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鉄道“オープンデータ”始動

8月22日 19時35分

鈴木啓太記者

通勤や通学の時間帯などに電車が遅れて、時間に間に合うのか、気を揉む経験をした人は少なくないと思います。
こうした利用者の不満を少しでも解消しようと、電車が今どこを走っているのかなど、リアルタイムの情報を知ることができる、これまでにないサービスが生まれようとしています。経済部の鈴木啓太記者が伝えます。

鉄道会社として初のチャレンジ

電車は今どこを走っているのかなぁ」「運行が遅れている電車はあるのかしら」「電車を降りたら目的の出口までどう行けばいいんだろう

こうした疑問に答える情報を、東京を中心に地下鉄を走らせている「東京メトロ」が国内の鉄道会社としては初めて、一般に公開すると発表。賞金総額200万円で情報をうまく活用できるアプリの開発コンテストを開催することになったのです。

利用者がスマートフォンを通じ、地下鉄の運行情報をリアルタイムで入手できるようになれば、利便性が一気に高まる可能性があります。

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想像もしなかったサービスが生まれる可能性がある」 東京メトロの担当役員は今月19日の記者会見のなかでその意義を強調しました。

「運行情報の公開はテロリストを利することにならないか」 記者団からはこんな質問も飛びましたが、東京メトロ側は電車がどの駅とどの駅の間を走っているのかを公開するのであって、まさにその瞬間走っている地点を公開するわけではなく、すでに公開している海外の鉄道でも問題は起きていないと説明しました。

それではなぜ、東京メトロは重要な情報の一般公開に踏み切ったのでしょうか。それは国内の利用者はもちろん、日本を訪れる外国人にも、より便利で快適に地下鉄を利用してもらいたいと考えたからです。

東京メトロがアプリを自前で開発することも選択肢の一つでした。しかし、それでは時間とコストがかかるうえ、アプリ開発を外部に委ねたほうが革新的なサービスが生まれると期待したのです。

オープンデータとは何か

こうした取り組みはオープンデータと呼ばれ、すでに欧米では進んでいます。

オープンデータがこれまでのホームページなどによる情報公開と大きく異なるのは、「誰もが自由に利用できる形で公開する」ということです。

しかも、PDFのように書類を画像転換しただけでなく、生の数字やデータを機械的に取り込みやすい形で公開することで、2次利用を促し誰でもアプリ開発に利用しやすくするのが特徴です。

これまで行政などが管理していたデータを、誰でも自由に利用できるようにしたことで、新しいビジネスや研究に活用され始めているのです。

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例えば、アメリカでは気象関連のオープンデータを活用して、農家向けの収入保障保険を事業化したり、公的機関から入手した詳細なデータを盛り込んだ不動産情報を提供したりする企業もあります。

また、2012年にオリンピックが開かれたロンドンでは、交通局がオープンデータに踏み切ることで数多くのアプリの提供に成功。私も実際、鉄道マニアの技術者が作ったとされるサイトを見ましたが、刻一刻と変わる鉄道情報が手に取るように分かり、「便利だろうな」と思いました。

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専門家によりますと、今では120以上の国がオープンデータを提供しています。

こうした世界的な流れに2013年のG8サミットでは、「オープンデータ憲章」で合意し、各国の取り組みを促しました。

日本政府も「オープンデータの推進」を成長戦略に掲げ、これまで1万件以上のデータを公表し、今後、さらに情報量を増やしていくとしています。さらに、各省庁がもつ統計や防災情報などを一括して検索できるサイトを今秋にも本格的に運用する方針です。

これまでにないサービス誕生に期待

東京メトロの場合、どういったアプリが生まれるのでしょうか。

例えば、電車が今、走っている位置情報をリアルタイムで、スマートフォンの地図に表示することが可能になります。次の列車がいつ来るのかや、トラブルで止まった場合の運転再開のタイミングなどを見通しやすくなります。

このほか、訪日外国人向けにさまざまな言語で運行情報を提供したり、目の不自由な人向けに運行情報を音声に変換したりできます。災害など緊急時には、どの路線が不通になっているのか把握することで、効率的な救援活動につなげたりすることが考えられます。

これはあくまで想定される例で、もっと斬新な発想のサービスが生まれてくる可能性があります。

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課題も残るが…

実は専門家の中には、今回の東京メトロの運行情報の公開は厳密な意味でのオープンデータにはあたらないという指摘も出ています。

オープンデータは、情報を提供する行政や企業は、情報の精度などには責任を持つものの、開発されたアプリについては一切関与しないのが原則ですが、今回の東京メトロのコンテストでは応募した作品に商業利用を制限したりしているからです。

今後は東京メトロ以外の鉄道会社にデータの公開が広がるかも課題です。最近は路線の相互乗り入れが拡大し、地下鉄路線の先がどうなっているのか分からなければ、利用者には不便さが残るからです。

しかし、行政や企業が情報を公開することで新たな可能性が広がろうとしていることは事実です。こうした取り組みの広がりに期待しながら取材を続けたいと考えています。


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