ブラームスは、最初派手に聞こえる交響曲第1番から入り、その他の交響曲や室内楽を聞いて虜になってしまう人が多いのではないだろうか。 「中年以降の男にとって、ブラームスのある種の音楽は、なくてはならない音楽になってしまう」 朝比奈隆さんも、同じような言葉を、どこかのインタビューで述べておられた。 その通りなのだ! 世に、ブラームスおたくがいっぱいいるに違いない。サガンが「ブラームスはお好き?」てな題名の小説を書いて、その題名が一人歩きして、女性の好きそうな音楽というイメージを持っておられる方がいたとしたら大きな間違いだ。 ブラームスの作品の多くは、徹頭徹尾、男の悲哀を描いた音楽だ。 |
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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音1987 DG/423 141-2(輸) |
第1楽章で印象が決まってしまう非常に怖い曲。ティインパニーがドンドンドンドンと鳴る中で悲劇的な序奏部が始まる。 まったく子供が起きるよ。 そして第4楽章ではベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章の有名な旋律と親近性のある旋律で、人気が高い。そのことからか、ベートーヴェンの交響曲第10番という評価もあるらしいが(当時の大指揮者、ハンス・フォン・ビューローの言葉)、それではベートーヴェンがかわいそうだと思う。 発売されているCDは非常に多いが、小生はあまりよいこの曲の聞き手とは言えない。第2番以降の交響曲のCDは腐るほどあるのに、第1番は案外少ない。そして、あまり聞かない。 ブラームスのこの交響曲にかける気持ちというか、気負いが感じられてしまって、ポピュラーな割にはあまり好きな曲ではないのだ。 演奏の最右翼は、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のものだと言うのは、周知の事実。確かにものすごい迫力で迫ってくる。その他ではどの演奏だろう?ベームを推薦する人もあるだろうし、バーンスタインとウィーン・フィルの演奏もいい。セルは出だしが変だから推薦できないし、フルトヴェングラーもいいが、音が悪い(北ドイツ放送交響楽団とのライヴは一聴の価値あり)。 そこで登場するのがカラヤン。 カラヤンも数種類のこの曲のCDを録音しているが、最後の録音は素晴らしい。ブラームスの交響曲第1番に備えていなければならないすべての要素を、過不足なく聞かせてくれる。 |
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カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団 録音1981(?) DG/400 066-2(輸) |
ジョン・バルビローリ指揮 バイエルン放送交響楽団 録音1970LIVE ORFEO/C 265 921 B(輸) |
小生は、この交響曲はクナッパーツブッシュの数種類の演奏にはまり込んでしまっているので、なかなか他の演奏が聴けない。 牧歌的なブラームスの「田園」と呼ばれている曲だが、交響曲としてのスケールは大きく、けっこうアルプスの田園風景てなリゾート気分で、はまりこんで聞ける音楽。 録音では、とびっきり古風で音の悪い演奏か(味があるんだよね)、逆に新しいピアニッシモがきちんと録音できているCDがいいようだ。クナ以外では、音はそんなに悪くないが、ORFEOのバルビローリのライブ盤か、このジュリーニの旧盤がいいと思う。ジュリーニはウィーンとの親録もいいが。 ジュリーニの旧盤は実は小生が初めて買ったブラームスの第2番で(LPだった)、すぐに気に入ってしまっただけに愛着がある。 |
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ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音1954LIVE DG/423 572-2(輸) |
ウィルヘルム・フルトヴェンブラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音1952LIVE EMI/CC30-3357-60(日)全集盤 最近、音がよくなって再発された |
フルトヴェングラー指揮には、ベルリン・フィルとウィーン・フィルとの何種類かの録音があり、どれもこれも素晴らしい演奏だ。第3楽章のみ有名になっているきらいがあるが、40分程度の短い曲、全曲を聞いた方がよい。 第一楽章は演奏によってはかなり雄大に聞こえる。この第一楽章からブラームスの「英雄」というニックネームを付けられたのは分かるが、曲想はまるで違う。非常に個人の感性をくすぐる音楽で、ブラームスのセンチメンタリズムに溢れている。第3楽章も魅力的だが、むしろ終楽章が面白い。 フルトヴェングラーは、ベートーヴェンよりもブラームスにより親近性があったのではないかと思える。各楽章のアッチェランドも自然に聞こえてくる。小生はクナッパーツブッシュの数種類の演奏が好きだが、この曲に目覚めたのはフルトヴェングラーの演奏だった。その他では、カラヤンのDGへの最初の録音が好きだったが、CDになって音が悪くなってしまった。フルトヴェングラーは元々音が悪いから別に気にならない(笑)。 でも、小生はやはりクナの数種類の録音にはまっちゃってるんだよなあ。 |
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フランチェスコ・ダヴァロス指揮 フィルハーモニア管弦楽団 録音1990 ASV/CRCB-169(日) |
カルロス・クライバー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 録音1980 DG/F35G 50041 |
小生はこの曲が大好きだ。何種類のCDがあるのか分からない。LP時代からすると最初はセルから始まった。以後、ワルター、カラヤン、フルトヴェングラー、カルロス・クライバー、シューリヒトと続き、今よく聞くのは、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュとこのダヴァロス。ダヴァロスの他の録音にはそれほど感心したわけではないが、このブラ4には衝撃に近い感動を受けた。 第1楽章がまったくセンチメンタルではない!むしろ、男性的な攻撃的な音楽になっている。フルトヴェングラーやクナ、クライバーもそうなのだが、ダヴァロスはさらに徹底して攻撃的。聞いていて体が熱くなる。 全曲をバランスよく聴くためには、ワルターやカラヤン、ザンテルリンクの方が適しているかも知れない。でも、ダヴァロスの第1楽章のテンションの高さには思わずうなってしまう。ブラ4はお涙ちょうだいの曲ではないということが、如実に分かる。 カルロス・クライバーは、すでにこの曲を語る上ではずせない録音になりつつある。 その疾走感がたまらない。音が生きて我々に迫ってくる。 それと、この交響曲には、やはりフルトヴェングラーが似合っている。フルヴェンなら何でもいい。音は悪いがご一聴を薦める。特に44年の録音は、音の悪ささえ気にしなければ、凄絶な演奏。 この曲は第1楽章も素晴らしいが、他の楽章も素晴らしい。終楽章は特にいい(なんだ、全部好きなんだ)。 |
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イストヴァン・ボガール指揮 ブダペスト交響楽団 録音1988 NAXOS/8.550110(輸) |
もし、ブラームスの交響曲は好きで、ハンガリアン舞曲集はまだ聞いたことがないという人があれば、もったいない話だ。ここにはブラームスの語法が集約されている。 元々はピアノ連弾のために作曲(編曲?)されたようで、その後、オーケストラ用に編曲された。ブラームス本人のオーケストレーションだけではなく、ドヴォルザークをはじめ、いろいろな人が編曲している。 ジプシー・ヴァイオリンで演奏されたものもあり、一時の音楽の豊饒感に酔うことができる曲集。 国内盤CDの曲集では、土臭い演奏よりも、非常に洗練された演奏のものが多い。カラヤン、ライナー、アバド、マズアなど。 ここでは、お国ものと言えるナクソスの録音。ボガールという指揮者は小生は知らない。ブダペスト交響楽団も知らない。うまいのかそうではないのかもよく分からない。 洗練されたハンガリアン舞曲集もいいが、ナクソスの録音も捨てがたい魅力を持っている。演奏もいい。そして、面白いのはハンガリーにはエトランゼとも言える我々には、このCDを聞いてから、カラヤンを聞くと、カラヤンの演奏の方がそれらしく聞こえてしまうと言うことがある。カラヤンはやっぱりうまかったんだなあと、変なところでも納得できるCD。 上記、どれを買っても満足できると思うが、ライナー、カラヤンは全曲ではなく、選集。このナクソス盤、アバド、マズアは全曲版。 |
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レオポルト・ウラッハ(cl) ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 録音1952 WESTMINSTER/MVCW-19020(日) |
ザビーネ・マイヤー(cl) ウィーン弦楽六重奏団員 録音1990 EMI/TOCE-7302(日) |
甘美な悲痛(なんか変だな)を味合わせてくれる曲。暗い暗いブラームス。第1楽章が暗く、第2、第3楽章で多少救いがあり、第4楽章の終結部でまたまた地の底に引きずり込まれるような音楽。 ブラームスのこの曲ではそこが魅力だともいえる。一度その味をしめるとなかなか抜けられない。 演奏の多いCDでもあるが、最高なのはやはりウラッハ。淡々とした表現が、逆に悲しみを増す。刺激的ではない録音もいい。 よくモーツァルトのクラリネット五重奏曲とカップリングされているので、名曲2曲がいっぺんに手に入ることが多い。 ウラッハの他には、ライスターはもちろん、プリンツや、女流クラリネット奏者、ザビーネ・マイアーなどいい演奏のCDがたくさんある。ザビーネ・マイヤーの演奏は情感に溢れていて特筆に値する。 何もしないで、物思いにふけりながらこの曲を聞くのも、また一興ではなかろうか。 |
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Jenoe Kevehazi(hr) Jenoe jando(P) Ildiko,hegyi(vn) 録音1992 NAXOS/8.550441(輸) |
オーブリー・ブレイン(cl) アドルフ・ブッシュ(vn) ルドルフ・ゼルキン(p) 録音1932 TESTAMENT/SBT 1001(輸) |
クラリネット五重奏曲と並び、これぞブラームスの室内楽と呼べる逸品。非常に渋い曲。第3楽章のスケルツォと第4楽章が元気がいいが、第3楽章の「アダージョ・メスト」ではブラームスのしみじみとした世界が堪能できる。 地味な曲なので、CDリリースはそう多くはないと思う。ナクソス盤は、ピアノのイェネ・ヤンドー以外、全く知らない。ヤンドーもナクソスの一連の録音で知った。 ナクソスの室内楽は、非常に落ち着いて聞くことができる。これは、元々室内楽CDは数が少ない上に、出てもすぐ廃盤になってしまう現状を考えると、聞き手にとっては非常にうれしいことだと思う。 こういう室内楽のCDを聞くことができるのは、クラシックを聞く大きな喜びの一つだ。 ナクソス以外では、テスタメントの復刻シリーズの中の、オーブリー・ブレイン(かの有名なホルン奏者、デニスの親父)、ルドルフ・ゼルキン、アドルフ・ブッシュという、とんでもないメンバーのCDがある。 確かに、音は悪いがこれはファンにとって感涙もののCD。小生は偶然、中古屋で見つけた。そしてこのCDには、レジナルド・ケル(と読むのかな。ご存じの方は教えて下さい)とブッシュ四重奏団によるクラリネット五重奏曲が入っている!あまりに渋くてめまいがしそうだ。 |
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グレン・グールド(p) 録音1960 CBS/SONY/28DC 5268(日) |
渋いピアノ曲集。渋い曲集の割には愛好者が多いからだろうか、CDが案外多い。小生も5種類持っている。LPではケンプのものもあったので、割と多くの演奏者を聞いていると思う。 バックハウスを筆頭に、アファナシエフのものすごくテンポの遅いCD、ルプーの詩情豊かなCD、シャンドス・レーベルのエドゥリナなど個性豊かなCDが多い。 しかし、とどめはグールド。この録音は、数種類の曲集をグールド自身がバラバラに配列している。グールドのCDを聞いて、他の演奏家のCDを聞くと違和感を感じてしまうほど、はまった選曲。 録音は少し硬めだが、演奏が素晴らしい。夜ひとりで静かな音楽を聞いてみたい、ショパンの「夜想曲」が好きだという人には必聴のお薦め。絶対にフェバリッツになります。 |