Second Stage Edition
Leg 05 目標のための練習



◆ 実際の培養でスキルアップ ◆
前回、おおまかではありますが、メリクロンの事について書かせてもらいました。
まぁ、、悪いとは思ったんですが、、、身構えてしまった人も多いでしょう(笑)
知識ばかりが先行してしまい、実際に上手く出来ない、又は
実際に行う機会が乏しいというのは楽しくないですね?
椅子に座って聞くだけのつまらない授業じゃあるまいし、、。

っという事で、今回は実際の作業を参考に書きます。
っと言っても、、いきなり蘭では難しいので、簡単な植物で練習、、。
レタスとかでも出来るけど、、あんなごっつい球はいらんし、、
芽があれば練習は何でも出来ますが、、。
ん〜、、とりあえず私が最も得意としていたアジサイを材料に、、。



■ 常に本番のつもりで ■

今回は、前回と違い実際に培養を行う作業です。
ここでは難易度の高い蘭のメリクロンを目標にしていますが、
培養しやすい草花などでも、もやは実用レベルへ到達する域のお話です。
タイトルでは「練習」という言葉を使っていますが、
植物によっては練習ではなく実際に通用する技術です。
実際に洋蘭に取り組む前は、アジサイやポインセチア、キク、
挿し木で殖える低木類の生長点を数え切れないほど練習しました。
その副産物で蘭のテクニックを身に付けたのが、今の私です。

最初に書いておきますが、自信がなければもっと練習して下さい。
実際の本番で作業するのと、練習でするのとは違います。
材料を粗調整し消毒した後は、全て無菌状態での作業になるからです。
少しのミスも許されませんし、後戻りもやり直しも出来ません。
テクニックもそうですが、精神的な疲れや焦りも影響します。
考えるよりも慣れろ!です。
左脳右脳全開状態でお願いします。
私も、現役から離れてずいぶんと時間が経過していますので、
記憶の糸を手繰りながら書く事になりますが、頑張って思い出しますです。
作業の流れは前回のチャート?を見ながら勉強してくだされ。



◇ 準備 ◇
準備するものをざ〜っと並べてみます。

1.材料(植物)
2.初代培養用培地
3.エタノール消毒液(70%)
4.次亜塩素酸ナトリウム消毒液(1.0%)
5.滅菌試験管(空を滅菌したものです)
6.滅菌シャーレ(空を滅菌したものです)
7.滅菌水(もとは普通の水を滅菌したもの)
8.ピンセット(数本あればなおよい)
9.メス(数本は欲しいな)
10.実体顕微鏡(使わなくても出来るけど、、)

以上

上級を目指すなら、切れ味の良いメスと実体顕微鏡は必須!
培養試験管にもこだわりたいですね。
1.材料(植物)
まぁ当然ですが、必要ですね、、。
新鮮なものがベター。
アジサイの場合は8月下旬からは、
生長点が花芽に変わるために、培養出来ません。
しかし!!花芽を植えると、試験管の中でお花が咲きます。
インビトロガーデンのサイドビジネスで儲けられるかも?(笑)

注意点は水に芽を濡らさないこと。
水というのは案外細菌が多いのです。
ウイルス感染などのリスク軽減が主な目的です。

詳しい材料選びは、下でもう一度説明します。

最後に・・・
「私はこの植物を育てるぞ!」
っという意欲と愛情をお待ちしております。
2.初代培養用培地
いつだったか、2種類の培地があると書きましたね?
安物の方で出来ますよ(笑)
いわゆるH系で、、。(いや、べつにエロ系と書いてるわけじゃない)
コダワリを持つ方はポピュラーなMS培地を4分の1程度に薄めたものや、
ホワイト培地を使えばOKです。
薬品溶かして培地作るぐらいのレベルの高い人は、
どの培地を使えばいいかなんて愚問でしょうけどね、、、。

ただし植物ホルモンはBA1ppm入れると成績が良くなるデータあり。
ホルモンフリーでも出来ると思いますが、出来たら入れると良いです。
私も植物ホルモンは初代培養には入れるようにしています。
3.エタノール消毒液(70%)
4.次亜塩素酸ナトリウム消毒液(1.0%)


作業する前に作っておきましょう。
植物の芽を入れるぐらいの容器、、。常識の範囲の大きさで(笑)

次亜塩素酸ナトリウムは浸透性(展着性)を上げるため
中性洗剤をほんのちょっとだけ入れます。
1滴でも多い!ほんのちょっと!
消毒液を振って泡だらけになってしもたら多すぎるで!
5.滅菌試験管(空)
6.滅菌シャーレ(空)
7.滅菌水(普通の水から。出来れば蒸留水や純水を。)


ベンチ内で作業用に使います。
ここでの滅菌水の定義は、無菌の水です。
消毒液をすすぐのに使います。
8.ピンセット(数本あればなおよい)
9.メス(数本は欲しいな)


これは作業のカナメです。
良い道具がなければ、良い仕事は出来ません。
ピンセットは椅子から落としてフローリングの床に
グッサリ突き刺さってピン!と立つぐらいの勢いがある鋭さ?
実際にやると先が駄目になりますので、床には突き刺さないように(笑)
精度が高く繊細な作業が出来る物がベター。


メスは、無菌播種で紹介した市販されている物がベター。
これならばダーツのごとく壁に刺さります!
床の分厚いカーペットでもメスが突き刺さり立ちます。
足の爪も切れるし、プラモだって作れる、
知らない間に指を切って血が出ていたこと過去数回。
気分は必殺仕事人。
替え刃タイプがおすすめ。
ステンレスなので、研げば何度も使えます。
使い捨てなんてもったいない! こんなやつ →

もし予算がなければ、替え刃が出来るデザインカッターや
割り箸に剃刀を付けて自作してしまうのも良いでしょう。
自作メスの作り方

用意する物は
剃刀刃・針金・竹の割箸だけです。
ラジオペンチで剃刀の刃をパキッと割って、それを割箸に針金で固定するだけです。

剃刀は下の画像のような一般的な物でOK!
ただし、柔らかく切れ味がすぐに悪くなるので、安全剃刀を分解して刃を付けても良い。


完成図がこれ↓

バランスが変ですが、小学生でも思い付くような代物です(笑)

素材選びやアイデアなど、自分に合った物が作れれば◎
ちなみに私は、アルミの本体に、デザインカッターや
オルハカッターの刃を付けて使っていた時もありました。
カッターの刃は厚みがあるので、砥石で薄く削ったりする工夫なども○ですよ。
10.実体顕微鏡(使わなくても出来るけど、、)

生長点の摘出、または、生長点付近の摘出を行う場合は必要です。
仕方や植物によっては、なくても出来ますが、
やはり細かい作業をするという事で基本は使う方向で、、、。



◇ はじめ! ◇
作業する流れをざ〜っと書いてみました。


1.外植体、材料選び
↓      ――――――――――――――――
2.材料の粗調整     ベンチ外での洗浄 

3.材料の調整       消毒準備
↓      ――――――――――――――――
4.材料の消毒        ベンチ内へ

5.材料のすすぎ      有菌→無菌
↓      ――――――――――――――――
6.器官を採取       

7.生長点を採取摘出     無菌状態

8.置床

9.静置 (初代培養)     無菌状態を保持
↓      ――――――――――――――――

10.増殖(マイクロプロパゲーション)


作業は大きくわけで、3つです。
1〜3はベンチ外の作業です。
しかし気を抜かず、慎重に行いましょう。
外植体材料の状態確認や消毒の下準備を行う行程です。
1.材料選び

まず、アジサイを見付けて取ってくる事からです。
右の画像のような、ツボミが出ているものは駄目。

アジサイは秋口の低温に当って花芽分化を行います。
8月下旬〜開花する6月頃までは出来ません。
春に芽吹き出した頃しか出来ないということになります。
しかも、越冬時には落葉するのでタイミングが大切です。
咲く前か、咲いたらすぐに剪定しないと花芽になります。
培養する植物の生態系や生長サイクルも事前に調べ、把握して知っておく必要がありますね。
初夏に入っても、開花する気配のない芽ならば
花芽分化はしていませんので、そういう枝があったらオイシイです。

肉眼では生長点に見えていても、顕微鏡で見たら花芽やった!
生長点なのか花芽なのか判別付きにくい、けっきょく花芽やった!
って事もあります(笑)


適当な長さに切って、新鮮な状態を長く保たせるために、
すぐに切り戻しして水あげを促して下さい。
そして、新芽の部分は絶対に水に濡らさないように・・・
材料にする芽は、当然大きくしっかりしたものを選ぶように。
また葉色が良く、正常なものを選びましょう。

生長点と花芽の判断は、
植物の生長サイクルを知る。

2.材料の粗調整(状態の確認)

見た目が綺麗であること、健全なものであるかどうかを確認します。
アジサイはウイルス感染しやすいので、葉にマダラ模様がある場合はウイルスの疑いがあります。
虫食いの葉や異常がある葉もよくありませんね。.
汚れた葉や汚い葉は切り落としておくと良いです。
アブラムシや害虫が付いているものももちろん駄目です。

ウイルスは葉脈に沿ってモザイク状に薄い色が入るなどの症状が出ます。

3.材料の調整(消毒準備)

さらに適度な長さに茎を切りそろえて、大きな葉を取り除きます。
汚れた部分はコンタミ源なので、切っておきましょう。
一度に何本も消毒する場合は、ハサミで葉を半分切り落として、かさばらないようにするのもOKです。

本来、調整段階では材料を中性洗剤で軽く洗った後に水洗いをしたりするのですが、水道水でも菌はいるので私は水洗いは行いません。
新鮮な滅菌水や作りたての蒸留水での水洗いなら大丈夫だと思う。

アジサイは水切れを嫌う植物です。
その特徴からわかるように、水分を多く含んでいる細胞組織は柔らかく活性が落ちるのも早いのです。
調整段階に入ったら、速やかに作業するように心掛けましょう。
そうこうしているうちにも、生長点はどんどん元気を失っていきますし、ウイルスにも侵され始めるのです。
ここから先の作業はベンチ外→ベンチ内での作業へと移行します。
外植体の殺菌を開始し、殺菌が完了したら無菌の状態と考えます。
消毒液に浸かっている殺菌中も無菌と考え操作するのが良いです。
   クリーンベンチへ
      ↓

4.材料の消毒

当然ですが外植体は無菌ではないので、消毒して殺菌します。
重要ポイントその1です。
生長点摘出も重要な作業ですが、この消毒が上手く出来ないと、
すべての作業で失敗します。経験や観察力も必要です。

私の消毒の基本は2段階で行います。
表面殺菌70%エタノールに2〜3分
浸透殺菌1.0%次亜塩素酸ナトリウムに7〜10分
組織の大きさや硬さ、季節などで変動します。

※この時点ですでにベンチ内で作業するのが好ましい。
しかし、ベンチ内にアルコールを入れるのは大変危険なので、
私はアルコール消毒後にベンチ内へ入れる。

  エタノール → 塩素消毒
5.材料のすすぎ

※ここからベンチ内での作業です。
消毒が終ったら、素早く植物体を滅菌試験管に入れ、
滅菌水ですすぎ、消毒液や展着剤を洗い流します。
消毒剤は弱い組織の植物にとっては猛毒です。
すすぎ作業の基本は3回。
生長点への悪影響を考え回数を増やす場合もある。
逆にあえてすすがない、又はすすぐ回数が少ない
という人もいるが、それぞれ考えがありメリットデメリットはある。

滅菌水で数回すすぐ
6.器官を採取

ここからは、いよいよベンチ内(無菌状態)での摘出作業です。

その前(材料を準備する段階)に葉の出る向きや方向など、
構造を把握し観察しておく必要がある。
なんせ肉眼で見るには限界に近い細かな作業になるので、
目から得るだけでは情報が少ないからです。
例えば、目では確認出来ない葉の裏側を鋭く尖ったメスで切り落とす時、頼りになるのは経験やどれだけ細かく観察しているかが鍵になる。
葉を落とす順番、葉の出る構造や向き、角度、切る深さ、
隠れた生長点の位置などが、頭の中で描くことが出来ます。
まぁ、茎を転がして回転させれば良いんですけどね、、。

葉の付く構造、葉原基の形、生長点の大きさなど、、
スケッチしておくと良いです。
「スケッチしてどうなるんですか?役に立つのですか?」
という人は、近道があるのにわざわざ遠回りをする人ですね。

6-1.器官を採取

ここからは滅菌シャーレの上で作業します。
絶対にベンチの床や周囲に当らないように、
空中で作業するのが良いです。
本によっては、ゴム栓の上にピンで固定する方法もありますが、
私はその方法は嫌いなのでしません。したこともありません。
複数本消毒した場合は乾燥を避けるために、
滅菌水に浸けておきましょうね。

まず、一番大きな葉を切り落とします。
手に変な力が入っていると、茎が折れてしまいます(笑)
一番大きな葉を切った状態が右の画像1です。

アジサイは葉のつき方が対生なので、対角上に1対ずつ葉がある。
葉の倒す方向や順番が全て決まっている。
もし、反対に葉を倒せば、生長点ごと茎がポッキリ折れて終了です。

葉のつき方は3方向に葉が出る輪生や互生などがあり、
茎への付き方はつきぬく対生や葉柄の有無などがあります。
構造を観察する理由が理解してもらえると思います。

まだまだ序の口の状態です。もっと小さくなる。
それでも慣れない作業で、目が悪い人にはかなり厳しいでしょう。
画像1
部屋の壁が写っているので背景を加工しています。
6-2.器官を採取

「6ー1」の「画像1」で見えている「葉の子供」を切り落とした画像です。
この葉だけでも一気にちっちゃくなった感じです。

慣れてない人はそろそろ顕微鏡の登場か!?
私はこのぐらいなら普通に見えるので、まだ序の口ですか?

対角に葉が出てるので、茎を回転させながら切り取ると良いです。
良く見ると、まだ葉の形をしているので綺麗に切り取れます。
画像2

6-3.器官を採取

葉の子供を切り落としたら、「葉の赤ちゃん」が出てきます。
まぁパターン通りこの葉も切り落とします。

さすがに、私でも肉眼で葉の形を正確に見るのは困難です。
大半の人が顕微鏡を使う大きさだと思います。
でもまだまだ序の口のレベルかな〜。
目で見えなくても練習すれば肉眼で切り落とせる範囲。
手の感覚と倒す方向と葉の向きを正確に把握していれば大丈夫!
まだ頑張れる!

6-4.器官を採取

葉の赤ちゃんを切り落とすと、「葉の予備軍」が出てきます。
もう顕微鏡でないと見えません。
私でもこれ以上進むのは困難な作業ですが、
老眼鏡(虫眼鏡的な何か)+愛用メスなら、
ここからもう1対の葉も落とせるかもしれません、、。

今回の画像は、特別な器具を使わず、手の爪で行いました!
慣れれば肉眼+爪でこのぐらいまで出来ます。
みなさんも頑張って下さい(笑)

芽の先端は0.5mmほどの大きさで、
画像に白いドットが打ってある。
それが生長点付近の大きさ
です。
しかし生長点はもっと小さいので見えません。

生長点を完全に露出させるには、
ここからさらに2対(4枚)の器官(葉原基)を取り除く必要があります。
大半の場合はこのくらいの大きさで培養します。
もっと技術も磨くには、是非とも生長点を露出させて培養して下さい。

6-x.器官を採取

葉の予備軍の子供を取り除けば、3つの山状の綺麗な組織が出てきます。
その中央の山が生長点です。
横の山は葉原基と呼ばれる葉の予備軍の予備軍です。
その横に付いている葉原基を取り除けば生長点だけが露出します。

あえて「描いてみろ!?」
って言われたこんな感じ
器官採取のコツ
とにかく丁寧に、1葉1葉を慎重に完全に切り倒す事です。
切るというよりは、メスやピンセットの腹で倒して折る感覚です。
これが下手だといくら作業しても生長点は露出しません。
完全に基部の下まで葉の根元を取らないと、
生長点が切り残しで埋まってしまうからです。
初心者がやりがちな失敗。
そして、1葉でも取り除く作業を失敗すると、
作業が非常にやりにくくなります。

少々基部が削がれても大丈夫なので、根元まで切る。
ピンセットで挟んだり、つまんだり、、
メスで切ったり、刺したり、というのは意外と難しいと思います。
切れやすいというのも逆に作業しにくい、、。

あとは、キズをそこらじゅうに付けないことです。
キズが付くと、植物の細胞は褐変とよばれて酸化します。
切ったリンゴを置いておくと、茶色になってしまうアレです。
当然どんどん細胞が死んでいきます。
とくに今回のようなメリクロン培養時には、非常に活発で若く弱い細胞組織を使うので、命取りになります。

また、クリーンベンチ内では絶えず無菌の風が吹き降ろし、
芽が乾いた空気にさらされるので、どんどん乾燥して、
キズを付けずとも褐変します。
またベンチ内では火も使いますので、
バーナーやランプを付けたままにするとさらに悪化が早くなります。
水が上がらない状態(すすぎの後)のリミットは数分間です。
数本に分けて摘出作業を行う場合は滅菌試験管の中で滅菌水に浸けておきます。
生長点が露出してからのリミットは数分はないと思いますので
秒単位の作業です。

ようするに、作業が進むにつれて摘出が難しくなるのに、
それに必要な時間がどんどん減ってくる。
与えられる時間はそれに反比例してどんどん厳しくなってくる。
そんな状態の中でも安定して確実な作業が出来るのかどうか?
自分と向き合う事が出来るひとときになるでしょう(笑)

ましてメリクロンをどうしても成功させたい蘭ともなれば、
精神力も鍛える必要があるんじゃないでしょうか、、。

7.生長点を採取摘出

当然ですが、どこがどうなってるのかぐちゃぐちゃに潰れて
どこをどう摘出したらいいのか、、なんてのは問題外です。

芽の先っちょが綺麗にキズもなく器官が取り除かれている事が条件。

ここ一番でキメるぜ!!という勝負メスを用意しておくのが良い。

とにかく先が尖って、薄いもの。
正確に0.数ミリのものを切ることが出来るメス。
そのメスで、狙い通りの場所を摘出します。
この時、必ず生長点が含まれるように切る必要があります。
生長点がどこにあるのか?どこを切るのか?
これをイメージするのです。

そして、切り口が出来るだけ鋭くなるように、
綺麗にスッパリ切れるように慎重に摘出します。

メスの刃をスライドさせるように軽い力で切るのがベターです。
そして、メスの刃の上に摘出した組織が乗っているのが条件。

メスの上に生長点を乗せる位置や向きが非常に重要なのですよ。
しかも、ベターな位置に乗せるのは相当上手く切らないと乗りません。
これはテクニックというよりは、センスに近いものだと思ってしまうほど微妙なものです。
この作業は私も試行錯誤を繰り返し、課題も多かった作業です。
アプローチを大切にするのが私の考えなので、
とりあえずメスに乗せて、あとは培地の上で何とかするっていう
方法は好きではありませんから。

書いているように一発で理想的な位置に乗せるのは難しい。
かといって、何度もやれば切り口から褐変し、細胞が死んでしまう。
最悪の場合は生長点を潰してしまった、、って事にもなりかねません。
案外ここで失敗する人は多いかも。









※実際の生長点は
もっともっと小さいです。
絵はわかりやすくイメージです。

7.置床

培地に置く向きや深さがある程度決まっています。
スムーズに培地に置くには、上での作業が鍵です。

実際私が一番気を付けて慎重にするのは、この作業だったりします。
こだわりを持って重要視しています。

切り口を培地表面にそっと乗せるような感覚で、
横に寝たり、埋まったり、中で転がったり(笑)してはいけません。
植えるというよりも、動かない程度にそっと表面に置いてやる。

メスの刃の角度もあるので、私はそのために培地に傾斜を付けます。
私は使用する試験管や培地の量、傾斜角度もすべて決まっています。
メスの柄の長さや種類も絶対変えることはありません。
メスの刃も自分で納得のいくまで、いつまででも研ぎ直します。
万全に最善に作業出来る器具と環境を揃えましょう。



8.静置 (初代培養)    

培地の表面に生長点の組織を乗せて、
試験管を密閉したら作業完了です。
とりあえず、ちゃんと植え付けが成功しているか確認して下さい。
アルミやキャップから雑菌が入らないように
ノビノビテープで密閉しておくのも良いです。

最適な環境だと、1〜2週間で変化がでてきます。
変化が無い場合や、白くなった場合、茶色になった場合は失敗。
白いモヤモヤのバクテリアが出ても失敗。
カビが生えたら大失敗。
おまけ
基本的に用いる部分は茎頂ですが、
画像のような側芽の生長点でも出来ます。
蘭にも側芽がありますので、
カトレヤやシンビでも実は2〜3個の側芽を使うことが出来ます。
ただし、このように露出度が高く、小さな芽は消毒の影響を受けやすいので消毒時間に気を付けなければいけませんね。
おまけ2
初代培養のその後

今回は、練習を兼ねた作業ですので、余談になるかと思いますが、
初代培養を行った生長点は、ボコボコと細胞が増えだし
カルスを誘発します。
カルス化した細胞を分割したり、浸透培養する事によって
大量増殖つまりマイクロプロパゲーションへ発展出来ます。
詳しい方法は下の方で説明しています。
おまけ3
成功したらどうなるか!?

小さな小さな、ミニチュアのアジサイが育ちます。
種から発芽したような可愛らしい赤ちゃんのようです。
しかし体は立派な大人のアジサイをしています。
インビトロガーデンとして部屋に飾ったりするのも1つの楽しみですね。
どのように育つのかは、実際にあなたの目で確かめてくださいな。



■失敗分析とコンタミの種類 ■

最適な環境だと、1〜2週間で変化がでてきます。
変化が無い場合や、白くなった場合、茶色になった場合は失敗。
白いモヤモヤのバクテリアが出ても失敗。
カビが生えたら大失敗です。

コンタミすれば、すぐに失敗したという事に気付くと思いますが、
どこでその原因になったのかはなかなか特定出来ません。

乳白色やオレンジ、ピンク色などのモヤモヤしたバクテリアは、
外植体の殺菌不足、器具の滅菌不足、滅菌水のコンタミや消毒液の効力の低下
などで発生しやすい場合が多いケースです。

一方で培地の表面がカビだらけになってしまうほどのコンタミなら、
無菌操作や手の消毒ミス、ベンチ内の無菌度の低下、
外気流入などの外からの進入によく見られます。

コンタミはしておらず、組織が緑色にならず白くなった場合は、
消毒の過度や、摘出方法の失敗、などが多いです。
死にもせず生きもせず、生死の境目の状態でしょうか。

植えて茶色になって褐変した場合は、培地濃度や糖分が濃すぎたり、
摘出時間が長かった、植え方が悪い、移植せずに放置したなどが多いです。

早期段階で一目見て悪い変化があった場合、、何かが失敗しているという事です。。
よく観察し、よく考えて、試行錯誤してください。



■基本は心構え ■

書くまでもありませんが、作業する本人に問題がないのも条件です。
(身体的障害というわけではなく、手や目が不自由とかじゃなく)

まず、作業前に運動重い荷物も持ったりしてはいけません。
手に震えがくるし、正確な作業に支障がでます。
煙草も呼吸や脈が乱れるので駄目です。

食事もきっちりした方が良いですね。お腹が減ると集中力も散漫に。
頭を使う作業なので休憩を入れて甘いものを食べるのも○
運動量は少ないですが、脳のカロリー消費は大きいと思います。
私は血糖値が下がってヘロヘロになる時もありましたので。

クリーンルームは密閉した状態になりやすいので酸欠に注意。
眠くなったら酸欠の疑いなので無理をせず休憩を!
消毒液で使う塩素ガスも注意!
ついでに言えばドライアイも!
アルコール臭で酔ってしまった!っというのもあるかもね(笑)

とにかく落ち着いて集中力を高め、その力が持続出来るように
イメージトレーニングをするのも良いです。
何かの拍子で失敗すると、集中力の糸が切れる事もあるので、
絶対失敗しないという前提と失敗した時の対処法が大切です。
いそいそと多忙な予定を組んで作業するよりは、
一日空けてじっくり作業する余裕も大切じゃないでしょうか。
あとはあなたのモチベーション!



■良い器具で良い仕事 ■

メスは通常使う分+α用意する。
メスは予め切れ味を確認しておき、納得出来るものを使う。
私は、5〜6本のメスを並べて作業する時もあります。多すぎるのも何だとは思いますが、、。

「ピンセットも一種類だけいいか」なんて思っていると、その時になって使いにくかったり、、。
細く長いピンセットは細かい作業や炎滅菌時の冷却効果が高いので良いとされていますが、
しっかり物を掴む時などのホールド性は△。
長さも長くなればなるほど、手元が狂い、力が入りません。

器具の配置も重要です。
右にメスを持つのか?両手にピンセットを持つのか??
ベンチ内の狭い空間でスムーズに手早く作業するには、自分で決めた場所取りが必要です。
私の場合は、両サイドにスタンドを置きメスとピンセットを同じ数だけ並べます。
基本は右利きですが、左手も使えるので両利きのような配置になっています。
さすがに、器官採取などの細かい作業は左手では出来ませんが、、。


通常作業では使わない器具でも失敗した時に、非常用として使うものも用意すると、慌てなくてよいです。
破れやすいアルミホイルやキャップ類などは、予備で滅菌しておくと良いでしょう。
当然ですが、滅菌シャーレや試験管、滅菌水も多めに作って備えておけば万全です。



■ 植物ホルモンの実用 ■

植物ホルモンについては前回で書いたと思います。
知識などもネットからある程度知ることも出来るでしょう。
っという事で、ここでは実際に用いる具体例などを書いてみようと思います。

種類:大きく分けて3〜4種類があります。
○オーキシン 
○サイトカイニン 
○ジベレリン
○エチレン



作用:どんな効果や作用があるのかを説明します。

○オーキシン
IAA(インドール酢酸)・NAA(ナフタレン酢酸)・2.4-D など

最初に発見のされた植物ホルモン(IAA)を聞いた事があるでしょうか?
植物が光に当たると、その方向に曲がって行く「屈性現象」が有名です。

オーキシンの作用としては、組織の分化、根の生長、発根、などです。
他にも、茎や芽の生長、果実肥大など、全般です。
カルス誘導や発根促進など、根方向に作用する傾向があります。

ちなみに、植物体内で作用するために、培地から吸い上げさせる必要があります。

以前にも書きましたが、合成オーキシンはダイオキシンを含んでいる事があります。
IAAは天然ホルモンのため不安定なので、培養には非常に使いにくいですので、
培養に使う場合は、経験上NAAが多かったです。


○サイトカイニン
BA(ベンジルアデニン)・K(カイネチン)・IBA
 など

植物を傷付けると、傷口を治癒をする細胞(カルス)があることから発見されたようです。
オーキシンと共に植物の生長に欠かせないホルモンです。
細胞分裂と分化に深く関わりがあり、細胞分裂を促進させてくれます。

作用として主なのは、カルスからシュート形成の促進、腋芽を休眠から解除するなど。
他には発芽促進効果、カルス形成、細胞分裂全般です。
メリステムやシュート誘発など、芽の方向に作用する傾向があります。
BAを使われている方が多いように思います。

ココナッツミルクやココナッツウォーターには天然の植物ホルモンが含まれるという話は有名です。
この成分はサイトカイニンであり、カイネチンと同じような作用をもつものです。
クロロフィル形成促進、オーキシンとの相乗効果で細胞分裂が活性化させる狙いもあります。
化学化合物を嫌う方など、ココナッツ派が多い傾向があるようですが、、?


○ジベレリン
農業においては非常に有名な植物ホルモンです。
農薬や肥料と同じように、園芸店などでも一部が販売されています。
ジベレリンと一言で言っても数多くが知られており、何十種類もあるといわれます。

作用としては、主に開花促進や果実促進など。
他には、茎や根の伸長作用、発芽促進などがあります。
開花や果実に効くものなので、組織培養ではあまり使った記憶がないのですが、、。
参考程度に、、。


○エチレン
ガス灯が使われていた時代、ガス灯近くの樹木の色付きや落葉が早まることから発見されました。

エチレンは液体ではなく気体なので、エチレンガスとして用いられます。

作用は、未成熟な果実を熟させる。老化促進と細胞分裂抑制などです。

熟していない果実、例えばメロンやキウイ、それらをエチレンガスで満たした場所に置くと、
良い感じで熟させることが出来る。
身近なホルモンで、リンゴの甘い匂いはコレだと言われています。
熟してない果実を、リンゴと一緒の袋に密閉しておくと、甘く美味しい熟した果実になります。
リンゴの甘い匂いが移るとか、リンゴを見習って真似てして美味しくなってくれる、、
なんて話も聞きますが、実はエチレンが作用しているというわけですね。

培養ではほとんど使われませので、余談程度です、、。


上記で色々な植物ホルモンが登場し、どれを使っていいのやら、、、
楽しくも迷ってしまった方も多いと思います。
化学薬品を用いるのに「楽しい」なんて表現するのは、
近年の厳しい環境問題の中では、不謹慎だとは思います。
しかし、培養のことを知れば知るほど、植物ホルモンが培養の近道のような、、
極論を言えば、最終手段的な考え方の人もいるかと思います。
それだけ効果は大きく、実際に使いたいと考えてしまう方々が多いのです。
私のところには入手方法や濃度、扱い方などのご質問が良く届きます。
まだ見知らぬ禁断の薬品にワクワクする人もいるんじゃないでしょうか?
しかし、近道や最終手段ではないのが私の考えです。
もっと大切なことは他にもいっぱいありますから、、。

経験上、私が使うのは、数種類です。
極端に言えば、BAとNAAの2種類しか使いません。
濃度やバランスがわかるようになれば、たいていはなんとかなると思います。



使用例:濃度などを実際に用いた例で説明したいと思います。

植物ホルモンは通常ppmとい単位で表記ましす。
%よりももっと小さな単位で100万分の1の単位です。
単位の話は今までで何度も出てきたと思うので省略します。

植物ホルモンはそれだけ低濃度で効く薬品だと言うことを知っておきましょう。
多く入れたからといってよく効くようなものではないので、
適切な濃度やバランスを知ることが重要です。

通常良く使う濃度は0..5ppm〜10ppm付近だと思います。
研究レポートなどで0.1ppm、20ppmなど書いてあるものもありますけど、、。


○茎頂などの生長点培養 主にBAを0.5〜2ppm
生長点を含めた、活性の高い組織。

○球根などの塊根、根茎、葉片組織培養 BAとNAAの混合1〜10ppm
腋芽や根端を含む基部からカルス誘導させる場合。

○器官培養からのカルス誘導 BAとNAAの混合2〜3ppm
生長点などもない子葉や基部などの若い組織を用いる場合。

○花茎などのシュート誘発 BAメインでNAAの混合を1〜10ppm
養分を茎などに吸い上げさせて刺激させる場合。

○カルスなどからの不定胚誘導 2.4-Dを1〜5ppmなど、、。
大量増殖のために、浸透培養などを行う場合。
高濃度ではありませんが、培養が長期になる事がありますので注意。


10ppm以上は比較的高い濃度になると思いますので、ほとんど使ったことがありません。
一般的に研究レポートなどを眺めていると1〜3ppm付近で模索している事が多いです。

養分の吸い上げが悪いものや、自然の摂理に反しているような培養には、
やや高めの濃度にする事が多いようです。
それだけ無理をしないと培養出来ない部分だということが想像されます。

低濃度で培養出来る部分は、活性が高く、生長が旺盛な茎頂ということになります。
腋芽などの生長点を含めた部分も比較的低濃度ということになるでしょうか、、。
そして生長点付近の茎や基部、生長点がなくても細胞分裂が盛んな場所は可能です。
活性が低い場所や細胞分裂が緩やかな葉片や葉茎などの部分はホルモンを使う傾向があります。
最後にカルスや不定胚増殖には、芽や根が出ると邪魔な存在になりますので、多用する傾向。
濃度についても重要になりますが、植物ホルモンを吸っている期間も重要なので、
植物ホルモンが入った培地で、長期培養する場合などは、低濃度でも無理をさせます。
あえて植物ホルモンを使わずに増殖する方法もあるので、上記は一概には言えません。


具体例:さらに突っ込んで書いてみたいと思います。
ここで書くのは実際に私が試した例も含まれますが、
本などを見ていると、あまり気にする必要はないようですよ(笑)

○茎頂培養→シュート形成→分化
イチゴ、キク、ポインセチア、アジサイ、
シンビジューム、カトレヤ、オンシジューム
などなど
BA1ppm 
まぁ心持ち入っていれば大丈夫という感じです。
生長が旺盛で活性が高い植物は、植物ホルモンは必要ありません。
植物ホルモンが入っていない培地の事をあえてホルモンフリーと言ったりします。
生長点が含まれる場合はたいてい茎頂培養と同じように出来ると思います。
もともと芽になる部分なので分化しやすく、すぐにシュート形成して葉が出るのが特徴です。
細胞分裂が緩やかで活性が低い器官で培養が上手く出来ない場合でも、
細胞分裂が盛んで活性が高い茎頂を用いると、培養出来たりします。


○器官培養→カルス誘導→シュート形成→分化
ニンジン、ユリ、カラジューム、サトイモ、
BA2〜3ppm NAA2〜3ppm

生長点などがない器官培養では、ある程度の植物ホルモンが
必要になるケースが多いと思います。
しかし、薄すぎるとカルス誘導しませんし、濃すぎると、すぐに茶色く枯死してしまいます。
実績がある器官部分と理想の濃度を見つけるのがポイントになると思います。
いずれも若い組織ほど活着が良いです。
ニンジンなどは初心者が行う入門なので、スーパーなどで買ってきた物を、
1cm角ほどに切って消毒し、ベンチ内でコルクボーラーやメスで
消毒の影響が低い内部を数ミリ角に切り出せば楽に培養出来ます。


○花茎培養→シュート形成→分化
ファレノプシスなど。
BA5〜10ppm NAA1〜5ppm

たしか私は、BA5ppm NAA2ppmで行っていた記憶があります。
花茎を芽がある節の部分を程よい長さでカットし、それを培地に植えます。
花茎から培地を吸わせてシュート誘発させるわけです。
ファレノプシスなどは単茎性なので、茎頂を取ると母株が死んでしまいますので、
花茎からメリステムという形でメリクロンを行うわけです。


説明を読んでみると、理論上では植物のどの部分でも培養出来るように思われがちです。
芽があれば大丈夫だろう!な〜んて思ってしまうかもしれません。
以前も書きましたが、それは間違いです。
理論上はという話で、実際にするのとは違いますから、、。
植物によって出来る部分、出来ない部分、
植物ホルモンの種類によって出来る場合、出来ない場合
相性などもありますので、すべての植物、すべての部分で出来るわけではありません。
茎頂を使っても出来ない植物もありますし、ユリのようにどの部分でも出来てしまう、、
実績があるかどうかを確認してから培養するのも良いと思います。



■ 活着させるコツ ■

茎頂培養を行うと、ぶち当たる壁。
それが活着です。
コンタミせずに植えつける事が出来た!その後、、生長点が死んでしまう。
すぐに茶色くなって枯死してしまう。白くなって変化がない。
そんなケースが多いかと思います。
まずは、作業過程や消毒の効きすぎ、培地の組成を疑うべきですが、原因はまだまだあります。
ちょっとしたコツを書いてみたいと思います。

中級者ともなれば、MS培地やVW培地などの薬品を溶かし込むものを使う人がいるでしょう。
培地によっても、ある程度用途が別れています。
とくに良く使われるMS培地は、もともとカルス培養用で高濃度の無機塩類が特徴です。
少量の養分ですむ生長点には濃すぎる培地なのです。
2分の1や4分の1などに薄めて培養すると良いとされています。
生長点は若くて弱い細胞なので、いきなり濃い培地は渇変の危険がありますね。
薄い培地を使って、頻繁に移植を繰り返すのが良いとされています。
とくに活着するまでの数日〜1週間が勝負だと言われています。
落ち着くまでは新鮮な培地に毎日移植する。という方もいるぐらいです。
培地の濃度を調べる時は、添加する薬品の分量も大切ですが、
厳密にはモル計算にて算出するのが良いと思います。


そしてもう1つ、活着について重要なのが、摘出する大きさです。
大きく摘出すればするほど活着は良くなる傾向にあります。
そして一緒に摘出した葉が多くなればなるほど活着や生長は良くなる傾向です。
何も考えず単純にクローンを成功させたいという場合は、
あまり葉(葉原基)を取らずに、2〜3mmの大きさで培地に植える、、
というのが一般的です。
これで1mm以下の生長点を培養した時よりも、活着率は格段に向上すると思います。
私がこの方法で培養する場合、顕微鏡も必要なく行う事が出来ます。
もちろん植え込んで静置する組織は肉眼でもはっきりとわかります。


正直、メリクロンの培養事情では、
バカ正直に1mm以下の生長点だけを植えている。
っという場所はほとんどないと言っても過言ではないでしょう。
悪い意味ではありません。
目的の違いによって培養方法を変えているだけの話です。

というのも、生長点付近を摘出し、培養する主なメリットはウイルスフリーなのです。
逆を言えば、ウイルスフリーにこだわりがなければ、、必要性もないという事。
ましてや、ウイルスフリー化の理論には、未だに疑問も多いのです。
完全にウイルスに侵されていた株が、感染前の状態へ戻る、、というのは
非常に困難な道のりで100%除去は不可能と言えます。
いや、正しく書くと、私が培養をしていた現役時代には、確認する術がありませんでした。
すべての組織を電子顕微鏡で見たりするのは不可能です。
細胞を1つずつ確認するようなものです。
しかし、ウイルス濃度を低くしたり、表面上に現れにくくすることは証明されています。
それでも、たった一回の生長点摘出だけでは、難しいといえます。
何度も代を重ねて、ウイルスの濃度を限りなく薄めていく必要があります。

その事を考えると、病気に侵された株や衰えがある株を若返らせるというよりも、
健全と思われる株を培養に用いて、効率的にクローンする方法が
現在では有力な手段となっています。
よって、生長点付近の組織を大きめに摘出することで、
生産性と安定性を向上させているのです。
割り切って培養することも時には必要ですし、近道の1つだと考えています。
難培養が多く存在するランの世界では、皆まで言わずともご理解して頂けると思います。
事実上、私の中ではランのウイルスフリーはないと思っています。
いや!出来るわけがない!と思っているからです。
そしてそれを完全に証明することも出来ない!という考えがあるからです。
もし、みなさんの中で出来るとウワサを耳にしたなら、、
嫌味などではなく、私に教えて頂きたいぐらいです。
大変興味深い事ですし、蘭への明るい未来に繋がるはずですから、、。
そして、そのような時代が来る事があれば、素晴らしく思えるはずです。



■ 色々な培地を試す ■

ここでは「培地の組成」ではなく、根本的な「培養の形」について書こうと思います。
「形って、、そんなもん寒天やから、形は容器に準じるやろ!?」
という意見もあるかもしれません。

「培地」と聞くと、みなさんはどんなイメージがあるでしょうか?
そして、どれぐらいの形を想像出来るでしょうか?

もっともポピュラーなのが寒天のゲル状ですね?
いわゆる寒天培地というゼリー状(プリンみたいな)のものです。

しかし、、誰が思いついたのか、、色々なものが存在しています。
寒天培地の事を固体培地と呼ぶ事はご存知でしょうか?
ご存知ならもうわかるはずです。
そうですね、固体があれば液体もありますよね?

ゲル化剤を一切添加しない、液体培地です。
液体なのに、地という文字が入ってるのが疑問かもしれませんが、
今や培地という言葉は総称になっているので、気にしたら駄目です(笑)
わかりやすく書くと、ただの培養液の事ですね。

そして、培養液をろ紙に吸わせて、ろ紙の上で培養する方法もあります。
ペーパーウィック法、ペーパーブリッジ法などと言うものもあります。

そして固体培地でも、今回実験で使ったような寒天を傾けたまま固まらせる
傾斜培地というものもあります。

他には液体培地をバーミキュライトやスポンジに吸わせる方法など、、
何でもアリもしばしば、、(笑)


下記に簡単な特徴を書いてみました。ご参考に。


固体傾斜培地
メリット
表面積が広く、作業性が良い。
培地が斜めになっているので、培養容器を傾けながら植え込みが容易。
斜めなので、植物が自ら出す生長抑制物質や老廃物をわずかに下へ流せる。
観察がしやすい?見た目がプロっぽい?
固体培地に一工夫したい時におすすめ。

デメリット
流動性がないので液体に比べて生長抑制物質や老廃物が留まりやすい。
冷えて固まる前に傾斜を付けないといけない。
スタンドがないと、傾斜を付けるのが困難。
傾斜が強すぎると、軟らかい寒天が崩れる。
雑菌を受ける面積が多くなる。
植える方向や位置が予め決まってしまう。
傾斜角度がわからない?
固める時に気付いた時には横転していて中身が全部お漏らししていた!
 ↑ 経験談 (床掃除が大変で、培養瓶も洗い直しでした)


液体培地
メリット
植物が自ら出す、生長抑制物質や老廃物を培地全体で薄める事が出来る。
均一な培養環境と安定した養分補給が可能。
空気に触れないので、酸化作用や渇変化を遅らせることが出来る。

デメリット
嫌気状態になるため、植物の息?が出来ない。
培養組織が浮いてしまう事がある。
組織が固定出来ないために、不安定な状態。
意外と植えにくい?時がある
培地を振る浸透機や空気を混ぜ込むために必要な回転培養機がいる。
上記機材がない時は手で振ったりしないといけない。
 ↑ 経験談 (振るのを忘れてしまった事があります)


ペーパーウィック&ブリッジ法(液体)
メリット
植物が自ら出す、生長抑制物質や老廃物を効率的に洗い流せる。
液体培地なので、吸収力に優れ、培養体が乾燥しない。
液体に浸からないので、活着や根の張りも良くなる。
固体培地の植物体支持と液体培地の流動性、その両方の効果がある。
生長点培養に使われる事が多い。

デメリット
経験上、意外と植えにくい時がある。
培地作りが複雑化。
ろ紙の角度や置き方が色々あり、好みが別れる。
寒天のように突き刺せないので、ろ紙に穴もしくは形が変形する。
根が張ると植物を剥がすのに苦労する。
移動や持ち運びの時、慎重にしないと、小さな組織は振り落とされる。
↑ 経験談 (揺れた波にさらわれて、液に落ちていました。)



何度も登場した言葉、植物が自ら出す、生長抑制物質や老廃物について。
フェノール物質と呼ぶそうですが、正体については良く知りません。
固体培地では、それらが一箇所に留まり、植え付けた付近で生長の邪魔をする。
この事から、液中や液体を紙で吸わせる方法が行われているようです。
また、酸化や渇変防止対策、新鮮な培養液を出来る限り供給したい。
そのような考え方で行われているようですね。
私はというと、、無難に固体の傾斜培地を用いる傾向にあります。
ペーパーブリッジは相性が悪かったようで、植え付けでことごとく失敗していました。
※液体培地で用いる浸透機や回転培養機については下記で説明します。

固体傾斜培地の違い
見てわかるように表面積が広い

液体培地

液体培地ペーパーブリッジ法
ろ紙の置き方が色々ある



■マイクロプロパゲーション ■

みなさん、この言葉をご存知でしょうか?
つまりここで言う、メリクローンなどの培養によって大量増殖する。
という意味です。
培養して大量増殖させるという大きな意味合いも兼ねた言葉です。

メリクローンと言うぐらいですから、茎頂培養などをした後、
それらを大量を増やすのが最終目的になると思います。

良く聞く話が
「茎頂培養に成功しました!」
「芽が出て、根が出て、試験管の中で植物になりました!」
「しかし、それが増えません、、または増やせません」
、、という困った相談です。

植物は分化全能性という機能を持っているので、
1つの生長点から、いくつも増えることなく、
また1つの植物に戻ってしまう事があります。
これでは、増やしたというよりも、身代わりになっただけですよね?
クローンをいくつも増やしてこそ、マイクロプロパゲーションなのです。


まず植物を無期限に増やす特殊な形態にさせないといけません。
分化全能性にあえて逆らうような形態なのです。
無期限といっても、理論上の話ですので、むろん期限付きです。

蘭の場合なら、PLB、プロトコーム、リゾームなどの形態。
他の植物なら、カルス、不定胚などがあります。
これらの形態は、芽でも根でも茎でも葉でもない、
細胞の塊り
です。
この不安定な状態が、分化全能性に逆らう方法なのです。

そして、植物を勘違いさせて、惑わせる事も重要になってきます。
不安定なままの形態を維持させるために、騙すのです。
これだけでは、なんだか可哀想な話ですが、これも殖やすためです。


それでは、一例でご紹介します。
学生だった当時に得意としていたオンシジュームの大量増殖です。
手っ取り早く、数万本の苗が簡単に作れました。

まず母株の新芽から生長点培養を行います。
試験管の中で1本の植物体に分化させます。
そのクローンした植物を3〜4つに切って液体培地に入れます。
液体培地に植物ホルモンなどは入れません。
回転培養機で培養すると、切り口からPLBが殖えます。
その後は、殖えたPLBをちょっとずつ分けて、継代培養を繰り返す。

ようするに、植物を刻んで液体培地に放り込んだだけです。
しかし、ポイントはいくつかあります。


まず、生長点培養をした直後、又は植物体に分化する前に、
プロトコーム(PLB)やカルスが誘発しやすい植物。
または植物体に分化後も切り口などから誘発出来るもの。
植物の性質によるところが大きいのが難点ですが、、。


次に、必ず液体培地に誘発させたプロトコームやカルス、
きざんだ植物体を入れ、培養させる。
液体培地を用いるのがポイントです。

液体培地を回転培養(浸透培養)させながら、生育させる。
ポイントは、液体の中でプロトコームを絶えずシェイクする。
これらの培養機は時にシェイカーと言われたりします。
液中で振り回されると植物は重力方向がどちらなのかわからなくなり、
それと同時に、どの方向へ芽を出して良いのかもわからなくなります。
そうなると、芽や根を出さず、正確には出すことが出来ずに、
プロトコームの状態で増殖し続ける性質があるのです。

そして、シェイクさせる事によって、培養液に空気?を溶かし込む事が出来るので、
液中でも培養する事が可能になります。
あえて空気と書いているのは、空気中にある色々な成分を吸収するからです。
人間なら酸素という言葉が当てはまると思いますが。
植物は酸素だけでは育てませんので。

また回転培養機は、左右運動(横振り)、上下運動(縦振り)、
観覧車のように縦向き回転のタイプ、
カジノのルーレットのように横向き回転のタイプ、斜め傾斜で回転するタイプ
ゆっくり長低速から手で振るぐらい勢いの高速タイプまで、色々あります。
培養には、ちょっと速めに回転するタイプの方が良い感じがします。
また、回転培養、浸透培養、遠心培養、、言葉やニュアンスは多少違いますが、
同じような培養機の事です。
ただし、遠心分離機やマグネチックスターラー(攪拌機)は使えません。
超音波機、扇風機に換気扇、地震発生装置では無理ですね(笑)
回転培養機の主な構造は、チェーン駆動やベルト駆動、
低速機にはモーターとギアの直結タイプなどがありますね。
車のようにクロスミッションや、自転車のチェーン7段変速みたいなのはない(笑)
回転速可変式には、モーターの回転を調節する物があります。
オートマもありません、、、(笑)

以上で書いたものが液体培地を用いた増殖法の1つです。


長々と液体培地の回転培養の事を書きましたが、
実験用の回転培養機はためらうほど値段が高いです(笑)
鉄工所や板金屋にオーダー出来たとしても、安い物ではありません。
そこで、回転培養機や液体培地を使わない方法も書いてみたいと思います。
私が現役の業者だった頃は、この方法で増殖しておりました。

それは固体培地上で、プロトコームを維持させながら分割して殖やす方法です。
植物体を挿し芽のように、節々で切って培地に植えたりも出来ます。
回転培養と違うところは、放置すると芽や根が伸びて、プロトコームが減る。
または、植物に養分を吸い取られて消滅してしまうことです。
小さな芽や根が伸びてきたら、切り落としたり、むしり取ったりして、
プロトコームだけを大切に培養します。
ある程度プロトコームが殖えたら、2つや4つに分割して、切り離します。
上手くいけば切り口から新たなプロトコームが殖えてくるので、
そうなったらシメシメです(笑)
地道に分割して分けながら殖やしていきます。

一気に殖やせないのはデメリットですが、
逆に一気に増えないので、作業の分散化が出来る。
少しずつ殖やす場合はメリットになります。
それに、急激に殖やさないので変異も最小限ですし、
大きな苗から順番に育つので、
一番大きな苗だけを自分の手元で大切に管理する事も出来ます。
苗が数百本程度あれば十分だという趣味家の方には適していると思います。
順番に増殖していき、ある程度満足出来る本数になったら
培養を止めれるという無駄の無さもメリットです。
プロトコームを殖やす要領で、植物体やプロトコームを保管していれば、
再メリクロン時にもマザーフラスコとして使えますから、
増殖を再開する事も出来ます。




以上で、メリクロンの練習はひとまず終了です。
次回は、蘭を材料に、殖やすまでを書いてみたいと思います。
っといっても、ほとんどがここで書いたことばかりです。
蘭を栽培している方ならば、今回書いた内容だけで十分出来る知識を載せたつもりです。
更新が待てない方は、お先に挑戦してみても良いかと思います。
次回のお題ですが、、
培養しやすいと言われるシンビジュームでご紹介するのが良いかと思います。
メリクロン基本や需要があるカトレアでご紹介出来ればベターかと思います。
しかし!両方ともあまりやった事がないので、、
ピンポイントになるかと思いますが「リカステ」で紹介しようかと考えています(笑)
写真も撮ってないので、絵と図だけになりそうなんですが、、ご容赦ください。



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