(2014年8月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
西オーストラリアの僻地のピルバラ地域。世界最大の鉄鉱石積出港の隣にある埃っぽい工業団地は、これほど景気が悪かったことがない。
「町では賃貸料があまりに高くなったため、好景気が終わると、あらゆる場所で商売が次々倒れ始めた」。ポートヘドランドのおんぼろビル「ジェムズ」のオーナー、ジョー・ウッドワード氏はこう言う。ここは最近までポートヘドランドで唯一の合法的売春宿だったが、今では南京錠がかかった門に立ち退き通知が張られている。「ここではもう、何も売れませんよ」
ジェムズの廃業をはじめ、オーストラリアの鉱業投資ブームが終わってから店仕舞いした多くのピルバラのビジネスは、オーストラリアがその旗艦プロジェクトの1つを実現するのに苦労することを示唆している。
家族が住む持続可能な都市を建設する旗艦プロジェクトに黄色信号
ポートヘドランドと、隣接するカラサは、10年間にわたる鉱業ブームの最中に急成長した。中国の鉄鋼需要を満たすために必要な鉄鉱石鉱山や鉄道、港を開発・建設するために、大勢の労働者がピルバラに押し寄せたからだ。急成長する町は、重要な国家構想の試験台として選ばれた。資源産業の景気の波に左右されやすい僻地に、2035年までに人口5万人の持続可能な都市を2つ建設するプロジェクトだ。
ピルバラ地域にある鉄鉱石鉱山〔AFPBB News〕
西オーストラリアの「ピルバラ・シティーズ」計画は2010年、鉄鉱石ブームと沖合いの天然ガス発見で沸いた好景気のピーク時に打ち出された。人口が各1万5000人程度の埃っぽい鉱山都市を家族を引きつける生活圏に変えるために、新しい病院や道路、住宅に数十億ドルの資金がつぎ込まれた。
しかし今、鉱業関連の建設の落ち込みと最近の鉄鉱石価格の下落が旗艦プロジェクトの将来を脅かすとの不安が高まっている。
代わりの勤め先がない状況は今後も続くだろう。電力や輸送、水道の料金が高いことから、企業はなかなか僻地の都市に拠点を構えない。また、そうしたインフラは存在するものの、いずれも地域で活動する鉱業大手3社――BHPビリトン、リオ・ティント、フォーテスキュー・メタルズ――によって建設されたもので、各社はそのインフラを用心深く抱え込んでいる。
BHPとリオはピルバラ地域で数千キロの線路を所有・管理しており、他の鉱業企業が線路に対するアクセス開放を求めて起こした訴訟を成功裏に退けてきた。鉱業大手3社は皆、採石場の操業にかかる電力を賄うために自前の発電所を建設した。