「優秀な専門家」が解決できない問題
田坂教授は、新著『知性を磨く 「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社新書)の中で、20世紀において、人類は、個別の分野の「専門の知性」だけで解決できる問題は、次々と解決してきたが、その結果、残されている問題は、この「専門の知性」だけでは解決できない「学際的問題」となっていると指摘されていますね?
田坂:ええ、そう述べています。
そして、その「学際的問題」を解決するために求められるのは、「スーパージェネラリスト」と呼ばれる人材だと述べていますね?
田坂:ええ、それは、かつて「学際的研究」において世界の最先端を歩んでいた米国サンタフェ研究所の前所長、ジョージ・コーワン博士から伺った言葉です。
すなわち、「学際的問題」を解決するためには、個別の「専門の知性」を、その「垣根」を超えて統合する「統合の知性」が必要であり、コーワン博士が「スーパージェネラリスト」と呼んだのは、そうした「統合の知性」を持った人材のことです。
しかし、コーワン博士が言わんとした「スーパージェネラリスト」とは、様々な専門分野を、その境界を超えて水平的に統合する「水平統合の知性」を持った人材のことですが、21世紀において我々が直面する問題を、実際に解決していくためには、もう一つの「統合の知性」を持った「スーパージェネラリスト」が必要です。
それが、前回、田坂教授が述べられた「垂直統合の知性」を持ったスーパージェネラリストですね?
田坂:そうです。この第5回においては、その「垂直統合の知性」を持ったスーパージェネラリストについて述べましょう。
ただ、前回、今回の話を聴くまでに、ぜひ、DVDで観ておいて頂きたい映画があると、お伝えしましたね……(笑)。
ええ、『アポロ13』ですね。1970年に、月面着陸を目指す飛行の途中で事故を起こした「アポロ13号」を題材にした映画、この夏休みに、興味深く観てきました……(笑)。
『アポロ13』が教える垂直統合の知性
田坂:では、「垂直統合の知性」を持ったスーパージェネラリストとは、いかなる人材かを考えるために、この映画のシーンから話を始めましょう。
この映画の主人公の一人は、アポロ13号の船長・ジェームズ・ラベルですが、もう一人の主人公は、当時、NASAの主席飛行管制官を務めていたジーン・クランツですね。
このジーン・クランツは、このアポロ13号の事故において、どう処したか?
この事故は、月に向かって飛ぶアポロ13号が、突然、酸素タンクの爆発事故を起こし、深刻な電力と水の不足という絶望的な状況に陥ったもの。しかし、この前代未聞の事故に遭遇し、NASAの専門家達は、誰もが、どうすればよいか途方に暮れる状況でした。
この専門家達は、誰もが、全米でも選り抜かれたスペシャリストの集団です。その専門知識においても一流、頭の回転は速く、論理思考も鋭い。また、弁も立ち、議論も説得力がある。
しかし、この専門家達の誰もが、前代未聞の事故の前で、解決策が見つからず、途方に暮れる状況の中で、ジーン・クランツは、彼らを集め、最初に、何と言ったか?
この映画でも、最も印象的なシーンの一つですね。
「我々のミッションは、この3人の乗組員を、生きて還すことだ!」
そう述べましたね。
田坂:そうです。そして、次々に発生する難問に対して、専門家達の智恵を総動員し、解決策を見つけていきました。
例えば、司令船と月着陸船の二酸化炭素除去フィルターの形状・仕様が違うという問題。この問題に対しても、アポロ13号の中にある、ありとあらゆる部品や材料をかき集めて、専門家達に智恵を絞らせ、その問題を解決する応急的な装置を作らせました。