■日本の伝統? 飲みにケーション文化
2014年8月18日付けの日経電子版に経営者の加藤百合子さんが「飲みにケーション文化にもの申す」というタイトルのブログを書いておられます。ビジネスでお客様に酒席に誘われることが多いが、家事と育児をこなしながら経営をしている身でそこまでのお付き合いのは難しい、お酒が円滑なビジネスに役立つのはわかるのでせめて一次会までというルールを作ったらどうか、という内容です。興味深いのは「その通り」と多くの男性がこのブログにコメントを寄せられていること。長時間の残業に加え、接待にもプライベートの時間を削って参加せざるをえないビジネスマンの苦悩が表れていると思います。
私自身も20代から30代にかけては「飲みにケーション文化」にどっぷり浸かっており、月に最低でも4~5回は仕事関係のお付き合いで夜を過ごし、年末年始ともなればプライベートも含めてほぼ毎日酒席ということも珍しくありませんでした。しかし、結婚してからは極力このようなお付き合いを避けるようになり、またいろいろな方々から誘っていただいたゴルフも結局、始めませんでした。
しかし、現実を見れば私のようなケースは稀で、ビジネス社会では酒席やゴルフの場で商談を行うことは当たり前に行われていますし、そうすると加藤さんが書いておられるように「やはりできるだけお付き合いしたほうがいいのではないか」と焦りが湧いてきます。名経営者の京セラの稲盛さんが社内コミュニケーションを図るための「コンパ」を勧められているのを知り、私自身も社員と飲みニュケーションしなくていいのか、と悩んだこともありました。
■接待禁止が普通の国もある!?
でもちょっと待ってください。いったいこの文化は世界共通なのでしょうか?確かに、日本と同じく中国や韓国ではビジネスに酒席がつきもので、1次会の食事の後、女性が側についてくれるカラオケで深夜まで2次会、3次会と続くのもごく一般的です。しかし、それ以外の国では接待が厳しく制限されていたり、ほとんどないということも多いのです。
数年前に米シリコンバレーで現地のお客様(独身の30代女性)を接待したときは「アルコールありの接待は規則で禁じられているのでNG」と言われ、記念品を渡そうとすると「10ドル以上のプレゼントもNG」と言われたため、結局手土産も渡せず、和食店での食事も1時間あまりで終わってしまいました。彼女はこの後趣味のトライアスロンの練習をするから、と食事が終わるとすぐに帰宅しました。
シンガポールでも似たようなものです。あるお客様と商談中に昼食の時間になりラーメンを食べたところ「割り勘で」と言われて割り勘しました。またある政府系企業のお客様に日本からの数百円の小さい飴の入った袋をお土産にもっていったら「仕入れ業者からのプレゼントはいっさい受け取れないので、どうしてもというのならそこにある社員のおやつ棚に勝手に置いていって」と言われ、横を向かれてしまいました。こんな環境なのでシンガポールでビジネスを始めて3年ほどたちますが、一度もお客様を接待したことがありません。
20年以上にわたりたびたび数千万円単位の機械を購入しているドイツのメーカーさんとは、打ち合わせや商談で互いに何度も訪問し合っていますが、接待されたこともしたこともありません。業務上のやり取り以外は、2年に1度、年末に卓上カレンダーを送ってくれることくらいです。
こうして他の国と比較してみると、酒席の接待が決してビジネスにマストなものでないことがわかります。
■お付き合いより家庭優先でもうまくいく。
思うに、国を挙げて産業を振興する必要がある発展途上国やベンチャー企業では、ビジネスを一緒に行う客や仕入れ先、また同僚たちと酒を酌み交わして連帯感を共有し、本来ならあまり気が合わない者同士でも同じ目的に向かって無理やり進む、という必然性があっのではないでしょうか? そしてそのために飲みにケーションの習慣が発達したのではないでしょうか?逆に経済発展が終わり、集団から個へと重点が移った社会では、飲みにケーション文化の必要性が薄れてくるため、接待を禁止するような規則が作られるのではないかと思います。
さて、お客様と飲みにケーションをほとんどしなくなった私のビジネスは現在どうかというと、食事やゴルフを一緒に楽しまなくても気が合う購買担当者もできますし、メールや電話だけで一度もお目にかかったことのないお客様からの何年も続くリピート注文も珍しくありません。結局、お酒もゴルフも時間があったらお互いたまにはいいですね、という以上のものではないように思います。
若いときは接待でプライベートでは決して行けない高級店に連れていってもらうのが楽しみだったこともありましたが、今ではどんなごちそうより家族と囲む食卓が何よりの贅沢です。飲みにケーションが盛んな多くの会社でも、加藤さんが提案されるように、せめて「一次会だけ」ルールができるくるよう期待しています。
後藤百合子 経営者
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