(英エコノミスト誌 2014年8月23日号)
ウクライナ東部では、親ロシア派の反政府組織が形勢不利に陥る中で戦闘が激化し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の今後の狙いに新たな疑問符が突きつけられている。
人道支援物資を積んでロシアのカメンスク・シャフチンスキーに到着したトラックの上を飛ぶロシア軍のヘリコプター〔AFPBB News〕
ウクライナ国境からほど近い、ロシア領内の土ぼこりが舞う草原に、300台近いトラックの車列が夏の暑い日差しを浴びながら待機している。車列は8月14日に到着したが、これはウクライナ国内で起きている戦闘から見ればつけたしのようなものだった。
これは政治的な駆け引きの一手であり、(ロシア政府が言うような)純粋な人道的任務でも、(ウクライナ政府が恐れているような)ロシアの「平和維持軍」による侵略の序章でもない。
トラックとその積み荷自体が決定打になることはない。しかし、約2500人の犠牲者を出した3カ月に及ぶ紛争の最終局面に何らかの関わりを持つ可能性はある。
転機を迎えようとしている戦い
戦いは転機を迎えようとしている。ウクライナ軍は砲撃や爆撃を仕掛けて徐々に領土を奪還し、反政府組織を東部に追い詰めている。ラズムコフ・センターのオレクシー・メルニク氏は、キエフには「終わりまで突き進む」、つまり戦いを力づくで終わらせようとするムードが漂っていると言う。
軍事力の争いだけを見ても、ロシアから重火器や地上部隊が投入されない限り、ウクライナ政府に反旗を翻す武装集団は敗れ去るだろう。多くの犠牲者を出す可能性はあるが、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はロシアに譲歩することなく、戦場で勝利を収められるはずだ。
反政府組織内部では統制が失われつつある。ロシア政府が反政府組織に送り込んでいた高名な指導者を引き上げ、実戦経験がなく適任とは言えない地元出身者に置き換えているためだ。これらの人々はウクライナ東部の出身だという信頼性があるものの、能力も経験も不足している。
反政府組織の2大拠点であるドネツクとルガンスクは既に包囲されている。つまり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は厳しい選択を迫られる可能性があるということだ。その選択とは、反政府組織にさらなる武器と内密の支援を行うか、交渉による戦いの終結を目指すかのどちらかだ。前者の場合はあからさまな侵略に進展する可能性もあり、後者の場合は反政府組織への支援を取り下げ、地政学的な敗北という不名誉に直面することになる。
これはウクライナ(と西側の支援者たち)にも、選択を迫る事態だ。反政府活動の崩壊を狙って、ウクライナ軍および同軍とともに戦う軍勢が反政府組織に占拠された都市を迫撃砲やロケット弾で攻撃することを容認するか、(名目上か事実上かはともかく)プーチン大統領と何らかの取引を行い、戦いの終息を目指すかだ。