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ジョセフ・スティグリッツ―格差は必然的なものではない

『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より

2014年08月25日(月) ジョセフ・スティグリッツ
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〔PHOTO〕gettyimages

アメリカの巨大な格差はいかにして生まれたのか

過去3分の1世紀の間に、ある有害な傾向がじわじわと進んだ。
第二次大戦後、ともに成長してきたアメリカがばらばらになり、2007年末の大不況に襲われると、アメリカの経済状況の著しい特徴となった分裂を、もはや誰も無視することができなくなった。この「輝ける丘の上の町(※)」アメリカは、いかにして最大級の格差を抱える先進国となってしまったのだろうか?

トマ・ピケティの時宜にかなった重要な著書である『21世紀の資本論』によって発展した驚くべき議論の流れのひとつは、富と所得のひどい格差は資本主義固有のものだ、という考えに落ち着く。彼の理論によれば、第二次世界大戦後、数十年間に急激な格差が解消された時期こそ、異常と考えるべきなのだ。

これは、ピケティの業績の表面的な読み方にすぎない。『21世紀の資本論』は長期にわたって格差が深刻化したことを理解するための制度的文脈を与えてくれている。あいにく、彼が解く制度的な部分の分析は、運命論的に思える側面があるがゆえに、注目されることが少なかった。

この1年半の間に司会役を務めてきたニューヨークタイムズの「巨大格差」シリーズで、私もピケティと同様に、資本主義には何らかの基本法則が間違いなく存在する、という考え方を根底から揺るがすさまざまな実例を提供してきた。19世紀の植民地資本主義の発展パターンは、21世紀の民主主義国には無用である。アメリカがこれほどの格差を抱える必要などないのだ。

(※)特別な存在・理想の国としてのアメリカを指す言葉。17世紀に清教徒を新世界に導いた政治家ジョン・ウィンスロップの言葉。

イデオロギーと利害が極めて悪辣に結びついた

最新版の資本主義はニセモノの資本主義だ。その根拠は、今回の大不況への我々の対応に現れている。そこでは、利益が私物化されたにもかかわらず、損失は社会が受け皿となった。完全競争は、少なくとも理論上は利益はゼロになるはずだが、独占や寡占が持続的に高い利益を上げている。CEO(最高責任者)たちは、標準的な労働者の平均の295倍という、過去のどんな時よりも高い所得を、それに見合った生産性の増加の証拠がまったくないにもかかわらず受け取っている。

経済の不動の法則がアメリカを巨大な格差へと導いたのでないとしたら、何によるものなのか?――率直に答えよう。それはアメリカの政策であり、政治が導いたのである。人々はスカンジナビア諸国の成功談を聞き飽きている。しかし実際に、スウェーデンやフィンランド、ノルウェーの、ひとりあたりの国民所得は、アメリカと同じレベルかそれ以上に早い成長を遂げることに成功しており、さらに平等においてはアメリカをはるかに凌いでいる。

問題はしたがって、なぜアメリカは格差を拡大する政策をとってきたのか、ということだ。この答えのひとつは、第二次世界大戦が記憶の彼方に消えるにつれ、戦争が生み出した連帯感もまた消え失せていったということだ。冷戦でアメリカが勝利をおさめたとき、現実的にアメリカの経済モデルに対抗できる競争相手はいそうになかった。国際的な競争がなくなったことで、もはや我々には、アメリカの社会システムが大多数の市民に与えるものを、見せつける必要もなくなった。

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