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ディメンジョンワールド EXストーリー1 少女たちの休日 顔グラ付き

















人物紹介
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ミーナ 主人公。元々はこの国の住人ではなかったが、昔、ある事で女王様に助けられた経緯があり、その時にこの国に移り住む。その事で女王様に恩義を感じ、彼女に仕えたいと思い、騎士を目指す。移り住んだ時からクロウの家に居候しているので、彼の事を大変慕っている。 十九歳 金髪


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シルア メインキャラ。シルア海賊団の船長であったが、とある事がきっかけで今は海賊業をやめており、現在はこの国に留まっている。口調は元海賊とは思えないほど丁寧。ミーナとは数年前に知り合い、最初こそいざこざがあったものの、それ以後は良好な関係を続けている。スタイルは三人の中で一番抜群 二十一歳 黒髪


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リーン メインキャラ。この国一番の富豪の一人娘であり、箱入り娘。気が強く、若干短期で喧嘩っ早い一面もあるが、礼儀はわきまえている。ミーナとは彼女がこの国に来てからの知り合いで彼女の良き相談相手でもある。一方、シルアの事は海賊という事もあり、若干苦手としているがこちらも関係は概ね良好。 十八歳 赤髪
 

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グレン サブキャラ。国が率いる騎士団の隊長を務めておりその実力はかなり高い。両親は五年前に他界しているが、他界する前にミーナを拾ってきたため現在は二人だけで暮らしている。性格は若干ぶっきらぼうだが、抜群の容姿と隊長の称号を持っているためよく女性にちやほやされており、それがミーナをやきもきさせているとか。 二十歳 赤髪


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ノノ サブキャラ。武器屋を営んでいる水色髪の少年。その中世的な容姿と名前でしばしば女と間違われる。自分が売る武器は自分が一番理解しなければという理念を持ち、昼は商売、夜は訓練をしているため。彼自身の戦闘力は意外に高い。一番の得意武器は槍だが、基本なんでも扱えるそうだ。最近、リーンの事が気になるらしい。 十七歳

 
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ジル サブキャラ。グレンの幼少からの友人であり悪友。その目つきの悪さから、たびたび人からあらぬ誤解を受けることもあるが、本人も目つきが悪いのを認めており、わざと誤解を助長させる行動を取る事もあり、その度に後処理に回るグレンは頭を悩ませている。ゴーグルが似合う女性が好みのタイプだとか 二十歳 緑髪

 
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リナ サブキャラ ジルの家で腹ペコで倒れていた所をジルに拾われ、自身の強引&爛漫な性格を持ってなし崩し的に居候し始めた。頭にゴーグルを付けているのが特徴的。物事を考えるのが苦手だそうな。バカとか言わない! 楽観的なだけ! 17歳 黒髪


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フェレリア サブキャラ とある場所でジルとリナの二人に出会い、リナと同じくなし崩し的にジルの家に住む事になった居候その2。基本リナと喧嘩しては持ち前の銃をぶっ放し、壁に蜂の巣を作るのでジルはどうにかしてこの二人を追い出す方法を検討してるのだとか 18歳 ピンク髪
 
 








世界のどこかに、大きな国があった。
 平穏で、戦争も起こらない。治安も良ければ民の反乱もない。そんな国があった。
 それは、ひとえにこの国が強力国家であることを暗示していた。
 そして、その国の首都を舞台に、今回の物語の幕は上がる。











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「だから、あそこはこう立ちまわればよかったの!!」



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「なんでよ! ここはこう動いたほうが効率的じゃない!」



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「違うでしょ! 仮にそう動いたとして、次に相手にこう動かれたら、どう対処するつもりだったの!!」



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「その時はその時でしっかりと考えがあったわよ!!」



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「どうするつもりだったか言ってみてよ!」



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「私の『演舞術』でまとめて焼き払うつもりだったわよ!」



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「『演舞術』は隙がでかいでしょ! 複数と対峙していたんだから、あの場面は私の言うとおりに動いて『魔法』対処すれば安全に退けられたの!」



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「へー、さすが元船長は言うことが違うわね! あなたの言うことが正しいです私が悪うございました!」



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「っ! これだからお嬢様って……少しぐらい理論的に考えて動いてよ!」



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「だから考えてるってさっきから何度も――」



 ある昼下がりの事である。
元シルア海賊団で船長だったシルアと、国一番の財産と家をもつ富豪の一人娘のリーン。
現在二人は大声で怒号を上げて、他人の家の中で絶賛喧嘩中だった。迷惑甚だしいことこの上ない。

その肝心の喧嘩の内容は、前回の戦闘の立ち回りの反省と指摘。なのだが、いかんせん二人の話し合いの相性が悪いのか、話が進んでは抗議、抗議で言い返された側も抗議、それならばと話を少し戻しても抗議。いつまで経っても何も進まないし終わらない。

迷惑千万という言葉は、今この瞬間のこの二人の事を指しているのではないのかと思うのは、この家に居候しているミーナである。

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「お、おい、二人とも……。もうあの戦いは終わったんだからそろそろ……」
 終わりにしないか。そう言おうとしたミーナの言葉も、「「ミーナは黙ってて」」と口を揃える二人の前には大人しく閉口するしかない。

ハァ、と深く嘆息するミーナの心中も察して欲しいところだ。
 
騎士団入団希望者のミーナは、家主のグレンと久しぶりに二人で静かにのんびりとした時間を過ごしていた。

 王国の騎士団の団長を務めるグレンは、その地位の高さも相まってあまり長時間家にいる事が出来ない。

 またミーナも、色々と諸事情のために家を開ける事が多いのだ。

 そんな二人だが、今日はグレンが一日休みをもらったので、それならば自分も今日は一日ゆっくり休もうと決断。シルアとリーンの二人にもその旨を話し、了承を受け、ミーナは二人っきりの空間を満喫していたのだが、突然二人が反省会と称して家に押し入り、あれよあれよという間に反省会が始まり、ものの数分で二人の喧嘩が始まったのだ。正直たまったものではない。

 急転直下、正に今のミーナの心境を良く表している言葉である。

 二人の怒号に耳を両手で塞ぎながら、虚ろな目で今夜の夕飯の献立でも考え始めてるミーナは、現実逃避をはじめているのかもしれない。

 ちなみに、この家の主であるグレンは、二人がやってきたと同時、自分は邪魔だと判断したのか、早々と自室に向かってしまっていた。

 この時ばかりは、その心遣いが恨めしい、とミーナは思ったそうな。

 肩口で切り揃えられた綺麗な金髪も、どことなく色合いが暗く感じた。

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「大体、リーンは直情的に動きすぎなの! もうちょっと頭使って行動してよ! 心配する私の身にもなってよ!」

 端正な顔を僅かばかりに崩してそう叫ぶシルアは、一目で海賊とわかる風貌をしていた。 青の海賊帽を被り、水色と白のストライプの鉢巻きの様なものを頭部に巻きつけるその姿は、海賊らしさを印象付ける。

 二の腕まで覆われた純白のドレスグローブ。その手首部分をさらに囲うようにウッドカラーのグローブを身に付け、腰まで伸びた薄青のマントを纏う。

 海を彷彿とさせるビスチェ、もしくはドレスのような鎧は、胸もとを強調させる形状になっており、彼女の豊満なバストから谷間を垣間見えさせる。 

それは、彼女の魅力をより一層際立たせるのに一役買っており、彼女が海賊であると同時、魅力的な女性であるという両方の事実を再認識させられる。

中央を大きく開け、脚部全体をヒラヒラと舞うドレススカートの下に、踵を上げたブーツ、スラっとした長い脚の太股付近まで上げられたソックス、そしてソックスの位置から少し上の位置に青色のフレアスカートが広がっている特徴的な姿は、彼女なりのお洒落であり、海賊というより女らしさが滲み出ている。

 整った顔立ちに光沢を放つ黒髪。パッチリとした深緑の瞳、薄く焼けた肌、バランスの取れた体躯。そのどれもが彼女の服装と絶妙に噛み合い、美しさをさらに際立させる。

 今でこそ怒鳴るという行為をしているが、それもそうする事が相手の為であると真摯に考えての行動であり、本当はとても温かみのある性格で優しい女性なのだ。彼女の言葉からも、そういう節がある所が見てとれる。

 その気持ちの強さが、二十一という若さで、年齢も性格もまばらの何十人もの人間を率いてこれたのである。

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「シルアは戦闘中に色々と考えすぎなのよ! そんなんじゃいつか足元すくわれるわよ」

 強気にそう返すリーンの表情は若干険しく、普通のお嬢様には出せない迫力というものが醸し出されているようにも見えた。

 燃えてるような赤い髪に微小に釣り上げられた青い瞳、白く透き通るような綺麗な肌。それら彼女の魅力的な部分に合わせるように作られた、赤と白の系統を基調としたドレスは、自身の強気な性格を表しているようにも見え、彼女の美貌をより引き出す。

 その腰まで伸ばしている長い髪は、基本後ろに流しているが、一部は前方に流し肩に掛けられている。

 袖口は、肘より少し上で纏められており、また肘部分より下は白のドレスグローブを身に付けており、肩口には白いケープ、ロングスカートは薄い赤で彩られており、そこから彼女の貴族らしさがひしひしと感じられる。

 十八という若さで、赤が似合うというのも、すごい話である。

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「あ~、今日も平和だ、うん。私の気分は平和ではないけど」

もうこの二人の議論に飽き飽きしてきたので、嫌味を言ってみるも、ミーナの声は二人の耳には届かない。その様子に、さすがに堪忍袋の緒が切れかけた彼女はある提案を二人に持ちかけた。

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「なら、どっちが正しかったか、戦って決めたらいいだろう。うんそうしよう、さぁ、ここから少し離れた所に浜辺があるからそこで戦ってどっちが正論か決めて来い。私を置いて二人で行って来い」

 無茶苦茶な理論だという事は、彼女自身分かっている。要は適当に理由を付けて追い出したいだけなのだ。

 しかし、こんな馬鹿げた提案に乗る筈もないか、とさすがに二人の沸騰した頭でもそれぐらい考えられるだろうとミーナは心の中で自嘲した。

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「その提案乗ったわ! 向こうの浜辺で決着つけるわよシルア」



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「私も乗った。そろそろ身の危険というのを体に覚えさせないとって思っていた所だし」



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「…………、うそだろ………………」

 実は二人とも一級品のバカなんじゃないか。ミーナはそう思わずには入られなかった。いくらなんでもその判断は無いだろう。

 そう決めるや否や、二人はそそくさと家から出て行き、ここから近くにある浜辺へ向かって言った。

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「………………」
 
一気に静かになった室内にミーナは一人取り残された。が、別にそれが嫌だった訳ではなく、むしろ厄介払いが出来て嬉しくもあった。心なしかにやけているかもしれない。

 そんな折、トトトっと誰かが此方に向かってくる足音を彼女の耳が捉えた。その音を醸し出す人物が誰であるか、ミーナは大体予想が付いた。

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「あまり友人を邪険に扱うのも、大概にしといた方がいいぞ」

 赤髪の青年がひょいっと表れ、笑いながらミーナに話しかける。

 聞こえてたのか、そう問おうとするも、あれだけ大声で怒鳴っていたのでは嫌でも耳に入るか、と口に出すのをやめたと同時に、いいしれない恥ずかしさが彼女を襲った。

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「グレンだってこんな扱いしてるじゃないか、ジル……だったか。よく盗賊の頭みたいな風貌しやがってとか、おかげでこっちまで誤解されるとか色々愚痴ってるだろう。ああいうものだ」



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「ははは……そういうものか」



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「そういうものだよ」

 二人の間に、しばしの沈黙が訪れる。

ミーナはグレンと話してる時、一緒にいる時のこの時間がたまらなく好きだ。それは安心感が引き起こすのか、それとも別の感情が働いているのか、はたまた恋慕のものなのか、もしくはその全てか、正確な事は分からない。良く分からないが心が落ち着く。それは事実で、彼女の心を満たすのも真実で、思わず表情が綻んでしまうのは、この空間がどうしようもなく気に入っているからだろう。

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「……行かなくていいのか?」

 彼の発した一言により、空間は破壊され、静かな時間は終わりを告げた。が、これも悪くない、とミーナは一人思う。何故かと聞かれたら、言葉に詰まってしまうだろうが、とかく彼女はこれでも良いのだと思っているのだ。ならばそれは詳しく言及する必要性もないだろう。

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「……やっぱり見に行ったほうがいいか?」



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「行かないなら行かないで別にいい。が、それだと静止役がいなくなるな」




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「はぁ……あいつらは療養という言葉を知らないのか」




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「体力が有り余ってると言ってやれ」




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「ったく……すまないグレン。少し行ってくる。夕方までには帰る」




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「いや、俺も行く。休日を一人で家でだらだら過ごしながら潰すのは苦手だ。喧嘩の鑑賞、いい趣味とは言えないが、いい暇つぶしにはなりそうだ」

 少しだけ、口元を緩めがらそう口にしたグレンは、ブーツを履こうと玄関に向かう。

 それを見たミーナも、少し慌てて玄関へと赴き、いそいそとブーツを履いた。

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「さて、一緒に行くか。確か浜辺だったな」



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「ああ、ここからそう遠くないあの浜辺だ」

 それから二人は他愛もない会話を交わしながら、けれどどこか胸の高鳴りを感じながら、浜辺に向かっていった。
 












 静かな波音が心地いい浜辺の波打ち際に、シリアとリーンの二人はお互いに距離を取りながら向かい合っていた。

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「さて、そろそろやる?」



 シルアが短く確認の合図を取る

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「ええ、いつでもいいわ」



 リーンがそれに了承の返事を送る。

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「勝敗条件はどうするの?」



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「降参、もしくは参ったと言わせるか。戦闘続行不可能の状態にしたら勝ちでどう?」



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「武器の使用は?」



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「もちろんあり。魔法も気孔も演舞術もね。全力でやるんだからいいわよね?」



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「わかった。それでいいわ――」


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「よっっ!!」



 いい終えたと同時。シルアは地面の砂を強く蹴り、一気にリーンに向かって走り出した。
 二人の距離はおよそ十メートル。歩幅にして走って約八歩という距離だったが、シルアはそれを四歩で詰め寄った。

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「ッ!」



 驚き、咄嗟に後ろに飛ぼうとする彼女の動きをシリアは見逃さない。彼女はさらに一歩詰め寄りながら、左の腰に掛けていたカットラスを右手で一瞬のうちに抜き、リーンに向けて居合いの要領で真横に振り抜く。

 だが、その刃は彼女には届かない。刃が当たる寸でのところで、リーンはカットラスに向けて掌から小さい爆発の魔法を放ち、軌道を強制的に斜め上に逸らし自分が屈むことで避わしたのだ。ついでに爆発で発生した爆風で自分も吹き飛ばし、シルアの攻撃範囲からの脱出を図り、かつ彼女の体勢をカットラスの軌道を反らして強引に崩し、追撃を防ぐという何重にも構えられた防御行動だった。

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「なッ!?」

 彼女の思惑通り、シルアは一瞬だが刀に振り回され動きを止めてしまった。そこから生じた隙を彼女は見逃さない。爆風で吹き飛んだ影響で若干体勢を崩しながらも、今度はこっちの番だと言わんばかりの猛攻をシルアに向けて繰り出す。

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「ファイア! アイス! エアー! ストーム! ウォータ! ボム! スパーク!!」

 彼女の両手から次々と『魔法の国』から学んだ魔法が放たれ、それらは一斉にシルアへと凄まじい速さで迫ってくる。 

 向かってくる魔法を全弾は回避できないと直感で判断したシルアは、カットラスを一旦地面に捨てるように置き、『和の国』で教わったように両腕を前方に突き出し、掌を魔法に向けた状態で自分の体内の気を一気に高め、それを両掌に一瞬で集め始めた。

 ポワっと、シルアの腕が白く発光したかと思うと、瞬間、掌から彼女を包むように半円の気で固められた壁が出現した。それから数瞬遅れて、リーンの魔法がシルアの気の壁に炸裂した。

 気の抽出に全身の力を集中させながら、シルアはリーンの様子を見る。彼女は攻撃の手を緩める気はないらしい。壁を作ったなら壊してしまえばいい。そう考えているのだろう、彼女はシルアへ多重魔法攻撃を浴びせ続ける。

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「……ぐっ! このままじゃ、さすがに……」

 額から汗を垂らしながら気の壁を維持し、魔法を防いでいくが、その表情は硬い。気の壁を長時間維持するのは多大な気力を有する。加えて、まだ戦闘は始まったばかりだ。今後も防御技が必要になるのは明らかであり、ここで気力を切らしてしまうのはあまりにも危険すぎた。おまけに気の力自体もシルアはそんなに持ち合わせていない。

 相手の魔法力が切れるのを待つという作戦も一瞬頭によぎったが、彼女の魔法力は膨大であり、先にこちらが根負けするのは明らかだった。
 ならば、どうすればこの状況を切り抜けられるか。シルアの頭はフル回転し、やがてある結論にたどり着く。

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「(やっぱ、力技しかないかな)」

 そう結論を出した後のシルアの行動は早かった。彼女は気の壁を維持するのを止め、足元に置いてあったカットラスを迅速に拾い上げると、一気に真横に飛び出した。

 壁は、シルアからの気の供給が途絶えても、一秒ほどその姿を保ち、武器を拾い上げる時間を彼女に与え、その後、役目を終えたかのように消滅した。

 横に飛んだと同時、リーンが魔法の軌道をこちらに向けて修正した。が、今度はシルアは直にでも動ける状態であり、彼女の魔法が着弾する前に、既に走り始めていた。

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「さぁ、いっちょ派手に行こうかな!!」

 高らかな声で宣言し、全力で走り出す。そのままシルアは、右腰に掛けてある一丁の銃を左手で抜き、そのまま彼女に向けて発砲した。

この銃は、『科学の国』で魔法を連射できない彼女の為に職人が作った一品物の特注品で彼女専用の銃である。
 
その銃から放たれたのは弾丸、ではなくバチバチと紫電を光らす一本の矢。撃ち出されたのは雷の魔法であった。

 雷がこちらに飛んで来たと瞬時に判断したリーンは、魔法の撃つのを中止し、踊るようなステップで回避行動に移った。ロングスカートがまるで花弁のようにブワッと広がる。

 そのままシルアは彼女との距離を保ちながら走り回り、右手のカットラスを鞘に収めながら、左手の魔法銃を彼女に向けて乱射した。雷、炎、水、氷と様々な属性を持った弾丸が彼女に襲い掛かる。だが、リーンはそれを軽快な動きで難なく避わし続ける。円を描くように、自身が回るように動き、シルアの銃弾をいなし続ける。

 一見、形成が逆転しているかのように見えた。シルアが先刻までの彼女のように攻撃を続け、彼女が先程のシルアのように防御に回る。

 しかし、それには大きな違いがある事もシルアは理解していた。それは、回避に力を使っているかどうか。彼女は魔弾を回避するのに魔法を使っていない。対し、自分は防御に気の力を使った。この差はいずれどこかで現れる。その考えが、シルアの心を若干だが揺さぶっていた。

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「ならっ、ウォータ!」

 シルアは、魔法銃による攻撃と、自身の魔法を絡めた同時攻撃に切り替えた。魔弾で彼女の動きを誘導し、誘導したところに自身の魔法を彼女に当てようと右手から水球を放ち、続いて掌から出現した直径二メートル程の水の鞭を操る。だが

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「……演舞! 炎壁遮断(フレイムアウト!)」

 彼女がそう唱えた瞬間、ドバッ! という音が響いたかと思うと、円形の炎の壁が彼女を中心にして守るように地面から吹き上がった。
 
その炎の壁は、シルアが彼女に向けて放った魔弾を弾き、魔法をかき消す。『演舞術』。彼女が『和の国』で教わった技である。踊るように陣を描き、ある言葉を合図にして発動する。陣は何種類もあり、攻撃に使うものもあれば、彼女のように防御に使用するものもある。

 炎壁遮断(フレイムアウト)。半径三メートル以上の陣を必要とし、その描いた陣の外周の円の線に沿って幅一メートル、長さ約五十メートルの炎の壁を作る。その壁はあらゆる物を燃やし、また、驚愕の速さで上に燃え上がるため、触れる物体を上に持ち上がらせ、術者への攻撃を防ぐ防御演舞。その炎は術者にとっては熱くなく、それ以外の物体は普通の炎とかわらない。炎が立ち上がる時間は十秒前後であり、戦略の立ち直しの演舞でもある。

彼女は、シルアの攻撃を避わしながら陣を描き、反撃のチャンスを作ったのだ。だが、シルアは演舞を彼女が使った事に頬を僅かに緩ませた。彼女に『演舞術』を使わせる。それこそがシルアの狙いだったからだ。

『演舞術』の弱点は、使用中、術者は陣の中から抜け出せないこと。行動制限が掛けられているということだった。

特に、今回彼女が発動した『演舞術』は、攻撃を防ぐため視界が完全に炎に覆われることとなる。その間、陣の外で何が行われているか、確かめることが出来ないのだ。おまけに、炎が上に巻き上がることによって、大きな音が発生し、よほど大きな作業をしない限りは聴覚を頼りに推測することも出来ないのだ。十秒間の間、戦況が確認できないというのは、多大な不確定要素を生み出す。

ここが勝負どころだとシルアは感じていた。ここで決めなければ戦況はますますこちらにとって不利に傾く。勝つタイミングは今しかないと、彼女は銃を収め、勝利のためのある文字を羅列する。

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「母なる海、おおいなる水、その偉大なる力を操る十二神の一人、ポセイドン。今、その壮大な力の一部を我に貸し与え、勝利に導け!」

『大魔術』、十二神の力を借りて発動する大魔法。その力は通常の魔法の比ではなく、また使う側も相当の力の消費をさせられる超大技である。『魔法の国』で伝えられていたのだが、あまりにも力の消費が激しく、ここ数十年は誰も使用したことがないらしかった。

シルアが使おうとしているのは、水属性の『大魔術』で、もっとも力の消費が少ない魔法である。

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「っっっ! 噴き出せ! アクアポールッ!!」

 シルアはその言葉とともに、両手を真上に向けて力いっぱい下から上へと持ち上げた。

 刹那、リーンの陣の周囲をさらに囲むように水が沸き出たかと思うと、ゴッッッパァッ!! と轟音を上げて水柱が発生し、それは一気に上へと昇って行った。水は陣の炎を掻き消しながら彼女を飲み込んで、空高く突き上がる。

 両手を上に上げていたシルアは、水柱が昇りきったのを確認した後、その両手を上に上げたまま、左斜め後ろに回す。

 すると、リーンを取り込んでいた水の柱が彼女の動きに合わせてグニャリと曲がった。そのままシルアは手を左斜め後ろから真後ろ、右斜め後ろへと円を描くようにゆっくりと回し、それに合わせるように水の柱も先端から円を描くようにゆっくりと回り始める。

 そして、シルアは両手をほぼ一周させたと同時、両腕を一気に下に引き落とした。水の柱も、それに釣られそれまでとは段違いの速度で先端から下に落ちていく。
 
そのまま水を落としながら、シルアは再び銃を引き抜き、素早く雷の魔弾を水の柱に向けて撃ち出した。

 ガァン、と撃ち出された雷の矢は、バチバチと音を鳴らしながら、水平に飛んでいく。狙いは水の柱の先端であり、リーンが水に包まれている箇所だ。魔法銃に込める魔力を死なない程度に弱めたため、威力は少ないが、気絶させるには十分の魔力を弾に込めていた。

 撃ちだしてから幾ばくもなく、雷の弾は水の柱の先端に命中した。勝った。とシルアは勝利を確信した。あれだけ水の柱を動かして体を揺さぶったのだから、魔法を詠唱することも出来ない筈だ。彼女はその雷を甘んじて受ける筈だと思っていた。捕らわれていた彼女の口が僅かに動いたのが見え、その後に命中した雷が、水の柱に弾かれるまでは。

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「ッッ!!?」

 その光景に、シルアは目を疑った。水が雷を弾くなど聞いたことが無いからだ。そして彼女の疑問が覚め止まぬ内に、パンッと水の柱が内から弾けとんだ。その水が弾けた部分から、びしょびしょに濡れながらも無傷の状態のリーンが笑顔で出てきた。

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「作戦はよかったわ。でも、残念だったわね。あんたに一つ良いことを教えてあげる。純粋(・・)な(・)水(・)は(・)電撃を弾く(・・・・・)のよ。『クリーン』の魔法で水を純粋な水に替えて、ボムの魔法で脱出すれば、簡単に立て直せるわ」

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「……良いことを教えてくれてありがとう。次からの参考になったわ」

 どうやら、そう簡単に終わらせてくれる気は無いらしい。シルアは、腰からカットラスと、右に差してある別の剣を左手で引き抜き、次の攻撃の準備に移る。まだ戦いは始まったばかりだ。













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「……、凄いな……」

 目の前で起こる激しい戦闘を目撃して、その凄まじさに思わず漏れ出たかのような声で、グレンは二人を称賛する。

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「ああ、いつ見てもあの二人の戦いは凄い……」

 グレンから出てきた賛美に、ミーナも同上の意見を漏らす。

 グレンとミーナの二人は、浜辺から少しだけ離れた柵に座りながら二人の戦いを鑑賞していた。芋を細切りにして油で揚げて塩で味付けた食べ物と、オレンジを絞った飲み物を、手にそれぞれ一つずつ持っており、時折その芋を摘まんだり、飲み物を口に含んだりしながら、二人の行く末を見守っていた。

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「あれが『魔法』、か。お前から話は聞いていたが、さすがにここまでの物だとは思わなかった」



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「イヤ、あれは『魔法』以外の技術も使われているんだが……。まぁ、『魔法』という解釈でもいいか……」



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「世界は広いな……あんなトンデモない力を持つ者が大勢いるとは……いつか俺もリーンから一対一で教わりたいものだ」

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「ああ……それもいかもしれなっ…………!? 待てグレン。一対一だと!?」

 彼女は聞き捨てならという風に、ギロリと目をこちらに向けると、若干凄んだ顔で睨んでくる。

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「お、おい。なんでそんなに睨んでくるんだお前は……。あの『魔法』でさらに国を守ることが出来るのなら、出来る出来ないに関わらず教わった方が良いだろう。それに、教授を受けるなら魔法が一番扱える人からなのは当然だ。最初はお前から教わろうと思ったが、前に『魔法』は向いてないとか言ってたしな」

 彼女の視線から感じる凄みに、額から汗を数滴垂らしながら、やや言い訳気味に答えるグレン。いつもなら二言ぐらいで会話を区切る彼が、ここまでつらつらと言葉を並べたのも、何か悪いことを言ってしまったかもしれないという感情が、心の片隅に湧き上がったからかもしれない。

 ただ、その悪いことを言ったと思っている言葉が、彼女が『魔法』を使えないことを暗に指摘してしまった事だと思っているのが、彼の彼たる所以なのだろう。その考えがさらに彼女の琴線を刺激する事を彼は知らない。それを口に出さなかっただけマシと言うものだろう。

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「そ、それは、確かにそうだが…………。私だって簡単な『魔法』ぐらい扱えるぞ! だ、だから、『魔法』は私が教える! 一対一で教えてやる」



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「あ、ああ……頼む」
 ずずい、と身をこちらに切迫させながら言い切る彼女の気迫に気圧されたのか、グレンは機械的に首を縦に振る事しか出来なかった。
















リーンは、シルアが新たな動きを見せる前に、現状を頭の中で早急に纏めていた。

さっきこそ、シルアに強がって言ってみたが、それは偽装の虚勢であった。

現在、自分は服を着たまま水を全身からありったけ被った状態である。即ち服が水を吸って、動きが抑制されたのである。彼女の服装はドレスであり、白い肌が見える場所は首から上と二の腕の二箇所しかない。あまり体力や腕力が無い彼女にとって、この状況は非常に辛い。しばらくは走る事も出来ないであろうと、彼女は結論づけた。無論、体を動かさなくてはならない『演舞術』も封じられたに等しい。

次に足場。二人が対峙しているのは浜辺であり、砂の上である。そこにシルアは水魔法を打ち込んでいる。結果、砂は泥になり、ぬかるみを生んだ。滑る足場になったことで、元々足を取られやすかった足場が、さらに踏ん張りにくい足場となった。これは、動きを制限された彼女にとって、重く圧し掛かる枷となる。腕を真横に広げ、くすぐられながら長い平均台を渡れと言われているような物だ。

結論として、リーンの戦闘における選択肢をシルアは大いに削ったのだ。

そしてもう一つ、シルアに対しての懸念がリーンにはあった。だが、彼女の考えが纏まらぬ内に、シルアは彼女の懸念通りの行動を取った。
 
右手には彼女の愛用品であるカットラス。左手に『和の国』で購入した僅かに反りの入った片刃の剣、カタナを携えながら、一直線にこちらへと向かってきたのである。

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「(やっぱりそう来るわね)」

 魔法戦では適わないと悟った上で、彼女の得意分野である敏捷を生かした二刀による高速肉弾戦。リーンが最も避けたかった事態である。

 こちらに走ってくるシルアを向かえ打たんと、両手から魔法を連続で間を置かずに連射するが、彼女はジグザグに移動して、悉く魔法を避けながら、確実にこちらへと歩を進める。

 その動きを先読みして魔法を打っても、彼女はそれすら読んでいるかのような動きで、華麗に避け続ける。泥に足を取られるのかと思えば、跳ぶように走る動きから滑るような動きへと柔軟に対応し、ぬかるみすら移動に利用してくる。

 移動砲台から、固定砲台へと成らざるを得なくなった彼女には、二刀から繰り出される斬撃を生身ではいなせない。なら何をすれば彼女の攻撃から身を守れるのか。そこまで考えた所で、リーンは、やはり『魔法』しかないか、と自分の選択肢の少なさに辟易としながらも魔法の連射を止め、僅かな詠唱に移り魔法を発動させる言葉を口にする。シルアは、その一瞬生まれた隙を見逃さず、一気に彼女との距離を詰め、リーンの眼前へと迫ってきた。

 その動きに合わせ、リーンは迎え撃つかのように詠唱していた魔法を発動させる。 
シルアは身体をやや前に傾けながら、二刀を交差させてそれぞれ刃の無い部分で、一本を腹部に、若干の間を空けてもう一本を胸部へと、逆袈裟切りの動きでリーンに刃を滑らせる。

 その刃がリーンに届く刹那、彼女の放った小規模な炸裂魔法がシルアの持つ剣先部分で展開し、二つの剣を弾き、シルアの体勢を前のめりから後ろへのけ反らせるように大きく崩した。

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(これでシルアは一瞬無防備! 後は適当な魔法を一発撃って終いよ!)

 リーンは勝利を確信した。シルアが体勢を立て直し後方へ退避する前に魔法をぶつけ、意識を飛ばす事が出来ると踏んだからだ。

 だが、リーンは忘れていた。目の前で相対している相手は、十代という若さで自分より何十年も年上の男達の上に立つ船長という肩書を背負っていた事を。どんな逆境も持ち前の頭脳と実力で全て跳ね返しその地位に付いていた、彼女の力を。

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「っかっっぁ――――ッ!?」

 魔法を打とうと両腕を前に突き出した瞬間、腹部にとてつもなく重い衝撃が走り、気付けば自分は先程立っていた場所から数メートル近く離れた場所へと吹き飛ばされていた。

 ゴロゴロとぬかるんだ砂の上を無様に転がり、鈍痛を訴える腹を抑えて蹲る。

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「あっっが!! ッは―――!」

 腹部へ訪れた衝撃は、痛みに悲鳴を上げると言う当然の行為を許さず、人類が生きるのに必要な息を吸う動作をしても、肺に酸素を取り込ませず、彼女に安息の時を与えない。

 また、あまりの痛さに思考能力を削がれ。自分が何故こうなったかを理解するのに、前のめりの体勢を崩されたシルアが、崩された体勢を利用して回し蹴りを自分の腹に叩きこんだという事に気付くのに、倒れてから二秒の時間を要してしまう。

 そこからの思考は泥沼だった。

 シルアはどこにいる? もう追撃に向かって来ているのか? そうだとすれば今彼女は何処にいる? 走って向かって来ているのか? 跳躍して来ているのか? 獲物は剣か? 拳か? それとも魔法や銃での遠隔攻撃か? 目を瞑り、痛みに呻いている今の状態ではそれすら感知する事が出来ず、相手の動向が何一つ掴めない。

 だから、リーンは自分が吹き飛んだ方向とは逆の方向。即ちシルアがいるであろう方角にへ爆発魔法を放った。威力も調整しない。目を開いていないのでおおまかな位置調整もしない。当たれば儲け、外れたら敗北決定のギャンブル勝負である。

 果たして、それはシルアへと命中したかはリーンには判別が付かなかった。代わりに、あらゆる物を包み込んでしまうような爆発と聴覚を麻痺させてしまいそうな爆音がリーンのほぼ間近で響き、彼女の鼓膜を痛いぐらい刺激し、爆発から発生した爆風によってさらに数メートル訳も分からぬまま吹き飛ばされる。

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「っっわ!!」

 が、爆音が耳を支配する直前、自分の体が宙に浮き吹き飛ばされる寸前に、シルアの声が僅かに届いた。それが魔法が命中したんだとリーンが察すると同時、彼女は大きく吹き飛び、やがて海岸とは反対方向にある岩肌に背中を強く打ち付けて停止する。

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「~~~~~~~~~~~~ッ!!」

 今度は背中から伝わるどうしようもない痛みに悶絶する。また、爆風に包まれて吹き飛んだ結果、身体も二転三転し、三半規管を刺激していたようで、めまいと僅かな吐き気を催すと共に、頭もズキズキと痛みを訴えていた。

 暫くの間、リーンは立ちあがる事も声を出す事もせず、体力回復に努めた。戦闘中にそのような行為をするのは愚行と言っても差し支えないが、シルアはあの爆風を自分より間近で受けているのだ。ならば彼女もダメージは相当の物であり、直ぐには行動を再開しないであろうという考えの元の回復行動であった。

 やがて、腹部と背部の痛みも引き、頭痛やめまいもある程度治まったのを確認したリーンは、右手は腹部を摩りつつ立ち上がる。

 水を吸った服が体中に張り付いていたり、転がったせいで付着した砂が服や髪にこびりついていたりと様々な不快感が彼女を覆うが、今はそんな事を気にしている余裕はないだろう。今は戦闘中であり、清潔さを気にする場面ではない。

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(シルアはどこ?)

 今まで相対していた相手を探そうと視線を泳がし始めたリーンだが、思ったより早く目的は達成された。

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(海の上に……立ってる?)

 リーンの視線の先には、おそらく爆発で吹き飛んだ時一度海へと落ちたのだろう、髪や服からポタポタと水滴が落ち、また爆風にやられた影響か所々服が修繕が必要な程に破け、酷くはないが身体に火傷を負っているシルアが、海面にスラッと直立している姿があった。

 その姿にリーンは身を引き締める。何をしてくるかは分からないが、何かをしてくるのは確実。ならば、それに対する身構えぐらいはしておかないといけない。先に攻撃に打って出るという手もあるが、今自分の体力を考えてもそれは十全ではない。不本意だが、今は後手に回った方が優位に立てる可能性が高い。

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(海面を滑って強襲でも掛けてくる? いや、大規模な術式でも水の上にいる今の状態なら楽に仕掛けられる……。それとも私やミーナに見せてない隠し玉は……有る訳無いか)

 頭の中で今のシルアが起こせる行動を考えられるだけ考えて、それぞれに対する対策も同時に構築していく。身体を動かせないのなら、頭を動かせ。今日、ミーナの家でシルアに言われた事だ。

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「……残念だけど」

 色々と思考していたリーンの頭をクリアにするかのように、とある一声がリーンの頭に入って来た。

 それが誰からの声であるかを認識するのに、シルアから発せられた声だと言う事にリーンは数瞬の時を要してしまう。

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「何が残念なのよ?」



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「色々頭の中で考えてくれるのは、私としては嬉しいんだけど。残念。私の勝ちが決まっちゃった」



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「…………は?」


笑顔で勝利宣言するシルアに、リーンは訳も分からなないまま、疑問で返すことしか出来なかった。












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「チッ、外が妙にうるせえ……静かに読書も出来ねえのかよ」

 家の外(音の方角からしておそらく海岸付近)からなにか爆発音のような物が響き渡り、木造物の家の壁やら家具やらなんやらがビリビリと僅かに振動する中、彼は呼んでいた本を机に置き、掛けていた眼鏡を外しながら静かにそんな一言を漏らした

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「えー静かって退屈じゃん! 外もこれぐらい騒がしい方が良いって!」

が、その声はしっかりと居候に拾われたらしい。何やら自分の居心地のいい空間を真っ向から否定されたような気もするが、そんな事はいつもの事か。と、彼は半諦めつつも、ある程度反抗の意を示す。

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「……てめえ等が騒がしいだけだ。俺はもうちょっと静かに暮らしてえ」

 と、彼は訳あって自分の家で寝泊まりしているゴーグルを頭に巻き付けた活発そうな少女へ、愚痴とも取れるような言葉を滑らす。

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「それは私を拾ったジルが悪い!」

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「指を指すな。そしてそれは家の前で空腹で倒れていた奴が言うセリフじゃねえな。それに俺はお前を拾った記憶はねえ。家に押し掛けられた記憶ならハッキリと覚えてるけどな」


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「わっ! 私との出会いをしっかりと覚えてくれているだなんて……泣いちゃうかも」



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「なら泣いてろ。あぁ、でも泣くのは外行け外。うるさいのは嫌いだっつってんだろ」



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「ひどい!?」



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「と言うかさあ」

 二人の会話の流れをぶった斬るかのように、彼の家に居候しているテンガロンハットを被ったもう一人の少女がこちらの方を向き喋り始める。

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「その顔で読書が趣味ってどうなのよ? 目つき悪い声色低い口調怖いと三拍子揃っていかにも悪人ですって顔してるのに趣味が読書って……」



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「ほぉ……そんな悪人みたいな面をした奴に拾われたのはどこのどいつ――」



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「だよねだよね!! 絶対変だよね!! 変だよ変! ジルってば変人! つまり変態だーー!!」



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「……、…………」

 はしゃぎ、捲し立てるゴーグル少女に、さらに家主を貶めていくよう会話を広げるカウガール少女の会話内容に、彼は呆れと共に僅かな怒りを心に灯す。その小さな怒りは、ちょっとした仕置きという行動で現れる事となる。

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「これでちょっとは反省しやがれ……」



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「ん? なんか言った? って、アンタなんで冷蔵庫なんか覗いてるのよ?」

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「……今日の晩飯の食材の食材チェックだ。ったく、なんでてめえ等は料理するという簡単な事が出来ねえんだよ……っと、これだけあれば充分か」



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「あ! 今日の晩御飯はなに? お肉!? お肉!?」



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「喜べ、今日のてめえ等のメニューはピーマンとグリンピースの炒め物だ。お前はピーマン多め、そしててめえにはグリンピース多めにしてやる」



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「「え!?」」
 
ピシリ! と、背景にヒビが入ったかのような音が二人の背後で響き渡った。

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「ちなみに、俺はそんな味もない野菜だらけの物なんか食いたくねえ。俺はしっかりと脂の乗った美味いステーキも一緒に食わせてもらう」



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「な、ジル!! あんた私がピーマン食べれないの知っててそんなモノ食べさせようとしてる訳!? 私のステーキも焼きなさいよ!! いや、ステーキだけ焼きなさいよ!」



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「そうだよ! 私がグリーンピース上手く箸で掴めないからってそんな料理にしないでよ!! 私だってお肉が食べた―い!!」



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「知らねえな。食いたいなら自分達で作ればいいだろ。俺はてめえ等の分のピーマンとグリーンピースは作ってやるがそれ以外はてめえ等で作るんだな」



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「お、鬼!! 鬼よアンタ!!」



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「悪人みたいな顔してるんだから当然だろうな」



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「女の子苛めるなんて。いけないんだーーーー!!」



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「変人なんだから、女ぐらい苛めても大丈夫だよな」



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「「ぐぬぬ……(こうなったら、ジルの肉を奪うしか……二人掛かりならば勝てる筈!)」」



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「ちなみに、もし俺の肉を奪おうと襲ってきたら、その場で殴って気絶させて森の中に叩きこんでやる。まあ俺が二対一で負けるとは思わないがな」



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「「!!?」」

 咄嗟に両手を自分の身体を守るように交差させて庇う姿勢を見せる少女二人。その表情から察するに、どうもその森の中にある種のトラウマが植えつけられているのかもしれない。というか植えつけられている事を彼は知っている。

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「あそこには女を栄養として生きる生物が結構いたよなぁ。そんな中に気絶させて放り込むんだから。そりゃ餌としか見られないよなぁ。あ~あ、どうなる事やら」



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「あ、あの森の植物に嬲られるのがどんだけ苦しいか知らないからそんな言葉が吐けるのよ!!」



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「もう、あんなぬるぬるのぐちょぐちょな目に会いたくなんかないよう……」



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「「う~~……」」

 嫌いな食べ物じゃなく、美味しい肉を食いたい。しかし焼こうにもスキルがないので、見事に焦がすのは確実。それでは美味しく食べる事が出来ない。なら奪って食べるしか道は残されていない。だがその代償はあまりにも大きすぎる。自分の身体をいやらしい外敵から守るか、それとも自分の舌を潤すか。森で過ごすか家で過ごすか、今を生きるか今を捨てるか、舌で味わうか身体で味あわされるか。択は二つで選ぶは一つ。天秤に掛けるは、己の身体と己の心。傾いたのは……、身体であった。

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「しょうがないわよね……」

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「うん、もうあんなに笑いたくもないのに笑わされるのは…………」

この瞬間、彼女達のステーキ奪取作戦は始まる前に終わりを迎える事となった。

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「くく、これを機にちょっとは苦手なもんを克服する練習でもしてろ。美味いもんを食うのはその後だ」

「「うぐ~~~~~~~~~~~~!!」」

 要するに嫌いな物を無くそうと努力している姿勢を見せれば、ステーキなんて直ぐ焼いてやるんだろう。遠回りな表現をして彼女達を困らせるんじゃない、とか、クロウが聞いていたら言いそうなセリフだなと、彼は心中で呟いた。

 この部分が、彼はどこか甘いと人に評価されてしまう原因であると言う事は、語るまでもない。







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「いや、リーンが疑問に思うのも分かるよ? 分かるんだけど、もう私が勝つための準備はさっきリーンが休憩してた間に終わらせたって言うか……まあそれは戦闘中に相手の方を見てないリーンが悪いんだとは思うんだけど、それでもちょっと悪い気もしてはいるんだよね、でもやっぱりあんなチャンスに罠を張らないなんてバカらしい事は出来なくて、だから……今回は私の勝ちって事で諦めてくれないかな?」



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「は? いやいや、意味分かんないってば、だってさっきと何も状況変わって無いじゃない!」

 立ち上がり、数歩シルアの方へ前進しながらリーンは喰ってかかる。勝利宣言をするもなにも、現状何が変わった訳でもないし、これでは信じる事も出来ない。もっとも、信じれる状況になったとしても彼女は諦めはしないだろうが。



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「あ~あ、歩いちゃった」



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「……歩いたらなんだっていうのよ?」

 さっきから一向に要領を得ないシルアの口ぶりに、いい加減しびれを切らし始めて来たリーンはやや強めに言い返す。
 さっさと種明かしをしろと、いい加減事を起こせと急かすように。

 それを知ってか知らずか、シルアは相変わらずどこかとぼけた口調で、今から起こる現象を説明し始める

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「ん~と、でっかい甲殻類に、後ろから捕まっちゃう。かな」



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「何を言ってっっ!? えっちょっきゃっ!?」

 突然、リーンの足下付近で地鳴りがした。急に起こりだした揺れに足を取られてこけないように体重移動に全神経を集中していると、彼女の背後から大きな音が聞こえ、リーンの鼓膜を叩いた。何事かとリーンが背後を振りかえると、そこには……、

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「は!? カ、カニ!? っでか!! 何よこの馬鹿げてるほどでかいカニは――っっってちょっっきゃぁああああああああああああああああ!?」

 砂の中から大きな音を立てリーンの後ろに突然現れ出たソレは、もう何かに例えるべくもなくカニで、そのカニは大きさにして有に3メートルを超える大型、というか普通に考えて有り得ない程の大きさで、どうやってここまで大きくなったのかとか考えるのがバカらしくなるぐらい巨大なカニが、自分の身体を巧みに使って、リーンの体を傷を付けずに持ち上げたのだ。

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「私が張った罠第一弾、巨大甲殻類、まあ今回は蟹だけど、にリーンを捕縛する」


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「ちょっ!! ちょっと!! 何よこれ!! はなしなさっくっこの!! スパーク!!」

 思わぬ事態に戸惑いつつも、すぐさま彼女は状況を打破すべく、その手に雷の魔法を宿し、自分を持ち上げているカニへと魔法を放とうとする。だが、

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「罠第二弾。蟹のハサミ部分で手を上に向けさせて、魔法の発動方向を反らす」

 シルアが語る作戦内容が聞こえた後、カニの方向へと向けられていたリーンの手を上に払いあげ、魔法を不発に終わらせる。

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「しまった……!」

 カニの知能的行動に少なからず動揺と驚きを隠せないままにも、リーンは上方へ向けられた手を再度下に、正確にはカニに向け。新たな魔法を詠唱し、放とうとした。

 今度こそ当たる! そう確信して掌から放った魔法は、またしても撃つ直前に腕を別方向へ弾かれてしまい、掌が示す目標を明後日の方向へとずらされ、当てたい相手になんの損害も与えなかった。

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「は~な~し~な~さ~いぃ~~~~~!! くっ手を離して~~~~~!!!」



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「第三弾、そのまま彼女を、海へと放り投げる」



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「えっちょちょちょちょ!? この状態で海へ投げられたら絶対に溺れるって!! だからやめっっやっきゃぁああああああああああああああああああ!!」

 シルアから発せられた聞き捨てならない残酷な宣言に、リーンはにべもなく慌てふためく。
 着衣水泳などやったことも無い。ましてや海の中で服を脱ぐ等と言った羞恥を伴う行為などやれる訳もない。海のどの部分に投げられるか分からないが、浅い部分で無ければ、無様に溺れて死ぬのは確実。必死に温情の余地を図ろうとするが、その言葉半ばで、カニは自身をバネとするように動き、上に乗っていた(乗らせていたとも言う)リーンを空高く投げ飛ばす。
空中に弾き飛ばれたリーンは女の子らしい悲鳴と命の危機から来る心からの叫びを上げながら、無情にも海へと投げられる事となった。
 そのままなんの抵抗も出来る事無く海へとリーンは落ちていく。

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「第四弾、同じく私が呼んだ海上でもある程度活動できる巨大イソギンチャクがこちらへと飛んできたリーンをキャッチ&拘束」

 そこへ、シルアの一声が聞こえてから少し遅れて、海から大きな水しぶきを上げながら、三メートルはありそうな超巨大なイソギンチャクが姿を表す。海中から現れたそれは、狙ったかのようにリーンの着地点に出現しており、リーンは訳も分からぬまま、スッポリとイソギンチャクの中に落ちてしまった。

 リーンを見事に捕らえたイソギンチャクは、絶対に逃がさせるなと命を受けているのか、彼女の四肢を持ち前の何千もの触手の内数本を用いて彼女を絡め取り、ロクな抵抗もさせないように動きを封じる。

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「きゃあああああああああ!! あっくぅ!! 何よこれ、ヌメヌメして気持ち悪いっ! 離して!! 離せ~~~~~!! バカ~~~~~~!!」 

 次から次へと絶え間なく巻き起こる怒涛の環境の変化に、とうとう目尻に涙まで浮かび始めて来た。喉も叫びすぎたのか痛みを訴え始めている。もうヤダ。が、今のリーンの心中で吐露した感想だった。

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「ねえリーン、最初に取りきめた勝負の決着方法って覚えてる?」



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「何よ急に! 相手を気絶させるか、『降参』と言わせるかでしょう! それぐらいいくらなんでも覚えてるわよ! それがいったい何なのよ!」

 敵意を露わにしながら怒鳴るように捲し立てるリーン。そしてその抗議を物ともしてないのか、飄々とした口調で語りかけるシルア。

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「覚えててくれて良かった。でなけりゃ、今から行う事の意味がなくなるかもしれなかったから」



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「意味が……なくなる?」



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「そ。私が張った罠最後である第五弾。降参と言うまでくすぐりと言う名の攻撃を開始。この意味がなくなっちゃうかもとか思っちゃったから」

 でももうその心配もないけど、と、シルアは付け足す。が、その事に一番取り乱すのは、そのやられる側であるリーンである。しかし、その事に付いて何かを言う前に、いぞ銀着による行為は始まる。すなわち、くすぐりが。

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「ひっ卑怯よっっこんな!! こんなっっあっばか!! 服の中にっあっっあひひひひひひ!! やめっやっっやっあぁあ!! あっあぁあ~~~~~~~~~~~!!」




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「卑怯? いや確かに卑怯だとは思うんだけどさ。ほら、私って一応海賊だし? 海賊って、大体卑怯なもんでしょ」




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「ふ・ざ・け・ん・じゃ・なぁああああああ!? あははっはっははっあはははははは!! いやっ!! いやぁああっははははっはははは!! やめてえええええええ!! ぎゃはははははははははは!! あひひっぁああっっ!! く、くるしっあひゃあああはっははははははっははははは!!」




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「やめて欲しかったら、降参って言えばやめて上げる」




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「こんなのでっっあはははっはははは!! あははっはははははこんなのでぇ~~~~~~~はっははははははははははは!! 負けたくないぃ~~~ひひゃああああ!! まけたくひゃあああはっはははははっははははっははははははは!! あはっあははははははははははは!!」




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「ま、無駄と分かってても足掻くのは駄目な事じゃないと思うけど、今回ばかりは折れた方が良いんじゃないかな? その子、結構激しいよ~」




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「あはっはははははははは!! いわなっっいわぁああああはっははっははははははははははは!! 絶対っっぜぇえっったいにぃいいひっひひひひひっひひひひひ!! ひひゃぁあああっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 絶対言わない~~~~~!! あひゃあああっはっはははは!! あはっはははっはははははは!! ぁああああ
~~~~~~~!!!」











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「お、おい……、こいつは一体……」
 
少女二人の喧嘩が、突如として官能映像も真っ青な艶めかしい光景に転換した事に絶句、驚きを露わにする。だが、リーンの煽情的な姿に真っ先に反応したのは、グレンではなくミーナの方であった。

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「わーーーーーーーーーー!! 見るな見るな見るな見るなーーーー!! あいつ等を見るんじゃないーーーーーーーーー!! お願いだから見るなぁあああああ!!」
 
まるでリーンの声を聞き届けさせないよう大声を上げ、彼にリーンの生々しい姿を見させないように涙目でグレンの方へ飛んで来たかと思えば、彼の頭を自分の胸で抱え込み、両手を後頭部へやり思いっきり抱きしめて、彼の視界を防ぐ。端から見れば結構危ない格好なのだが、抱きしめるミーナはその事に頭が回っていない。軽いパニックになっている今の彼女の脳内では、そこまで考えられない。

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「おいっミーッ!? んぐ!? むぐぅ!?」

 一方、抱きしめられたグレンの方も、突然抱きしめられた影響で頭が混乱状態になってしまっていた。その事に抗議を上げようにもその声は、筋肉が付いていながらも、決して柔らかさは失われていないミーナの身体によって封殺されている。

年頃の女性、それも多大によく見知った女性が放つ仄かに甘い香りが彼の鼻孔を優しく刺激し、彼女の知らない部分を見つけた事が彼に僅かな動揺を生み出させ、小さいながらもしっかりと感じとれる女性特有の柔らかな二つの感触を顔全体で感じながら、彼に男としての興奮を呼び起こさせる。が、同時に頭蓋骨をキツく締め付けられる痛みに呻くという、所謂天国と地獄を同時に体験させられるという非常に稀有な事態に遭遇していた。

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「がッくるっむっあっいっっがッ!!」

 息が苦しい、胸が顔に当たってる、頭を締め付けるな、痛い。色んな言葉が彼の頭を去来したが、それを全て口に出す事は今の彼の状況では不可能に近く、それぞれの頭の文字を一文字ずつ出すだけに終わる。

 バンバンバンバン! と、軽めにミーナの背中を叩き、苦しいから離れてくれと意思表示を出すも、現在パニック状態。茹だった頭で行動しているミーナは、それを悶えるリーンの姿が見たいから離れてくれ! と、勝手に解釈してしまい。それだけはさせまいと、さらに抱き付く力を込め、絶対にグレンの視線を外へと向けさせまいとした。

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「見させない!! グレンにだけは見させないぃいいいい!! お前はもっとっっもっと!! とにかくダメだぁあぁああああああああああああ!!」

 ミーナの興奮が高まる毎に、彼の頭を包む腕の力は次第に力を増していき、やがてはミシ! メキ! ベキ! と、グレンの頭蓋骨から絶対に鳴ってはいけない音が聞こえ出した。骨が軋む音が大きくなっていくと共に、ミーナの背中を叩くグレンの力が徐々に弱まっていき、やがては叩く力も無くなったのか、腕がぐったりと力を失ったかのようにだらんと垂れさがる。

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「……? グレン……?」

 背中を叩く衝撃が全く無くなったのに、流石に何かを感じ取ったのか、ミーナは腕の力を緩め、グレンの状態を確認する。自分の腕の中で先程までリーンの姿をみようと暴れていた彼は……。

 何があったのか、力無く気絶していた。

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「えっ? わっわぁあ~~~~~~~~グレン!? 大丈夫か!! おいしっかりしろ!! お願いだからしっかりしてくれ!! 頼むから目を開けてくれぇえええ!!」
 
 叫び、揺すり、なんとかして覚醒を促すも、一向に目を開けるそぶりを見せてくれない。グレンは苦悶と安らかな表情を同時に浮かべながら意識を失っていた。

(見せられないよ!!)
「……………………」

 どうしてこんなことになってしまったのか……誰がこの事態を引き起こしてしまったのか、考えれば考えるほど、その人物は頭に鮮明に浮かび上がってくる。


(見せられないよ!!)
「シィィ~~~ルゥゥ~~~アァァ~~~~~~~~~ッッ!!」
 
グレンがこんな事になってしまった原因は、アイツしかいない。愉快な思考回路から導き出された結論は、対象となる人物が聞けば卒倒しそうなほど理不尽な物であったが、それを指摘できる人物は他ならぬ指摘しなければいけない人物によって気絶させられている。要するに、彼女を止められる人間は誰もいない。つまる所彼女が放つ言動が真実で、やる事全てが正当性を持ってしまっていて……、つまりミーナのやりたい放題と言う訳である
 
その結果、勘違いから生じた怒りの矛先は、友人である赤髪の少女をくすぐりという地獄に叩き落としているもう一人の友人へと向けられた。

(見せられないよ!!)
「フシュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」

 今、勘違いから生まれた一匹の獣が誕生した。生まれたばかりのソレは真っ直ぐに、己の敵、獲物を捕らえるべく動き出す。

 さあ、狩りの時間だ。










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「あはははははははははは!! いやぁああっっいやぁあああはっはっははっはははははは!! 離して!! はなぁああああっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! くすぐったいっっ!! くすぐったいぃ~~~~~~!! あはっはっあははははははははははは!!」

 四肢を封じられ、身動きが取れなくなったリーンの体に、イソギンチャクの体から伸びる無数の触手が我先にと服の中に侵入、肢体に絡みつき、その身体を思うがままに存分に苛めていた。
 身体が完全に触手と密着しているため、近い所から這わされる部分は勿論、預けている背中部分からも容赦なく触手の洗礼は訪れていた。

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「いやああははっはははははっはははははは!! たすけっったすけてぇええええっっえひゃはははははははっはははは!! あはははっっんひゃぁあははははははははははは!! くすぐったいぃいいい!! 全身くすぐるなんてっっひ、ひきょうよっっひきょっっきょわぁぁあ~~~!? ぁっっぁああ!! あぎゃははははははは!! ぎゃははははっあははははははははっあははははははははははは!! やめてええええええええ!!」

 逃げ場などどこにもない。文字通りの、全身くすぐり責め。その激しさはリーンの予想を遥かに超えており、またリーンの我慢できる許容範囲を想像以上に上回ってもいた。それは彼女に我慢と言う概念を消し去り、一瞬も耐える事の出来ないくすぐったさが身体を襲っていると言う事であり、無我夢中で悶え狂っているという事であった

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「ばかっっばかぁあああはっはははっはははあはっはははは!! あひゃぁああひゃはっはははっははははは!! 触れないでぇ~~~~~~~はははっははっはははははは!! お腹触るなぁあああっははっひゃははははっっあひゃははははははは!!」

 先程シルアに蹴られて外面的苦痛を訴えていたリーンの適度にやせた腹部も、今は別の要因で内面的痛みを訴えている。そのお腹を撫でる様に這い回る触手群に、彼女は堪える事も無く笑い悶え、必死に逃げ場を求めて暴れ回ろうとするが、その成果は一向に現れる気配が無い。

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「あっあぎゃははははははははは!! ひぎっ!! ひっひひひゃああああはっははははっははははっはははははははははは!! だめっっだめえええええ!! そこだめへへへへへへへへ!! 弱いからっっあっあはっはははっははははははっははははははは!! いやぁぁっぁあああ!! ひゃはははははははっははっははははははは!!」

 身体は触手によって万歳姿勢で絡め取られてはいるものの、ほんの僅かにだが身体を捩る余裕はあった。それにより彼女の最も敏感で一番弱い部分の腋の下をくすぐられた時、腋を閉じる事は出来なくとも、必死に身体を右に左に動かして守るように動く事は可能ではあった。だが、

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「ひひぇえええ!? あっっぐひゃあああははっはははははははっははははっはははは!! やっっっいっっいぁあああははっはあっはははははは!! あははは! いやああはっはははっははははははははは!! 来ないでぇえええ!! おってこなぁああはははっはははっはははっはははは!! 追って来ないでえええええええ!! やあぁあああはっはははっはははっははははははっはははは!! く、くくくくすぐったぃいいいいい!!」

 彼女は言うなれば、触手が余すところなくびっしりと生え揃っているベッドに仰向けで寝ているようなものなのだ。そして彼女はそのベッドから降りる権限を持っていない。つまり、どこにいようと、どう逃げようと、どんなに身体を動かしても、触手が追従出来る範囲から逃げる事が敵わず、その責めから逃げる事が果せないのだ。それは全く身体を動かす事が出来ない状況よりある意味辛いと言える。動かせる限り身体を揺すっても、何一つ衝動を緩和する事が出来ないのだから。

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「だめぇえええっへへへへっへへへ!!! あひゃっっぎゃひゃはははっははっははははっはあっはははははははは!! やめてはなしてっっはなぁあああはっはははっははっはははっははははっははは!! もうやだっっもうやだぁああああああああああ!! あははははっははっははははっははははは! ぐひひひひひひひひひひひひひ!! ひひゃぁああはははっはははっはははっははははっはははははっは!!」




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「やめて欲しかったら降参と言えばいいのに……」

 呆れの混じったシルアの声がリーンの元へと届く、それはくすぐったさで頭が一杯だった彼女の頭の中にも何とか届いたようで、しかしそれを肯定するのは自分のプライドが許せなくて、何よりこんな手段で負けたくなくて、そんな負けず嫌いの彼女がその提案を拒否するのは想像に難くなかった。

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「いわなぁあ~~はっはははっははははははははは!! 言わないわよそんなっっそんなぁああはっははっははははははははははは!! 降参なんて絶対いわなぃい~~~~~~~~!! ひあああ!! んあぁっっぷくくくくくくく!! っっぁっぷひゃはははははははははははははははは!! あはは! あははははははははははっははははははは!」
 



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「ふーん、まあ頑張れば? 無駄だとは思うけど……」



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「こ、こらぁっっやめっ! あははっはははははっはははははははは!! くすぐっっわひゃぁああああああっっ!? あははははっははははっはははははははは!! やあああっっっヌルヌルしたのでくすぐってこないでぇええええええ!! いやぁああっはははははっはははっははははははは!! やっやっっやぁああっははははっははははは!! あはははははははははっはははは!!」

 ヌメヌメとした滑り気のある触手がリーンの柔肌を駆け巡る。服の中でモゾモゾと轟く触手の前では我慢など出来る訳もなく、彼女はまるで幼い子どもの様に笑い転げ、くすぐりからの脱出を求めて身体をフルフルと動かす。それが無駄だと言う事は分かっているのに、どこに逃げても触手の攻撃は治まることも緩和する事も無いと言う事を知っているのに、それでも逃げようと努力する事をやめる事は出来なかった。

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「いやぁああははははははっははははっはははははは!! こんな沢山ダメっっダメぇぇ~~~~~~~~!! ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あぎゃっっあははははははははははははははは!! はははははっっぎゃははははははははははははははは!! くすぐったすぎぃっっぎひゃははははっははははははははははっあははははははははッ!!」

 服は粘液と海水によってピッタリと張り付いており、そこからうっすらと視界に移る彼女の下着や、モゾモゾと彼女の白い肌を無尽蔵に這い回る触手の動きと、それがとてもくすぐったいのか、顔を真っ赤にして喘ぎながら、その触手から逃げおおせる様に身体を揺する姿がとても扇情的だ。この光景を男が見たら、とても理性など保っていられないだろう。それほどまでに、今の彼女は魅力的であった。それがどれだけ歪な形の魅力であろうとも。

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「きひっっひっっひひひ!! ひぁあっあっんあ~~~~~~~~!!  やっやめっっもうやめひぇへへへへへっへへへへ!! ひゃははははははははははっはははあはははははははは!! くっぁっぁ~~~~~~~~~!! あははははっあははははははははははっはははあはははは!! わきぃいいいっっ!? あっっ腋くすぐるのだめぇえええ~~~~~!! いやははははははは!! いやっっいやぁ~~~~ははっははははははははははは!!」

 グリグリと右の腋の下で押し込むようにのた打ち回る触手がリーンの身体を刺激したと思えば、今度は左からブルブルとバイブレーションのように振動して、腋の下へ強引に押し付けてくる触手が主張し、リーンを激しく悶えさせる。二つの触手がもたらすのは同じくすぐったいという感情ながらも、その手法は全く別。それはつまり、趣向を同じにせず、別々に変える事によって彼女に慣れるという事をさせずにいつまでも新鮮なくすぐったさを与え続けるという事である。それがどれだけ辛い事なのかは、彼女のイヤイヤと首を振りながら笑い狂っている反応で自ずと分かるものだろう。

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「あはははははっはあっははははははは!! グリグリもぶるぶるもやめっっやめぇえ~~~~~~~!! あっあ~~~~~~~~~っはははっはははははっははははははっははははは!! だめえええ!! 腋っっ弱いんだからっっやめへへへっへへへ!! あはああはっはあっははっはははっはははははっははははははははははは!! あははは! やああああああああははははははははっはははっはははははははははははははは!!」

 リーンが一番弱いとされる腋の下を責める触手に埋もれてこそいたが、他の箇所にも触手は一切の手加減をせずに責め立てていた。わき腹をゴショゴショと優しく引っ掻くようにくすぐったり、背中一体を無数の触手を用いて、等間隔でツンツンとつつき回したり、太股を舐めまわすかのようにべっとりねちっこく責めたり、そのどれもがたまらないくすぐったさを生み出し、リーンに襲いかかっていた。

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「きゃははははははははは!! はっっはぁぁぁああああ!? あひひっひひひひ!! ひひゃっっあはははは!! それやだあああああははははははっはははははっははははははははは!! あはははは!! ぎゃははははははははははははは!」

 背中をつつかれる度、身体は小刻みに飛び跳ね、そしてなんの抵抗も出来ずにまた触手に背を預け、待ち構えていた触手に再びつつかれ、また逃げ場を求めて身体が跳ねて、逃げれずに落ちていく。わき腹や太股を責めたくる触手をどうにかしてどかそうにも、既に衣服という防御をすり抜けて直接攻撃を仕掛けている触手を退けるなんて芸当が出来る訳もなく。無意味に身体を官能的に動かすだけであった。

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「んぁぁああ~~~~~~~!! あっあぁああ!! やらぁあっ!! こんなのやらぁぁあああはっはははははははは! あっははははははははははははは!! な、なめないでへへへへへへ!  気持ち悪いぃいい~~~っこんなのっっんひゃぁあはははっはっはあはははははははははっはははははは!! やめぇええ~~~~~~!! ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 にゅるりとリーンの肢体を舐めて味わうかのように蠢く触手は、気持ち悪さとくすぐったさを同時に堪能させ、悶絶させる。

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「あっあぁあ~~~~~~~~!! いやぁぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはーーー!! だっだめぇ~~~!! きゃっはっははははははははは!! ひゃははははは! きゃはははははは! あっはははははははは! た、たす、ぷっひゃひゃはははははは! たすっったすけっっっ! い~っっひひひひひひひひひひひ! ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! くすぐったいっっくすぐったいからぁ~~~~~~!! あははははははははははは!」 

 いつまで経っても笑いたくなる感情は止んでくれず、笑いたくもないのに延々と笑わされ続けるリーン。閉じている瞳からは涙が留まる事を知らないかのように流れ落ち、閉じる事を許されない口からは悲鳴の入り混じった笑い声が延々と零れ出す。どれだけ身を捻じっても捩っても、触手から逃げられず、その柔肌から神経に伝わってくるのはくすぐったいという感覚だけ。

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「あはははっはははははははははははは!! やっやっ……や~っっっっははははっははっはあはあはあはっっははははあ! いやっははっははっははははははあっはははは!! やだっくすぐっふぁひゃぁあああははっはっははははははははははは!! もうっっもういやぁあああああああはははっはははははははははははははははは!! こんなのいやぁ~~~~~~~~~~~ははははっはははっはははははははははは!」




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「だからさっさと降参しちゃえばいいのに……。別に私が勝ってもリーンになんの損害もないのに、どうしてそんなに頑張るのかなぁ……」




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「なくてもっっなくてもぉぉほほほほほほぉぁぁ~~~はははっはっはははは!! 負けない!! こんな卑怯なほうふふふふふふふっっほうにぃいひひひひひっひひひひひ!! ひひゃあああはははっははははははははははははは 私はっっわたしはぁあ~~~~~~ははっははははっははは!! あはははははははははははははははは!! あはははははははははあははははははははははあっははは!!」
 



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「あ、そう。じゃ、私は向こうでリーンが降参って言うのを待ってる事にするね。この分だとまだまだ言ってくれそうにないし。言うまで海上に立っていたら私の魔力がなくなっちゃうから」




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「このっこのぉほほほほほっっくあぁああはっはははははははは!! くひゃっっひゃ~~~~~~ははっはははっはははっははははははははっはははは!! にゃはははっっあひゃぁあはははっはははははははははははは!!」

 海上を滑りながらシルアはそうリーンに言い残し、一人砂浜へと戻っていく。その後ろで笑いながら何かを叫んでいるリーンの声が聞こえたが、降参の言葉ではなさそうだったので適当に聞き流す。

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「よっと」

 海上を滑り、砂浜まである程度近づいたシルアは、海上から飛んで砂浜に着地する。あと何分持つかな? 等と彼女が屈服するであろうおおよその時間を図っている時に、ソレは感じた。

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「ッ!?」

 ゾワリと、彼女の肌から何か危険信号を発するように鳥肌が立ったのだ。慌てて周囲を見回し、何に自分が怯えているのか、鳥肌を出す事になった原因を捜索する。しかし彼女が探していた原因の判明は、思いのほか早く見つかる事となる。

「……………………ァ~」




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「な、何!?」

「シィーーーーーールゥーーーーーーーーーーーアァーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 声の方向へシルアが振り向く。そこにいたのは、全身から禍々しさをふんだんに醸し出すドス黒いオーラを噴出させ、右手に大の男が両手に持って初めて振る事が出来る大剣を持ち、まるで因縁の敵の名を呼ぶように、自分の名を大声で叫ぶ友人の姿があった。

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「み、ミーナ!? いったいどうし―――」

「覚悟しろ!! 私はお前をぜっっったいに!! 許さん!!!」

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「え? 何、なに!? 私が一体何をしたって言うのよ! ちょっと話を――」

「問答、無用だぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 聞く耳もたん。と、彼女は一言捨てる様に言い放ったあと、思いっきり上へと跳躍し、手に持つ大剣をシルアへと向けるように大きく振りかぶり、着地と同時に全力で振り切った。

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「へっちょっと! 待って待って待って!! わっわひゃああああああああああああああ!!」

 ミーナの行動を見て、慌てて後方へと回避する、そのコンマ数秒後、先程までシルアが立っていた位置に、ズドォォォッッ!! と、まるで重い物が落下したような音がシルアの耳に届いた。
 およそ剣や人間が出す音ではない。そしてその音の発生源であるミーナはと言うと、フシュゥウウと、獣のような息を吐きながら、真っ直ぐにシルアの方へと向かっていく。

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「う、うそ!! 私がなにしたって!! ひっっわぁああああああああああああああああ!!」

 なんで彼女が怒っているのかが分からない。だが、逃げなくてはいけないのは容易に想像が付く。なんで怒っているかは逃げながら考えよう。そう結論付けたシルアは、踵を返して全力疾走で逃げ始める。
 今、シルアとミーナによる、命がけの鬼ごっこが始まった。命を掛けてるのはシルアだけではあったが。その命も何で掛けられているのか皆目見当も付かなかったが、とにかく今は逃げなくてはいけない。少なくともミーナが冷静さを取り戻すまでは。

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「なんで!! なんでこうなったのよぉーーーーーーーーーー!!」

 逃げながらそう叫ぶ。追いかけられる理由も知らずに走る彼女の姿は、どこか同情を誘った。



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「うん! 今日は良い素材が沢山手に入った! これなら師匠も喜ぶと思うだろうし、良い武器も打てる! 次は何を作ろうかな~。剣? いややっぱ槍? くぅ~~~~! 早く帰って作ろうっと! あ、でも工房貸してくれるかなぁ……ま、その時はその時で考えよう!」

 町から少し外れた所に森がある。女性はそこに住む生物の格好の餌な為、立ち入りを禁じられているが、男である彼、ノノ・クライアはそんな事関係ないと言うばりに、適度に森に赴いては、良い素材になりそうな魔物を狩り、武具作成に必要な骨や牙などの収集を行っていた。
 今、彼の両手には溢れんばかりの骨や牙が乗っかっており、それが彼の実力を暗に示していた。
 町へと帰る途中であろうその足取りは非常に軽く、この素材をどう使おうか色々と思案しているのであろう。表情は緩みに緩み、誰が見ても幸せそうな笑顔を彼は浮かべていた。

「………………は、……は……、…………や! ………あ………は、……、…きゃ………」

 そんな彼の耳に、女性の声が響いた。だが、彼の居る場所とは距離がかなり空いているのか、非常に微々たる部分しか彼には聞こえない。

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「ん? 女の人の……声? 笑っ、てる……?」

 足を止め、その声がどこから聞こえているのか探りに入る。もし森にうっかり入ってしまって魔物に見つかり、逃げる事が敵わずに魔物に捕まり、栄養源にされているのならば直ぐにでも助けに行かなければならないからだ。

 目を閉じて視覚からの余計な情報を遮断し、聴覚を研ぎ澄まさせ、女の人が発している音を拾う事、ただその一点に意識を集中する。

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「…………声が聞こえるのはあっち、浜辺の方角からだ」

 おおよその位置を把握した彼は、歩む速度を速めてそちらへと向かっていく。そこで彼はとんでもない映像を目にする事になるのだが、それはまだ少し後の話である。



「フシュゥウウウウウウウウウウウウ!!」

「ぎゃあああああああああああああ!? ちょっあぶな、っぎゃああああああああああああああああああああああ!!」

 およそ人間が出してはいけない吐息を吐く音と、およそ女の子が出しちゃいけない悲鳴を上げながら、浜辺での二人の鬼ごっこは続いていた。
 これだけ聞くとなんとなくロマンチック的なのを感じる事が出来るかもしれないが、片や大の男が両手でやっと上から振り下ろす事が出来るほどの重量を持った大剣を、まるで重さなど全く無いように片手でブンブンと自由自在に振り回しながら追いかける鬼と、涙目で叫びながら全力疾走して逃げる人間。これのどこにロマンスを感じろというのか。

(ちょっミーナ絶対おかしいって!! なんか黒いモノが体から滲み出てるし! 普段から馬鹿力だなぁとは思ってたけどあそこまで馬鹿力な訳無いし! 女の子が出しちゃいけない声出してるし!! そりゃリーンの事で怒るのはわかるけど、ここまで怒るもんなのかなーー!?)

 何か呪い的な物にでも掛かってるかもしれない。半ば本気でそう思うシルアであったが、その真偽を問う事など出来ない。というか出来る暇がない。そんな事やってるくらいだったら足を動かす事に全神経を集中してる。捕まったらまず死が待っている。そんな状況で悠長に、「ミーナ、あなたは呪いが掛かってるのよ落ち付いて、心を沈ませるのよそうしたら呪いの効力が弱まるかもしれないじゃない。もしくは、リーンに解除魔法を使ってもらえれば」とか言ってたらまず捕まって即座にあの世へ旅立ってしまうかもしれないのだから。

「ガァアアアアアアアーーーーーーーーーーー!!」

「ッッまたきたああああああああああ!!」

 もう何度目になるか数えるのも億劫になったミーナの大跳躍。そして天空から繰り出される大剣の振り下ろし。あんなのを喰らったら人間なんてまず真っ二つだ。シルアは自身の安全を確保するため、足を止めて空を見上げ、ミーナの落下地点を予想し、予想が付いた直度、少しでもそこから遠ざかるよう砂浜を蹴る。それから少し遅れて、ミーナが剣を振りおろしながら砂浜へと落下する。その衝撃で砂は四方へと散らばり、落下地点には小さなクレーターのような物が出来上がる。そこにシルアがいない事を落下途中で確認したミーナは、さらに落下途中でシルアの位置を補足し、砂浜に落下して直ぐに全速力でシルアの元へと駆けだし始め、命を掛けた鬼ごっこが再開する

「ぜえ……! ぜえ…………! このままじゃ……いつか捕まる……」

 今までのリーンとの対戦により、少なからず体力を消耗しているシルア。それに比べ、ミーナは観戦していただけで、特に運動はしていない。体力的に考えてもこのまま持久戦をするのは非常にまずい。そこら辺を鑑みて、ここら辺りで一気に彼女との距離を広げ、森の中にでも隠れないといけないのだが、そう安々と彼女を引き離す事が出来るのならば、今こうして走り回っている事もないのだ。つまり何かを仕掛けないと。

(…………良し、もう一度あれを使おう。今の私でも、後一回くらいなら大丈夫なはず! 勝負は……次にミーナが飛んだ時!)

 そう心に決めた直後、まるで狙ったかのようにシルアの背後にいたミーナが大跳躍を繰り出した。
 シルアは今までどおりに歩みを止め、落下地点を予測する。こんな事をせずに走り去ってもいいかもしれないが、万が一自分の周囲に落下してきた時にどうなるかわかったもんじゃないので、これだけは行っておく。何事も万全を期しておくのが重要なのだ。

 そして落下地点をある程度予想を付け、それが自分の立っている場所付近だと判断したシルアは、すぐさま駆け出して範囲からの脱出を図る。そしてその数瞬後、予想通りに先程自分が立っていた場所にミーナが落下した。それを見て、シルアは自身が持つ最後の隠し玉をミーナへと使う。

「もう一度おいで! 巨大甲殻類!!」

 そう彼女が高らかに宣言した直後、こちらへと駆け出そうとしたミーナの真正面に、先程リーンを海へと弾き飛ばした巨大なカニが砂の中から姿を現した。
 良し! と、シルアはカニがミーナの行く手を遮り、立ちはだかったのを確認して意気込み、そのまま森の中へ逃げ込もうとする。森の中まで入れば視界は悪くなるし、ミーナも諦めざるを得ないだろう。そして諦めた後は、ほとぼりが冷めるのをどこかで待って謝りに行けばいい。謝りに行った時二、三発は殴られるかもしれないが、それだけで許してもらえるのならば行幸も良い所だ。

 そう思って、シルアはくるりと回れ右をして森へと駆け出そうとした直後であった。
 ズズン!! と、まるで『何か大きな物が倒れた』ような音がシルアの耳に振動した。その音を意図せず聞いてしまったシルアの胸に、ある可能性が去来した。
まさか。有り得る訳が無い。そんな事出来る訳無いだろう。そう思いながらも、一抹の不安をぬぐい去る事は出来なくて、それをどうにかするためには後ろを振り向くしか解決策がなくて。そして結局、彼女は何があったかを確かめる為に、思い切って後ろへ振り向いた。

「ま、まさか……そんな………………」

 振り向いた直後、彼女はそんな言葉を吐いた後、絶句した。
 シルアが目にした光景。それは全長3メートルはあるであろう甲殻類が、恐らく一撃の元に真っ二つにされたのだろう。綺麗に二つに等分されたカニが砂浜に無残に倒れ込み絶命している姿と、その甲殻類を斬った張本人であるミーナが、武器を構え、フシュウウと人間らしくない吐息を吐きながらこちらを見つめている姿であった。

「…………ちょっっうそうそうそうそ!? あんなでかいカニを斬ったの!? ていうか斬れるもんなのあれ!? ど、どこまで馬鹿力なのよ!!」 

 驚き、捲し立てるように喋るシルア。自分の切り札をいとも簡単に突破された挙句、あんな離れ業を見せられては黙る事の方が難しいというものだが、今は黙って逃げる時だった。シルアの出した甲殻類を文字通り瞬殺したミーナは、想像を絶する速度でシルアへと接近しており、それに彼女が気付いた時には、既にミーナの剣が届く範囲内であった。

(あ…………死んだ)

 そんな諦めの言葉がシルアの中で響いた後、ミーナの持つ大剣が刃の部分ではなく、横殴りの部分でシルアへと振り抜かれた。

「へぐ!!」

そんなどこか間の抜けた声を上げながら、シルアはなんら抵抗する事無く大剣にぶつかり、数メートルノーバウンドで吹き飛ばされた後、そのまま意識を失った。後に残ったのは、獲物を仕留めて満足そうに奇声を上げる獣一匹だけだったという。

「フゥゥーーー!」

 その後、獣は待ち人の所に戻り、本来の人格に戻ったらしいが、それを確かめれる人物は周囲にいなかったという。



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「あはははは!! うぁっっもうこんなぁああははっはははっはははは!! ぎひひひひひひっっひぃっっひぁぁあ~~~~~~~!! やーーーーーーーーはははっはっははははは!」



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「リ、リリリリリリリーンさん!? どうしてそんな状況に!? あ、あわわわわわわわ!?」

 助けを求める悲痛な笑い声を頼りに森を走り抜け、森を抜けた先、要するに砂浜でノノが見た景色は、巨大なイソギンチャクらしき生物に嬲られている町一番の富豪の娘の姿であった。もとい、自分の想い人の姿があった

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「あはあっははっはははははあはあははははは!! ひひゃぁあああっっあっ!! こらっそこはやめっっやめぇえええへへへへへへ! あはははははははははは!」

 体は自由に動けないように拘束され、服ははだけ、長いスカートは捲れ、滑り気を帯びた白い肌や局部を守る赤い布がノノの視界に嫌がおうにも飛び込んでくる。

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「ぐふふふふふふふふふふ!! ふひぁあっっ!! んぁっっくひっ!! ひひゃぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あふっ、んくくくくっっくひゃはははははははははっはははははははっははははははは!!」

 それに加え、体中をゾロゾロと撫でまわる触手から加えられる刺激に耐えられず悶絶するリーンに、ノノは一瞬見惚れ、少しの間、彼女を助けると言う選択肢を失った。

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「もうだめぇえへっへへへへへへへへ!! こんなことっっこんなぁああははっははははっははははははっはははははは!! いつかくるっちゃうぅひひひひひひっひひひ!! ひゃはははははははははははは!! あははははは!! あはは! あはははははっははははははははははは!!」

 願わくば、この夢のような光景をいつまでも見ていたい。もしくは、見ていない振りをしてずっと見る事も出来る。そうすれば、この景色を飽くまで見続ける事が出来る。そんな考えが彼の頭に思い浮かんだ。

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「だめえぇええ~~~~~~!! だめっだっっあははははははははははははははははははは!! もうだめぇえへへへへ!! んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひっっくひひっぎゃはははははははははははははははははははははは!」

 だが、彼はそれを決してしようとは思わない。自己の欲のために、他人の不幸を黙って見ている事など彼は出来ないのだ。
 迷ったのは一瞬。だが決断したのもまた一瞬であった。彼は両手に抱える素材を地面に置き、両手を開けると、背中に巻きつけていた一本の槍を手に持ち、槍を振りかぶり、全身を後ろへと大きくのけ反らせた。

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「ッッだぁああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 気合を入れる一言と共に、彼は振りかぶった槍を思いっきり前方へと投げつける。目標はリーンを捕らえている巨大な海生生物。
 投げ飛ばされた槍は風を切り裂きながらかなりの速度を持って一直線に飛んでいき、海上にいた巨大生物の中心部分を見事に貫いた。

 中心部分に風穴を開けられ、そこから血液と思わしき液体を大きく噴出する巨大海生生物は、貫かれて息絶えたのだろう。その上体は後ろへとゆっくり倒れて行き、浮いていた体は徐々に海へと沈み始める。

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「あははは…………はっっはは……」

 同時、リーンを戒めていた触手の拘束が緩み、彼女をくすぐりの魔の手から解放する。それを確認したノノは、海へ、正確にはリーンの元へと向かって全速力で走り始めた。道中で上着を脱げるだけ脱いでおく。ミイラ取りがミイラになってしまっては話にならない。
 あんだけくすぐられて、体力も消耗して、おまけとばかりに衣服を着たままでは、確実に彼女は溺れてしまう。抗うにも体力は残されていない筈だ。

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「間に合ってっ! 間に会えッッ!!」

少年は少女を助ける為に海へ飛び込んで行く。そんな彼の思う所は只一つだけ、

絶対に死なせない。




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「う、ん……はれ? ここ……は……?」




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「気が付いたみたいね。ここは私の家の私の部屋よ」




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「ん、私、なんでリーンの家なんかに……、て、あれ? 動けない……?」

 何故自分がここで寝ていたのか分からない。夢の中でなにかおぞましい物に追いかけられていた記憶がうっすらとあるが、まさかそれが関係している訳でもないか。と、シルアは辿りついていた事実を一蹴し、先程のアレは夢の出来事なのだと間違えた結論に達する。
 そのまま体を動かそうとした所で、手足が動かない事に気付いた。思わず手足に目をやると、肘かけに置いている手の手首部分と、足の太股部分に、ベルトのような物が巻き付いており、シルアの動きを阻害していたのが。その真偽のほどをリーンに問いかけようとした矢先、その答えが返ってくる。

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「ああ、アンタをちょっと拘束させてもらったわ。今からやる事を考えるとこの方が都合がいいから」




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「やる……事?」



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「ええ、アンタが私にやってくれた、と~~っても楽しい事を、アンタにもやってもらおうかなって」




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「私が……、やった、こ……と……っ!?」




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「あら、その顔じゃ気が付いたみたいね。知ってる? 私あの時、『降参』って一言も言わなかったのよ。つまり、まだ対決は続いていると言う訳」




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「え? まさかっっまさかだよね? わ、分かった!! 降参!! 降参する!! だから――」




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「あれ~~? 私、ちょっと耳が聞こえないみたい。さっき海水に思いっきり浸かってしまったからかもね~。アンタが何言ってるか、わかんないな~」




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「う、ウソつき!! 分かってるくせに!! 聞こえてるくせにー!! ちょっちょっとやめ――」




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「えい。スイッチオン」




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「ス、スイッチ……!? っひぃっ!!」

 怯えるシルアの目の前に現れたのは、数えるのも億劫になるぐらいの無数の小さなマジックハンドであった。
 それらは全てがワキワキと指を動かしながら、徐々にシルアへと近づいていく。

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「ちょっ! ちょっと本当にっっ本当にぃいぃひひひひひひひ!! きひゃっっあっあひゃぁ~~~~っ!! はっはは!! あははははははははははははっはははははは!!」

 マジックハンドが触れた途端、シルアは一瞬堪えたものの、直ぐに耐えきれなくなったのか、その口から可愛い笑い声を漏らし始めた。




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「それじゃ、アンタが降参って言うまで、ここでじっくり待つとしましょうか」




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「降参!! 降参~~~~ふっふふふふふ!!ふひゃぁあはははははっはははははは‼!くすぐったぃ~~~! くすぐったいからぁあ~~~~~~!!  降参する!! するからっっやめ!! とめてぇえええへっへへへへへ!! いやぁあははははっははははははっはははは こんなのっっこんなのぉおおおお!! んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」




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「ん~、全然聞こえないな~。どうしてかな~~」




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「馬鹿っっリーンの馬鹿ぁあああははッはッはははははははは!! あっそこだめへへっへへへへ!! そこくすぐっちゃらめぇええへっへへへへ!! やだっっやらぁああはっははははははっははははははははははははっははは!! おねがいとめてぇえええっへへへっへへへへ!! あはははっははははははっはははははは!! あはははははははははははは」

 意地の悪いリーンの態度にシルアは絶望する。同時、シルアの全身をくすぐるマジックハンドが、偶然にも彼女の弱点である下乳部分を刺激したのか、シルアは飛び跳ねる様に悶え、くすぐったそうに叫ぶ。

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「許して!! 謝るからゆるしひっひひひひひひひ!! ひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 許してぇぇ~~~~~~~~~!! あはははっはっはははははははははは!! こんなの耐えられないっっムリ!! むりぃいいいいいひひゃはははっはははっはははは!! あはははははははははははは!! 弱い!! そこは弱いのぉおおお~~~~!! いやはははっはははははははははははははは!!」




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「うーん、そうだなー。あと三時間ほどしたら、耳が聞こえるかもしれないわねー。それまで耳が聞こえないから、何か言われても反応できないなー」




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「うそっうそぉおぉ~~~~~~!! あははははっははははっはっははは!! あっあとっっあぁあははははっははははははははははは! 後三時間なんてむりっむひゅぁあああははっははっはははははは!! 三時間くすぐられるのなんてむりっぃいいいひひひひひひひ!! ひひゃぁああはははっははっははははははははは!! 狂う!! そんなのされたらっっされたらぁああははっははははははっはははははははは!!」




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「ん~? 何か言ってるように聞こえるけど、三時間は聞こえそうにないなー。残念」




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「そんなっそんなひゃぁあはははっははははっはははははははは!! なんでもする!! いくらでもあやまるからぁ~~~~~~~~!! もうやめっっこれとめてぇえへへへっへへへへ!! こんなくすぐったいのっったえられないよぉ~~~~っはははっははははははははははは!! あははははははは! あははははははははははははははははは!!」




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「あ! 言い忘れてたけど、そのマジックハンド、くすぐる度にどこが反応良いかとか学習するみたいだから、どんどんくすぐったくなるらしいわよ。助けたいけど、今助けても降参とか言ってないかもしれないし、やっぱり三時間後か~。あ~あ、シルア、狂わないようにね」




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「いやぁああははははははっははっははははははは!! んゃっっいぎゃはははははははははははははははははは!! やぁああああっっいやぁああああはははははははははははははは!! だめっっくすぐったぁあああ~~~~~~~~!!あっはぁあ~~~~~~!! っはっははっあはっはっあははは!! く、くくくくくすぐったぃ~~~~~~~~~~!!」












「……お嬢様、上で何やってるのかしら……?」

 台所で洗い物をしながら、メイド長であるマリアは上から所々聞こえてくる笑い声のようなものを聞き、ぼそっと呟いた。決して今日は二階以上に立ち入ってくるなと命を受けたので、その正体を探る事は出来なかったが、ロクでもない事をやっているのは確かなのだろう。

 しかしそれでも、マリアはこう口にするのだ。ああ、今日も平和ですねと。ロクでもない事が出来る程度の日常が、ここにはあるのだと。











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「「いただきま~す」」




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「はぁ……結局作っちまった……どこまで甘いんだよ、クソ」




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「ほら、それはアレだよ! 私達に惚れてるからなんじゃない?」




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「そんな言葉は自分の鏡をみて自分が美人かどうかをじっくり判断してから言うんだな」 




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「え? 美人じゃん。私もフェレリアも」




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「………………、そうかよ……」




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「あ! アンタ今疑ったわね!! いいえ! 言わなくても良いわ。その目が言ってる! そんな訳ないだろ、って。アンタ、自分が今どれだけ恵まれてる状況か分かって無いわね~。こんな美人を二人も家に済ませてるんだから。他の人なら泣いて喜ぶ状況よ、これ」




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「だったらその泣いて喜ぶ奴にコイツ等を渡してぇ……」




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「あ~、ダメだよ。私ジルの家以外の家で住む気ないから。フェレリアはどうか知らないけど」




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「私も他にいく所ないしね~。ここにいた方が面白そうだからココにいる事にするわ




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「………………ハァ、誰かコイツ等をなんとかしてくれ。もう疲れた……」




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「「ん? なんか言った?」」




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「……別に」












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「…………ふう! 今日はこれぐらいで終わりにしようかな。師匠、お疲れ様です」

「おう、お疲れさん、それにしてもなんだ? 森に行ってくるとか言いながら、帰って来た時は体中水塗れだったからてっきりあの富豪の娘と海水浴にでも行ってたのかと思えば、しっかりと骨や牙などの良い素材はしっかりと取って来てやがる。お前一体今日何してたんだ?」

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「え? え~っと……人助け、と……理性との戦い?」

「はぁ? なんだそりゃ?」

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「と、とりあえず、色々あったんです!! それと、り、リーンさんと、かかか、海水浴になんか行ける訳ないじゃないですか!! 

「今頃そこに突っ込むのかよ……」

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「そんな、リーンさんとデートなんて……そしてリーンさんの水着姿なんて……そりゃ興味はありますよ! 男として! 見たいか見たくないかって言われたら見たいって答えますよ! でも僕は絶対に彼女を邪な目で見ない事に決めてるんです! でも今日のあれは非常に良い物だったなっ……て違う!! そんな事を僕は言いたいんじゃない!! って、何一人で語ってるんだ僕は! 馬鹿じゃないのか!」

「あ~、自爆するのもこうまで酷いともう滑稽だな」

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「あっあぁああ~~~~~!! バカバカバカ! 考えるな! あの時のリーンさんの姿を思い出そうとするんじゃない僕のバカ頭~~~~~~~!!」 










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「だ、大丈夫かグレン。まだ頭が痛むか? 昼の事はすまなかった、私がパニックになっていたばかっりに……」




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「ああ、気にするな。誰にでもそう言うのはある。それに今は気が楽だ。この調子だと明日には回復してるだろう。……お前もずっと俺につきっきりで疲れたろう? 今日はもう部屋で休んだらどうだ? 」




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「い、いや!! こうなったのは私の責任だ! だ、だから……だから…………、きょ、今日は一日中、一日と言ってももう後少しで日が変わるが……とにかく、グレンの怪我が治るまで、私に世話をさせてくれ! それから、明日は一応休んでくれないか? 万全に仕事が出来る体調では無いのかもしれないし…………、いや、ダメならいいんだ……ダメなら……」




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「…………分かった。明日は体調回復に努めよう。だからそんなしおらしくなるな。お前らしくない」




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「う! ……ごめん」




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「いや謝る程の物でもないだろ……。それにしても」




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「それにしても、どうした?」



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「ミーナって、結構女らしい身体してたんだな」




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「……え!?」




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「いやあんな大剣を片手で振り回したりするもんだから、てっきり筋肉質かと思えば、結構柔らかい身体をしているなって抱きつかれた時思った――って、おい、その硬く握っている拳はなんだ? その拳をなんでこちらへ振りおろそうとしているんだ!?」




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「お、お前は……お前は……!! お前は私以外の女の身体を、なんで知っているんだーーーーーーーーーーー!!」




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「いやちがっそんな事はッ!! ガ、ハッッ!?」




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「ハァ……ハァ……! あ、ぐ、グレン!? あ、あぁあ~~~~~! またやってしまったぁあああああ!! うわぁあああグレンしっかりしてくれーーー!!」 












 八人の少年少女はそれぞれの日常を謳歌する。その過ごし方はそれぞれ違えど、楽しんでいる事だけは共通だった。
 これは、なんでもないただの日常の物語、何も起きず。何をする訳でもない。ただ彼、彼女達の一日の過ごし方を切り取った話を繋げただけの、なにも面白味もない。いたって普通の一日を覗いた物語。
 しかし、そんな普遍的な物語こそが必要である事を、彼、彼女達は知っていた。
 

ディメンジョン・ワールド  EXストーリー1 少女達の休日 END
 



















はい、ここまで読んでくれてありがとうございました。


前回上げたツクールSSの顔グラ付き版ですね。これが嬉しいと取るか嬉しくないと取るかは各人の自由ですが、個人的には楽しんで貰えたらいいな~と意見を述べておきます。

あ、あとこのSSで顔グラが付いてないキャラが幾分かいますが、それらはまだ細かい設定は決まっていないキャラなので、いくらでも変更が出来る様に敢えて表示していません。一人については決まっているのですが、もう一人は男か女かもまだ曖昧なんです。誰かは言いませんが。

そしてもう一つ、今までのキャラ紹介で紹介されてないメインキャラ達がいますが、彼、彼女等の紹介はまた今度の機会に、これでメインキャラが全員揃い、遂に満を持して彼女が紹介されますね。

では、今回の記事はここまで、また数日後に会いましょう、おつんでれ~





















ポポイさんのブログのルイズ改変、あれ僕もやって見ようかな~
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