連載
» 2010年02月10日 12時00分 UPDATE

システム管理入門(1):システム管理者の仕事と「構成管理」 ――構成管理と資産管理 (2/2)

[谷 誠之(テクノファイブ),@IT]
前のページへ 1|2       

構成管理のポイント

 今回はこの中から、構成管理について説明しましょう。

 構成管理は一言でいえば、社内にあるハードウェア資産やソフトウェア資産、有意義なマニュアルや手順書、組織図といった文書などの所在をきちんと管理することです。「資産管理」と非常によく似ていますが少し違います。

 資産管理は、第一義的には会計資産としてのIT資産を管理することです。それに対して構成管理は、自社の情報システムが現状でどのような構成になっているかを明らかにするために行う活動です。システムの構成が明らかになっていないと、システムの変更や修正、機能の追加や再利用ができません。システム全体の構成や影響範囲が分かっていないと「変更したらシステムが動かなくなった」ということになりかねないのです。構成管理のポイントは次の2つです。

 1つ目は、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、文書も管理するという点です。社内のIT資産(知的資産、ノウハウ)は、ハードウェアやソフトウェアのみではありません。過去の経験やフレームワーク、他社の事例などを基に作った手順書やマニュアルといった文書は、いわば歴史に培われた英知の集まりです。また、せっかくそうした文書を作っても誰もその存在を知らなかったり、古くなって時代に合わなくなったりしたら何の価値もなくなってしまうでしょう。文書は作るだけではなく、使わないと意味がないのです。文書を有効に活用したり、効果的に参照したり、タイムリーに改善したりするためにも、構成管理の対象として文書を含めておくことは大事なのです。

 もう1つは、管理対象の細かさです。構成管理で管理するハードウェアやソフトウェア、文書などのことを構成品目(または構成アイテム)といいます。例えば、デスクトップPC本体とディスプレイを必ずひとかたまりとして扱う(例えばPCが壊れたらディスプレイも一緒に交換する)ことが決まっていれば、PCとディスプレイは1つの構成品目として扱う方が手間が省けます。しかし、そのPCとディスプレイを別々の機会に購入したのなら資産としては別扱いにしなければなりません。あるいは「PCにどの程度のメモリが搭載されているか」は一般に必要な管理項目ですが、PCとメモリとを別の構成品目として扱うのは現実的ではないでしょう。搭載メモリ容量や搭載ハードディスク容量は、あくまでもそのPCの属性に過ぎません。キーボードやマウスもそうでしょう。こちらも、もしPCとメモリとを別の機会に購入しているのなら資産台帳のうえでは別に管理する必要があります。つまり、構成管理台帳と資産台帳は必ずしも一致しない、ということです。

構成管理の実務

 さてすでに「構成管理台帳」という言葉が登場しましたが、構成管理の中心的な活動は、社内にある構成品目を正確に記録する管理台帳を作成することです。どんなハードウェアがあるか、どんなソフトウェアがあるか、そしてどんな文書があるか、ということをタイムリーに把握し、データベース化する必要があります。構成品目の数が少ないときはMicrosoft Excelのような表計算ソフトで台帳を作成してもいいでしょう。しかし、数が多くなってくるときちんとしたデータベースでなければ対応できなくなります。構成品目を管理するためのデータベースのことを、CMDB(構成管理データベース)といいます。

 各構成品目間の関係(リレーションともいいます)も重要です。どのハードウェアにどのソフトウェアがインストールされているのかというような情報もまとめて管理し、即座に参照できるようにしておかなければなりません。そうしておけば、障害対応も迅速に行えるようになります。例えば、あるアプリケーションがインストールされているPCでは特定の障害が起きやすい、ということが分かってくるかもしれません。そのためにも、構成管理台帳は表計算ソフトなどで作らず、きちんとしたCMDBとして管理すべきなのです。

図1 構成/資産管理ツール「BMC Remedy Asset Configuration Management」の設定画面(提供:BMCソフトウェア) 図1 構成/資産管理ツール「BMC Remedy Asset Configuration Management」の設定画面(提供:BMCソフトウェア)(クリック> 画像拡大)
図2 ツールで構成アイテム間の関係をツリー表示した場合のイメージ(提供:BMCソフトウェア) 図2 ツールで構成アイテム間の関係をツリー表示した場合のイメージ(提供:BMCソフトウェア)(クリック > 画像拡大)

 そのようなきちんとしたCMDBは、運用管理ツールやサービス・マネジメントツールなしには構築できません。多くの運用管理ツールでは、各コンピュータにエージェントと呼ばれる小さなプログラムをインストールするように作られています。そのエージェントが、コンピュータ内のハードウェア構成やソフトウェア構成を定期的に運用管理サーバに通知するようになっているのです。運用管理ツールは、エージェントが報告してくる情報を基に自動的に構成品目を作成・更新し、データベースに登録する、というわけです。場合によっては、そのデータベースをさらにサービス・マネジメントツールと呼ばれるツールでさらに細かく管理することもあります。

 先に指摘した管理の細かさ、くくりの単位はここでも重要です。ソフトウェアの場合は、インストールするときのかたまり(パッケージという場合があります)を1つとして管理するのが妥当でしょう。例えば、Microsoft Officeは、WordやExcelなどを別のソフトウェアとして見るのではなく、Officeという1つのアプリケーションスイートとして管理するのが無難でしょう。ソフトウェアのパッチやサービスパックなども、インストールするかたまりでそれぞれ別々に管理するのがよいでしょう。そうしておくことで、あるサービスパックを当てたPCとまだ当てていないPCを識別できるようになります。

 そのほかの注意点として、会社で購入した覚えのないハードウェアやソフトウェアを見掛けたら、すぐに何らかの対応をすべきだということが挙げられます。ものによっては大目に見てもいいものもありますが、社員の個人所有のPCが存在したり、会社で認められていないソフトウェアが勝手にインストールされていたりするのは望ましい状態ではありません。そういうことが情報漏えいやソフトウェアのライセンス違反、未知の障害などを引き起こしてしまう可能性があるからです。

 ライセンス管理といえば、会社で購入したソフトウェアはライセンスをきちんと管理する必要があります。これは資産管理の側面もありますが、同時に構成管理の範疇(はんちゅう)といえるでしょう。これらも資産管理/構成管理ツールを適切に使えば比較的簡単に行えます。

 繰り返しになりますが、大規模システムの構成管理にツールは不可欠ながら決して「ツールさえ入れておけば万事OK」というわけではありません。文書の管理はツールに依存するだけでは読まれない文書を溜め込むだけになりがちですし、ツールで収集された情報をどう活用するかについても組織として方法論や手順が確立されていないと意味がありません。社内できちんとしたポリシーやルールを定め、その決まりごとに従って管理を行っていく必要があります。

構成管理が重要な理由構成管理が重要な理由

 残念ながら、きちんとした構成管理を導入・実践している企業はあまり見受けられません。資産管理さえやっていれば十分と考えているようです。しかし、それがシステム管理をより複雑にし、実用的な管理を不可能にしている要因でもあります。

 今後の企業情報システムは、ますますハードウェアの仮想化とソフトウェアのクラウド化が進んでいきます。そうなると、利用者の「見た目」と「現実に存在する姿」がどんどんかけ離れたものになっていきます。何らかのインシデント(障害・トラブル)に見舞われたとき、そのトラブルの原因がますます判別しにくくなってきているのです。

 システム管理をより容易に、効果的にするためには「いまどのような構成アイテムがどこにどんな形で存在しているか」ということを明らかにすることが大切なのです。それが明らかになっていれば、例えば「このハードウェアとこのソフトウェアの組み合わせではこのトラブルが発生する」とか、「このトラブルは仮想環境で動作しているOSでのみ発生する」といったようなことがすぐに分かります。また、構成管理は文書も対象にしていますので、マニュアルや保守契約のための書類、ベンダとの契約事項が記載された書類などもきちんと管理することで、問題発生時の対応も迅速に行えるようになります。構成管理は、今後ますます複雑化していくIT環境をきちんと管理していくうえで必須事項といってもいいでしょう。


 次回はインシデント管理と問題管理について解説していきましょう。

著者紹介

▼著者名 谷 誠之(たに ともゆき)

テクノファイブ株式会社 阪神支社 ラーニング・コンシュエルジュ。IT技術教育(運用系/開発系)、情報処理試験対策(セキュリティ、サービスマネージャ、ネットワークなど)、対人能力育成教育(コミュニケーション、プレゼンテーション、チームワーク、ロジカルシンキングなど)を専門に約20年にわたり、活動中。「講習会はエンターテイメントだ」を合言葉に、すぐ役に立つ、満足度の高い、そして講義中寝ていられない(?)講習会を提供するために日夜奮闘している。

ディジタルイクイップメント株式会社(現:日本HP)、グローバルナレッジネットワーク、ウチダスペクトラム、デフォッグなどを経由して現職。

テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。近著に『高度専門 ITサービスマネジメント』(アイテック、2009年6月)

がある。


前のページへ 1|2       

Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

ピックアップコンテンツ

- PR -
激変する企業ITシステムに対応するための知見を集約。 ITの新しい潮流に乗り遅れないために。