後輩鼎談に続いては「同僚対談」。
Corneliusこと小山田圭吾と、まりんこと砂原良徳。
テイ・トウワとは、O/S/T、そしてMETAFIVEで競演を重ねるふたりが登場。
90年代に遡る出会いから、楽曲データのやりとりから見えてきたというTTサウンドの秘密まで、
METAFIVEのリハーサルを前に話を聞きました。
取材/写真 江森丈晃
左から、砂原良徳、小山田圭吾。
砂原良徳(以下S) 最初に会ったのは90年代の中盤です。直接は知らなかったんですけど、僕の前にピエール瀧が知り合いになってて、僕がニューヨークに遊びにいくっていう時に「お前、会ってきたら?」って言われて。
──さすがの識見ですね。
S ね。何か共通のものを感じてくれたんだろうね。そのときはGEISHA GIRLSのレコーディングしてましたね。スタジオに呼ばれたらまさにその現場で。もちろん(テイさんのことは)その前から知ってましたよ。坂本龍一のラジオ(FM『サウンドストリート』)で紹介されたデモ音源も好きだったし、1987年にFuji AV Auditionのコンテストで優勝したときの映像作品(「NEIGHBORHOOD ON THE BPM112」)も覚えていたし。
小山田圭吾(以下O) あの映像作品は僕もすごいと思った。Deee-Liteでデビューする前だよね。ラジカセを持っていろんな場所にいって、路上の人たちに歌ってもらって、それがどんどん繋がっていくっていう。
──ファレル(Pharrell Williams)より四半世紀も早い。
O あ、確かに「Happy」みたいな感覚はあるかも。
S でもあれより全然生々しいんだよね。当時のニューヨークのパワーもすごいし。ヒップホップもテクノも入ってて。
──ナム・ジュン・パイク的な。
S それはある! 影響としても絶対にあると思う。あそこからDeee-Liteにつながっていくラインというのもハッキリ見える内容で。だからテイさんがDeee-Liteでデビューしたときも、なるべくしてなったなって感じでしたね。意外だったのは、僕の予想以上に音楽の世界にいったこと。ここまで音楽中心にやっていくとは思っていなかったし、むしろ(立花)ハジメさんみたいな立ち位置にいく人だと思ってたから。
──小山田さんの出会いというは?
O 実際に連絡をもらって会ったりするのはリミックス(「Butterfly - Cornelius Remix」)を頼まれてからかな。その前でもどこかのスタジオで挨拶ぐらいはしたことがあったんだけど。……テイさんはオン/オフがすごくハッキリしているのが面白いんだよね。ふだんはフランクっていうか、ぶっちゃけっていうか、「メシ食った? おれ牛丼食って帰るわ~」みたいな人なんだけど(笑)……
S 「そこに美味しいラーメンの本があるから読んでいいよ」とかね(笑)。
O でもDJとか取材の時間になると、サッとサングラスをかけて、「さ、営業営業」って(笑)。
S でも、そこにもテイさんならではのこだわりとか美学みたいなものがあって、ラーメンを食べにいくのに遠くの店までわざわざタクシー飛ばしていくとかさ(笑)。
O 温泉とか、サウナとかもね。そういうオジサンみたいな場所にもテイさんらしさを持ち込んでる気がする(笑)。リハ終わると速攻で温泉だもんね。taicoclubの時もMETAFIVEの楽屋として民宿を借りてたんだけど、テイさん何度も風呂入ってたもんね。着いて風呂、ごはんの前に風呂(笑)。あと、バリでガムラン録ってきちゃったりとか(アカシック・レコードのV.A.『ar』やSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE『SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE』に収録)、音楽にもそういうリラクシンな感じが出てるよね。
──あくまで「リラクシン」であって「ドラッギー」ではないんですよね。
O でも、両方入ってるんじゃないかな。ケミカル系のドラッギーではまったくないけど、〈天然ドラッギー〉だとは思う。わかりやすいサイケ感みたいなのはないかわりに、たまに温泉の効能が効きすぎちゃってる部分があるというか(笑)。
S 聴いてて「うわぁ!」って思う瞬間があるよね。
O 会って話すぶんには僕らと変わらないような気がするけど、見てる風景はだいぶ違うんだろうなぁっていう。
──競演者としては、やっぱり視点の違う人のほうが面白いものができやすいというのはありますか?
O まったく違うと駄目だけどね。適度に近くて違うっていうのが一番いいと思う。違いを認め合いながらわかるって感じ。テイさんは日本の音楽シーンを俯瞰しながら活動してる感じとかもいいなぁって思うし。
──俯瞰の視点はCorneliusにもありますよね?
O うん、そこが似てるといえば似てるところなのかな。共感できる部分だね。
S テイさんはホント独特だよ。すごく大きなフォルダに整理されたとしたら、僕も小山田くんもテイさんと同じフォルダに入ると思うんだけど、そういう僕らから見てもかなり面白い人だと感じるし。
──ちなみにそのフォルダの外には何があるんですか?
S 自民党とか?
O アハハハハ(笑)!
S 音楽でいえば、AKB銀河とかEXILE星雲があるわけですよ。要は僕ら以外のすべて(笑)。
──テーブルにはテイさんの〈宇宙〉が並んでいますが。
S (年代順に並べられたCDを眺めて)壮観ですね。『FLASH』以降は帯のデザインも揃ってるんだね。こういう表現は普通の人より大きな視点で人生を眺めてないとできない気がする。
O (笑)そうだよね。
S 音だけじゃなく、アートワークのこととかも諦めないでやってる感じがやっぱすごい。アルバムも枚数を出していくとアイデアも枯渇していって、どんどんシンプルになっていったりとかするじゃん。
──砂原さんのシンプルさというのは諦めた結果なんですか?
O アハハハハ(笑)!
S まぁ、諦めたっていうか、一応あそこにもアイデアは入ってるんですけどね。
──それはもちろん! 完全に諦めた人にこんな質問できませんよ。
O 「諦めた」って答えておいたほうが面白いのに!(笑)。
S (笑)まぁ、諦めもありつつで。
O 確かにテイさんは最初にスタイルを決めてるよね。すごくコンセプチャルだと思う。
S 『FLASH』から『SUNNY』までが三部作だから、今回の『LUCKY』でまたガラッと変わってもよかったと思うんだけど、そこまで大きくは変わってないね。
O でも、たぶん何年か後に振り返った時にきちんと色分けできるようなものをこれから出すんだと思うな。ここ(『LUCKY』)からまた連作が続いていくのかもしれない。
──おふたりが同じことをやろうとすると、3部作を終える頃には……
S おじいさんになってるね(笑)。僕が「テイさん新作は?」と訊いても「まりんは?」って返されて、僕が黙って話が終わるっていう。
O 最近はあんまりそんなこと言ってくれる人も少なくなってきてるから(笑)。でも、テイさんはつくってるからね。たまに話を聞くと、「またつくってるの? こないだ出たばっかじゃん!」って思うもん(笑)。
S (『Future Listening!』を手に取って)やっぱりこのアルバムは大きかったよね。今から考えてもすごいもんだと思う。やっぱりコラージュ感というか〈混ぜかた〉がすごい。テイさんは「これとこれを混ぜたらどうなるんだろう?」って感覚が、ちょっと普通の人と違うと思うんですよ。料理とかでもあるじゃないですか。ちょっと前までは、これとこれは合わないとされていたものが実は美味しい、みたいな。そういう組み合わせの妙というのを捉える能力がすごく高いというか。
O 「Technova」だってラウンジ・ブームの随分前だもんね。
S そうだよね。「Technova」はビックリしたな。曲も好きだし、構造的な面白さにもグッとくるし。普通にちょっとブラコンぽい曲でも好きなものはたくさんあるんですけど、この曲には、さっきも話した『サウンドストリート』でかかってたデモの曲とか、Deee-Liteの「What Is Love?」を初めて聴いた時に近い衝撃を感じた。「なんだかよくわからないけどカッコいい!」っていう。そこに加えて、ミックスとかのセンスも飛び抜けてたし。あの音はすごいですよ。音の数も少ないし、もしかしたら簡単に聴こえるかもしれないけど、簡単では全然ないです。これはデータのやりとりをするようになってハッキリしたことなんですけど、テイさんは音のつくりがとにかく細かいんですよ。ファイルを見ると、ヘンなゴミみたいな音がたくさん入ってて、それが、一見あってもなくてもいいように思えるんだけど、取ると全然聴こえかたが変わっちゃったり。
O しかもそれが全部サンプルだったりするんだよね。ピアノの♪ポロロン、みたいなものが細かく配置されてて。
S かなり短いトーンで構成されてる。
O METAFIVEの時もそうだよね。今回は僕がデモっぽいものをつくって、それをみんなにリレー方式で渡していくんだけど……
──ひとつのファイルをメンバーで共有して、好き勝手に……といったら言葉が悪いですけど……。
O でもそんな感じ。最終的には僕が整理するんだけど、そこまではかなり自由というか。
──あ、じゃあメンバーですら誰がどの音を入れたのかわからない感じなんですね。
O よく聴けばわかるけどね。わりと薄めのオケに、まりんがベースとかリズムを入れて、テイさんが上ものを重ねて、ごんちゃん(ゴンドウトモヒコ)がラッパを足して、幸宏さんとレオくん(LEO今井)が歌ってっていう基本のパターンもあるし。
──最初の人の自由度がかなり高いですね(笑)。
S でも楽しいのは真ん中らへんの人だと思うな。僕、最初にリズムとか入れるじゃん。それが戻ってきた時に、自分の思っていたものと全然違う方向にいってることも多いから、そこでまた自分の音を修正しなくちゃいけなかったりもして。
O 白紙に「さぁどうぞ」って言われるとね……。
S どこにいくのか見えないって不安が長く続く。自分の投げたブーメランがすごい角度で返ってくるから(笑)。
O で、そういう音の中でも、テイさんの音というのはすごく立って聴こえるんだよね。音数的にはそこまで多くはないんだけど、とにかく印象に残る音色とかフレーズが多くて。テイさんだなっていうのはすぐにわかる。
S S.E.みたいなのはテイさんが中心にやってくれていて、もちろんそれもセンスがいいんだけど、そうじゃない音、たとえばピピッっていうだけの小さなシンセとか、そういうディティールの部分にもテイさんらしさが現れてる。
O 性格がよく出てるよね。あと、テイさんの「Radio」はMETAFIVEにとってもすごく重要な曲で。
S 何気にMETAFIVEの発端はこの曲なんじゃないかな。この曲が膨らんでいって、METAFIVEになったという気がする。YMOっぽい部分もあるんだけど、また違って。この曲がみんなを繋げてくれたような気がするんですよね。
──砂原さんは「Radio」のリミックスを担当されてますね(「Radio - YSST INTERSECT Remix」)。
S 幸宏さんのボーカル曲では「The Burning Plain」もよかったけど、「Radio」はさらに好きだったから、「ぜひやらせてください!」と即答しましたね。このリミックスはテイさんからわりと明確なリクエストがあったんですよ。「ダンス・ミュージックではあるんだけど、インドアな感じも強いから、より興行でかけやすいものにしてほしい」って。要は「派手にしてくれ」っていうことなんですけど(笑)。
──確かにオリジナルよりも音の重心がだいぶ下のほうにきてますよね。
S そうそう。ファットかつ派手な感じに仕上げました。
O でも、知らない人には「派手に」なんて言わないよね。「まりんなら理解してくれるだろう」って含みありきの〈派手に〉なんだよね。
──小山田さんは「Butterfly」をリミックスしていますが(「Butterfly - Cornelius Remix」)、そこに〈明確なリクエスト〉というのはなかったんですか?
O (笑)や、単純にそこまで知り合いじゃなかったから、テイさんも言いにくかったんじゃない? 今だったら言われるかもね(笑)。
S やっぱり僕のほうが言いやすいっていうのはあると思うよ(笑)。小山田くんは演奏家でもあって、歌ったりもするじゃん。俺とテイさんは歌わないし、その部分ではわりと後輩っぽくも見てくれてるんじゃないかな。
──「Butterfly」のリミックスは〈『Fantasma』以降〉というよりは〈『Point』前夜〉な音づくりですよね。
O うん、『Point』ほどスカスカでもないんだけど、『Fantasma』ほどごちゃごちゃしていない。
S 変化の時期だよね。Corneliusサウンドの変遷を感じる。
O ちょうど中目黒にスタジオを引越したばかりの頃で、ブースにドラムを置くようになったので、叩きたくてしょうがないって時期だったと思う。手法的には(嶺川)貴子ちゃんの『FUN9』ってアルバムに入ってる「Plush」に似てるのかな。ティンバランドとかミッシー・エリオットが好きだった時期で、ああいう音を生でやろうっていうのがあったんだよね。そこはあんまり成功してないんだけど(笑)。
──テイさんの反応はどういうものでしたか?
O 気に入ってくれたんじゃないかな。ラジオでもかけてくれたし、その頃から仲良くしてくれ出したし(笑)。そういえばまりんとよく遊ぶようになったのもこの頃じゃないかな。
S 90年代はどこ派どこ派っていう派閥があったけど、2000年代のこの頃になると、みんながいっしょになった感じはあるよね。ジャンルがグチャグチャになりすぎて、結果的にひとカタマリになったというか、面白い人はジャンル関係なしに繋がっていった時代。
O 90年代的といえば「Mind Wall」も好きだな。僕もギターを弾いてるんだけど、ミホさん(羽鳥美保/Cibo Matto)がラップしていたり、サウンドもサンプル主体に戻ってきた感じもあって、それがまたフレッシュに聴こえる。90年代的ではあるんだけど、そこがきちんとアップデートされた感じもあって。
S この曲にもコラージュ感があるよね。
O 僕もそこが好きなんだと思う。テイさんの一番の個性だと思うしね。テイさんはある意味ミュージシャンっぽくないっていうか、美大っぽいっていうか、アートとかそういうものを全部わかった上でやってる感じが他の人と全然違うから。
S Deee-Liteの時もステージでポラロイドを撮ってたでしょ? その行為だって〈サンプリング〉だもんね。部分を切り取るってことでしょう?
──あ、そろそろMETAFIVEのリハーサルの時間みたいです。最後にひとつ、「テイさんに足りないもの」ってなんだと思いますか? 以前テイさん本人にこう質問した時は、「全部」と即答された後に、「劣ってることが逆に優位だとも思ってる。みんなより劣ってるから、自分らしい音楽ができてるのかもしれない」と話されていたのがとても印象的だったのですが……。
S テイさんらしい答えだね。……足りないもの……、なんだろう……。
O ライヴかな(笑)。
S それだ!
O これはずっと言い続けてることなんだけど、とにかくライヴをやってほしいんだよね。テイさんの楽曲がステージで演奏されるのを見てみたい。テイさんはステージにいなくてもいいからやってほしい(笑)。
S 本当にやらないよね。昔っから「やったほうがいいですよ」って言ってるんだけど、まったく興味を示さない。METAFIVEで召集されたときも、最初は絶対やらないと思ったもん。
O METAFIVEをきっかけに、だんだんうやむやにしていけばやってくれるんじゃないかな(笑)。
S テイさんDJをやってるからね。それがライヴっていう感覚があるのかもしれない。でも、基本的にはこのまま元気で活動してくれればいいですよ。
O 単純に元気でいてほしいよね(笑)。テイさんって何かをやるときに人を巻き込んでいくのがすごくうまい人から、元気で活動してくれさえすれば、またそこで呼んでもらえるかもしれないし。
S そこには僕らが思いもつかなかったようなアイデアがあるはずで。
O うん、またそこで必ずビックリさせてくれると思うんですよね。