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NHK女性記者大量退職があぶり出した「30歳の壁」

7月7日にエントリーした「【特ダネ】NHK女性記者15人が7月異動で大量退職の怪」の続報をお届けしたい。

NHKでは毎年7月の最終週に異動の内示があり、翌週に発令される。管理職以外のNHK全職員が加入する労働組合「日本放送労働組合」(日放労、組合員7200人、中村正敏委員長)に国際電話をかけた。

松原智樹中央書記長の説明によると、今年2~7月までに退職した女性記者職の数はカウントの仕方によって若干変わるが、合計で15~17人。

例年はカウントしていないが、今年は女性記者職の退職が目立ったため、人事局が数えてみたそうだ。退職理由は「育児」「病気」「親の介護」などいろいろだった。

数は増えたものの、女性記者職の離職率は例年に比べて今年がそれほど突出していたわけではない。NHKの女性記者職の割合は記者職全体の2~3割だが、6年前ぐらいに女性記者職の採用が4割を超えた年があった。

女性記者職の採用枠を増やしたというより、優秀な人材を採用したら結果的にそうなったそうだ。ちなみに、日放労の組合員のうち「報道」に分類されているのは約1千人という。

NHKでは以前から30歳前後の女性記者職が退職する「30歳の壁」が指摘されていた。

「30歳の壁」というのは筆者の造語だが、ちょうど大量採用された年代の女性記者がその「30歳の壁」にさしかかり退職。このため、数としては増えたという見方で一番妥当とみられているそうだ。

NHK記者職の異動パターンは、振り出しは地方局、20代後半で東京に戻ってくる。女性記者職の場合、30代に入って第1子を出産するケースが多い。

育児に手が掛かる時期になると、仕事か家庭かの選択に悩んで退職するというのが典型的な「30歳の壁」のパターンだ。

夫婦とも出稿部の記者職の場合、自然災害などの対応に駆り出される緊急事態を何度か繰り返して経験すると、「両立は無理」と妻の方が退職せざるを得なくなるようだ。

NHKでは昨年、「ワーク・ライフ・バランス推進事務局」を作って、事業所内託児所が実現可能かどうかを検討している。「病児保育」の希望が最も多いそうだ。

20代の女性記者職はかなりの時間を仕事にかけることができ、しかもそれにやりがいを感じている。しかし、第1子ができて育児に多くの時間を取られるようになると、24時間体制の出稿部での勤務は大きな負担になる。

もし、この時期に一時的に出稿部を離れ、子供が中学生になって手がかからなくなったら、出稿部に復帰できるようになれば、「30歳の壁」は解消できるかもしれない。そんな可能性も、労使の間で議論されているという。

NHKでは育児休職制度を導入し、かなり細かくバージョンアップしている。2009年4月には出産・育児、介護などによる離職対策として「キャリアリターン制度」を導入、退職時に登録しておけば面接や書類選考を経て再就職できるようにした。

昨年から、セキュリティを高めたパソコンと職場のコンピューター・ネットワークを結んだ在宅勤務制度を試験的に導入し、今年以降、できる部署から本試行に入るという。

松原中央書記長は「キャリアリターン制度の利用者はまだ、なかなかいないのが現状です。いくら制度があっても職場の意識を変えていかないと、なかなか生かすことができません。女性記者職の中には、子供を生んでも出稿部を離れたくないと望む方もいます。いろいろな世代、世代できちんと選択できることが重要です」と語る。

取材を通して筆者が受けた印象では、女性記者職の中にも、報道の使命を優先する「キャリア世代」、出産年齢ギリギリに第1子をもうける「駆け込み出産世代」、自然な流れにまかせて出産する「ナチュラル世代」があるようだ。

NHKの女性記者職の方々がナチュラルに「生んで育てて、働く」ことができ、その流れがニュースルームの意識を変え、報道の質や視点まで変えることができれば、日本も随分、明るく、暮らしやすくなるのでは、と思った。

(おわり)

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