広島土砂災害 「警戒区域」指定に全国“格差”
産経新聞 8月24日(日)18時0分配信
土砂災害の恐れがある「土砂災害危険箇所」を、住民の避難態勢を整備する「土砂災害警戒区域」などに切り替える取り組みが全国で進められているが、その進捗(しんちょく)を示す「指定率」は都道府県によって大きく差が出ている。指定が完了した県がある一方、10%台にとどまっているところもあるためだ。
■きっかけは平成11年の広島の土砂崩れ
警戒区域の指定には、地質調査や、防災情報をまとめたハザードマップ(災害予測地図)の作製による住民への危険周知といった条件があり、指定を通じて防災意識の向上が期待されている。だが、行政の人手不足や予算面などを理由に、切り替えが遅れているところも少なくない。警戒区域は、より危険性が高い区域は特別警戒区域として指定。特別警戒区域の場合、建物の移転勧告をすることもある。
この制度を創設するきっかけになったのは、平成11年6月に広島市と広島県呉市で起きた土砂崩れなどで31人が死亡した災害だ。これを機に制定された土砂災害防止法に基づく制度で、15年には広島県内13カ所で初の警戒区域の指定が行われた。
国土交通省によると、全国の土砂災害の危険箇所約52万カ所のうち、警戒区域に指定されているのは約7割の約35万カ所。
広島県内の危険箇所は全国最多の約3万2千カ所を抱えるが、指定率は約37%にとどまっている。県砂防課によると、住民説明などに手間がかかり、指定には2年以上かかることも。県の現状の態勢では、指定完了には20年近くかかる見通しだ。今回の土砂災害で被害のあった区域のうち指定されていたのは1区域のみ。残りの区域は「順番待ち」だった。
担当者によると、指定は公共施設がある地域や、過去に災害が起きた地域を優先。なかには「地価の下落につながる恐れがある」と住民が指定を拒み、調査に入れないケースもある。
■福岡などは100%
一方、すでに指定が完了しているのは、青森、山梨、福岡の3県。福岡県では専門職員5人を配置した上で、予算も数倍に増やした。
福岡県砂防課によると、21年7月の「中国・九州北部豪雨」による同県篠栗町での土砂災害で2人が死亡したことが指定に本腰を入れる契機になった。避難の重要性を実感してもらうビデオも自作し、住民理解を得るのに苦心したという。
片田敏孝群馬大教授(災害社会工学)は、「警戒区域を指定することで危険な場所に住んでいることの自覚が促され、住民は主体的に早めの行動を取るようになる。指定はかなり踏み込んだ防災政策といえる。なかには、地価下落などを嫌がる住民の合意がとれずに指定が進まない例もあるが、物理的な危険は同じで、本末転倒だ」と話している。
最終更新:8月24日(日)20時17分
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