異世界。魔王。討伐。 (Sergeant)
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第2説-絶望。戦友。勝機。


「・・・・・・。」

結果は、最悪だ。結局、異世界入りすることが出来た戦友は居ないみたい。
夜になってしまった。各家々から漏れ出す部屋の明かりだけが暗闇の道を照らしだしている。どこか休めるところを探し出して見つけなければ、明日に支障が出てしまう。
僕は宿屋のある方に足を向けた。・・・・・・あれ? 待てよ・・・ここは円の通貨で通るのかな?
異世界入りしてから、ココの世界の通貨を持っていな――

「おい!!」

半ば宿屋にも止まれないという絶望感に片足を浸かり始めたとき、突然背後から
誰かに声をかけられる。中世的、時代的に察するにこんな時間に声をかけてくる奴なんて
あらくれものか、暴漢ぐらいしかいないだろう。しかし正直この疲れた体で逃げ切ることなど可能だ。僕はその声の主の方に仕方なく振り返った。

「・・・・・・何か、用ですか?」

相手は暗がりにおり、顔までは見えない。
しかし体つきや服装から少しだけの希望が見え始めた。

「お前・・・・・・」

ゆっくりと奴は接近し、明るい光に当てられ顔も見えてくる。
嬉しい事が起こった。僕に声をかけた主は“奴は僕を知っていて、僕も奴の事を知っている人間”と言う同じ異世界人だと言うことだ。
そしてついに奴の顔が完全に見えるようになる。

「雪か?」
「・・・・・・雅。」

ただの昔の知り合いに会えることが出来ただけだと言うのに、膝が地面に着き涙がボロボロと零れ落ちてくる。戦友でもあり友人の一人・・・雅《ミヤビ》。彼とは、同じショッピングモールで立て籠もった時に最初に話した友人で、その後も深く長く付き合っている友人でもある。

「なんだよぉ~。出会った瞬間泣いてんじゃねぇよ~。」

雅はゲラゲラと笑いながら、僕に近寄ると背中をバシバシ叩いてきた。
相変わらずの剛腕で軽く背中がヒリヒリと痛み出す。

「いや、この世界に飛ばされたのが僕だけかと思って・・・」

鼻を愚図りながら、雅の方へと顔を向ける。その顔は満面の笑みで輝いているように見えた。

「俺も最初はそう思ったんだけどよーいや、本当に知り合いがいてよかった! よかった!!」

そういうと雅は僕の両手を掴み、上に引き立ち上がらせてくれた。さらに地面について軽く砂が着いたズボンを振り払うように落としてくれた。ほんとに男らしい奴だ。

「そういえば、雪。お前こんなところで何してんの?」
「酒場で仲間を見つけることが出来なくて、宿屋に向かおうとしたところ、この世界の
 お金を持ってない事に気が付いて途方に暮れてたところ・・・。」
「はははっ! そうかそうか!! なら一緒について来いよ。宿屋に泊ろうぜ。」
「え、でも・・・僕、お金持ってないし・・・」
「俺が払ってやるから、だいじょーぶ!」

親指を空にぐっと突き出すと雅は、僕の手を引っ張り宿屋のある道へと歩き始めていった。





「おじさーん。一人追加ねー。」

宿屋に着くと、雅は懐から小さな小袋を取り出しカウンターの向こう側に居る
おじさんにお金を支払った。

「おや、おかえり。追加と言うと・・・ひ、ふ、み、よ・・・ふむ。確かに。」
「部屋は一つあれば十分だからー。」
「わかったよ。」

手をヒラヒラとそのおじさんに後ろ向きの状態で振ると、僕の手を引きながら
宿屋の2階へと上がる。いくら引っ張られているとはいえ、階段で大転倒をしないために
ソソクサと階段を上った。
部屋に入ると綺麗な白いシーツに白い布団が掛けられたベッドが2つ目の前に飛び込んできた。
雅の奴は部屋に入ると僕の手を放し、扉より離れた位置にあるベッドに腰を掛けた。

「何突っ立ってんだよ。ほら雪、座れよ。」
「あ、うん。」

雅に呼ばれ、雅の向かい側にあるベッドの上に腰を掛けた。

「で、これからどうするつもりなんだ? 雪はさ。」
「どうもするも何も・・・元の世界に帰りたいけど、帰り方が分からないから途方に
 暮れている状態。」
「つまり、最終目標は分かっているが、何をして良いのか分からない状態か。」
「うん・・・。」

そう、最終的な目標は元の世界帰る事。だけど、その帰り方が全く分からないのが
今の状況だ。王っぽいジジイは魔王を倒してこいとか言っていたが、酒場を寄った限り
もう魔王討伐隊は何組も出ているようだし、なにも他の世界から来た僕達が討伐をしなくともその先発隊が討伐をするはずだ。僕達の出る幕はない。

「じゃあ・・・よ。」
「ん?」

雅が急に俯き、重々しい雰囲気を醸し出しながら口を開き始めた。
ニコニコしていた先ほどとは明らかに違う真剣な顔で、俯くのを辞め今度は僕の目を
じっと見つめ合うような形で僕の事を見つめた。

「俺達で、魔王討伐をしないか・・・?」
「?!」

あまりの雅の発言に驚き思わずベッドから立ち上がってしまう。
雅にも魔王討伐の命が来ていたのか。よくよく考えれば最初に分かることだが
今頃になって、はっと気づいた。

「どうせすることもないんだ。何もしないよりは、何か行動した方が良いだろう?」

雅は相変わらず、僕の目を見据えたまま話を続ける。

「それはっ・・・でも・・・・・・。」
「・・・俺は魔王討伐の旅に出かけることにした。元の世界に帰ることもできない今
 俺が出来る事と言ったら、それしかないからな。・・・できれば雪にも魔王討伐を
 手伝ってもらいたい。」

僕は・・・僕は、迷った。
雅と共にどこにいるか分からない魔王を倒すか。このまま何もせずにここに留まるか。
正直、僕の方針としては魔王討伐などせず、このまま、この場所で元の世界に帰る方法を
探りたい。だが、雅は僕が断ったとしても、その魔王討伐に行くつもりだ。魔王討伐へ行きたくない自分と友人を一人で魔王討伐に向かわせる気かと怒鳴り散らす自分とで葛藤が起こる。
僕は・・・ボクは・・・・・・

「・・・すまない。やっぱり、俺一人で行くよ。」
「えっ。」
「これは、俺が一人で決めた事だ。雪を巻き込むのは・・・友人として間違ってるよな。」

真剣な表情から一転、はにかんだ顔に雅の顔は戻る
不味い。このままでは雅、一人で魔王討伐に向かわせることになってしまう。
あの過酷な環境内で出来た唯一の友人が、一人で死地へ向かってしまう・・・。
そう思った瞬間、僕の口はもう既に動いていた。

「ボクも、行くよ・・・雅・・・・・・」
「・・・・・・本当か? 雪? 無理はしなくても良いんだぞ?」
「いや、一緒に魔王討伐に参加する。それに雅となら上手く行きそうだし・・・」
「・・・・・・。」

驚いたと言ったように雅の目が丸く見開かれる。
まるで信じられないと言ったような顔だ。
しかし、その顔もすぐに崩れ最初はくすくすと、最高の方には宿屋全体に響くような大きな笑い声に変化し、雅は自分の膝をバシバシと叩き始めた。

「な、なに。なんか、変な事でも言ったかな?」
「いやーお前からそんな言葉が聞けるとは思わなくてな!! 意外過ぎて笑いが止まらねぇンだ!!
 アッハッハッハッハッハッハ!!」
「まったく、失礼な奴だな。」
「ふっふっふっ・・・悪い、悪い。でも、俺も雪と一緒なら上手く行く気がするぞ。」

ボフッと自分のベッドに倒れこみながら雅は、まだ笑いながら言う。

「それ、どういう意味。」
「雪ぃ。自分の道具袋は?」
「え、道具袋?」

雅に示唆され、ふと気づく。そういえば、確か城内から出る時に衛兵から
軽い道具袋が渡されたことに。さらにその中身を確認していなかったことに。

「これ?」
「そう、それ。もう開けたか?」
「・・・まだだけど・・・。」
「そいつはいけねェよ 雪、早速その袋を開けてみな。」
「うん・・・。」

雅に進められるまま、僕はおもむろに道具袋を開ける。
中には様々な道具が入っているのが見える。

「雪、ほら・・・ここに、その荷物の中のもの・・・出してみな。っと」

雅が角に置かれていた机を持ち出し、引きずりながらベッドとベッドの間まで運んできた。
言われた通り、その机の上に袋に入っているものを順番に取り出した。
中には、よくドラクエ系で使われる薬草が数個と羽ペンのようなもの・・・そして・・・・・・。

「ほほぉ~。雪はハンドガンかぁ・・・。」

鉄で出来たOB色のハンドガンがゴトリと机に置く。えっとこのハンドガンの
名前は何と言ったかな? 確かコルトガバメントのフォーリッジウォーリアだったような
そんな気がする。というよりも、元の世界では改造モデルガンだったのに何故実銃になっているのだろう? 普通の日常だったらモデルガンの変貌に驚いているのだろうが、今は不思議と驚かない。
むしろ勝機と興奮に満ち溢れている。まだ、銃火器が入っているようだ。これは・・・

「89式5.56mm小銃だな。これは、お前の所持品じゃないだろ? ラッキーだな。」

多分、この銃器は同じショッピングモールに立てこもっていた自衛隊員の本物の小銃だろう。きっとあの爆風で吹き飛ばされた瞬間に一緒に異世界入りしたと考えるのが妥当かな。
しかし、だと考えても89式5.56mm小銃の弾倉が6つも入っているはおかしいが・・・。
そんな事よりもフォーリッジの弾倉の量がおかしい。いや、一般的に見たら別の意味で
おかしいと思うだろうが、僕がこの世界に入る前は42本所持していた筈なのに
道具袋の中に入っていたのは29本。約4分の1もなくなっていた。まぁ、多すぎても重すぎで
持ち運べないのだからむしろ良かったのかもしれないが・・・。

「やっぱり、雪も持っていたか。」
「やっぱりって・・・雅も?」
「あぁ。今、見せる。」

そういうと雅は、自分の道具袋を開きゴソゴソと中身を弄り始める。
僕は雅が出しやすいように一旦、道具袋の中に入っていたものを自分のベッドの上に置いた。
銃の他にも、僕が異世界入りする前に所持していた道具が入っており、今後役に立ちそうなものがそれなりにあった。

「俺は、コレだ!」

雅が置いたのはコルト M4A1カービンと弾倉16本と所持弾倉分の予備弾薬。
これも元の世界では改造モデルガンだったもの。今は実銃に変貌しているが・・・。
それにしても弾薬が多すぎる気がする。一見持てないような量の弾薬の数だが、
雅が普通に道具袋を背負っているところを見ると一応は持ち運べるような重さにはなっている
らしい。今更だが、もしも順調に魔王まで事が進めたら魔王討伐も夢ではない装備だ。

「行ける・・・。」
「行けるぞ・・・。」

お互いに顔を見合わせる。フラグだがあえて言わせてほしい。
もう何も怖くない。





これからの投稿は、2~3週間をペースに話を書いていこうと考えています。


登場物の中にDQお馴染、4異次元道具袋がありますが、この袋。とある秘密がありまして
その名の通り道具を×99個まで押し込むことができます。しかも、1つの道具につき×99個まで。
勿論、武器防具もどんなものでも道具袋の中に×99個まで入れられます。
さらに重量の問題に関してですが、重すぎて持てないと言ったことはなく、袋が持ちやすいように
重量を変動してくれるという優れもののようです。だから、他の冒険者や2人はどんなに重いものを入れても普通に行動ができるようです。
お値段は無料。ただ、この道具袋を手に入れるには勇者になるしか入手方法はありません。



挿絵で、ミヤビとユキのイメージ画像をRPGツクールVX Aceのキャラクター作成で作ったのですが
RPGツクールの利用規約を見てアボーン。使うことは禁止されているようです。
少し改良をすれば、使用ができるようなのですが、生憎私はそんな技術は持っていないので作れません。たとえ作ることができても、ペイントで弄る事しかできないので雑コラのような画像になってしまう・・・そんな気がします。

そうだ。現在、トレーシングペーパーを使って絵を映して色鉛筆で塗るのが楽しみなんですが、
もしも写すことが出来たら、写メでとって挿絵として上げますね。


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