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himaginaryの日記

2014-08-22

様々なマクロ経済学の世迷言に騙されないための素朴なケインズ経済学

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というエントリをデロングが書いている(原題は「Naive Keynesianism to Keep You from Believing Macroeconomic Idiocy of Various Kinds: A Useful Graph for Jackson Hole Weekend: Thursday Focus for August 21, 2014」)。そこでデロングは、輸出、企業の設備・ソフトウエア投資政府購買、住宅建設という四大需要項目を、潜在GDPにおける比率の直近の景気循環のピークからの乖離として描画した以下の図を示している。

この図からデロングは以下の9つの教訓を引き出している*1

  1. 雇用が低迷し賃金が伸びないのは、米国の企業や労働者世界市場での競争力が低いためだ、という議論は、輸出のシェアの伸びと矛盾する。
  2. 雇用が低迷し賃金が伸びないのは、米国企業が「不確実性」――就中、オバマケアによってもたらされた「不確実性」――を恐れるためだ、という議論は、設備投資の伸び(や高株価)と矛盾する。
  3. オバマ政権の住宅政策は、住宅金融の機能を通常状態に戻すのに十分だった、という議論は成立しない。住宅バブルの6年間の過剰投資は平均してGDPの0.75%で、合計4.5%ポイント年。バブル崩壊以降の7年間の過少投資は平均してGDPの2%で、合計16%ポイント年であり*2、現在価格にして2.6兆ドル。従って米国の住宅は長期の成長トレンドからかなり下にある。ペントアップ需要による回復を妨げているのは住宅金融の機能不全が続いているため。
  4. 2013年には緊縮財政による政府購買が需要不足要因として住宅を上回った。政府の規模縮小が民間部門のクラウドインにより民間経済の成長を刺激するという触れ込みだったが、そのための経路の一つである金利低下は、2008年以降これ以上進みようのない状況にある*3
  5. 上図の4大需要項目が合計して需要不足になっているのに加えて、消費支出トレンドより下にあることを考え合わせれば、米国経済の停滞は完全に説明がつく。消費支出が振るわないのは、第一に所得が減少してトレンドを下回って推移しているためであり、第二に依然として過剰債務を抱えている家計の債務負担のためである。
  6. FRBが需要の均衡を取り戻すのは非常に難しい状況にあるため、財政政策で政府購買を増加させ、住宅政策で不動産金融を機能させるようにして経済を少しでも健康体に近づけるべし、という議論には説得力がある。
  7. 住宅バブルの崩壊ではなく金融危機こそが今回の惨事を招いた第一奏者だ、という議論にも説得力がある。住宅建設のピークは2005年であり、それから2008年第3四半期までの間、市場は景気循環の山を越えつつ、住宅部門の不均衡をこれ以上うまくいくとは考えられないほどうまくこなした。建設向けの貸出需要が緩和したため金利は低下し、輸出と設備投資が建設部門の縮小に伴う遊休資源を吸収した。米国経済が完全に景気後退入りした時点とNBERの景気日付判定委員会が判定したのは、2008年第4四半期の半ばを過ぎたところである。
  8. 図からは、オバマ政権の米国再生法がまったく不十分であったことが示される。2008年後半のショックで引き起こされた需要不足は、潜在GDPの4%程度だった。いわゆる刺激策は総額8000億ドルで、その中には効果の乏しい3000億ドルの税優遇措置が含まれていたほか、2009年前半から始まった国や地方の緊縮策によって少なくとも半分は相殺された。CEAを率いていたクリスティーナ・ローマーは、万全を期すならば3年間で1.8兆ドルが適切ではないか、と2008年末に見積もったが*4、それに比べれば実際に供給された2500億ドルの刺激策はいかにも少ない。ゼロよりかなりましだとはいえ、必要額をかなり下回っていた。
  9. 政策的に政府購買と住宅金融回復に失敗した以上、FRB資産購入の縮小を始めるのは時期尚早。ましてや資産売却や金利引き上げを考えるのはもってのほかインフレ期待が上放れしたという証拠が一切存在していない時期であることを考えると尚更のこと。

デロングはこのエントリを「That is all. It should be enough.」という言葉で結んでいる。


なお、このエントリを転載したデロングのブログのコメント欄では、ロバート・ワルドマンをはじめとして幾人かのコメンターが、住宅金融が壊れている、というデロングの認識に異議を申し立てている。ワルドマンはまた、住宅バブルが20世紀中に始まっていたと考えれば、住宅がトレンドより下という議論は成り立たない、とも指摘している。

*1:なお、このエントリにリンクした下記の本石町日記さんのツイートを読むと、恰もマネタリズムノイズとしてデロングが否定しているかのように受け取られかねないが、文中にはそういった記述は存在しない。

*2:14%ポイント年?

*3ここで紹介したMarcus Nunesとの「論争」を考えると、デロングがこうした主張をするのは皮肉な気もする。

*4cf. ここ。そこで紹介した記事によると、ローマーのその見積もりを握りつぶしたのは、他ならぬデロングが忠誠を誓うサマーズだったという話だが…。

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