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日産のCEOカルロス・ゴーン氏:波風を起こすのを恐れるな
Inc.:国際的なものづくり企業の最高執行責任者(COO)になった初日のことを想像してください。あなたは外国の企業に来て、その国の言葉も話せません。会社の工場がどこにあるかも知りません。
これは、1999年に日産自動車(以下、日産)に着任したカルロス・ゴーンが体験したことです。カルチャーショックも大変でしたが、もっと悪いことに、当時、日産は27年間にわたる市場シェアの縮小のせいで、200億ドルもの負債を抱えていました。
現在、日産は好調であり、2013年の販売台数は510万台に達しました。ゴーン氏が来た年の販売台数が260万台だったのに比べて大きな躍進です。2013年度の利益は40億ドルに達する見込みです。現在、ルノー・日産アライアンスのCEOである、このブラジル生まれの実業家は、日産を電気自動車と自動運転車におけるリーダーにしようとしています。
ゴーン氏は、これらの業績を、社会通念に逆らうことで達成しました。1月の「View From the Top talk」で、ゴーン氏は、外国でビジネスリーダーになる困難さと、その国に文化規範に従うことが必ずしも良いとは言えない理由について語りました。
慣習に従うな
「世界でビジネスをしたいなら、その国の文化を尊重すべきです」とゴーン氏は言います。とはいえ、彼が社会通念に従っていれば、成功していなかったでしょう。
「『日本の工場を閉鎖してはいけない。日本で終身雇用を破棄してはならない。日本で年功序列システムを壊してはいけない。日本で若い人間を部門のトップにしてはいけない』こうした長大な『してはいけない』リストがありました」とゴーン氏。それでも、彼は日本のビジネス慣行に背きました。21000人(全従業員の14%)を解雇し、5つの国内工場を閉鎖、宇宙航空部門のような花型事業も売却しました。
コンサルタントを信じるな
現代のビジネス環境では、強力なコンサルティング・ファームの存在が不可欠です。有能なコンサルタントは斬新で素晴らしいプランを提案してくれます。ところが、ゴーン氏は多くのコンサルティング・ファームからアプローチを受けながら、すべて断りました。
従業員から受け入れられなければ、どんなによく練られたプランでも失敗します。そして、受け入れられるには、解決策が社内から上がってくる必要がある、と彼は言います。「計画の立案は仕事の5%に過ぎず、残る95%は計画の実行にかかっている。最後には、プロセスを着実に実行できる規律ある組織が勝者となる」
耳を傾け、さらに耳を傾ける
「解決策を見つける最良の方法は、できるだけ多くの人から話を聴くことです。とくに、重要工程に従事している人々から」とゴーン氏。「重要工程や、その周辺で働く人のところへ出向き、彼らの話を聴くべきです。そして、『なにが悪いのか? あなたは何が悪いと思う? どうしたら改善できる?』と尋ねてください」 実際、ゴーン氏は日産の何百人もの従業員から話を聴き、改革プランを作りました。現場の声を聴くことで、日産の最大の弱点が購買コストと生産力過剰だと気づいたのです。
波風を立てるのを恐れない
「誰も、日本国内の工場閉鎖について話したがりませんでした。なぜか? それは聖域だったからです」しかし、ゴーン氏は閉鎖に踏み切りました。また、サプライチェーンを切り詰め、アナリストから「市民の怒りを買う」とまで言われました。サプライヤーと手を切るのは、日本では慣行を破ることを意味します。バイヤー企業とサプライヤー企業は「系列」と呼ばれるネットワークでがっちりと結びついています。ゴーン氏が着任するまで、日産は原材料となる鋼鉄の25%をたった一社から買っていました。彼はこの比率を10%以下に引き下げました。また、日産の役員たちは同社の中核製品に疎いように見えました。そこでゴーン氏は、定例の役員会議を新車の試乗ができるテストコースで開くことにしました。ゴーン氏自身はさらに一歩先を行きました。日産の車と競合他社の車を、時速190キロ以上で運転したのです。
結果にコミットする
改革のために古い慣行を捨てねばならないのなら、上司は率直にそう部下に話す必要があります。これから何をしようとしているのかを説明し、結果にコミットしてください、とゴーン氏。コミットメントなき改革は誰もが嫌がります。「コミットメントがなければ、部下たちは疑心暗鬼になるだけです。それが日産で起きていたことです」
合併ではなく提携する
ルノーと日産の「提携」は異例のことでした。それは、パートナーシップ以上、合併以下と言えるものです。文化が異なる企業同士の提携はパワフルです。それぞれの文化と強みを持ち寄れるからです、とゴーン氏。合併してしまえば、多様性がもたらす恩恵を得られなくなります。「違う文化を持つ企業が一緒に働く限り、それぞれの強みを引き出すことができるのです」
Nissan CEO: Don't Fear Making Waves|Inc.
Bill Snyder(訳:伊藤貴之)
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- 日経ビジネス経営教室 カルロス・ゴーン リーダーシップ論
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