエリナにも勧める。

「えっと……ユーリガもどう?」
「私には構うな」
 リーゼは一番隅にいるユーリガにも勧めるが一刀両断される。

『私の背で飲み食いするなあ!!』
 こうして多少トラブルはありつつも、数日かかった距離を文字通りあっという間の時間で到着した。



 イルメラは指示通り、パセラネとロアスに出会った湖岸に降り立った。
 いきなりダークエルフの集落に行ってはそれこそ戦闘になりかねないので、まずはパセラネから会おうと言うのがエリナの提案だった。

「ここら辺はパセラネさんが見回っているはずです。こちらから踏みいったので必ず向こうから接触してきます」
「この間のパセラネか……話が通じると良いんだがな」
 カイルは密猟者への怒りに燃えていたパセラネを思い出す。

「パセラネさんが一番話が通じます。他の人だとしたら……交渉は大変だと思います」
「あれでか……まあイルメラがいてくれれば、ドラゴンが関係しているというのは一発で解ると思うが」
『……私はその交渉とやらに口を挟むつもりは無いぞ』
 イルメラが自分の役目は監視で、それ以上するつもりは無いと不機嫌そうに言う。

「いや、後ろにいてくれるだけでいい」
 それだけで充分以上の説得材料になる。

「問題は引き受けてくれても向こうがどんな条件を出してくるかだよな」
「はい、当然ですけどただで引き受けてはくれ無いでしょう」
 エリナが答え、カイルは考え込む。

「金で済めばいっそ楽なんだがな……そうもいかないか?」
「ダークエルフはお金なんて使いませんから……妥当なのは、密猟者の退治を手伝うと言うところかと」
 パセラネが執念を燃やしていた密猟者、おそらく今ダークエルフ達が一番困っている事だろうから、これを条件に出せば協力してくれるかもしれない。

「ところでカイル、実際にグルードと会ったらどうするんだ?」
 ウルザが根本的な質問をする。

「……まずは話し合いだろうな、こっちがゼウルスからの依頼だと知れば無視は出来ないはずだ」
 相手は理性的な存在だ、話し合えるならその方がいい。
 力づくで、という選択肢もないではないがドラゴンを相手には無茶以外のなにものでもない。

「うむ、こっちが仕掛けない限りいきなり戦闘ということは無かろう……そこら辺はゼウルスも徹底しておるのだろう?」
『無論だ、そんな野蛮な真似はしない』
 シルドニアの質問にイルメラは当然だと返事をする。
 一応カイルはユーリガを見るが、口出しする様子は無いのでまずは話し合い、これが基本方針となった。

「家出少年を連れ戻す説得か、何を話したものか……グルードはどういう性格だ?」
 イルメラに尋ねると、しばらく考え少し言いにくそうに答えた。

『……少々浅慮なところがあり、直情的なところもあるな』
「要するに考え無しの、短気って事か、挑発に乗りやすいならやりようもあるな……後噂でドラゴンの近くに人影のようなものがいたと言うのがあるけど、心当たりはあるか?」
『人影? グルードが人族と一緒に行動していたと言うのか? そんなことは考えられん』
 イルメラはきっぱりと否定する。

「そういう目撃情報があるだけで、確実と言うわけではないんだ……もう一つ確認するけどグルードが世界樹からでていったのは半年前なんだよな?」
『そうだ』
「で、ドラゴンの目撃情報が目立ちはじめたのは一月前からか……このずれは一体……」
 カイルが考えこむが、はっと何かに気付いたように周りを見回す。

「……血の匂いがするな」
 カイルが走りだし、それにセラン達が続く。
 駆けつけたその先にいた血の臭いの元は、瀕死のユニコーン、ロアスだった。



 ロアスは息も耐えだけといった様子で大木の根元に横たわっており、あちこちを切り傷や刺し傷、矢も突き刺さったままと言う凄惨な姿でその真っ白な身体を血に染めている。

「ロアス!」
 エリナが駆け寄ると同時に、急いで血止めなどの応急処置を始める。

「おお、乙女か……お迎えが君とは……最期に君と会えるなんて我が生にも意義はあったと言うことか……」
 瀕死な状態だというのに、ロアスは相変わらずだった。

「喋らないで! 傷は深いけど何とか命は助かるわ!」
 リーゼも携帯している回復の魔法薬を取り出して、ロアスに使い治療をはじめ、少しずつだが傷もふさがりだした。

「本当に助かった、乙女達よ……我の癒しの力だけでは命を保つだけで精いっぱいだった」
 少しずつ余裕が出てきたのかロアスは周りに目をやると、まず後ろの方に控えていたユーリガに目が止まる。

「そこにいるのは……魔族の乙女か!? いやはや直接見るのは初めてだが……なるほど、魔族と言えど乙女は変わらないのであるな」
 しみじみと感慨深げなロアスに、女ならなんでもいいのかこいつ、とカイルが呆れた目で見る。

「魔族領にもユニコーンはいるぞ……これと大差ない」
 ユーリガも冷めた目でロアスを見る。

「どうしようもないなユニコーンってやつは……女なら本当に見境無いんだな」
「何を言う、流石にそこのドラゴンに対しては……って何故ドラゴンがここに!?」
 大きすぎる為にかえって目に入らなかったイルメラには、流石に驚きの声をあげる。

「え? イルメラって女性だったの?」
 だがリーゼが別の驚きの声を上げる。

『見れば解るだろう』
 何を言っているんだという声のイルメラ。

「いや解りにくいよ……あ、イルメラも乙女なんだ……」
『私はまだ六百才だ! 子供を産むのもまだまだ先の話だ!!』
 無礼な、とイルメラが憤慨する。

 セランはセランでユーリガも乙女と解ったので突っ込もうかなとも思ったが、流石に本当に命がけになりそうなので自重する。

「とにかくだ詳しい話を聞かせてくれ……パセラネが今どうなっているかもだ」
 話が脱線し始めたので、カイルからその名が出た途端、エリナも共にいるはずのパセラネがいないことに気付く。

「そうよ! パセラネさんはどうしてるの!? まさか……」
 エリナが最悪の事態を予想して青ざめる。

「何が起こったかは大体想像がつく……密猟者に返り討ちにあったな?」
 カイルの言葉にロアスは苦痛に顔を歪めながらも頷き、説明をはじめた。



 カイル達と別れたあの後も、ロアスとパセラネは密猟者達を追い続け、遂に奴らの拠点を見つけた。
 足取りは非常に巧妙に隠されていたのだが、僅かに残された痕跡から追い詰めたのはパセラネの執念と言ってもよかった。
 本来ならば仲間を呼ぶなりするのだが、どうやら撤退の準備をしているようでこのままでは逃げられるかもしれない。

 数も十人程度で、奇襲さえすれば何とかなる……そう判断したのだがそれが間違いだった。
 全ては執念深いダークエルフと、ユニコーンを捕えるための罠だったのだ。

 奇襲に最適な位置へと移動したパセラネとロアスだったが、草を編み込んだ迷彩服に、動物の糞と思しきものを身体中に塗りたくり臭いを消した伏兵が数人、完全に音もなく潜んでいたのだ。
 ダークエルフとユニコーンの視覚と臭覚と聴覚を騙しきった一流の狩人のようで、網を投げられ動きを封じられ、後に矢を射かけられるなど連携して攻撃され、負傷したパセラネは遂に落馬した。
 その後もパセラネとロアスは必死に抵抗したが、奇襲するはずが奇襲されたのだ、その時点で勝負はついていた。
 最後の力を振り絞ったロアスが網を破ったが、パセラネを置いて逃げるだけで精一杯だった。



「我はパセラネを見捨てた……無論あの場でどうしようもなかったし助けを呼ぶ為だったのだが……それでも見捨てたことには変わりない」
 ロアスが本当に悔しそうだった。

「いやよくやったと思うぞ。おかげでパセラネが生きている可能性がある」
「ほ、本当か!?」
「本当ですか!?」
 カイルの言葉にロアスだけでなく、エリナも喜びの声をあげる。

「ああ、ロアスが戻ってくる、または仲間を引き連れてくるかもしれないからな。人質として使おうとするはずだ」
 カイルもこれが希望的観測であるのは解っているが、死んでいるより、生きているという前提で行動した方が良いからだ。

「な、ならば……すぐにでも……!」
 ロアスが無理やり立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちる。

「ダメよ、まだ動かないで」
「く……こうしている間にもパセラネが……こんな時に動けないなんて!」
 己の不甲斐なさを嘆くロアス。
 だが崩れ落ちた際、側で座り込んで治療していたリーゼの方にわざわざ倒れ、膝枕の状態になっている。
 この駄馬め、という目でカイルはロアスを睨み付けるが、その時エリナが不思議そうな声を出す。

「……ねえロアス、これは?」
 エリナが聞いたのは、ロアスが崩れ落ちた際に背に括り付けてあったバッグからこぼれ出たこの辺り一帯の地図で、エリナが持っているものとほぼ同じだった。

「ああ、それはパセラネが奴らの動きを調べて、行動を記録していたものだが……どうかしたのか?」
 エリナは自分の地図も取り出し、パセラネの地図と見比べある事に気付いた。

「おかしいんです、密猟を行っている者たちの動きと、事前に調べておいたドラゴンの目撃情報とがまるで……連動しているかのようで」
「なんだって?」
 カイルも地図見比べると、確かに二つは重なり合っていた。まるで密猟者達が、ドラゴンを隠れ蓑にしているかのように。

「……人族やダークエルフ達の目を誤魔化す為にドラゴンを、グルードを利用している?」
 ドラゴンがいるとなれば、自殺志願者でもない限りその付近に近づく者はまずいない。
 逆に言えばドラゴンの動きを知っているなら、ドラゴンが仲間ならこれ以上の潜むのに都合の良いものはない。
 この考えに及ばなかったのは、まさかドラゴンと密漁者が協力関係にあるなど誰も考えなかったからだ。

「た、確かに密漁者を探している時によくドラゴンを見かけて邪魔だとは思っていたが……明確に探索の邪魔をしていたと言う事か?」
 ロアスが信じられないと言う声を上げる。

『待て……ではグルードが人族の、それも密漁者の仲間になっているとでも言いたいのか!』
 イルメラが怒りの声を上げる、返答によっては絶対に許せない侮辱だと。

「無論事情を知って協力しているということは無かろう。単に利用されているか、もしくは……操られている可能性もあるな」
 ドラゴンに詳しいシルドニアが考え込むように言う。

『あ、操るだと!? そんなことが……!』
「難しいが不可能ではあるまい……五百才の若いドラゴンなら意志も比較的弱いだろうしな」
 魔獣や幻獣をその意志に反して操る術や魔法は確かに存在するが、精神を操作するにはその意志の強さによって抵抗される。
 例えば知性や意志の強さなど無い昆虫などは簡単に操る事は出来るが、ドラゴンのような生物の頂点に立つ存在を操るなど、普通に考えれば不可能なはず。
 だがそれ以外にドラゴンが密猟などに協力する理由など見当たらない。

『くっ……これだから人族は!』
 吐き捨てるように侮蔑の言葉を投げるイルメラ。
 弟のような存在を操られているかもしれないとなれば、その怒りも当然と言えるが、人族全体にその怒りを向けられる訳にもいかなかった。
 シルドニアがその怒りをそらすべく、ある伝承を話し始める。

「ふむ……イルメラよ、邪竜とよばれたビキオルの伝承を知っておるか?」
『……無論知っている、それがどうした』
 突然出された、ドラゴン達の中でも悪名高い邪竜の名に、イルメラは更に不機嫌になる。

 もう何千年も前の話になるが、ゼウルスと同じ古竜で強力な力を持っていたビキオルが野心を持ち全てのドラゴンを力で従え、世界を征服しようとしたのだ。
 神竜ヴァルゼードの掟を守り、自らを律していたドラゴンからすれば、それは乱心したとしか思えない所業で、ゼウルスを初めとする心あるドラゴンや人族も巻き込んだ大きな争いとなった。
 ビキオルは最後には人間の英雄に討たれたのだが、ドラゴンの中では消し去りたい、触れられたくない歴史になっていた。

「ではその邪竜ビキオルを全てのドラゴンの基準として、貶められたらどう思う?」
『ふざけるな! あれはビキオルが! その一頭が犯した罪で、それをまとめてドラゴンを貶めるなど、侮辱にもほどが……』
 そこまで言ってイルメラは言葉に詰まる。
 元々頭は良いのだ、シルドニアが何を言いたいかは直ぐに解った。
 この件で人族全体を貶めるのは同じことだと。

「それに利用されているグルードにも責任が無い訳ではない……己を戒めるための掟を破った報いかもしれないな」
『……ふん!』
 シルドニアに指摘され、反論できないイルメラは不貞腐れた様にそっぽを向いた。

「まあ、詳しい事は密漁者どもを締め上げれば解ることだ……奴らはどこにいる?」
「助けてくれるのか……男にこんな事を言うのは抵抗はあるが、ありがとう、そしてパセラネを頼む」
 ロアスは素直に頭を下げた。口調や態度は軽いが、パセラネに対する想いは本物なのだろう。

「こっちも都合や打算もあってだから気にしないでくれ……後で頼みごとをするかもしれないのでその時はこっちも頼むぞ」
 カイルが軽く笑いながら言った。

第四章十五話です。

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