2009-12-20
「大質量の天体」≠「地表重力が強い」:宇宙におけるサイズと密度の関係
|海洋惑星の候補となるスーパーアース(GJ 1214b)が発見されたようだ。その話題で気づいたのだが「大きな惑星は当然重力が強い。人間が住むには不適だ。」そう漠然とイメージされているケースが多い印象を受けた。
小天体はともかく大型惑星の地表重力をその大きさだけでイメージすることはあまり望ましくない。例えば、太陽系の惑星の表面重力は以下の通りだ。
木星は300地球質量という莫大な物質を集積した惑星だが、それでも高々2.4Gしかない。人間が耐えられるレベルだ。他の大型惑星は地球と同等か、むしろ地球より表面重力が小さい天体さえある。系外惑星の例では木星より一回り大きな(HD 209458 b)の表面重力が0.9G程度だ*1。「比較対象がガス惑星ばっかりじゃねーか」という物言いは当然あるだろうが、地球型惑星でもそう事情はかわらない。今回発見されたGJ 1214bは地球よりずっと巨大な惑星だが表面重力は0.9Gしかない。地球より体重が軽くなるのだ。
重力を考えるには天体サイズだけでなく密度が無視できない
天体の表面重力はその質量に比例し半径の二乗に反比例する。質量は平均密度および半径の3乗に比例するので、表面重力gは平均密度と半径Rに比例する。
ここで単純に「平均密度一定」を仮定して、惑星の大きさと重力はだいたい比例関係にあるとしたくなるが、天体の組成は多様であり、その平均密度には少々のサイズ差を打ち消せるばらつきが存在する。水星の半径は火星の70%しかなく小学生と大人くらい体格が違うが、密度が高いため火星より地表重力がすこし強い。
スーパーアースの重力は?
ではスーパーアースの密度と重力はどのような傾向だろう。地球は主に岩石や金属で構成されており、(地球型惑星では今のところ)最も高密度な天体に属する。その地球と同じ素材で質量を増やしていくとすると、表面重力は質量の3乗根で増加し、最大値はガス惑星になる臨界質量ギリギリのときで約2.2G (@10地球質量)だ。それ以上積み増すと大気が重力的に不安定になって周囲のガスを際限なくかぶ飲みし始めるので一気に密度と表面重力が低下する。
太陽が属するG型星では地球と同程度の高い密度を有したスーパーアースの観測例はあるようだ(CoRoT-7b)。
銀河の大部分を占めるM型星では、金属や岩石の集積だけで大質量を獲得するのは困難であり、GJ 1214bがそうであるように低密度な氷を大量に取り込む必要があるだろうから、地球とくらべて密度が小さくなることが予想出来る。氷惑星や海洋惑星の密度は2g/cc程度なので、1G前後を天井に分布するのではないかと予想する。
強大な地表重力を有したスーパーアース(たとえば10Gの地球型惑星)というのは考え難いのだが、こういう天体なりシナリオがあるよというのをご存知の方がいたら教えていただけると嬉しい。
もっと重量級の惑星、巨大ガス惑星の重力は?
もっと質量が大きいガス惑星ではどうだろう。ガス惑星は木星質量までは大した変化はない。しかし、木星質量を超えたあたりから様子がおかしくなる。自身の重さで惑星がつぶれはじめ体積がまったく増えなくなるのだ。増えないどころか逆にゆっくりと縮みはじめる。
質量を増やしても体積が増えないので、表面重力と平均密度は天井知らずで増加する。この傾向は核融合がはじまる0.08太陽質量(80木星質量)あたりまで続き*2、平均密度は金をはるかに超え、表面重力は三桁に達する。
太陽みたいな恒星の重力は?
天体の密度は恒星と惑星の中間である褐色矮星で最大値を記録したあと反転し、急速に低下していく。核融合がはじまると星の内部はもの凄く熱くなるためいっきに膨らむ。
恒星は重ければ重いほど大きく膨らむ。重ければ重いほど密度は低下し、重ければ重いほど表面重力も小さくなる。その膨張っぷりは下の図をみても想像できるだろう。左右に行くほど重くて青い星になる。G型星とくらべて左右端のO型星は何百倍もの体積を有しているが、その質量はせいぜい数十倍だ。大質量星は地球や太陽よりずっとスカスカだ。
いちおう大雑把な見積もり
星は重力をガス圧で支えているので、ガスの(熱)運動エネルギーと重力エネルギーは釣り合っている。また、水素の燃焼速度は温度変化に敏感であり、恒星内部の温度は質量に依らずほぼ一定である*3。
ここからM/Rが一定、すなわち恒星の半径は質量に比例するという関係が得られる。また、密度は質量の二乗に反比例して急速に低下し、表面重力も質量に反比例することがわかる。*4
太陽の17%の質量しかないバーナード星の重力は100Gを超えるが、太陽では30G、若い頃のメタボじゃないベテルギウス君が数Gといったところ。いまのベテルギウスは赤色超巨星になって太陽の1000倍ぐらいに膨らんでいるので、その表面重力は0.0005G程度しかない。巨星表面の重力的な結合は弱く、大量の物質が宇宙空間に流出している。
- 14330 http://www.ne.jp/asahi/asame/shinbun/
- 3110 http://www.hatena.ne.jp/
- 2368 http://b.hatena.ne.jp/
- 2303 http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.info?_id=3eebace824bb60a10f13c841c2c64478
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- 2048 http://www.ne.jp/asahi/asame/shinbun/index.html
- 1336 http://b.hatena.ne.jp/hotentry
- 982 http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/active_galactic/20091220/1261266361
- 714 http://www.pluto.dti.ne.jp/~rinou/
- 614 http://anews.livedoor.biz/archives/982099.html
→木星質量を超えた「あたり」から様子がおかしくなる
>G型星とくらべて左端のO型星は
→G型星とくらべて「右端」のO型星は
人間が耐えられるレベルって意味あるの?
1万度の熱と400万気圧の環境でも2.4Gだからなんとか動けるよねって?
惑星の探査方法は直接観測から重力レンズを利用したものまで多岐にわたりますが、いずれも軽く小さい惑星ほど発見が困難になります。とはいえ、10年前に較べれば非常に技術が発達してきており、例えば「ミリ秒パルサーのゆらぎ」や「宇宙望遠鏡による蝕観測」は地球質量の天体も十分に狙えると考えられます。
>> ただのとおる
エントリは話を簡略化してますので、自転・磁場・輻射圧・連星・・・etcは考慮していません。例えば、土星は直径が大きく自転が速いので赤道重力は1Gを切ります。
>> blastydot
水素の臨界温度は33Kであり、液相と気相に境界はありません。
ガス球は明確な境界面が存在せずだんだん不透明になっていきます。我々は透過率で補正を掛けた様々な深さからの放射や散乱の平均をみることになります。恒星では透過率が1/eとなるところ(opacity=1)を以って表面と定義します。内部構造のモデルはどうあれ、表面は光学的に決定されます。
木星だと表面の模様はだいたい0.1〜数atm、温度でいうと100〜300Kあたりの層が見えています。ガス惑星については惑星大気屋さんのところで定義があるのでしょうが、1atm(1bar)地点を高度0の表面とすることが多いようです。
>> 1万度の熱と400万気圧の環境でも2.4Gだからなんとか動けるよねって?
裸で木星の表面を歩けるかって話じゃなくて、
もし1万度の熱と400万気圧の環境に耐える基地を建てたとして、そこで活動できるかって話じゃないかな
2.4Gという数字ではピンとこない人のために、分かりやすく説明しているだけでしょう。
それって陸や海と呼べる面からみたらはるか上空であって
地球で言ったら成層圏の上のほうなんじゃないんですか?
それとも本当に地表面が1atmなの?
パンタローネさんは、
1 atm という人間臭い地球上に特異的な値で、
惑星表面という宇宙的なものを決めていることに抵抗があるのでしょうか。
まず、「水素の臨界温度が 33 K」というのは、-240度以上では、水素の液体と気体には明確な区別がない、ということをさしております。
なるほど、常温の水を用意して、圧力をどんどん下げていけば、あるところで沸騰します。
ところが、-240度以上の水素では、液体(のような)水素を用意して圧力を下げていっても、沸騰することなく、徐々に薄くなっていき、最後には気体(のような)水素になるのです。
ちなみに、水でも374度以上でこうなります。
これを木星において適用すると、宇宙といえども存在する水素ガスは、だんだん木星に近づくにしたがって密度が濃くなっていき、ついには濃くなりすぎて誰が見ても液体だろうというものになっていく、ということが起きるはずです。
つまり、木星においては海面と呼べるものなどない、地球の常識は通用せんのだよ、ということです。
このように連続的に変わっていくものである以上、圧力や光学的性質で表面を決めるしかありません。
つぎは、光学的な基準は妥当として、基準のひとつとして 1 atm とすることにそれなりに合理性があるのかということでしょう。
理想気体と近似できるほど密度が薄いところでは、大気は高度に対して指数関数的に(すごい勢いで)圧力が減少するので、この値を 0.1 atm にしようが、10 atm にしようが高度 0 の位置はあまり差がないのです。それに対して、重力は惑星の中心からの距離の自乗でしか変化しません。ほら、重力の強さでしたら地上でも成層圏でも宇宙ステーションでも大した差はないでしょう。
また、たとえ、惑星の深いところを地表面としたとしても、重力は大して強くはなりません。
それに地球のど真ん中では、対称性から 0 G になるのは明らかですよね。
これは高校物理でもやりますが、惑星の密度が均一だったなら地表面から潜っていった時の重力の強さは中心からの距離に比例します。
なるほど、密度は均一でないですから、もう少し重力が強い場所があってもいいですね。でも、それは液体水素の深海ですからねえ。
計算はしていないけれども、大きな差はないんじゃないかな。それじゃ、これは読者への演習問題ということで。
というわけで結局結論は変わらないと思うのですが、私の専攻は物理であっても天文ではないので修正があったらお願いいたします。
逆に遅くなると重くなります!
あと地球が1.0として2.0Gは体重が二倍になり50kgの人が約100kgになると思います!