持続的な成長を実現するために、企業と投資家の間にどのような関係が必要なのかについて議論した経済産業省のレポート(伊藤レポート)が公表された。グローバルスタンダードに合わせ、8%を上回る高いROE(株主資本利益率)の実現が必要としている。
同省では、伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科教授を中心に、約1年にわたって議論を続けてきた。4月の中間報告を経て、この8月に最終報告をとりまとめた。
レポートでは、日本企業は高いイノベーション創出能力を持っているにも関わらず、収益力が低く、株価も低迷していると指摘。その理由のひとつとして、日本企業のダブルスタンダードをあげている。
投資家、特に海外の投資家に対して日本企業はROEの向上などを約束しているが、実際には社内の論理を優先し、社内外で説明を使い分けているという。こうした状況が投資家に見透かされ、日本市場に投資する投資家は、短期的な利益を狙う、いわゆる投機筋だけになってしまった可能性がある。
日本企業はしばしば、欧米企業との比較で短期的な利益を追求せず、長期的視野に立って経営を行ってきたといわれる。しかし本レポートでは、日本企業が本当に長期的視野に立って経営を行ってきたのかについては検証が必要であり、場合によっては、日本型の短期的経営を追求した結果、低収益が続いてきたと解釈することも可能と主張している。
実際、内外とのダブルスタンダードは、企業経営や資本市場の現場ではよく見られる光景である。海外に対して広く投資を募っておきながら、いざファンドが大量に購入すると、ハゲタカと呼んでバッシングするというのはその典型といえよう。
日本企業が投資家に対して、正々堂々と、経営権取得を目的とした投資は受け付けないと宣言していれば、そもそも株を買い占める投資家などいないはずである(米グーグルのように米国上場企業でありながら一般投資家には議決権の提供すら制限した企業もある)。それができないのは、投資家の間口を狭めてしまうと、株価の維持や資金調達ができないという自信のなさが背景にあると考えられる。
よく欧米との文化の違いが議論になるが、欧米は日本の企業文化を軽視しているわけではない。日本側が、あたかも、欧米と同じ文化であるかのように説明しておきながら、実際の行動がそれとは異なること(言行不一致)に対して、不公正さを感じているにすぎない。
本レポートは大雑把に言えば、グルーバルスタンダードにあわせて言行一致にすべきであると主張しており、日本企業のROEは8%程度まで高めるべきとしている。
この数字が、妥当なのかどうかは、議論が分かれるところかもしれないが、言行不一致を修正する必要があることだけは間違いないだろう。
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