中国海軍のJ-11BHが米海軍のP-8Aポセイドン哨戒機に異常接近をしかけました。

DoD Registers Concern to China for Dangerous Intercept(2014/8/23 国防総省)



(米海軍ジョン・カービィ報道官の会見)


中国機の異常な振る舞い


国防総省の発表によると、8月19日に海南島東方約217kmの国際空域上において、中国軍の武装ジェット戦闘機が定期飛行中の米海軍P-8A哨戒機に計3回にわたり異常接近したとのことです。
  • 1度目:P-8の下方約15〜30mを通過。
  • 2度目:P-8の機首に90度の角度で腹を見せながら通過。武装を誇示するためか。
  • 3度目:P-8の下方および横を通過。両者の翼端間は20フィート(約6m)。次に、上方約14mをバレルロール。

J-11BHとP-8A両者の距離は最短でわずか6m…。ほんの些細なミスで大事故につながっていたかもしれません。


何が問題か


軍用機同士の異常接近は重大事故を招く恐れがあるという点で避けるべきことではありますし、挑発的行為は慣習国際法に違反するものではあります。

ただ、2001年の海南島事件の際には実際にJ-8IIとEP-3Eが衝突してしまいましたが、米中両国がそれ以上の軍事的衝突を望まなかったためにエスカレーションには至りませんでした。今回も仮に両機が衝突していたとしても、それがすなわち米中軍事衝突に発展するかといえば、その蓋然性は高くなかったであろうと考えられます。

では、中国がたびたび自国周辺でこうした振る舞いを起こすことの何が問題視されているのでしょうか?

それは昨年11月に中国が東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定した際にも繰り返したことなのですが、自国防空のための「識別圏」であるはずのADIZを、さも領空であるかのように強制力を他国に行使しようという点です。公海や公海上空にランドパワー的発想を持ち込めば、米国が死活的に重要な国益だとしている「航行の自由」が阻害されることになります。これは、日米や多くの自由資本主義国にとって決して受け入れられないものなのです。

中国は南シナ海にはADIZを設定していない(少なくとも公表されていない)ので、今回はADIZ事案ではないにせよ、アラートしたいのであれば普通に警告すればよいのであって、異常接近したり曲芸飛行して「挑発」(カービィ報道官の会見より)する必要はまったくないのです。そもそも場所は公海上空ですから、穏便なアラートであっても無法な振る舞いであることに変わりはないですけども。

なお、今回事件に巻き込まれたP-8Aポセイドンは、昨年の中国によるADIZ設定から1カ月後に嘉手納に配備されたもので、「米国は中国のADIZを考慮しない」というメッセージのひとつでもあります。そういう意味で、P-8は中国にとって苦々しい存在だったのかもしれないですね。


リムパックで共同演習したばかり


米中は、多国間海上軍事演習「環太平洋合同演習(リムパック)」を終えたばかりです。両国が軍軍関係を重ねることで信頼醸成を育むことを目的としたものですが、あっさりと緊張は高まりました。

そもそもリムパックにおいて中国が非招待艦を派遣して演習情報を盗み見・盗み聞きするということがあり、米国内ではその時点で中国に対する不満が高まっていたりもしたので(関連記事)、今回の事案が発生したことに意外性を感じる人は少ないでしょう。

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オバマ政権の米国は、世界の警察たることを厭う傾向があります。米国が東シナ海・南シナ海でのアジア諸国との係争にどれだけ関与してくるかを不安視する声が日本やフィリピンなどでもありますが、中国が果敢に米国を巻き込もうとしているのは日本を含めたアジア諸国にとってはむしろ幸いですし、中国にとっては戦略的に悪手のように思います。それでもなお、こうした振る舞いを続ける根底には、正しいことをしているという認識(法解釈?)もあるのでしょう。

ADIZで他国の航空機に強制力を執行するという中国の考え方は、海でも見られます。排他的経済水域(EEZ)をあたかも領海の如く扱い、他国の船のアクセスを阻害することを当然と考えています。チャイナ・スタンダードを他国に押し付け、結果として「航行の自由」を侵害する限りにおいて、中国は世界秩序に挑戦する国家だと非難されても仕方ありません。



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