(2014年8月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ユーロ圏は今年、意味のある回復を遂げると予想されてきたが・・・〔AFPBB News〕
ノーベル賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏が先日ドイツで、同国とその近隣諸国は「失われた10年」を経験するだろかと聞かれた時、その答えは明快だった。
「欧州は日本と同じ道をたどっているか、ということか? そうだ」。スティグリッツ氏はリンダウで開催された、ノーベル賞受賞者と経済学を専攻する学生たちの会合でこう述べた。「欧州の一部の国で起きていることを表現する唯一の言葉は恐慌だ」
ユーロ圏の回復が第2四半期に止まってしまったことを示す悲惨な国内総生産(GDP)統計や、7月にわずか0.4%と、4年半ぶりの低水準をつけたインフレ(消費者物価上昇率、前年同月比)は、世界第2位の経済圏に降りかかっている問題をはっきりと思い出させる材料だった。
低インフレと成長の欠如が新たな危機を招く恐れ
ユーロ圏が今年意味のある回復を示すという期待は色あせており、地政学的な緊張の高まりが今後数カ月間にわたって状況を悪化させるのではないかという懸念に取って代わられている。
直近の数字の先を見ても、全体像はもっと暗い。ユーロ圏のソブリン債務危機と銀行危機の最悪の状態は過ぎ去ったという期待とは裏腹に、ユーロ圏経済は依然として、2008年秋のリーマン・ブラザーズの破綻以前より規模が小さい。
ユーロ圏の一部の国で債務負担が気掛かりなほど高いため、低インフレと成長の欠如が新たな危機を招く恐れがある。そのため、インフレ率が当局の目標を大きく下回る中で、欧州中央銀行(ECB)に対して直ちに広範な資産買い取りに着手するよう求める声が激しさを増している。
ECBは、少なくとも年末までは量的緩和(QE)に着手せず、代わりに、ユーロ圏の銀行に対する最大1兆ユーロの低利融資をはじめ、6月に発表した一連の対策の効果を見極めたいとの意向をほのめかしてきた。さらにECBは、10月に結果が公表される、ユーロ圏の最大手銀行に対する健全性審査が投資家の信頼を高める助けになると考えている。
ECBの政策理事会としては、イングランド銀行や米連邦準備理事会(FRB)が利上げを考え始めているとの兆候によってユーロが下落し、通貨安が輸出を押し上げ、インフレ率を高めることも期待している。