知識としての英語は知っていても、英会話となると不得意な人が多い、日本人。ビジネスシーンでの英語力を鍛えるべく、企業も様々な手法を考える。

 午前8時、まだ静まり返っている会社の一角に、コーヒーカップやノートパソコンを手にした社員たちがぽつぽつと集まってきた。都内のレーザー機器専門商社、日本レーザー。火曜朝恒例の「社長塾」の始まりだ。

「日本で、旅行はしました?」

 近藤宣之社長(70)が、ゲストとして参加したインターンの米国人学生に英語で話しかける。駐在員として米国で9年間暮らした近藤氏は、英語でのやりとりに不自由はない。北海道を旅したと学生が答えると、近藤氏は「さあ、どんどん聞いて」と、社員たちに質問を促した。

「クマに遭わなかった?」「旭山動物園には行った?」

 英語のQ&Aが途切れることなく続く。テレビ会議システムでつながる名古屋と大阪の両支店の社員も含め、この日参加した9人の会話はすべて英語だ。

 こと英語でのやりとりだと、借りてきた猫のようになりがちな日本人。でも実は、話の流れを把握し、言いたいこともあり、単語や慣用表現だってそこそこ知っている人は少なくない。そんな人が英語を話すうえで必要なのは、一歩踏み出す心意気と、ちょっとした発想の転換だ。

「完璧にしゃべろうとか、間違えてバカにされたくないといったプライドが、コミュニケーションを妨げている。日本人は周囲、特に周りの日本人にどう思われるかを気にしすぎです」

 そう話す近藤氏は、6年前に「社長塾」を始めた。1回1時間、とにかく英語をしゃべり、自信をつける。

「きれいな英語を使いたい気持ちはありますし、そのために努力もしています。でも、例えば海外からの電話に対しては、言い間違いを恐れず相手の用件がわかるまで確認し、最適な人にきちんとつなぐといった、目的を果たすことが大事だと考えるようになりました」(入社11年目の江田弥生さん)

 コピー機などを多くの国々で製造・販売しているリコーも、社員の英語運用力向上では、メンタル部分の強化が必要と感じている企業の一つだ。

「TOEIC700点でも仕事で英語を使えない、800点でも出張で話せない、といった話が、あちこちから聞こえてきた」(加藤直子・人材開発部長)

 そこで同社は昨年から、場面を設定して英語で発信する研修を増やしている。交渉、プレゼン、テレビ会議、電話、メール…。それらを疑似体験させることで、実際の場面での緊張を和らげ、英語が口をつきやすくすることを狙っている。社員同士が数人単位のグループを作って、英語学習に費やした時間を競い、上位には電子書籍リーダーなどの賞品が贈られる。

AERA 2014年8月25日号より抜粋