広島市北部の土砂災害で多くの犠牲者が出た。広島県では15年前、32人が犠牲になる豪雨があり、国が土砂災害防止法を制定するきっかけになった。その教訓が生かされなかったことは痛恨の極みだ。

 今回、土砂が崩れた場所の多くは、法に基づく警戒区域に指定されていなかった。広島市が避難を勧告したのは災害発生後。現場では二次崩壊が起き、消防署員が亡くなった。

 なぜこんなことになったのか。徹底した検証が必要だ。

 積乱雲が急に発達し、1時間100ミリを超す猛烈な雨になったのは未明だった。とはいえ、土砂災害は、累積の降水量が大きく影響する。広島市では今月上旬以降、降水量が平年の3倍強。豪雨がピークを迎える前に、気象台から土砂災害警戒情報は出ていた。

 ただでさえ広島は地質がもろい。山すそに近い住宅地が多く、県内の土砂災害危険箇所の数は全国一だ。広島市幹部は「(雨が)収束するのではとの淡い期待があった」と言うが、認識が甘すぎた。

 日本では毎年1千件前後の土砂災害が起きている。昨年10月は東京・伊豆大島で土石流が発生し、39人が犠牲になった。猛烈な雨も増加傾向にあり、温暖化の影響が疑われている。

 災害リスクは高まっている。命を守る網の強化が必要だ。

 広島の被災地では「危険だと思っていなかった」という声が相次いだ。自治体はハザードマップをつくって公表しているが、住民はえてして「自分のところは大丈夫」と思いがちだ。よりきめ細かく、危険性を周知していく必要がある。

 伊豆大島や広島のケースでは、雨が夜更けに強まったことが自治体の対応を鈍らせた。当然ながら災害は昼夜関係なく起こる。気象予測に合わせた、早め早めの備えが肝心だ。

 熊本県が昨年度から始めた「予防的避難」が参考になる。

 12年7月の未明の豪雨で犠牲者が出た反省から、夜間に大雨が心配される場合は、自治体が夕方から避難所を設け、自主避難を呼びかける。今年7月の台風8号の時は、県全域で約5千人が実際に避難した。空振りはあっても、住民の危機意識を高める効果が期待できよう。

 私たち自身の心がけも重要だ。裏山がある、小川がある。そうした周辺の特性を理解し、大雨の時はどう行動するかをあらかじめ考えておく。一人ひとりがそうした自助努力を積み重ね、命が奪われる事態をなくしていきたい。