ウェブ上の健康食品情報ページの信頼性・信憑性について調査した論文の紹介
CiNiiで色々検索していてみかけた論文がとても興味深かったので紹介。
川添禎浩、筒井絢子、岸本桂子、福島紀子「Web サイトの健康食品情報の信頼性・信憑性について」(2013)ではyahooとgoogleで「健康食品」「健康食品+生活習慣病」「健康食品+脂質異常症」のキーワードで検索した結果上位表示されたウェブサイト(ブログ,日記,PDF,ニュース,新聞記事のみ
で構成されているサイトは除く)の信頼性を評価している。結論から言うとその結果ほとんどのサイトが信頼するに値しないものだった。
要約部分の引用。
『近年,健康志向の高まりとともに,健康食品が市販または輸入されている。健康食品を利用するための情報源としては,インターネットのwebサイトがある。しかし,インターネットの情報量は膨大で,その真偽の判断に迷う。そこで本研究では,webサイトの健康食品の情報について,信頼性・信憑性の検討を行うこととした。キーワードを「健康食品」,「健康食品」と「生活習慣病」,「健康食品」と「脂質異常症」の 3 種類とし,Googleによって検索した。検出された上位100サイトより,検索キーワードに関する情報が記載されたwebサイトを抽出した。Webサイトの情報を吟味する際に共通する評価基準項目(テクニカル評価)および健康食品情報の信頼性保持に必要な記載事項(健康食品評価)により,情報の信頼性評価を行った。テクニカル評価はそれなりに高い値を示すサイトが存在したが,健康食品評価は低いものが多く,かなり信頼性・信憑性が低かった。すなわち,webサイトとしての形式的な情報の信頼性を指標にした情報収集では,科学的根拠を伴わないことになると考えられた。また,健康食品の販売を伴うサイトも多く,消費者にとっては不完全な情報を基にした健康食品の利用につながる可能性が示唆された。さらに,検索順位とテクニカル評価間,検索順位と健康食品評価間には,それぞれ相関はみられず,検索順位はサイトの信頼性を吟味する手段として利用できないと考えられた。』
評価基準とされたテクニカル評価と健康食品評価の項目は以下のとおり。
テクニカル評価
1 Webサイト運営者の明記(1点:運営者の名称と連絡先の明記,0.5点:運営者の名称のみ記載,0点:記載なし)
2 Webサイトの更新性(1点:webサイトを3 ヶ月以内に更新,0.5点:6 ヶ月以内に更新,0点:それ以外)
3 情報の日付の明記(1点:すべての情報に公開日または更新日を記載,0.5点:一部の情報に記載,0点:記載なし)
4 情報に対する問い合わせ(1点:e-mail又はtel,faxの問い合わせ先の明記,0.5点:住所のみ記載,0点:記載なし)
5 情報に関する責任者の明記(1点:情報を記載した者の氏名,資格や職業の明記,0.5点:氏名のみ記載,0点:記載なし)
6 情報源の記載の有無(1点:情報の参考資料,引用元の明記,0.5点:一部の情報に記載,0点:記載なし)
健康食品評価
1 ヒトを対象とした科学論文の引用(1点:論文の有無の明記,0点:記載なし)
2 副作用,健康被害等の情報(1点:情報の有無の明記,0点:記載なし)
3 医療従事者への相談の推奨(1点:記載有り,0点:記載なし)
テクニカル評価については低値から高値まで広く分布しているが、健康食品評価については、『「健康食品」と「生活習慣病」のwebサイ
トに関しては,ほとんどのサイトの健康食品評価が0であり,信頼性そのものが皆無の状況』であったという。
また、同論文の著者らによる別論文『岸本桂子、芳野知栄、福島紀子「がん患者を対象としたwebサイトの健康食品情報についての研究(2009)』でもがん患者を対象とした健康食品情報のウェブサイトの信頼性評価を行っているが、同様に『がん患者の健康食品等の情報に必要な事項の記載に関するがん健康食品評価は0を示すwebサイトが最も多かった』とされている。こちらではその基準として上記のテクニカル評価・健康食品評価とあわせて健康食品評価にさらに
・(独)国立健康・栄養研究所運営『「健康食品」の安全性・友好性情報』webサイトへのリンク
・厚生労働省がん研究助成金『がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究』webサイトへのリンク
が加えられている。
インターネット上の医療情報については『Wikipediaの病気についてのページは、90%が間違い:米医師調べ « WIRED.jp 』という記事(ただし10ページ中9ページに記述の間違いがあったとするものでサンプルは非常に少ない)も以前あったが、玉石混淆というよりは未だ参考にしてはいけないというレベルのようだ。しかし、両論文でも指摘されているように、健康・医療に関する情報源としてインターネットの利用は少なくなく、間違っている、あるいは偏った情報に基づいた行動に結びつく危険性が非常に高いので、検索結果の表示、医療・健康に関する情報のページの内容の信頼性の担保は非常に重要な課題となっている。また、岸本他(2009)論文では信頼性評価の低いサイトが検索上位に出現している要因として各ページが検索エンジン最適化(SEO)対策を行っていることの影響も挙げられている。
川添他(2013)論文でも『消費者に対する医療情報リテラシーの向上を目的とした教育の充実と,サイト運営者に対する質の高い情報の提供が求められる』ことが指摘されているが、ことに人の命、健康に関ることでもあり、評価基準が上記で妥当なのかどうかも含めて医学界・行政はなんらか評価基準を作り、検索エンジンの各事業者はそれに適合しないサイトはひとまず全部検索結果に表示しない、ぐらいのことをやって良いと思う。以前も紹介したが世界的に大きな影響を及ぼしたエイズ否認主義はインターネットのウェブページを通じて情報拡散したことの例もある。
厚生労働省医政局によって「インターネット等による医療情報に関する検討会」というのが2002年に開催されていたようだが、それが法・制度等に進展はしていないままのようだ。同検討会の報告書案によると『インターネットによって提供される医療情報の信頼性を確保するに当たっては、インターネットによる医療情報の位置付けと現状、医療情報を提供していく必要性等を踏まえつつ、医療以外の分野における信頼性を確保するための取組状況等を参考にして、民間団体等による自主的な取組を中心に考えていくことが適切である。』として、
『 インターネットによって患者・国民に提供される医療情報の信頼性を確保するための民間団体等による自主的な取組の具体的な方法については、関係団体又は第三者機関によって、
(1) コンテンツ等において配慮すべきポイントやホームページの運用基準等を示したガイドラインの作成
(2) 医療情報の内容がガイドライン等を遵守していることを認証する仕組み
(3) 医療情報に関する患者や医療機関からの問い合わせに対する回答、患者からの苦情の審査
などが考えられる。
このように、医療情報の信頼性を確保するためには、幾つかの方策が考えられるが、どのような方策が最も適切であるか、また、その方策を実際にどのように進めていくか等については、今後、インターネットによる医療情報の提供の進展等を踏まえて、更に検討していく必要がある。
この具体的方策の検討に当たっては、
(1) この検討会が示した基本的な方向性に沿って、具体的方策の検討自体も民間団体等の自主性にゆだねるのが適当か。また、国において関係者の参画の下に具体的方策の検討の場を設けることが適当か。
(2) 民間団体等による自主的な取組として、例えば、医師会や病院団体等の既存団体によるガイドラインの作成等の取組、NPO等による自主的な取組、信頼性を確保するための第三者機関の設置などが考えられるが、今後、どのような取組を進めていくのが妥当か、
(3) 民間団体等による自主的な取組に対して国や地方公共団体等の公的機関はどのようにかかわるべきか、民間団体等に属さない者(いわゆる「アウトサイダー」)に対して自主的な取組の効果が及ばないという問題にどのように対応するのか、
といった点を中心に、行政と関係者の間で合意形成がなされ、できる限り速やかに具体的な取組が実現されることが必要である。』
「信頼性を確保するための方策」が挙げられているが、十年以上経っても特にこれらが実施されたようには見えない。
インターネット上の情報の多様性を担保することと正確な情報への導線を確保することとは両立できるはずだし、しなければならない。
参考論文・サイト
・川添禎浩、筒井絢子、岸本桂子、福島紀子「Web サイトの健康食品情報の信頼性・信憑性について」(2013)
・岸本桂子、芳野知栄、福島紀子「がん患者を対象としたwebサイトの健康食品情報についての研究(2009)
・消費者庁「健康や栄養に関する表示の制度について – 消費者庁」
・厚生労働省医政局「インターネット等による医療情報に関する検討会(第6回)」
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