博士の次の発言に注目してほしい。
「確かに半減期は8日です。『環境から消滅するのには2カ月かかる』と私は考えています。だから被曝の期間を事故から『2カ月』と設定しました」
(インタビューは4月10日にワシントン郊外の国立がん研究所にあるハッチ博士のオフィスで、通訳者なしで直接行った。今回も取材費用は一切自腹である)
牛乳を飲んで被曝したチェルノブイリの子ども
烏賀陽 疫学者として見ると、福島第一原発事故はスリーマイル島原発事故(TMI)やチェルノブイリとは違いますか? 違うとすると、どう違いますか?
モーリーン・ハッチ博士(以下、敬称略) 「違います。第一に、フクシマはチェルノブイリと比べると被曝量はずっと少ない。TMIはさらに小さく、ほとんどトリビアル(瑣末)に近い。フクシマの被曝量はチェルノブイリの10分の1ほどです。放射性物質の放出量そのものが少なかったことがまず挙げられます。そして冬だったために、牧草から乳牛へと放射性物質(ヨウ素)が運ばれるルートがなかった。食料の制限も政府によって行われました。また、チェルノブイリ周辺に比べると日本はヨウ素の摂取量が十分です。チェルノブイリ周辺はヨウ素の摂取量が十分ではなかったので、放射性ヨウ素が取り込まれる量が増えた。ですので、フクシマでの一般公衆の被曝量はチェルノブイリよりは低く済んだ。日本では住民の避難や屋内退避が、チェルノブイリよりずっと早期に出されたことも効果があったでしょう」
──チェルノブイリではヨウ素の内部被曝は「牧草~乳牛~牛乳」ルートで体内に取り込まれた、と報告書に書いておられますね。
ハッチ そうです。汚染された食料を摂取することで内部被曝が起きた。主にミルクでした。子どもは大人より多量の牛乳を摂取しますから。
──日本の食生活では牛乳を欧米ほどは飲みません。それも被曝量に関係すると思いますか。