漫才コンビ「キングコング」のツッコミとして、バラエティ番組等で活躍。芸人としてだけではなく、俳優や絵本作家としての才能を発揮している西野亮廣さん。また、最近ではSNSやクラウドファンディングを活用して活動しており、異色の芸人として注目を集めている。
そんな西野さんが、学校を主催し、校長になるという。「
サーカス!」という名のその学校は、芸人や企業の社長などが先生となり授業を披露する。
西野さんは以前から教育に興味があったのだろうか。また、西野さんにとって勉強とはどんな存在だったのだろうか。
大人になって気づいた、学生時代に勉強がつまらなかった理由
――西野さんは学生時代、勉強が面白くなかったそうですが、何が面白くなかったですか?
西野:一学年200人くらいの学校で、順位がずっと下から10番目くらいだったんです。不登校や不良だったら言い訳もできたでしょうけど、僕は毎日ちゃんと学校に行って、ちゃんと授業を受けてた。アホやったんですよ。ただただ先生の言ってることが分からなくて、「勉強って面白くないなぁ」と思って、お笑いに行ったんです。
この世界に入ると、色んな方とお話をさせていただく機会があります。
ダイノジ大谷さんの音楽の話とか、
ロザンさんの歴史の話とか、
米村でんじろう先生の科学の話とか、めっちゃくちゃ面白いんですよ。面白いとその先が気になるから、家帰って調べる。その時「今の俺、むっちゃ勉強に前のめりになってるやん!」って気づいたんです。
そこで「なんであの時、勉強が面白くなかったんかなぁ」と考えたんです。そして、「勉強は絶対に面白いけど、先生の喋り方が下手だったんじゃないか」と思いました。単純に先生が人気ないというか、先生の生き様が退屈に思えたのかな。見た目もそうだし、まず声が小さかったりして、先生って喋り手としては点数高くないんじゃいかと。
知識の量が10あっても喋る能力が1だったら、やっぱり1しか伝わらないじゃないですか。だから、学校の先生は喋る能力がある人ばっかり集めたらいいんじゃないかって。
――それに気づいたのは、西野さんが芸人になって、喋りの面白さの必要性に気づいたからですか?
西野:例えば舞台とか漫才でも、1年目の人ってまず手のやり場に困ってるんですよ。でも、そのままでお客さんの前に立ってると、お客さんが減っていく現実にぶち当たる。つまらないから話を聞いてもらえないんです。だから芸人は「ここで声をはろう」「ここでお客さんに顔を向けよう」と、そういうことをずっと研究して毎日実践してます。
でも、学校の先生はそういうことしてないんじゃないかな。人気のなかった先生ってボソボソ喋るし、ずっと黒板に向かって、生徒に背を向けてるじゃないですか。そんなことは芸人の世界では、まずありえない。中にはそういうところがキチンとできてる先生もいらっしゃって、そんな先生の授業は僕、ちゃんと聞いてたんですよね。その先生が好きだから、面白いから聞いてたんです。
もう、本音を言っちゃいますね。例えば、50代の女性の先生と20代の教育実習生の女性がいたら、教育実習生の話を聞きますよね。女性でも、70代のハゲた先生より20代のイケメン先生の話が聞きたいよな、と。残念ながらそれは絶対に平等じゃない(笑)。言ってしまえば、見た目も話し手の能力の一つなんですよ。伝える側の能力ってすごく大事なんです。
勉強は「楽しいこと」「ためになること」のはず
――では、現在のお話をうかがいます。仕事の場で勉強をしてる感覚はありますか?
西野: 現場に行くと新しい発見はたくさんあります。本を読む以上の情報量がありますから。でも、勉強しようと思ってしてる感覚はないですね。
なるべく同じ場所にいないようには心がけてます。同年代とずっと一緒にいると、あまり新しい情報が入ってこないから。新しい情報を入れ続けるようにしてます。でも、それは意識的にしてるからというよりは、楽しいからなんですよね。
――ということは、勉強には「楽しさ」が必要ということでしょうか?
西野:それは絶対にそうだと思います。何事も楽しくないとやらないですよね。
この間読んだ本に書いてあったんですけど、「善」という言葉は、ギリシャ語では「ためになる」という意味らしいんですよ。反対の「悪」は「ためにならない」。ギリシャ語では、善悪は道徳的な善し悪しではなく「ためになるかどうか」なんです。「人は『善』、つまり自分のためになることでしか動かない」と書いてあって、腑に落ちました。
勉強は長い目で見たらためになるんでしょうけど、勉強してる瞬間は退屈で、ためになるとは思えないんですよね。だから勉強しない。「こんな公式覚えて、数学って何の役に立つねん」と(笑)。でも「勉強してる時間を楽しいと思える」というメリットがあれば、勉強するんじゃないかって。極端に言えば、「今勉強してるのが楽しい」と思えれば、その勉強が将来役に立たなくてもいいと思うんですよ。
――色々な人と関わったり本を読んだりするのは、いつ始めたことですか?何かきっかけがあったのでしょうか?
西野:僕が20歳の時に『
はねるのトびら』がスタートしました。これは、フジテレビが「ダウンタウンさんやとんねるずさんのようなスターを、再びコント番組から生み出そう」と考えて始まった番組です。
この番組の中で、僕は仕切りのポジション。本当は海に落ちたり、ムエタイ選手に蹴られたりしたかったんです。その方がおいしいから(笑)。でも番組はチームでつくりますから、海に落ちた人をいじる人がいないと面白くない。「まあ、スターになれるならいいか」と思ってました。
5年くらい我慢してたらゴールデンに上がって、視聴率も毎週25%くらい取ってたんですよ。でも「有名になったし生活も豊かになったけど、スターにはなってないな」と思って。「打席に立たせてもらってるのにホームラン打ってないってことは、俺はホームランを打てない人間じゃないか」と、悩んじゃったんですよ。
そこで、マネージャーと梶原(相方の梶原雄太さん)に「グルメ番組やひな壇は辞めて、『はねる〜』に集中したい」と言ったんです。そしたら週5日くらい暇になっちゃって(笑)。
その時に、「突き抜けるためには既存のものに乗っかるんじゃなくて、フォーマットをつくらないとダメだ」と気づきました。でも、何を始めるにしても手持ちの情報が少なすぎる。だから色んなところに行って、色んな方と話したんです。そうしたら、選択肢がどんどん増えるんですよね。
例えば、クラウドファンディングを知ってる人とそうでない人には、雲泥の差がありますよね。普通、何か面白いことを実行したい時には、ひたすら企画書を書くか、偉い人の許可を得るか、自分が圧倒的に出世しなきゃいけない。でもクラウドファンディングを知っていれば、企画さえ面白ければ資金を募れる。やりたいと思ったことを実現できる手段を知っているかどうかで差がつく。知識があれば、選択肢を増やせば、面白いことができるんですよ。
――西野さんは絵本をつくったり、SNSを利用したチケット販売をされたりと、芸人さんの中では異色なことをなさっています。そうしたことをしている今は、昔と比べていかがですか?
西野:毎日楽しいですね。母ちゃんは心配してますけどね。母ちゃんは、普通にグルメ番組とかで息子を見たいらしいです(笑)。
ホームレス芸人小谷は、現代のディオゲネス
――西野さんの周りで、日々勉強している芸人さんはいらっしゃいますか?
西野:
ホームレス芸人の小谷ですね(小谷さんは西野さんと同居していた後輩芸人。2013年6月に家賃を滞納したため追い出され、現在は「ホームレス芸人」を名乗って活動している)。すごい勢いで物事を吸収してますね。彼は今、僕が日本で一番面白いと思う芸人です。
この地球上で一番人を支配してる人って、アメリカ人でもどこかの大統領でもなく、赤ちゃんだと思うんですよね。赤ちゃんは生まれた瞬間に、まず親の時間やお金を支配しちゃうじゃないですか。親は無償で世話するわけですから。親だけじゃなく、兄弟姉妹や近所の人も。なぜかというと、赤ちゃんは弱いから面倒を見ないと死んじゃう。赤ちゃんは弱さで人を支配しているわけです。弱さは強さなんですよ。
僕らは大人になっていく過程で自立していって、生きていく強さを身につけますけど、同時に弱さによる支配力は弱まっていきますよね。でも、まれに大人になってもそれを失っていないヤツがいる。それが小谷です。
家入さん(実業家の
家入一真さん。2014年、東京都知事選に立候補したことでも有名)もそうかな。みんなが彼らに文句言いながら、自分のお金や時間、スキルを使っちゃう。これは才能ですよ。
小谷はホームレスを職業にしちゃったんですよね。まるで赤ちゃんの面倒を見るように、みんなに面倒を見てもらえる状況をつくったんですよ。彼はホームレスになってから1年で12kg太って、美人の嫁さんをもらいました(笑)。クラウドファンディングでお金を集めて結婚式をして、余ったお金は、今年始めにフィリピン台風の義援金として約100万円を寄付してます。
僕は小谷に「お前はお金を持っちゃダメ。お金を持つと強くなるから」と言ってます。「クラウドファンディングで集めたお金は全部使えよ」と言って、結婚式の最後に「小谷は2週間後にフィリピンに行って、残りのお金を寄付してきます!」と発表しました。フィリピンに100万円寄付した人ってなかなかいないと思うんですよね。しかもホームレスで(笑)。
「支配」というと権力や腕力、知識などを思い浮かべるでしょうが、それらを全部取っ払って、赤ちゃんに近い状態になった方が支配できることもあるんです。
古代ギリシャに
ディオゲネスという哲学者がいたんです。まぁ変な人で、酒樽に住んでたんですよ(笑)。物もお金も持たないし、ボロい服を平気で着るし、外で自慰行為までするし。ホンマ最低な野郎です。
そいつに、時の王・アレクサンドロスが挨拶に来いと言うんですよ。でもディオゲネスは行かない。だからアレクサンドロスが、世界侵略をしようかという大王が、汚い格好のディオゲネスまで出向いて「挨拶に来ないとは無礼だ。無礼を働いたら殺すぞ。私が怖くないのか」と言うんです。ディオゲネスは「では、あなたは善人か悪人か」と返す。アレクサンドロスが「私は善人だ」と言ったら「じゃあ怖くない」と。
ここでいう「善人」は、先ほど言った「自分のためになることをする人」ですね。ディオゲネスは「あなたは自分のためにすることしかしない。あなたが私を殺しても、何のためにもならない。私を殺すのはあなたのためにならないばかりか、私を殺したらあなたは悪人になりますよ」と論破するんですよ。
それにアレクサンドロスは感心して、「お前おもろいから、一つ何でも願い事を叶えてやる」と言うんですね。そこでディオゲネスが何て言ったかというと「あなたがそこにいると日の光を遮るから、どいてください」と(笑)。アレクサンドロスは完敗ですよね。自分より弱くて何も持ってないヤツに、完全に支配されている。だから小谷は現代のディオゲネスです。日本人の中では最強ですね。