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【社会】

富士山トイレがピンチ 過剰利用で機能低下

微生物による汚物の処理機能が下がり、静岡県が温度の状況を調査している山口山荘のバイオトイレ=富士山富士宮口登山道7合目で

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 富士山の山小屋のトイレで異変が起きている。世界遺産効果で登山者が急増し、トイレは過剰利用状態。微生物が汚物を分解処理するバイオトイレの機能が低下し、環境悪化の心配も出てきた。トイレを増やせば登山者も増えるジレンマ。トイレ問題は適正な登山者数や入山規制の議論をはらみつつ、関係者の頭を悩ませている。 (山田晃史)

 午前四時に開く富士宮口山頂の公衆トイレは、日の出直後から登山者が続々と訪れる。使用料が三百円と下の山小屋よりも百円高いにもかかわらず、十人ほどが列をつくることもある。距離が最も長い御殿場口から登った神奈川県厚木市の女性会社員(42)は携帯トイレを持参していたが、「富士山は隠れる場所がないので携帯トイレは使えなかった」と話した。

 携帯トイレは山梨県が七月一〜十六日、先に開山した吉田口で一万二千個を登山者に配って話題になった。残雪の影響で静岡側の登山道が開通せず、山頂のトイレが使えない状況だったからだ。「女子は簡単に使えないので、我慢するしかない」と女性。

 富士宮口元祖七合目(標高三、〇一〇メートル)の山口山荘では、バイオトイレの設置後三年は年一回のおがくず交換でよかったが、今は二週間に一回交換している。交換頻度が増えた山小屋は他にも多い。山口山荘を経営する山口芳正さん(56)は「シーズンで五万人に対応できるトイレだが、七万人ぐらいが使っているのでは」と推測する。

 富士山では一九九〇年代から、登山者のし尿とトイレットペーパーが山肌にへばりついた「白い川」が問題になった。NPO法人の活躍もあり、静岡、山梨両県は二〇〇二〜〇六年にバイオ式など環境に優しいトイレに切り替えた。

 しかし、当時二十万〜二十二万人だった登山者は三十一万人にまで急増。四十九カ所あるトイレの負担は重くなった。静岡県は七月末から山口山荘で、微生物が活動できる温度が保たれているか調査している。

 「富士山学」が専門の都留文科大の渡辺豊博教授は「現在の富士山のトイレの受け入れ能力は全体で二十五万人。問題の根源は過剰利用なのに、適正な登山者数と入山規制の議論は進んでいない」と指摘。世界自然遺産の屋久島(鹿児島県)を視察した経験から「トイレを整備すればするほど登山者は増える。安易に増設してはいけない」と二十五万人を上限とするよう訴えた。

 <富士山のトイレ> バイオ式は微生物がおがくずと汚物を食べて水と二酸化炭素に分解する。これと、カキの殻を使って微生物が汚水をきれいにする浄化循環式、汚物を燃やして灰をふもとに運ぶ焼却式と主に3種類ある。山頂には吉田口と富士宮口の2カ所にトイレがあり、バイオ式や焼却式を使っている。富士宮口登山道の山小屋はほとんどがバイオ式で、吉田口では浄化循環式と焼却式が主流。

 

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